俺の汗が顎を伝いナミさんの胸に落ちる。そんな僅かな刺激にさえ反応するナミさんに、そっと囁きかけた。
「もう、ルフィを抱き締めないと約束するかい?」
「ぁ……ゃ……!!」
「他の男の頭を胸に抱き締めるとか、俺も流石に看過出来ねェんだよ。わかってくれるよな?」
「んぅ……ぁ……!!」
だからと言ってもうすぐ抱き始めて3日になるのが許されるのかと問われたら、許されはしないだろう。その為にそろそろ誰かがこのHOTELを探し出して、助けに来るかも知れない。
わかっていても辞められないのは、俺がそれだけナミさんに飢えているからだろうか。それとも、俺が甘えすぎているのかな。
「も……ぃ、ゃ……ぁ……!!ぃ、いかげんに、しなさい!」
そう言って俺の頬を叩いた手は黒くコーティングされており、本気で痛みに喘ぐ俺にナミさんは怒りに燃える視線を向ける。これは本気だと気付いた瞬間から、俺はただ謝罪するしか道が残されていなかった。
そうして平身低頭謝罪し、悪戯しない事を約束してその身を綺麗にしてからナミさんを連れ帰ると、チョッパーとロビンちゃんにナミさんを拉致されてしまう。その上でウソップから猛烈に罵られた。
「ったくよー!!お前だけはまともだと思ってたのに、何してんだ!!……今日は1日寝かせててやれよ。気持ちは分からなくもねェが、限度を知れよ!ナミはルフィとチョッパーとロビンとお前には事の他甘いんだから!!お前が気を付けてやらねェと、喪う事になるぞ」
「分かってる、つもりなんだがなァ……」
それでもナミさんがルフィやチョッパーを胸の谷間に抱き締めてるのは、どうにも我慢出来ねェんだよと小さく呟けば、フランキーに肩を叩かれた。見れば頷いている。
「小娘がそれをやるから、ロビンもそういうもんだと思ってやがる。本当に直して欲しいところだな」
その言葉にそうだよなと思う。ロビンちゃんはナミさん以外に身近にいる女が居ないから、基準がナミさんになりがちなんだよなと。
だからこそ素直に悪いなと笑えば、お互い苦労するが、無理させんなよと笑われちまう。それから食事の時にも部屋から出て来なかったナミさんを気遣い、俺達は明日は1日1人で買物にでも行かせようと決めた。
いつも誰か1緒に行動させていたから、たまにはそんな事を許して気晴らしさせてあげようと言う事に決まったのだが……。ここでまた、男引っかけてこないかと不安でならないと言ったら、嫌われちまうかな?
1人で降りたからと言っても、本来ならば問題のある治安じゃねェ。なのに不安になり、こっそりと後をつければ、それについてフランキーも追いかけて来て、町に馴染む為と言って行った変装が余計に目立たせてる気がしなくも無い。
楽しそうに妙な着ぐるみを買って笑う姿に、何してても可愛いなと思った俺はおかしくないだろう。食材を手にした時の顔が玄人じみていて、なんであれでコックじゃねェんだろうと本気で思っちまった。
結局ナミさんが買物してるのを、ほぼ全員でコソコソとついて周り、途中で交代で船に戻った奴等が届いた荷物を受け取っていたが、その中に食材があると連絡を受ければ帰らない訳にも行かない。戻ってみると豆がこれでもかと届いていて、他にも米だとか魚、肉等が届けられていた。
食材選びも上手く、美味しそうである。豆も種類が豊富なので、トマトと1緒にスープにして、他に豚のスペアリブと大豆の煮込みにしても美味そうだ。
大豆は1晩水につけておきたいから、明日の食事だな。伝統的な事を考えると豆を炒って、塩で味付けしたものを用意する必要もあるな。
恵方巻きと名を変えた太巻きにしても、昆布巻も作ってみてもいいかもしれない。広げた昆布の上に豚肉を重ねて、細切りにした人参、または大根を軸として入れて巻く事で作れる簡単な物がある。
両方入れると紅白になるので、正月にも使える縁起物だ。大豆をメインにした料理は多数あるので、何を作るかと脳内で食材が踊り始める。
日持ちさせるなら、醤油漬けや、甘煮、五目煮やチリビーンズも良いよな。ひじき、つくね、サラダ、炒め物も良いなァ。
「「おーい、サンジー?」」
「五月蝿ェな!何だよ!?」
「豆持って動かないから声掛け続けてたんだよ!それ食えるのか?」
「美味いのか!?サンジが作るなら美味いよな!」
「食えるのは明日だな。今日は別なもん作ってやるよ」
ルフィとチョッパーにそう返事をしてから、俺は料理を開始する。いつの間にか帰って来ていたナミさんが、途中から手伝ってくれて何とも嬉しい気持ちになったのは言うまでもない。
もういいから先に休んでてくださいとナミさんを送り出して、俺は続きを1人で進めていく。イベントの直前ってのは、やる事が案外多いもんだ。
後片付けや仕込みも終わり、後は明日季節のそれに合わせた物を作るだけだとなった時には、月が随分傾いていた。それによりそろそろ寝ようかと思った時、ヴァイオリンの演奏が聞こえて来て、ブルックが起きてるのかと気付かされる。
直後にまさかと見に行けば、案の定ナミさんが起きていて、強制的に女部屋に連れ戻しロビンちゃんに預けると俺とブルックは揃って笑いながら眠りについた。そうして迎えた翌朝、俺はいつもの様に軽くシャワーを浴びてからキッチンに立つ。
恵方巻きの種類は色々と用意できそうだと思って準備を進めていたら、焼いた筈の卵焼きが消えた。まさかと見てみれば、ルフィ、ウソップ、チョッパーがしゃがんでモゴモゴしているのが見えて、叱り飛ばす。
そんな俺を見兼ねてか、黄色と黒で作られた毛糸のパンツを差し出されたウソップとチョッパーがそれを身に付けて、本日の鬼役となる事が決まった。だがまさかルフィにお咎め無しかと思った直後、ルフィには恵方巻きの着ぐるみを着せるナミさん。
……それ、その為に買ったんですか?
「ルフィはゴムだから、豆ぶつけられても痛くないでしょう?お仕置は、これよね。動きにくいし手が出ないから、摘み食いも出来ないでしょ?」
「ナミさんって、時々えげつないですよね。そういえば、そのパンツはどうしたんですか?」
「え?昨日毛糸買ったから作ってみたのよ。案外簡単に出来たわ」
「俺様の分は無いのか?」
フランキーが声をかけると、ナミさんはにっこり笑って、サイボーグも痛くならないから私は作ってないわと笑う。けど〝私は〟って所が怖いなと俺は小さく笑いながら、また節分の料理を作って行く。
マリモは時々酒を求めて来たが、とりあえず鬼に豆をぶつけた後でなと追い返しておく。そうして始まったそれは想定を上回る大騒ぎで、俺とナミさんは食う暇なんてありはしない。
そうなるのを見越して、ナミさんには恵方巻きを別で作ってあるけどな。痛いと泣き出したチョッパーに、摘み食いも程々にねと言って鬼役から解放したり、代わりに鬼役になったマリモに怪我しないでねと笑ったりしている。
お待ちかねの全員黙って恵方巻きを食べる時も、ナミさんはロビンちゃんと共にお母さんよろしくサポートしたりしていて、本当にこの船の女達に男達は頭が上がらねェよなと思う。そうして迎えた夜、後片付けをしてる所に姿を見せたナミさんが、椅子に腰掛けた。
妙に疲れてるらしいそれに、俺は即座にお湯を沸かして飲み物を入れる。アカシアの蜂蜜があった筈だな……蜜柑もあるし、簡単で悪いけどあの顔色ならすぐできるのが良いか。
「ハニーオレンジティーです。暖まりますよ」
「こんな時間に甘いのなんて、太っちゃうわ」
「太ってください。最近痩せすぎです」
「だ、れの……せいよ……」
顔を赤くして視線を背けたナミさんに、俺は首を傾げてみせる。それにムッとした顔をするから、つい、二人きりのそれになっちまう。
「俺のせいなのはわかってるから、ちゃんと飲んで。それとも……俺のを飲みたい?」
「……?……っ!?」
声にならない声で言いたいことを伝えて来るナミに可愛いと笑ってから、軽くキスをして後片付けを終えに向かう。仕込みも終えてから恵方巻きと梅昆布茶を見せれば、ナミは嬉しそうに笑う。
直前まで目を白黒させたり、真っ赤になった頬を触ったりしてたのに、俺の出した物は迷い無く口にするんだから嬉しくなって当然だ。期待してくれてるのが分かるから、頬が自然と緩む。
「本来切らずに食べる物らしいけど、俺と2人だし……適当に食べましょう」
そう言って元々用意してたそれぞれの太巻きを輪切りにして出せば、ナミはありがとうと言って野菜メインのそれに手を出す。こんなんだから兎だと言われるのだと思いながら見詰めるけど、美味しそうに食べてくれるそれに文句なんて消え失せちまう。
「サンジ君のって……本当に、美味しいわ……」
…………いや、俺が腐ってんだ。わかってる。
わかってるのに、違うようにとった俺が悪い。そうは思うけど……。
俺は悪戯心を刺激されて、輪切りにしてないエビフライ入の恵方巻きをナミにそっと差し出して、西南西を向いて!と言う。それにより慌てた様子で従うナミは、それを丸齧りし始める。
その様子が必死であるが故に、妙にエロい。苦しそうにしてるそれに、もう妄想は止まりそうにねェ。
あァ、もうダメだ。鬼は俺、福は目の前。
襲いかかれるチャンスを今か今かと伺う鬼が、何も知らずに恵方巻きを食べている福の神に狙いを定める。今宵、福の神が寝かせて貰えたのかは、皆様のご想像にお任せしよう。