今日は俺の愛しき女神の生誕祭だ。いや寧ろ、聖誕祭と言うのが正しいかも知れない。
その言い方だと別なイベントになる?知らねェな、ナミさんより聖なる存在があってたまるか。
さて……これ迄は俺が作った物を振舞ってきたが、今回はどうしたものかと考えて……丁度島に居るのもありナミさんと2人で町へなんて考えてみたりする。そうでもしねェと、ナミさんは愛され過ぎてて、普通に邪魔されちまうからな。
その時歌声が聞こえてきた。なんだろうと思い、直後にナミさんの声だと気付く。
ブルックとは明らかに違う声。誰もがナミさんの歌は邪魔しない。
ブルックの時は案外、話しかけたりする奴居るんだよな。そんな事を思いながら、蜜柑のクレープとオレンジ&蜂蜜を混ぜて作ったアイスティーを持って行く。
今日の歌はどうやら創作物らしく、ナミさんらしい歌だと思う。同時に、故郷の村に帰りたいのかと不安になる。
ゾロを逃がし、ウソップを庇った後で俺は到着した。ルフィに泣くのを耐えて怒鳴りながらも、傷付ける事さえ出来なかったナミさんの姿は、今も鮮明に覚えている。
優し過ぎるナミさんは、他の誰でもなく自らに刃を振り下ろし、慟哭を上げていた。そんな姿を見ても、動く事さえ出来なかった俺は、本来この位置に居ていい筈もないと分かってはいる。
その状態でも尚、闘う事を辞めなかったナミさんに魅せられ、溺れたんだ。花のようだと思ったそれが、間違いだと気付かされたのは、何時だっただろう。
時期が過ぎると散って腐る花なんかじゃ無かった。ナミさんは、優しい春の女神だ。
暖かく優しく包み、微笑み、花を咲かせて……捕まえておかないと勝手にどこかへ行ってしまう。花を守ろうと、夏の嵐に立ち向かい、冬将軍に挑みかかるそんな危うい存在だ。
歌が終わると、近くのガーデンチェアにそれらを置いて、強くその体を抱き締める。俺の傍にいて欲しいと、縋るように。
「帰りたくなったか?」
「何処に?」
俺がこの口調なのに、ナミは無防備に顔を上げるから、俺はその唇を奪う。重なる唇が、ナミの優しさを伝えて来る。
甘やかすようなそれの隙間で、ナミは笑ったらしかった。だからそっと唇を離せば、小さく声が聞こえる。
「……ばかね……」
「ん?」
「私の帰る場所は、ここだけよ」
どうしてこの人は、俺を簡単にただの男にしてしまうんだろう。常に穏やかに、優しいナイトでありたいと願っているのに。
衝動を抑えきれずに抱き締めれば、苦しそうに喘ぐ声が耳に届いて、しまったと思う。同時に、その色っぽい声は毒だなと小さく笑っちまうんだから、俺も相当駄目だよな。
「ナミ……今夜の食事を用意したら、2人で抜け出そう。どうしても、2人になりたい」
「サンジ君?」
「駄目か?」
「ううん、嬉しい。なら、私も手伝うわ。その方が少しは早いでしょ」
そう言って笑った俺の天使は、多分今日が何の日か覚えてはいないんだろう。普段と変わらないような料理をいつもの倍速で作りあげれば、ナミさんはそれを凄いと言って見詰めてくれる。
その手が器用に挽肉を作っているのは、充分凄いと思うけどな。肉の塊を挽肉に出来る1般人って、そう居ないと思うんだよ。
そうして2人で楽しい料理の時間を終えると、残るはどうやってナミさんを連れ出すかだ。野生の勘なのか、ルフィがナミさんから離れねェんだよな。
俺とのそれを邪魔しようって概念じゃなく、単純にナミさんから離れたくないガキみたいな感じなのが厄介だ。それはどうやらチョッパーも同じである為に、面倒だと思う。
「ナミー!帽子に穴が空いたー!」
「もうっ!宝物なら大切にしなさいよっ!」
全くだ。大切なら、穴を空けるような酷い扱い方してんじゃねェ。
そうは思うが、ルフィの麦藁帽子が相手じゃナミさんはそれを優先しちまう。その間に俺は電伝虫を使い立食バイキングの、ディナークルージングに予約を入れる。
通常の食事だと無理でも、このタイプならナミさんも食える。それに、俺も料理の研究になるしな。
俺がこれ迄ずっと食事をイベントの度に作ってきたのは、ナミさんが俺の料理しか食わないからというのもあった。でもなァ……たまには2人でのんびり過ごしてみたいんだよ。
ふと視線を向けると、ナミさんの膝で寝ているチョッパーと、その横で笑ってるロビンちゃんが見えて飲み物を持って行く。この組み合わせは、随分心が安らぐなと小さく笑いながら飲み物を差し出すと、ロビンちゃんが静かに指先を甲板の下に向けた。
「今の内よ」
ロビンちゃんはどうやら俺の味方をしてくれるらしい。下には……そうか、ミニメリーがある!
だが、チョッパーがな。そう思った時、フランキーがチョッパーを抱き上げてロビンちゃんの膝に移動させた。こんな時、本気で有難い。
そんな中ナミさんだけが意味をわからない様子で見ていて、そんなナミさんの前で膝をついて、そっと手を差し出せば驚いた顔をしながらも手を取ってくれる。本当に、賢くて優しい人だ。
俺とのデートの約束を思い出して、笑ってくれたのだと伝わる。優しくて、暖かい俺の女神。
共に降りてミニメリーに乗り込めば、ナミさんは麦藁帽子を持ってない事に気付いた。どうしたんだろう?
「……ルフィの帽子は、ロビンに預けてきたわ。全く、ルフィってば私に直せって言うのよ。ロビンがやってあげましょうか?って聞いてくれたのに、嫌だって言うの」
「……幼馴染みですからね。それにその帽子をくれた人と、ナミさんも知り合いならってのがあるんじゃないですか?」
「言われてみれば、確かに。シャンクスは私の師匠だし……仕方ないか」
……相手も、ただの弟子として見ててくれると良いんですけどね。1抹の不安を感じながら、そっとナミさんを抱き寄せてその唇を奪うと恥ずかしそうに辺りを見渡す。
「だ、誰かに見られたらっ!」
「大丈夫ですよ。海の真ん中で、しかも夜ですからね。まァ……俺は見られても構いませんし」
俺の言葉に真っ赤になりながら、ポカスカと殴って来るナミさんが本当に可愛い。並の男なら簡単に倒せるだけの腕力を持っていても、相手が俺じゃなんの価値もない。
「あまり、煽らないでください。この場で、襲いたくなりますから」
「サンジ君の、馬鹿……」
「結構本気ですけどね。その為に、ディナーに連れ出したんです」
「……私、私服なんだけど?」
「服は、誕生日プレゼントとして、贈らせてください」
「え?」
どうやら本気で忘れていたらしい。今日がなんの日であるのかを。
そんなナミさんを抱いて船に乗り込めば、船の中は階層により店や客室になっている為に問題無く話が通る。それにナミさんは少しではなく驚いた様子を見せながら、ありがとうと呟いた。
ナミさんに似合いそうなドレスを見繕い、共に予約していたディナーの会場へ向えば楽しそうに果物のコーナーへ進もうとしていたので、せめてサラダにしてくださいと連れて行く。それにナミさんはてへっと笑うから、可愛いなとその額に唇を落とす。
「サンジ君、ずるい」
「……何がですか?」
「メロリンしてくれないと、サンジ君顔が良いから、心臓持たない」
「……顔の善し悪しをナミさんには言われたくないです。もう、そんな事を言ったら俺は常に心臓持たないですよ」
「……仕方ないじゃない。なんか、私、サンジ君を好きすぎて、直視出来なくなる時があるんだもの」
この人、俺をどうしたいの?
俺が悶え死にとかしたら、間違いなく原因はナミさんだよ。そんな事を思いながら、1つの皿で2人楽しくのんびり食事を楽しむ。
途中もう食べられないわなんて笑うナミさんを見て、俺は会場の学士団に合図を送る。それに合わせてナミさんの為に演奏されるのは、Happy Birthdayの歌。
それにはナミさんも戸惑いを見せて、その顔を赤く染める。状況を理解したらしい。
「ちょっ……ちょっと待って!私、そんな……!恥ずかしいから!」
「恥ずかしくなんてありませんよ。今日はナミさんの産まれた特別な日。俺と出会う為に産まれてきてくれたナミさんに、感謝しています」
「サンジ君……」
「今日という特別な日を、共に祝わせてくれて、ありがとうございます」
曲の終わりに合わせて膝をつくと、そっとその手をとり指先と手の甲に口付ける。俺の全ては、ナミさんのものです。
「愛しています。貴女は俺の最愛の人だ」
声もなく俺を見詰めるナミさんの瞳が揺れている。それにそっと笑って、最上階に取っておいた部屋へと誘導するように連れて行く。
Happy Birthday ナミ。君が生きて傍に居てくれる。
それ以上に望む事なんて、きっと俺にはありはしないんだ。君の微笑みが、俺の生きる糧だから。