祭りは好きだが、こういうタイプの物は妙に苦手で、だがナミが作り出した物である事もあり拒否できずに参加してみた。1味が揃って行う宴様式のそれは、想像と違い確かに楽しかく、毛嫌わずに参加してみるもんだなと考えを改めさせられた。
仲間達と贈り物を交換し合い、俺には大抵が酒を寄越してくれた所にも好感が持てる。ただ、俺からの贈り物を用意してなかったのが問題だ。
その為に、どうしたものかと頭をかけば、皆分かっていたかのように笑い、明日何か返せと言われた。結果その翌日である今、買いに行こうとした所をナミに捕まった訳だが……。
「方向音痴のゾロが1人で船を降りる事を、私は見逃せない」
「誰が方向音痴だ!」
「聞こえなかったの?ゾロよ。それに、お小遣い、もうないんじゃないの?どうやって買うつもりなのよ」
「ぐっ……!」
何も……言い返せねェ!
そんな俺に困ったように笑いながら、そんな事だろうと思ったなんて言うから、なんだろうと思ったら財布を投げ渡された。それを受け取れば意外と重い。
「ルフィとゾロは計画性が無いので、目的が無さそうな時は他の人の半額しかお小遣い渡してなかったのよ。いざ刀が折れたとか、何かあった時に使えるように私が管理してました」
「おい……」
「なので、今回の買い物が終わったらそれはまた回収します。そうしないと、ゾロの場合全てがお酒に変わっちゃうもの」
そう言って笑うナミは少し得意気で、幼い顔をしている。俺にだけ見せるその幼い顔が、実は気に入っているので俺は従う他に選択肢を持たねェ。
憎まれ口を叩きながらも、これで甘えてるってんだから、可愛いと思っておかしくはねェ筈だ。先に船を降りて、半分冗談、半分本気で両手を広げればナミは暫し俺の様子を見て固まり、ジワジワとその顔を赤く染めた。
「……お、とさない、でよ?」
「おォ、任せとけ」
ニヤリと笑えばナミは俺の腕に当然のように降ってくるから、それを抱き留める。普通に降りて貰っても良いんだが、理由がねェと何となく、手を握るのも躊躇う時があるんだよな。
全てはナミが可愛すぎるのが悪ィんだよと、責任転嫁してみても、腕の中で俺に甘えるようにしている温もりに色々な意味で勝てる筈も無い。そこ迄でもないのに、会話の切っ掛けが欲しくて寒いなと呟くと、ナミは俺の顔を見上げて笑った。
「なら、手を繋いでく?少しは、暖かいかもしれないわよ」
「……そうだな。だがそれだと」
「何かあったら、その時は仕方ないでしょ。……ちゃんと私も戦うわ」
本当に心強いなと笑えば、ナミも嬉しそうに笑ってくれた。その鼻の頭が少し赤くなっていて、ナミの場合本気で寒そうだなと思う。
俺の買い物に付き合いながら、途中でインクに視線を取られて動かなくなったナミに、俺も刀を前にするとあんななのかと溜息が出る。結局ナミの意見により、皆には食べ物を返す事になった。
俺が貰ったのが酒という消え物だから同じ分類の方が良いだろうと言って、菓子の並ぶ店に入ったが……。匂いだけでダメかもしれねェ。
「ゾロ、甘いのは私が選ぶ?」
「……いや、俺が返す物だからな。悪い、気を使わせた」
そう言って頭に手を乗せれば、それだけで赤くなるナミ。その様子に、これ迄何度も抱いたのに変わらねェんだなと思えば楽しくなる。
顔の赤さを隠す為か、俺から離れてショーケースを目指す後姿。それでも、その耳の赤さは隠せてねェ。
少しするとナミは、チョッパーには可愛い見た目の物がいいかしらねと言って候補を絞ってくれた。そしてロビンとフランキー、ブルックはお酒の入った物にでもしたら?なんて言い出す。
それからウソップとサンジ君は少量でもちゃんとしたのを用意して、ルフィには質より量よねとナミは笑った。飴かチョコにしとけば安全でしょなんて言っていたから、今回はチョコにしたが、それでも種類が多くて本当に参っちまう。
それでも何とか全員分買い物を終えると外は雪になっていて、ナミはそれを呆然とした顔で眺めている。それは何処か寂しそうで、声をかけるのさえ躊躇わされる程だ。
「……ホワイト・クリスマスね。タイミング良かったわね」
「なんだ、それは」
「クリスマスに雪が降る事をホワイト・クリスマスって言うのよ。所で、この後どうする?酒場で何か呑んでく?」
明らかに俺に合わせた次の予定に小さく笑ってから、だが確かにそろそろ飯も食いたいからとそれに頷く。酒場はどこかと辺りを見ていたら、ナミが何やら自分の荷物をガサゴソと動かし始めて……そのまま俺に抱き着いてきた。
なんだと思いながらも好きにさせれば、マフラーを巻き付けられていて、妙に暖かい。緑1色のマフラーはそこそこの長さもあり、シンプルなそれからは何故か蜜柑の香りがする。
「寒かったんでしょ?あげるわ。……私、昨日プレゼント間に合わなくて、あげてなかったから」
「間に合わなくて……?」
「……っ!気にしないの!ほら、行くわよ!」
顔を赤くして俺の手をひくナミに、まさかとマフラーに触れてみる。変なところは特に無いから気付かなかったが、手編みか!?
宴の後で1人ベッドにでも座って編んでるナミを想像したら、それだけで顔がニヤけそうになり、マフラーで顔を隠せて良かったと心から思う。その分、蜜柑の香りを強く感じちまうが。
「……ナミ、ありがとな。暖けェし、何より」
「何より?」
言葉を不自然に止めたからか、ナミはキョトンと俺を見上げてくる。無防備なそれに色々と刺激される。
「……このマフラーから、ナミの匂いがする」
「……!?ぞろ、それ、返して……」
「巫山戯んな。返すか馬鹿」
「やだ、何私の匂いとか……私そんな臭い!?」
「なんでそうなるんだ。蜜柑の匂いだろ普通によ!」
そんな事を道端で言い合っていたら、道行く他人にクスクスと笑われていて、それに気付いたナミが真っ赤になって顔を隠す為に俺に抱き着いてきた。混乱してるなと思いながらも、それなら丁度いいかと先に買っていた耳を覆うタイプの帽子を被せる。
「俺からのだ。余り俺以外にナミの顔を見せたくねェからな」
「……ゾロって、時々天然のタラシよね」
「あ?」
「なんでもないわ。ありがとう」
そう言って笑う無邪気さに、さて今夜はどうやって2人で過ごすかなと考える俺は外道なのか。何も気付かない様子で酒場に向かい、オシャレでもなんでもない店で俺の好みそうな辛口の酒やツマミを注文するナミの姿。
コレで気を使ってとかじゃなくて、単純に俺を喜ばせたいってんだから可愛いよなとしみじみ思う。こんな時こそ顔を隠していて欲しいのに、店内ではその顔を惜しげも無く晒してるからそれは多少不快な気持ちにもなる。
そんな時に適当な物を摘みながら、ナミがサラリと爆弾を投下した。恐らくナミは、その事に気づいてねェ。
「今夜はロビン帰らないんですって」
「は?」
「フランキーがね、ホテル予約してくれたのって可愛く笑ってたわ。ロビンがはにかんだ顔見せてくれて、本当に良かったなぁって思ってね」
「……そうか」
「ロビンって美人よね。それに性格も可愛いし」
「……そうか?」
「この間もね……」
食べながらロビンロビンと楽しそうに笑うナミに、本当にロビンとナミは仲が良いなと思う。ナミは離れてる家族の代わりにロビンに懐いているのかと最初は思ったが、違うなと途中で気付いた。
確かに女だけの家族という環境に居たからか、女に甘いのは多分にあるだろう。だが、単純にロビンを好きなんだろう、コイツは。
そんなふうに懐かれれば、心を凍らせてしか生きられなかった女には、ナミが可愛くて仕方なくなるのもよく分かる。だが、1緒のベッドで寝るのは辞めてもらいたい所だ。
それにしてもロビンに対して贔屓目が過ぎるだろうと思って、ふと問い掛けてみる。……他意なんか、ねェぞ。
「……なら、ルフィは?」
「手のかかる弟。まぁ、可愛いけどね」
ルフィ、お前つらいな。まァ、そう言われて安心してる俺も俺だが。
「なら、俺は?」
「愛しい彼氏様よ」
躊躇い無く言いきられて、答える時には照れるかと思っていた為に俺の方が動揺する。そんな俺にナミは小首を傾げて、笑う。
「ゾロの事、私はちゃんと好きよ。だから、ロビンに妬かないで。ね?」
気付かれてたかと視線を泳がせれば、楽しそうにナミが笑った。その笑顔に思わず、飯の後はナミを食いたいと素直に口に出せば、真っ赤になって小さく頷かれた。
「……サニーに、帰ってからね。その時は」
「その時は?」
先にシャワーとでも言うのかと思っていたら、消え入りそうな声で呟く。
「好きにしていいから」
その瞬間俺の理性が溶けた。即座に立ち上がると酒が残ってるのも構わずに金を置いてナミを抱き上げる。
驚いた顔で俺にしがみついたナミの額にキスをしてから、全速力で雪の中を連れ帰る。もう寒さも、他人の視線も、俺には感じ取れそうもない。
Merry Christmas……今宵聖なる夜。眠れぬものと覚悟しろと、野獣の名に相応しく獰猛に笑う男に対し、女は恥ずかしそうに頷いた。
甘い物なんざ嫌いだが、今だけはチョコより甘い、お前が欲しい。