くそコックに声を掛けられたので足を止めると、忙しそうにしながらもナミを呼んできて欲しいと言われる。ナミに何の用だと思わなくもねェが、恐らく船に必要な事だろうとは分かるので溜息1つ吐き出して、俺はその言葉に従う事にした。
甲板にはロビンがいて、フランキーと楽しそうに笑っているのを見かけたので、どうやらそちらの掃除は終わったらしいと気付く。そして、女部屋にはナミ1人らしいという事も。
部屋のドアを開けるのと同時にナミが俺の胸に飛び込んで来て、それを受け止める。何か悲しい事があったとかって様子じゃねェから、珍しく甘えてるだけだと判断すりゃァ、自然と顔もにやける。
「ゾロ……」
「どうした?」
「呼んでみただけ」
コイツは俺をどうしたいのか。このまま部屋に押し込んでも良いかと1瞬考えて、そんな事をすりゃァ2度と甘えて来なくなるなと思って耐える。
「可愛い事、言うもんだな。そういやコックが呼んでたが、何か約束してたのか?」
「あ!忘れてた!」
忘れてたとは珍しいなと笑いながら、俺もナミの後に続く。歩きながらエプロンと三角巾を身に付け、キッチンに向かう様子に成程正月料理の関係かと気付いた。
コックはナミを見てメロリンと言うと思っていたが、真剣な顔でナミと話をしていて、仕事の時はやらねェのかと初めて知るそれに少し嫌な気分になる。普通の女なら、それに惹かれるんじゃねェかと思ったのが大きな理由だろう。
だがそれは同時にコックも同じ状態だと気付く。いつもの穏やかに微笑むナミばかりを見ていて、あんなに真剣な顔で話をしている姿を見ればそれはそれで……。
修行が足りねェな。何を動揺してんだか。
そうして部屋の隅でダンベルを持ち上げつつ様子を眺めていると、お節料理なる物を2人で笑いながら作り始めて、直後に真剣な顔で互いに料理に集中し始める。コックの方は余裕があるのか、ナミの様子を見て楽しそうに笑ったりもしているのがまた、気に入らねェ。
「ナミさん、それはこうやった方が良いですよ」
「え?あ!凄い。綺麗に出来る!」
「ナミさんは充分プロで通用しますね」
「通用する訳無いでしょ。家事はやらないと生きられなかったから、多少出来るだけよ」
そう言ってからナミはまた、真剣な顔で料理に取り組む。コックはそんなナミの様子に苦笑しているから、本気で言ってんだろうなと思う。
ダンベルを動かし続ける俺の側に、気付いたらナミがトレーを持って来ていた。その上には、グラスと軽食っぽい物が乗っている。
「少し休憩したら?水と今作ってるお節料理持って来たの。味見して貰えると助かるわ」
「ナミとコックが作ったなら、美味いに決まってるだろ」
味見なんか不要だと言いながらも、それを口に入れれば、黒い塊の中から魚が出て来て何だこれはと思う。ナミはそれは昆布巻よなんて言ってるが、魚の骨が普通に美味い。
「なんだこれ、美味い」
「だから昆布巻」
これは堂々巡りになる奴かと気付いて溜息を落とせば、ナミが楽しそうに笑う。その背後でルフィがサンジと争い始めたのを見て、良いのかと顎で示せばナミが顔面蒼白で駆け出した。
「ルフィ!そんなに食べたら無くなっちゃうから!……あ!そっちはまだ完成してないのよ!駄目だったらルフィ!」
「巫山戯んなこのクソゴムがァ!」
「ゾロは食ってるじゃねェか!」
「試食用に少し盛り分けたのよ!鍋の中身空にするのは、試食とは言わないのよ!」
ルフィはある意味すげェよな。ナミをあんなに怒らせられる奴なかなかいねェぞ。
ルフィ、コック、ナミのやり取りは若夫婦と息子の会話にも聞こえて、少しばかり胸が痛む。ナミは、俺を選んでくれたってのにな。
そんな事を思いながら、やり取りを眺めていたらナミが俺に視線を向けて来た。助けでも求めて来るのかと思ったが、少し違ったらしい。
「お風呂、今のうちに入ってきなさいよ。1日は基本的にお風呂に入らない地域が多いんだから」
「あァ、ついでにくそゴムも連れてってくれ。食い荒らされて作り直しだ」
「分かった。……おい、ルフィ。行くぞ」
俺が声をかけると食べた事で満足したのか、ルフィは俺について素直にその場を後にした。ダンベルを片付けながら風呂に向かえば、ルフィが本当に美味かったなんて言い出すからナミの仕事増やすなよと、思わず心で呟いていた筈の言葉が声になって落ちる。
「ゾロは、ナミに本気なんだな。遊びとかじゃ、ねェんだな」
「当然だろ」
「……なら、ナミが泣かない間は良い。泣かせるなよ」
「言われる迄もねェ」
その後風呂で足滑らせて沈むルフィを拾いつつ風呂を終えると、交代でウソップとブルックが風呂に向かった。暑いからと半裸で動いていた為に、コックに服を着ろと叫ばれナミは見慣れてる筈なのに顔を赤く染めるから仕方なく着替える。
照れてるナミは可愛いなと思って眺めていたら、唇の動きで「ばぁか」と言われる。新年早々動けなくなりたいのかと凶暴に笑えば、ナミがビクリと体を揺らしてチョッパーに抱き着いた。
それぞれが風呂を終えて、年越し蕎麦とヤラを食って1眠りした翌朝。ナミが全員に、お年玉だと言って小遣いとは別に金をくれた。
そのまま全員で遊ぶか、それともお年玉で遊んで来るかと問い掛けられたルフィとチョッパー、ウソップが迷わずに飛び出して行った。なので、各自今日は自由行動となる事が決まる。
俺も出掛けるかと、クリスマスにナミから貰ったマフラーをして甲板に出ると、耳を覆う帽子を被ったナミが居て、何処かに行くのかとその肩を掴む。振り向いたナミは俺のしているマフラーを見て顔を赤く染めつつ、嬉しそうに笑った。
「……出掛けるか?」
「ゾロが、出掛けるなら」
「……まさか、待ってたのか」
「だって、ゾロの予定、聞いてなかったから……」
そう言って顔を背けたナミが可愛くて、その腰を抱いて船縁を蹴り飛び降りる。何も言わなかったからか、慌てて俺に抱き着いてきたナミが妙に可愛い。
そのままナミを連れて島の奥に行けば、初詣とやらの為に人が並んでいるのが見えた。何が楽しくて並んでんだと思った俺に、聞く前にナミが教えてくれる。
「神様に今年の無事を祈るのよ」
「神様とやらをぶん殴って来た癖に、か?」
笑って言えばナミはその近くでは、甘酒とか清酒が配られててねなんて言うから酒を貰いに行く事にした。それを見てナミは楽しそうに笑うから、読まれてたなと俺も笑う。
途中で売ってる串物を買って1口齧ると、思ったより美味い。それをナミに差し出すと少し躊躇いながら同じように齧ったので、どうだ?と問い掛ける。
「味付けがシッカリしてて、屋台って感じがするわね。……それよりも」
そこで言葉を切ったナミを見ながら残りの串を食べていたら、ボソリと呟かれる。その顔は明らかに照れていて、俺もそれにつられる。
「間接キスになってるなって……」
「お前っ!何度も俺に抱かれてるってのに、今更……」
「ひ、人の多い所で何言ってるのよ!?」
「それに、渡した俺も悪いが……」
言葉を切った俺にナミは首を傾げる。それに怒られるだろうなと思いながら言葉を口にした。
「俺のを頑張って咥えようとしてる時と似てて、エロかった」
「串物なんだから、しょうがないじゃないっ!ゾロのバカバカバカ!」
そう言ってナミは俺の胸を叩いて来るから、悪かった悪かったと1応謝る。だが……本当に叩いて来るそれが無意味だな。
覇気を纏わないナミのそれは、本当に猫パンチ程度のもので可愛らしいと思う。いつまでも殴って来る無意味な手首を掴み動きを止めてから、その腰も抱いて唇を塞ぐ。
それに対して喘ぐように反応するナミをそのまま抱き上げて、折角だからカミサマとやらに願いを叶えて貰いに行くかと声をかける。俺としては酒を貰えればそれだけで良いが、ここまで来たならナミも何かひとつくらいイベントごともやりたいだろう。
「Happy new yearだったか。俺の願いは、ナミとずっとこうして過ごせる事だ」
「世界一の大剣豪じゃないの?」
「はっ!それは願いじゃねェ。俺の〝野望〟だ。願いってのは、1人ではどうにもならねェものを示すんだろ。なら、叶える為に他が必要なら俺はナミに願う」
「ゾロ……」
「ずっと、俺の側にいろ」
既に願いではなく命令だとか。そんな事を思わなくもねェが、本音の深い所じゃ哀願に近いんだから仕方ねェだろう。
世界やら男やらから狙われ続ける大切な女を、俺は全力で守ると誓う。だからどうか、これから先もずっと側にとお人好しで生意気な、愛しい存在に願い続ける。