駄目だと、危険だと言ったのに飛び出した馬鹿猫を連れ戻したが、反省の色はねェ。お仕置きとして部屋に閉じ込めたが、逆に喜んでやがる……。
だからといって、怒りに任せて襲えば怯えられそうでンな事できなかった。そんな俺にロビンはクスクスと笑うが、笑い事じゃねェ。
治安の悪さで有名な島に、1人で!武器も無しで!しかも匂い以外に判断材料の無さそうな姿に変装して、呑気に行ったんだぞ。帰って来てからも反省は全くせずに……クソッタレが。
「なァゾロ、悪ィけどよ、ナミ居ねェと航海に困るから部屋から出すぞ?」
なんて、ルフィに言われちゃ3日閉じ込めておくのが限界だった。それでもルフィも怒ってた筈だが、ナミに何か言われたら大人しくなりやがった。
そもそも、この船のヤツらは全員ナミに甘い。ナミが甘いからってのもあるが、ナミに悲しげな顔で何かを言われて逆らえる奴なんかいる筈ねェんだ。
表に出たナミは、いつもの様に忙しく動き回っている。そんな中であの時に買っていたらしい物を抱えて部屋から出てくるのを見れば、気になって視線も向く。
何せナミが持ってる中には、春鹿がある。前に呑んだ事があるが、思わず目を閉じてしまう程によい香りがしたのを覚えている。
キレとコクが絶妙に調和し、そのまろやかな口当たりと高精白された原料米ならではの旨味が、辛口が好きな俺としては本当に忘れられない物だ。だが、ワノ国原産故に中々市場に出回らず、これ迄入手出来ずにいた物をナミがその手にしている。
「おい、ナミ」
「何?」
キョトンとした顔で春鹿を持っているが、お前まさかそれの価値知らねェのかよ?
「その酒、寄越せ。嫌ならせめて1緒に呑ませろ」
「……だ、だめ!これは駄目!」
「少しでいいから、俺にも呑ませろ!」
「やだ!コレは駄目なの!……こっちなら、あげるから少し大人しくしてて!」
そう言って渡されたのはひめぜんで、甘口な上にアルコール度数も低い、日本酒初心者な女向けの酒にこれじゃねェ!と叫んだが、渡された瞬間に思わずなんだと思って酒の銘柄を見ていた間にナミに逃げられた。……畜生、覚えとけよ。
残された酒を眺めながら、悪い酒じゃねェんだけどよと思う。俺は、甘い物は苦手だ。
つまり、好みじゃねェ酒なんだよな。まァ酒だから呑むけどよ。
ナミが俺の忠告を無視して、船を飛び出して行った日から共に過ごせる時間が消えた。閉じ込めていた為に仕事が貯まっていたようで、少しばかり悪かったかなと思う。
それくらいにはナミの多忙さは普通じゃねェ。そんな中でコックが外で煙草を蒸してるのを見てどうしたのかと視線を向けると、キッチンは立ち入り禁止だと言う。
「なんだよそれ。なんかあんのか?」
「可愛い花々がチョコ作るんだと。楽しげにやってるから、邪魔すんなマリモ」
「んだと!?このダーツが!」
「あ!?やるか!?」
いつもならここで止めに入るナミの声が無い事に、俺もコックも違和感を覚えて少し動きを止める。互いに溜息落として違う方向を向いてみても、脳裏には同じ人間が居るのだろうとわかる。
長くもない沈黙を破ったのは、コックの方からだった。溜息混じりなそれは、俺に対する当て付けに近い物を感じる。
「明日……バレンタインだから、2人共チョコで想いを伝えるんだとよ。……充分伝わってるだろうになァ……」
「薔薇がどうしたって?」
「あ?知らねェのかよ!?乙女が愛する異性に告白したり、大切な相手に感謝を込めて贈物する日だよ馬鹿野郎。それの贈物で使われる物がチョコなんだよ」
……チョコか、それより酒が欲しいな。いや、待てよ?
なら、あの酒は結局俺用か?なんだ、それならそう言……う事もできねェよな。
俺に見つからねェように酒を用意してるナミの事を考えたら、顔がニヤけそうになる。だがまァ、ナミの事だからチョコも用意するだろう。
……嫌だが多分全員に用意して、笑顔で配るだろう。その中でもチョッパー、ロビンはまだしもルフィも特別枠の何かなんだろうとわかる。
「チョッパーとロビンには、特別枠のチョコで、ルフィには特大のチョコって所か」
「……だろうな。ナミさんはチョッパーとルフィに甘くて、ロビンちゃんのことは大好きだからなァ」
それからギロりと俺を睨み、何かあったらいつでも3枚にオロシテヤルからな!と言い捨てて去って行った。……なんだったんだ、いったい。
コックが阿呆なのはいつもとして、ドアの窓から中を覗けば確かにナミはロビンと楽しそうにしている。ならばとその場を去ろうとしたら、フランキーが落ち着かない様子を見せているのが気になった。
「フランキーどうした。珍しいな」
「お!?おォ……いや俺様は相変わらずスーパーだぜ!ただ、その……ゾロお前ェ明日の見張り、交代しちゃくれねェか?」
「いいぜ。その代わり、見張り台には鍵かけるからな」
「……話のわかる奴で良かった」
「お互いにな」
フランキーはロビンとラウンジで酒でも呑みたいんだろうと分かるから、場所なんざ何処でも良い俺としては何ら問題はねェ。見張り台が修行するのにも適してるから、俺も日常的にそこにいる訳だしな。
二人でいられるなら場所なんか何処でも構う事は何もねェ上に、ナミにはフランキーはロビンと過ごしたいらしい、とでも言えば笑顔を見せるだろうと分かってる。ナミはロビンが幸せそうにしてれば、自分も幸せだと笑うからな。
恐らくはロビンも同じなんだろうが。何でだろうな、それが妙にイラつく時があるのは。
そうして、翌朝。案の定全員に笑顔でチョコを配る2人は、何だか妙に楽しそうだ。
それなのに、どちらも俺とフランキーには渡そうとしねェ。チラチラと互いの顔を見て、小さく笑い合っているが、そんな場合じゃねェだろ、早く寄越せ。
「私、フランキーに渡してくるわ。ロビンはどうする?」
「私もゾロには渡しておくわ」
「「本命にも寄越せ!」」
俺とフランキーの声が重なればその場の全員が動きを1瞬止めてから、爆笑する。どちらも年下の女に振り回されてるからか、なんとなしに顔を見合わせちまう。
女達は互いに顔を見てから、クスクスと笑って声を揃えた。まるで示し合わせたかのように。
「「本命には後でね」」
ナミがフランキーに箱を渡しているのを眺めていたら、ロビンが明らかにチョコとは違うものを寄越してきた。何だと思って開ければ中身はゴムで……。
「おい、ロビン……」
「薬に頼ってばかりだと、ナミが心配なのよ。たまには気遣ってあげて」
「……筒抜けかよ」
「まさか。ナミはキスしただけなのか、最後までしたのか分からないのよ。ゾロ相手の時は、ウブな乙女だから」
そう言ってロビンはクスクス笑うが、それはナミがキスだけで顔を赤くして挙動不審にでもなってるという事で……。筒抜けより、タチ悪ィな。
ナミが1人になった瞬間を狙って近付くと、なんでもないように声をかける。……ちゃんと意味を理解して、覚悟決めてこいよ?と、心で思いながら。
「ナミ!今夜は俺が、見張りになった」
「あれ?そうなの?」
「誰かさんが頼んできたからな」
「……そっか、分かった」
そう言ったナミは、花のように笑う。本当にお前、ロビンが好きだな、おい。
俺とロビンのどっちが好きだと問い掛けそうになり、抑え込む。これでロビンとか言われたら、犯り殺す自信があるぞ俺は。
そんな煩悩を振り払う為に、夜ダンベルを持ち上げていた所に、タオルと飲み物を持ってナミがひょこっと顔を覗かせた。その姿はまさに猫。
俺が動きを止めると、少し休む?なんて聞いて来るからあァと答えながらナミの入って来た入口を閉めてやれば、それだけで顔が赤くなった。……わかってるなら、いい。
「俺のチョコはどうした?」
「持って来たわよ」
そう言って出されたチョコは、見た目は普通だったが口に入れてみると苦い。嘘だろうと驚きつつも噛んでみれば中からは呑んだ時に比べると恐ろしく甘いが、春鹿の味がする液体が流れて来た。
……チョコに酒仕込んだのか。そう思えば、あの反応も納得出来る。
「ナミ、使わなかった分の酒は?」
用意されているチョコの量を考えれば、残ってねェ筈はない。そう思い問いかければ、その瞳を泳がせるからカーディガンの中かと胸の谷間に手を入れるとやはりあった。
いつもそこに何か隠したり片付けてるから、そうだろうと思ったんだよな。胸の谷間に手を入れているからか、ナミは色気のある声を出す。
「やっ……!なにすっ……んっ」
「ンな所に隠してたのが悪ィだろ」
「ゾロのエッチ!ばぁか!……それ、返して!中身あげるから、瓶を返して!」
「あ?何言って……」
瓶なんかどうすんだよと思い視線を向ければ、信じられない物が書かれていた。造られた日を見て、俺は動きを止める。
嘘だろ、おい……。
書かれていたのは俺の生年月日で、俺が気付いた事に気付いたらしいナミが愚かにも俺から逃げようと、閉めた入口に手を伸ばすから咄嗟にその細腰を抱く。そのついでに〝俺の酒〟を使ったチョコを口に入れて味を楽しめば、ナミが今更抵抗しようとする。
「諦めろよ。俺の為に酒もチョコも用意したんだ……最後まで今日は俺に尽くせ」
「やだ!もう、恥ずかしいから、やだ!」
俺が尽くせと言ったんだから、抵抗する権利はナミにはもうねェ筈だがな?
そう思いながら春鹿を口に含みナミの唇と合わせれば、突然のそれにナミが驚いた様子を見せる。その隙に服を脱がせればもう、抵抗力はほぼ無い。
「……ゾロ」
潤んだ瞳で俺を見るナミに、小さく笑う。自分のペースで呑めないと、酔いやすくなるのは知っていてやってんだよ。
「それにしても、良く手に入ったな。春鹿ってだけで手に入りにくいだろ」
「ゾロには行くなって言われたけど、あの島は食品……それもお菓子の原材料に強いのよ。それと、宝石の質が良いの。当然お酒もお菓子の原材料として、いい物が揃ってて……」
「酒が、菓子の材料扱いか……」
思わず呟いた俺に、ナミはクスクスと笑う。そして、なんでもない事のように言葉を口にする。
「その島で利き酒大会やるって書いてあって、優勝賞品に春鹿が含まれてたんだけどね……よく見たらそれ、ゾロの生年月日だったのよ。もう、頭の中ゾロ1色になっちゃって、意地でも優勝してやるって思って……全力で参加しちゃったのよね」
……俺1色って、お前。なんだ、この可愛い発言。
「でも、バレンタインだから、チョコレートあげたくてカカオ買ってあったし、砂糖入れないで作ればと思ってたんだけど、お酒手に入ったしで、お酒仕込んでみたの。だって、ゾロお酒好きだし……」
甘い物を好まない事を知ってるナミだが、まさかカカオから作ると誰が思うんだよ。その上で続くナミの発言は、俺の理性を打ち砕いた。
「そう言う事なら、チョコも酒もナミも、俺が全て美味しく貰ってやるよ」
そう囁いてやれば、今更脱がされていた事を思い出したのか、恥ずかしそうにするナミ。俺の酒を下の口にも少し呑ませてやろうと口に含めば、それに即座に気付いて抵抗を始めた。
「やだ!ゾロそれ、無理だから!急性アルコール中毒って知らないの!?」
力でナミがかなう筈も無く、足を掴みそこに酒を呑ませてやれば刺激でビクビクと痙攣する体。直後に力の抜けた肢体は、抵抗する力を持たないと訴えて来る。
「俺の酒と、俺自身、両方呑ませてやるから……後でどっちが好みか教えろよ。俺の子猫」
囁けばナミはやだと言ったつもりだろうが、アルコールのそれに負けてにゃだになっている。普通の女にやるとアルコール中毒になるが、ナミなら少量ならいけるのを知っているからやったが……。
とろんとしたその表情と、真っ赤に染まった体が俺を誘う。喉が鳴り、下半身の熱は既に暴走しかけている。
「好きなだけ、鳴けよ……」
チョコも酒も、当然ナミも俺が喰らい尽くしてやる。俺の中の野獣が、目を覚ましたのを自覚しつつ、その白く無防備な喉元に喰らいついた。
Happy Valentine……酒とチョコで浮かれ切った恋人達には、周りの目など気にする余裕は無いだろう。酔って素直になった女に、男は己の昂りで傷付けないように制御するのが精一杯。
2人の夜は、随分長くなりそうだ。