何か女の喜ぶ物と考えて数日。俺にンなモン分かる筈がねェと諦め、本人に聞きに行く事にした。
部屋に入るとマシュマロがどうとか言いながら箱を見ているナミが居て、傍にある手紙を見れば差出人は〝ノジコ〟だ。俺の存在に気付かない程に集中しているのを見れば、相手が家族でそれも姉じゃ仕方ねェと思ってベッドに腰を下ろす。
そうしていたら困ったような顔でナミが俺の前に来ていて、どうしたのかと思ったらナミの指が俺の唇に押し当てられた。それと同時に口に入って来た甘味においコラと思うが、何故かナミは満足そうだ。
「特別よ。私がノジコに貰ったマシュマロなんだから」
ありがた迷惑とは正にこの事だろう。溜息を落とす俺に気付かない様子なので、嫌味を返してみる。
「有り難すぎて涙が出そうだ」
「そうでしょー」
駄目だ、通じなかった。何だこの姉への盲目的な愛は。
……そう言うのは、俺にだけ向けとけよと言いそうになって言葉を飲み込む。言えるか、そんな事!
部屋を出る俺は、当初の目的を果たせずに終わり、ロビンに聞くのもなと思いながら翌日に到着した島で1人散歩をする。ナミは地図や海図を描いてるようで、俺が出掛けた事に気付いてなかった。
……俺の片想いみたいだよなと、少し思う。実際は、想われてるのも分かってるがナミは恥ずかしがって中々言葉にしてくれねェし、俺も口に出せるタイプじゃねェからどうしてもたまに……少し距離があるような気がする時がある。
ふと、花の匂いがして足を止めるとバスなんちゃらと書かれた店が匂いの発生源だとわかる。いつも蜜柑の匂いさせてるが……あいつ風呂好きだから、たまに気分変えるような事してやると喜ぶかもな。
色々な匂いが混ざって気持ち悪くなりそうな空間だが、適当な物を選んでナミから変な匂いがするのも嫌で異様に悩まされる。甘いのはナミだけで良いから、香りは甘くねェので……柑橘類じゃねェもので……。
「あの、何か、お探しですか?」
少し怯えたような声が聞こえて視線を向ければ、フリフリとした服を着た女が立っている。そういやナミは、こういうの着た事ねェな。
「ホワイトデーってやつでな。甘くなくて、ナミに合いそうなモン探してるんだが、いつもが柑橘類の匂いだから他って考えたら中々難しくてよ」
「それでしたら、薔薇やラベンダー等の花の香りは如何ですか?お風呂に入れると花びらが広がるタイプもご用意してますよ!」
「見せてくれるか」
俺の返事を聞いて大きく頷いた女に導かれた先は、目がチカチカしそうな空間で……耐えろ、もう少し耐えろ、俺。そう思いつつ薔薇の花びらが広がる物と、ローズマリーとかいうやつの洗剤類と油、クリームを手にする。
ローズマリーなんだから、ローズで薔薇関係だろ。とりあえず薔薇で揃えときゃ良いんじゃねェか?
「彼女さん喜んでくれると良いですね!」
「……多分、喜ぶだろ。その辺に落ちてる貝殻の1つ拾って帰っただけでも、多分喜ぶ。そういう奴だよ」
拾った貝殻1つでも大喜びして、瓶か何かに入れて机の端にでも飾られてるだろうと想像がつく。何年かしてもいつ何処で貰ったかまでしっかり覚えてるだろうなと、そう思えば自然と顔も綻ぶ。
金を払いながらそんな事を言っただけだが何故か女が赤面していて、どうしたのかと思ったら何故か物凄く可愛くラッピングされた。……逆に、渡せねェよ。
「私も、そのくらい愛されたい」
ボソリと呟かれたそれを聞いて、つい言葉が零れ落ちた。多分、妙な感じがしたんだろうと思う。
「ナミは、愛されたいとか多分思ってねェ。それなのに俺が勝手に、色々したくなるんだ。……多分、素直に愛してくれるから、それに応えたくなるだけなんだろうけどな」
求め続けて、与えなければ枯渇する。そして、与えられる事が当然になる。
俺はナミを枯渇させるのも、ナミに甘え切るのも嫌だと思うからこそ……。何だか無性にナミの顔が見たくなって、少し早足でメリー号へと向かって歩き出した。
途中会ったチョッパーにどこ行くんだと聞かれて、帰ろうとしてると言ったら呆れたような顔で荷物持ちさせられながら1緒に歩く事になったが。それにしても、いつも荷物抱えてるよな、こいつも。
「ゾロから、色んな匂いがして変な感じだ」
「あァ、ホワイトデーってやつ、近いだろ」
「ゾロがそう言う事に気付けるとは思わなかったよ!」
失礼な奴だな。そう思うが言葉を飲み込めば、チョッパーは嬉しそうに笑った。
「きっとナミ喜ぶぞ!ナミはゾロの事大好きだからな!」
「……そうか?」
「あァ!ゾロの前だと可愛い顔して笑うんだ。いつも〝お姉ちゃん〟とか〝お母さん〟って感じの顔してるんだけど、ゾロの前では歳相応な感じでさ……だから、あんまりいじめないでくれよ?」
「……努力する」
気恥ずかしく思えた俺には、それだけの言葉を返すのが精一杯だった。それから揃って帰り着くとチョッパーの荷物を運んでやってから、いつもの様にトレーニングルームへと向かい、どうやって渡すかなと考える。
そうして迎えたホワイトデー当日。朝が早すぎるナミに朝風呂では用意出来ず、夜では他の奴らが先に使う可能性があるからと、昼食の前に用意しておく事にした。
可愛すぎてそのまま渡すなんざ出来そうもねェなら、用意しといてやれば良いだけだろ。……裏に使い方書いてあるしよ。
後は、どうやってナミに風呂へ行かせるかだな。そう考えながら揃って飯にして、いつもの様に執筆しに行こうとするナミを掴めば異様に細いなと思う。
「振り払ってみろ」
「何なの突然!?」
「いいから、振り払え」
「出来るかぁー!!」
この細腕でいつも頑張ってたのかと思えば、自然と眉が寄る。変なのに捕まった時、良いようにされて終わる未来しか見えねェ。
いや、良いようにされた後海軍に引き渡されて、鷹の目辺りが勝手に連れ去って監禁する気がする。インペルダウンにいてくれた方が、まだ助け出せる気がするぜ……。
そんな未来認められるか。それにそうなりそうになったら、ナミは平然と死を選びそうで怖い。
「少しは筋肉つけろ」
「は?」
「来い」
「ちょっと待って!何なの!?どうしたって言うのよー!」
騒ぐナミを連れてトレーニングルームへ登り、1番軽いダンベルを持ち上げさせてみたらそれも必死な様子に思わず呆れる。そんな俺にカチンと来たのか、ナミは体の柔らかさがウリなのよなんて言い出す。
「筋肉馬鹿なゾロは、体が固くなっていざって時に上手く使えないなんて情けない事に、ならないといいわね」
「なんだと?」
「何よ、ならゾロは背中で掌合わせられるの?」
「それくらい……」
腕を後ろに回してやろうとしたら意外と痛ェ。やれねェ事はねェけど。
そう思ってナミを見たら余裕の表情で合わせ、それを首の後ろまで持ち上げて見せやがった。……軟体動物かよ!?
それからナミが柔軟性って大切なのよと言いながら、簡単な所から柔軟のそれを俺に教え始める。言われるままにやれば、1つ終わるごとに確かに体が少し動かしやすくなった気がした。
「ナミの妙な動きはコレが元か」
「出来るだけストレッチはやってるもの」
「なんか、舞とかやると綺麗かもな」
何気なく言ったそれにナミがビクリと反応したから、もしかして出来るのかと視線を向ければ白々しく逸らされた。そんなナミを捕まえてやろうと手を伸ばすと、ヒラリと躱される。
「捕まえてみる?お互い攻撃は無しで」
「……いい度胸だな。捕まえたら、好きにしていいんだろうな」
「制限時間30分。その間に捕まえられたら、良いわよ?」
「乗った!」
そうして俺は思い知らされる。何故ナミが何時も、無事に帰ってこられるのか。
そして、ルフィが勝てる気がしねェと言うその言葉の意味を。タイマーをセットして始めたそれは、恐ろしく短く感じる。
ヒラリヒラリと舞い散る花弁を掴もうとして逃げられるように、ナミに躱されて振り回される。明らかに俺の運動量の方が多い。
「ゾロは無駄な動きが多すぎるのよ。動きも大きすぎるわ」
「助言とは、余裕だな!」
「ゾロは、世界一の大剣豪になるんでしょ。私を捕まえるくらいの事、簡単に出来るようになりなさいよ」
クスクスと笑うナミに、畜生と思いながら結局指先を掠める位が関の山だった。逃げる事に集中したナミは、ある意味無敵だ。
結局30分逃げ切られた俺は、無駄に息の上がってる自分が悔しくなる。今度からたまに、ナミにこうして付き合わせるか。
そう考えながらも、風呂に行かせるには充分だろうと思い声を掛ける。待てよ……風呂だとナミが喜ぶ姿、見れねェんじゃねェか?
「……はァ……風呂でも入って来いよ。汗かいたろ」
「そうね、そうさせてもらおうかな」
仕方なさそうに言ってるが、風呂のワードでウキウキしたのがわかる。本当に風呂好きだなお前。
降りて行くそれを見送り、自分も汗だくだと気付く。……俺も、浴びて来るか。
覗きたい訳じゃ無くて、ただ、喜ぶ姿を見たいと思ってるんだ。それと、少し俺も汗を流したいだけだぞ。
己にそう言い聞かせて脱衣所に向えば、ナミの声が聞こえて来た。誰か居たのかと耳を欹てれば、盛大な独り言だと分かる。
「うわぁー!お風呂がぁ!薔薇だわ、綺麗……。あら、化粧水とか色々ある。メッセージカードとか、何処かに隠されてるのかしら?」
映っている影を見るにまだ服を着ているらしいと知り、此方に戻って来る様子に慌てて脱衣所から出る……とは言え梯子の所に居るだけだが。すると用意してねェメッセージカードを探す声が聞こえる。
メッセージカード、用意しておけば良かったか……?でも、何を書けば良いんだよ、そんなモン。
だが……そうじゃねェと、コックかチョッパーからだと勘違いされかねねェよな。ロビンとか。
「成程、メッセージは無しか。……ゾロらしいわね。それで、突然筋肉つけろなんて……不器用な男ね」
その声は優しくて、少し位置を変えて梯子穴からナミを覗けば、少し赤くなった顔で嬉しそうに笑ってるのが見える。直後に脱ぎ始めたのを見ればそっと視線を逸らそうとして、食い入るように見てる自分に気付く。
いつも見てる筈なのによ。そう思いつつ風呂場に向かうその背を見送ってから、再び脱衣所に入る。
風呂場からは1人でキャーキャーと喜んでるナミの声が聞こえて来る。それを聞きながら着ているものを脱げば、中から鼻歌が聞こえて来てそれが優しい声な上に恋の歌だった為に少し動きを止めちまう。
でも裸で立ってるのもと思いドアを開ければナミが悲鳴をあげて、その身を慌てて浴槽に入る事で隠した。薔薇が邪魔でナミの体が本当に見えなくなり、それを少し惜しいと思いながら、ギャーギャーと文句を言うのを聞き流しつつ湯を被る。
「……もうっ!ゾロ聞いてないでしょ?」
「おぉ、わかるか」
「お風呂の邪魔するとか、最低よ?」
言いながらも湯船の中で薔薇を持ち上げたりして、ナミは随分楽しそうにしている。そんなナミに俺は、揶揄うように言葉を返す。
「見慣れてるし、良いだろ」
「良くないわよ。もう……仕方ないなぁ」
いつもそう言ってナミは俺を許す。だから、俺は泣かれるまで好き放題にしちまうんだけどな。
「こっち見ないでよ。すぐに戻るから」
そう言ってバスタオルを巻いて戻って来たナミは俺の背後に立つとじっとしててと言って、俺の頭を洗い始める。いつも耳の後ろ洗うの忘れてるでしょなんて言いながら、細い指で洗われて、大人しくしていると頭だけでなく背中まで洗ってくれた。
「後は自分でやってよね。それと、プレゼント……ありがとう」
その言葉に振り向いて俺の方こそ礼をと思ったら、バスタオルがナミの肌に張り付いていて……裸より、唆られる。そう思った次の瞬間には、ナミを無意識でその場に組み敷いていた。
「俺も礼に洗ってやるよ……奥までな」
「……っ!?馬鹿じゃないの!?のぼせちゃうからやだ!」
聞こえねェよ、そう言って俺が用意したそれを使いナミの体を丹念に洗って行く。それにより爪先を細くしならせるナミは、それでも結局俺に言葉以外では抵抗しない。
ホワイトデーと言うのが、バレンタインのお返しをする日なら、優しく丁寧に磨いてやるよと男は笑う。女は言葉を返す事も出来ないままに、その身を小さく震わせながら、結局全てを受け入れた。
後にのぼせて倒れてしまった女を見た仲間達に、男がクドクドと叱られたのはご愛嬌だろうか。