ギシギシとベッドが音をたて続け、ナミの声が聞こえなくなって随分経つが、辞めてやれずにいる。いつもルフィやコックに抱き着かれても気にもしないナミに俺は、妬いていた。
酒に手を伸ばして呑んで見ればいつの間にか温くなっていて、酒まで反抗期かよと舌打ちをする。だがナミにはちゃんと何か飲ませないとと考えて、備え付けの冷蔵庫から取り出した飲み物を飲ませる為にそっと身体を支えた。
口元から零れたそれが顎を伝い、喉を伝い、落ちて行く。それが妙に俺の劣情を刺激する。
「いい加減に、しなさい!こんな事続けるなら、もう、ゾロとは寝ない!」
水分補給を何とかさせた後続けようとした俺に向けられた珍しい怒号に、俺はビクリとする。悲しみの色の強いその怒りの眼差しに、俺はナミを見て確かにやり過ぎたと気付く。
元々細いのに、更に細くなってやがる……。素直に謝り、船まで抱いて帰るとロビンとチョッパーが悲鳴を上げて出迎え、そのまま女部屋に隔離された。
ルフィからも思いっきり殴られて、フランキーとブルックの発案で隣にある島まで向かう事となった。その島は、この島とは少し違い買い物が楽しめる所らしい。
今居るのはホテル等の宿泊施設が充実している島で、だからこそ抱き潰してた訳だけどよ……。そして、丸一日眠り続けたナミに1日自由に買い物を楽しんで来いよと伝えれば、それ迄の悲しそうな様子から1転喜色に変わる。
その背を見送り、そして、夕方近くなって帰って来たナミは何とも楽しそうだ。そのまま近くにあるとナミが聞いてきた、冒険と食料調達が出来そうな島へと船を進める事となった。
この船はいつも食費が理由で金欠なんだと嘆くナミとコック、そしてロビンに皆はそうだよなと言ってルフィに視線を向ける。それでも皆ルフィには甘いんだから、どうにもなりはしないだろうが。
到着した島で、ルフィは獣倒して焼肉だと騒ぎながら冒険へ向かい、コックは食料調達だと喜んで出掛け、ロビンは島の調査に出掛けて行く。俺は船番になり、ナミは見張り部屋から島の測量を行っている。
「ナミは降りなくていいのか?」
「獰猛な獣がいるとわかってる所に行きたくないわ」
だからこそ、興味があるんだろうがとは言えずにその真剣な横顔を見詰めていた。船の上からでもだいたいわかっちまうらしいそれは、そっちに関してサッパリな俺にも凄ェ事は分かる。
だから狙われるんだってのに、無自覚でいつも無防備。こんなにも俺を動揺させるのは、お前だけだぞと心で呟きつつも、口から出るのは違う言葉。
「俺が1緒でもか?」
「余計に嫌よ。はぐれるもの」
それはまァ、確かにいつもの事だ。ナミが測量に夢中になるから、俺がついて行かないとはぐれる仕様であるとは言われてるが……気付くとナミが消えてんだよな。
これを言うとナミは困ったように笑うのがいつもだが、それが何回か続いたらナミは自分が見張れない時は1緒に降りないなんて言うようになった。その結果、ルフィやコックと降りる事が増えて……それに、俺が耐えられなくて、爆発して……だな。
頭じゃわかってんだ。俺が悪ィって事はよ。
「ナミ、今夜は宴だろ」
「そうね」
「なら、俺が見張りになると思うんだが……」
「ロビンが見張りよ。いいお酒が手に入ったから、フランキーと呑むって言ってたわ」
言葉は返してくれるが、視線は向けてくれないナミに、少しばかり寂しいような気持ちになる。そんな時ウソップが見張り部屋に登ってきて、声をかけて来た。
「皆帰って来たぞ!昼飯だ!!」
「おぅ」
俺しか返事をしなかったので俺とウソップが同時に視線を向けると、そこには望遠鏡を覗き込みながらメモを取り続けるナミがいて、俺とウソップは顔を見合せ頷き合う。このままだと絶対飯食わねェ。
即座に俺がナミを抱き締める形で抑え込むと、ウソップがペンと紙を奪い去る。それにより珍しく1瞬呆然とした顔をした後、背後にいる俺を涙目で見上げてきた。
「……ゾロの、イヂワル……!」
……なんだ、この可愛い生き物。食えって事か、成程。
そう思って唇を落とそうとしたら、生えてきた腕に邪魔される。それにより背後に現れたロビンを睨めば、食事よと微笑まれた。
それに舌打ちしてから、ナミを担いで降りると甲板に皆が集まっていて、大量の太巻きと豆料理が並んでいるのが見えた。昼は太巻きパーティか?と思った時、ブルックが演奏しながら歌うように語り出す。
魔を滅して健康を祈る習わしで、夜は宴になるから昼間の内に魔除をする事になったのだと。その為に1度全員が帰って来たのだと言われれば、コックの多忙さに少しばかり感心しちまう。
皆が集まる場所でナミを解放して、ペン等を返せばまだ心は測量したいらしく見張り室に向けられているのが分かる。この馬鹿がと思いながら、とりあえず飯だろと声をかければ小さく頷かれた。
「ナミさん、食材ありがとうございました。揃ってたのでお昼にもイベントにも、苦労しませんでしたよ」
「……良かったわ。目移りしちゃって買いすぎちゃったの。使い切れそう?」
「ルフィも居ますし、種類が多いので皆色々食べると思いますからね。……寧ろ足りなくならないか心配ですね」
「最悪の時は豆でも食べさせましょう。豆だけなら、まだまだ沢山あるでしょ」
そんな会話をするコックとナミを横目に、言われた方角を向いて無言で太巻きを食う俺達。ルフィは声を出すなと言われてるのに、モゴモゴしながら美味い美味いと言っていて、イベントのそれに反し続けている。
チョッパーは太巻きを上手く食べる為だけに人型になる位頑張って参加していて、楽しそうで何よりだと笑う。肉の物、魚の物、野菜の物、海苔ではなく卵で巻いてある物まであり、太巻きも色々あるなと感心させられる。
「小娘!お前ェは食わねェのかよ?」
イベントの準備をしたのも、発案したのもナミである筈なのに、ただ眺めている姿に俺も食えよと思うが、黙って様子を伺う。するとナミは困ったような顔で笑い、食欲が無いのよなんて言った。
それに心配そうな顔をしたチョッパーが駆け寄り、ナミの額に手を当てた時フランキーが言った。それにより、その場の空気が変わるような事を。
「なァる!ゾロの太巻き食いすぎて腹一杯か!!」
「
突如低く響いたロビンの声に、その場にいた全員がギョッとして視線を向けるが、フランキーの関節全てと唇を押さえる為に咲いた30本の腕に為す術は無い。1気に青ざめたフランキーだが、ロビンが怒りの眼差しでクラッチ!!と言った時、口を押さえられていても聞こえてくる断末魔のような悲鳴に恐ろしいなと思わされちまう。
男達を戦慄かせておきながら、ロビンはフワリと微笑むとナミの頬に手をあてて小首を傾げる。その様子は穏やかで優しいからこそ、余計に恐ろしい。
「ナミ、もう大丈夫よ。私が守るわ」
「ロビン……?えっと、ありがとう……」
「太巻きなんて、全て切ってしまえばいいのよ……」
「それ、既に恵方巻きとして間違ってるからね?」
間違いなく違うものを意味して言ってるだろうロビンのソレに気付かないのか、くすくすと笑いながらいつもの短剣で太巻きを切って食べ始めた。そんなナミとロビンを見て、数人が青ざめる。
ウソップとルフィはそこを押さえて痛いだの残酷だのと騒ぐが、女達は楽しそうに太巻きを輪切りにしていく。短剣ってのは、そうやって使うべき物じゃねェと思うがな。
それでもロビンに開放されたフランキーは息もたえだえになりながら、言葉を重ねた。それにはいい加減、俺もイラッとする。
「あの体格で細巻きはねェだろうが!なら大太巻きか!コンニャロー!!」
俺が思わずと言うか、衝動的に豆を手にして全力でフランキーに投げ付けると、やんのか……?なんて言ったフランキーと豆のぶつけ合いになる。
その様子にルフィが楽しそうだな、参戦するぞ!とフランキー側に立って豆を投げてくれば、コックがイラついた様子でネクタイを投げ捨てながら俺の側に立った。
「レディに暴言を吐く奴は、生かしちゃおけねェ。始末してやる……!」
そうして女達2人を除いたメンバーでの豆合戦が始まった。その日の夜、食材を集めに行きそびれたからと宴は明日に延期され、それでも豆をぶつけ合ったりしたそれが楽しかったのか大半は満足そうにしている。
そうして各自が見張りだの風呂だのと移動して行き、フランキーが見張りに向かう時抵抗するロビンを担ぎ上げて行くのを眺める。本気で嫌ならクラッチでもするのはわかっているから、俺は助けるつもりはねェぞ。
「フランキー!!私は怒って「俺も、手加減してやるつもりはねェ」」
そんな会話をしながら見張り室へと消える2人に、溜息が落ちる。風呂上がりに女部屋へ向かうと、俺達が豆合戦してる間にロビンと測量を終えていたらしいナミは、机代わりにしてる鏡台に齧り付いていた。
なんの為に、フランキーが女部屋に机を用意しなかったと思ってんだか。言ったところで仕方ねェ事なのは、わかっちゃいるけどな。
「ナミ」
「ゾロ?」
「昼間の事だが……」
俺が言い淀むと顔を上げたナミはクスクスと笑い、座るように示してきたのでベッドに腰掛けた。するとナミが歩み寄って来て、俺の頭を抱えるように抱き締めてくれる。
「私は何も気にしてないわ。測量の事で頭がいっぱいで、食欲無いなんて言った私が悪かったのよ。寧ろごめんなさい。……痛かったでしょ」
「ナミ……」
「ゾロ、痣にならないと良いけど……」
「ルフィはゴムで、フランキーは鉄だからな。仕方ねェ事だが、豆を投げても勝ち目はねェんだよな」
項垂れる俺にナミは笑うと、俺の腕にある豆の跡にそっと唇を寄せて来た。それにビクリと揺れる俺の身体に、気付かねェ筈も無いってのに、ナミは跡を1つ1つ丁寧に辿り、身体中にキスをして行く。
「ナミ……!!」
「傷付いた鬼が内側にいるみたいだから、少し癒してあげようかと思って」
「……俺が鬼か?」
「あら、違った?」
クスクスと妖艶に笑ったナミに、俺は簡単に白旗をあげる。どれ程凶悪な鬼でも、愛しい恋人相手に勝てる筈はねェ。
鬼は俺、福は腕の中。なら、福を貪って鬼が幸福になっても構わねェよなと、悪鬼だ鬼神だと呼ばれる笑みを浮かべて、俺の身体にキスを続ける女を組み敷いた。