「はぁ……はぁ……」
石壁に囲まれた暗く狭い一室に、私の呼吸音だけがやけに響く。
(あれからどれくらい時間が経ったの?ケラルトは、レメディオスは無事なのかしら?)
ヤルダバオトによって捕らえられた私は、自由に身動き出来ないよう一枚の板状の枷に両手と首を拘束されていた。乱暴に振り回された時に折れた足も、顔に負った怪我も、今は綺麗に治されている。
捕まったが最後、おぞましい拷問を受けるか、亜人の食事にされるか、悪魔達の慰み物にされるか。最初はそんな事を想像していたけれど、実際には意外な程に何もして来ない。あくまでも今のところは、だけれど。
(捕らえられてからおそらく数日経ったかどうかといったところかしら。窓も無い部屋だから昼夜の感覚もわからないけれど、まだ一週間は経っていない筈。何もせず考える時間を与えることで恐怖を煽って、私の震える姿を見て楽しむつもりなの?)
ヤルダバオトの配下という者の一人は、まるで人間のメイドのような格好をしていた。私の事を労るかのような態度で接し、拷問どころか飢えないようにと食事まで運んでくれる。最初は毒でも入っているのかと疑ったけれど、芳しい香りの誘惑に負けて口にしてみれば、食べたこともないような美味。毒もなかった。
ここ数日で分かったことは、少なくともあの仮面のメイド悪魔からは悪意が感じられない。もしかしたら、彼女は味方になってくれるんじゃないか、そんな微かな期待をしてしまう自分がいた。
ただ、安心は出来ない。悪魔とは希望を絶望に叩き落とす事を生業とする、そう教えられて来た。何か狙いがあるのかもしれない。聖王国に蔓延している他種族への差別思想に染められてはいないけれど、悪魔を信用することが危険な事だというのは、わかっているつもりだ。
ここへ来るのはメイド悪魔だけではない。他にも、鳥のような尖った仮面を着けた背の低い悪魔と、扇情的な格好をした女の悪魔が出入りする。そして魔皇ヤルダバオトも。ヤルダバオトは優しげな声をしているけれど、その声音とは裏腹にとても恐ろしくおぞましい事を平然とする。
鳥の仮面の悪魔が私の目の前で報告をしていた。その態度は私に聞かれても問題はないと言わんばかり、むしろ聞かせて反応を楽しんでいたようにさえ思える。
千切った腕を遠くにおいて治癒すると新しい腕が生えて、離れた場所にある腕は消える。では今度は千切った腕を自分で食べさせ、そのあと千切れた腕を治癒したら、腹に収まっている腕はどうなるのか、とか……。切り取った脚を別の個体の脚にくっ付けた状態で治癒魔法をかけたら、繋げた相手の脚となるのか。他にも異種族間で交配は可能なのか実験する予定だとか言っていた気がする。
あの魔皇は愉しげにそれらの報告を聞いていたけれど、私は途中で聞いていられなくなった。苦しめられる国の民を思うと、胸を抉られるような痛みと、激しい吐き気を催してしまった。
私は耐えきれなくなって嗚咽と共に吐き戻した。ヤルダバオトは嫌みなくらいに爽やかな笑みを浮かべながら「これは失礼、刺激が強すぎたようですね」と一言だけ言って、機嫌良さそうに去っていった。あれが悪魔の笑みなのかと実感を持って知ることになった。
(きっとレメディオスだったら、捕らえられたままでも激昂して襲いかかろうとして暴れていたんだろうな)
それに引き換え私は、あまりの恐ろしさに震えて、なにも言えなかった。抵抗も出来ない自分の無力さが悔しいと思いながらも、自分が酷い目に遭わされずにいることに、心の何処かで安堵してもいた。
ただ、肉体的な痛みは与えられないけれど、そうでないものは与えられる。流石に
「も、もうじきかしら……」
「失礼します」
溜まっているものをこらえながら待っていると、扉を開けて入ってきたのは仮面のメイド悪魔と、人間の少年。この建物の近くにいたのを偶々拾ってきたのだと聞かされた。このメイド悪魔は彼に対しては心から慈愛を持って接しているように見えた。彼女は他の悪魔とは明らかに感性が違う。でも……。
「排泄のお時間です」
「は、はい……」
後で知った事だけれど、何の役にも立たない少年を置く気はないと言われ、彼女が咄嗟に考え出したのは、少年に何か仕事を与える事だったらしい。そうしなければ彼はまた棄てられるか、あのおぞましい実験の被験者にされる運命だったと。
「では、失礼いたします」
そう言って少年が私の神官服のスリットから股間へと
(それが余計に恥ずかしいのよね……)
既に何度目かだけれど、やっぱり顔が熱くなってしまう。だって……。
チョロ、ジョロロロロロ~ッ
ジョボボボボ……
尿瓶にするということは、尿瓶を支える少年に、オシッコの音がモロに聞かれてしまうわけで……。しかもこの尿瓶、やけに音が響く。わざとそういう風に作られてるんじゃないかしら。
(ああっ聞かれてる。聞かれちゃってる……私の、オシッコの音がこんな近くで……)
これも衛生面を気遣っての事……それは理解できるけれど、これは恥ずかしい。でも漏らしてしまうのも恥ずかしい。確かに、黄色い水溜まりにまみれてしまうよりは、尊厳は守れる気はするけれど……。
決まった時間にしか来てはくれないので、催してしまっても時間までは我慢するしかない。当然ある程度貯まったオシッコは、勢いよく出る。音をたてないように少しずつ、なんて到底無理だった。
溜まったものを出す解放感と、それを年頃の男の子に見られているという羞恥に、何とも言えない気分にさせられる。そこで、ふと少年のある部分に目が留まる。
(あ……ふ、膨らんでる。ウソ、凄く……大きい)
しゃがんでいてもはっきりとわかるくらいに大きく膨らんだ彼の股間。私で、私のオシッコで興奮しているんだ。劣情を催して、オチンチンを硬くしているんだ。そう思うと、恥ずかしくてなんだか体の芯が熱くなる。
(……け、決して見られて興奮してるんじゃないっ違うんだからっ)
チョロロ……。
(うぅ、やっと止まった……)
「お、終わったわ……」
とても長く感じられた羞恥の時間がやっと終わった。もわりと微妙な熱と共に微かに香ってくる鼻をつく匂い。彼もこの匂いを嗅いでしまっているのかしら。でも怖くてそんなこと聞けない。「とても臭いです」なんて言われたら、恥ずかしくってもうお嫁に行けないわっ。……既に手遅れかも知れないけれど。
でも、今日はこれ以上に恥ずかしい思いをしなければならない。私は勇気を振り絞って、退室しようとするメイド悪魔を呼び止める。
「ぁ、あの……」
「どうされましたか?」
メイド悪魔が振り返る。今、言わなければ。恥ずかしくても、もうこれ以上は我慢の限界。
「ああ、もしや……」
私の様子を察してくれたメイド悪魔が、近付いて来てそっと耳打ちしてくれる。
「は、はぃ……」
私は赤面しながら、このメイド悪魔に感謝した。
「では準備して参りますので、少々お待ちください」
(も、もう後戻りできないわ……これから見られちゃうのね、彼に……)
優しいメイド悪魔の背中を見送りながら、私は少年に再び羞恥を晒す覚悟を決めるのだった。
こんな感じで、初めてR18を書いてみました。戯れに書いただけなので、続きはないかもです。