「はぁ……はぁ……」
何か……ヘンだわ。体が熱い……。下腹部の辺りが酷く疼いて熱を帯びている。頭の芯が痺れたような感覚で、思考がしっかりと定まらない。肌は自分でも驚く程敏感になっていて、呼吸するときの肋骨の上下で起こる衣擦れに、乳首が……。
(……乳首が……勃ってしまっているわ……。何もしていないのに、衣擦れだけでこんなに敏感に……。私はどうしてしまったの?)
ボンヤリとした思考のなかで原因を考えると、思い付くのは一つしかなかった。あの女悪魔が焚いて行ったお香。あれにはきっと催淫効果があるんだわ。でなければこんなに……。
(こんなに……発情した獣みたいに疼くなんて、あり得ない……事もないのかしら……?)
毎日の様に敏感なトコロを擦りあげて結婚への焦りと独り身の寂しさ慰めていたのが、捕えられて以来ずっとご無沙汰だった。実際にお香には催淫効果はなく、少し他事を考える余裕が出来た事で、溜まっていた欲求不満が急激に噴出しているだけかも知れない。
メイド悪魔達が色々と優しくしてくれているのに、言い掛かりをつけるようなことはよろしくないと自分を戒めようと思うけれど、さっきから疼く部分にばかり意識が向いてしまう。
(うぅ、どうしよう……擦りたい……でも)
もうすぐ彼が来るかもしれないのに、私が股間を濡らして発情してるだなんて気付かれたら、ふしだらな女だと思われてしまうわっ。
(でも、もし仮に、お香に催淫効果があって、彼まで発情してしまったら……?私が興奮して乳首を勃起させてるだなんて気付かれてしまったら?彼はガマン出来ずに熱く滾った逞しいおちんぽを取り出して……)
脳内で破廉恥な妄想を繰り広げていると、ドアをノックする音が。ドキンっと心臓が跳ね上がる。
(まずいわっ!どうにか気持ちを落ち着けないと……)
ドアを開けて入ってきたのはいつもの少年と、初めて見る燃えるような赤い髪の女性。仮面を着け、メイド服を着ている事から、彼女もメイド悪魔の一人かしらと推測を立てる。
彼女は恭しい淑女然とした態度でベータと名乗った。あの黒い髪のメイド悪魔──確か、アルファだったかしら──と同じく、とても上品で気品が感じられる所作。超一流のメイドといった雰囲気を醸している。魔皇を名乗るヤルダバオトは、亜人さえ圧倒する武力だけでなく、文化面においても人間の持つそれを凌駕する存在だと見せつけられている気がした。
「って、堅苦しいのはこの辺でおしまいっす。ユ……アルファと違ってお堅いのは苦手なんすよ。気楽な方がいいっすよね?カルカっち」
私の反応が硬かったのを察してか、急に砕けた態度に変わった。カルカっちって……まるで気心の知れた友人のようなフランクな接し方を悪魔にされるとは思っても居なかったので、思わずポカンとしてしまう。
「え、ええ……まぁ……」
面食らいながらも了承してしまう私。もしかしたら、彼女もアルファと同じように優しいのかしら。閉じ込められて陰鬱な気分になっていると思って、少しでも明るく接しようとしてくれているのかも知れない。でもそんな期待を抱いてしまうのは間違いだったかも知れない。
「クンクン……カルカっちー、結構匂っちゃってるっすよ?汗だけじゃなく他にもイロイロと……」
「ふぇっ?」
仮面の下ではニヤニヤといやらしい笑みを浮かべているのがわかってしまうほど、思いっきりからかうような声色でそう言い放たれた。
(くっ、いきなりそんな事言われるなんて思わなかったわっ。何が何処まで匂ってるの?汗以外って、もしかして、ムズムズしちゃってる事までバレてないでしょうね!?)
「いんや、バレバレっす!」
「え、えええっ、ウソ?」
考えていることが見抜かれていると思った私は、情けない顔を出して顔を上気させる。それを見て赤髪のメイド悪魔がうっひっひと笑い出す。ああ、このメイド悪魔は全部見抜いた上で私をからかって遊んでいるのね。
(きっとアルファのような性格の悪魔は珍しいのね。このベータとか言うメイド悪魔のような、意地悪な性格が普通なのよっ)
涙目でそんな事を思いながら、ふとケラルトの事を思い出した。あの娘もそうやって私の事を時々からかって来るのよね。彼女も私が困った顔をしているのを楽しんでいるフシがある。それが彼女なりの愛情表現だと理解しているし、私も本気で嫌がってはいないけれど。
姉のレメディオスも合わせて、私達三人はとても仲が良い。頭脳面ではからきし頼りにならないけど、裏表のないレメディオスは、腹黒い貴族達との渡り合いで心労の絶えない私の心のオアシスになっているし、剣の実力は本当に凄い。
妹のケラルトは神官としても素晴らしい才能の持ち主だし、頭の回転が速くて、色々と相談に乗ってもらえる。ちょっと腹黒いところはあるけど、レメディオスもそんなケラルトを大事にしていて、天は妹に三物を与えたといつも自慢気にしている。
二人とも頼りになる部下であると同時に、大切な友人。ちょっと一緒に居すぎて最近レズ疑惑が噂されているのが気になるけど……。ケラルトは気にしなくていいって言ってくれるけれど、やっぱり婚期は逃したくないのよね……。
(うう、レメディオスは無事なのかしら……?)
ケラルトの事は聞いたけれど、彼女の事はまだ分からない。聞くのが怖い気もするし、本当の事を教えてくれるとも限らない。聞くとしても、その相手はアルファであって目の前でケタケタと笑っているベータではないけれど。
「それで……どんなご用件かしら?」
私は少し怒った口調で彼女が此処へ来た目的を訊ねる。
「あ、怒っちゃったっすか?そんな怒っちゃイヤっすよー?せっかくカルカっちの為に来たんスからー」
(信用しては駄目……絶対何かあるに違いないわっ)
「ホラ、ちょっと前に湯浴みさせたいって話があったじゃないっすか?」
警戒をしていると、人差し指を立ててメイド悪魔が言う。それは期待していなかった言葉だった。確かにあの女悪魔も言っていたし、色々と気になり出してはいたけれど、まさか囚われの身にあって、湯浴みを許可されるだなんて……。
「結論から言うと湯浴みはダメだったんスよ」
「え」
何よ、期待させておいて結局駄目なんじゃない……。恨めしげな視線を向けると、彼女は両手を見せてヒラヒラと振る。
「まぁまぁ。話は最後まで聞くっす。湯浴みは駄目でも、その代わり
拭身、つまり濡らした手拭いで体を拭くということ。私は安堵した。正直、このままどんどん不潔になってしまって悪臭を放つようになるのは結婚前の女として如何なものかという不安があった。だって排泄のお世話とはいえ、殿方がいるんだもの。そういうところには多少気を遣いたいじゃない。そこまで考えて、彼が立っている理由に思い至る。
「もしかして……それも彼が?」
「勿論っす!」
(ま、まずいわっ!)
まずい……本当にまずい。何を考えているの、このメイド悪魔?親指を立てる仕草にはどんな意味があるのかわからないけれど、イヤな予感しかしないわよっ!?だいたい、体を拭いて貰うということは、身体中触られる事と同義で、それに服も脱がないと……。
(彼の前で、生まれたままの姿を晒せっていうのっ!?しかも……しかも今は……)
今私は色々と敏感になっているのよ?何もしていなくても乳首がぼっ、勃起しちゃう位なのにっ、自分で触ってもすっごく感じちゃいそうなのにっ……もし、もし彼に触れられたら、どうなってしまうか……。
「あの、自分で……」
「そりゃダメっす。拘束を解くわけにはいかないっすから。大人しく拭かれるっすよ」
(くっ、やっぱり……)
自分で拭くことを願い出ようとしたけれど、やっぱりそれは許してくれない。もう完全にまな板の鯉だわ。彼に身体中撫で回されて……平静でいられるかしら?
「服も汗を吸ってるっすよね?取り替えちゃうっす」
「えっ?」
(ま、待って、まだ心の準備がっ)
「あの、ベータ様っ」
少年が声を発し、私の神官服に掛けたメイド悪魔の手が止まる。
「私は、その、目隠しでも…………した方が……よろしいのでは、と……」
目を泳がせて顔を真っ赤にしている少年にベータが歩み寄る。またしても仮面の下にいやらしい表情を浮かべているに違いない。
「なぁにマジメぶってんスかー、ホントは裸を見たい癖に~」
「そ、そのようなことは……っ」
(お止めなさいよ……っ!あなたと違って彼は純真なのよっ!)
「はぅ!?」
「ホラホラ、
健気な彼の気遣いをからかうだなんて、と内心腹が立っていたけれど、確かに彼の股間はモッコリと膨らんでいて、アレが硬くなっているのがハッキリと分かる。ベータに股間を撫で上げられ、腰を引いて声にならない声をあげる少年。「こここ、これはその……」とか言いながら首まで真っ赤に染める彼を見て、ちょっとだけカワイイと思ってしまった。そう言えば、頭と下半身は別の生き物だと言う人もいたわ。彼はそういうタイプなのかしらね。
(でも、やっぱり見られるのは恥ずかしいわ。メイド悪魔には排泄の世話までされておいて何を今更、とか思われるかもしれないけれど……やっぱり裸を見られることには抵抗があるもの)
私からも彼に目隠しをしてもらえるようお願いすると、ベータは案外アッサリと少年に手拭いで目隠しを施してくれた。何か企んでいるような気もしないではないけれど……信用していいのかしら……?
いよいよ服を全部剥ぎ取られ、少年の前で全裸になる私。
(あ、何だか……)
彼には見えてはいないとはいえ、異性の前で糸一つ着いていない姿を晒す事に、妙な興奮を覚えている自分に気付く。もしいま彼の目隠しが外れてしまったら、胸も、最近手入れできずに伸びてきているハズのアソコの毛まで、全部見られてしまう。だというのに……そんな想像をしただけでアソコがジンジンして……。
(そんな、私は彼に見られたがっているというの……?ち、違う……!私はそんな変態なんかじゃ……っ。きっと、きっと全部お香のせいなんだからっ!だから……だから、さっきから彼の股間にばかり目がいってしまうのも……)
彼の股間は痛そうなくらいパンパンに膨らんでいた。彼には見えていないのをいいことに、私はそれをじっと凝視してしまう。
(よく見るとヒクヒクしているのね。ああ、なんだか凄く……ヒワイだわ……)
「おんやぁ?物欲しそうな顔して、何処を見つめてるっすか?」
「へ!?いいえ、な、何も……」
「うーん……気のせいっすかねぇ?」
(このメイド悪魔、表面の態度には見せないようにしているけれど、底の知れない悪意を感じるわ……。……あら?そういえば……)
悪魔の人を食ったような態度に不安感を抱きつつ、私はふと当たり前の疑問が浮かんできた。何も見えていない彼がどうやって私の身体を拭くのかしら?手探りでなんて、あまりにも不確かな気がするけれど……。
「じゃあ始めるっすよー。最初は私が誘導してあげるっす」
(な、なるほど。彼女が目の代わりになって誘導するのね……)
まだ少年に直接見られるよりは、同姓の彼女の方がマシだと安心した。ところが……。
「ひゃぁんっ!」
いきなり胸を鷲掴みにされて、私は思わず声を上げる。メイド悪魔の誘導は意地悪にも私の胸に向かっていたのだった。
「あちゃー、間違えたっす。メンゴ。それにしても凄い声っすね。もしかして感じちゃってるんすか?」
「ち、違っ!いきなりだったから驚いただけでっ」
(ウソよ、絶対わざとやったくせにっ!お陰でヘンな声が出ちゃったじゃない……もうっ恥ずかしい)
触れられただけで、あんな声が……。でも、まるで電流が走ったかのように、凄く、感じて……。
「じゃあ気を取り直して顔からいくっす!」
「……!」
そうして拭身がようやくまともに始まった。顔に触れる手拭いはしっとりしていて、暖かくて、力加減も強すぎず……。これだけでも癒される気がする。余計な身体の強ばりが抜けた気がした。
「よーし、じゃあ次は下の方もいくっす」
(あ……今度は声が出ないように気を付けなくちゃ)
来るとわかっていれば、心の準備は出来るはず。さっきのように声をあげては、感じていると気づかれてしまう。触られるだけで感じていると彼に気付かれるのは、ふしだらな女だと思われるのはとても恥ずかしい事のように思えた。
「んっ、ぅ……」
(ダメ……肩に触れただけで、我慢していても声がっ)
「ふ、んぅ……」
呼吸を止めて必死で堪えるけれど、どうしても少しだけ声が出てしまう。その間にも段々と移動し、首、胸元、そして敏感な……。
「んぅううっ♡」
(ダメッ!乳首ダメェ♡感じすぎちゃうぅっ♡)
擦られる度にビクビクと身体を震わせながら、声をあげないようにひたすら我慢する。彼は心配そうな表情を浮かべながらも、真剣に、丁寧にゆっくりと手を動かし続ける。私は早く終わることを願いながら、息を止めて耐え続けようとするけれど、あっという間に限界が……。
(もう、ダメ……イッ、イクッ、イッちゃう~♡)
「~~~~~ッ♡」
とうとう私は胸を拭かれているだけで絶頂を迎えてしまった。丁度同じタイミングで胸を拭き終わってくれたお陰で、はしたない声だけは出さずに済んだのが救いだった。膝がガクガク震えてしまっているけれど、きっと彼にはバレていないハズ……。
「っふぅぅ~」
大きく安堵の息を吐き出した私は、次なる刺激に耐えるべく、気持ちを入れ直そうとする。
「……次行って大丈夫っすか?」
「だっ、大丈夫……少し、くすぐったいだけで……」
このメイド悪魔に余計な事を察してほしくないので、精一杯強がって見せる。その強がりに気付いているのかいないのか、今度は背中にしようと少年に指示を出した。さすがに背中とおしりの位置は大きく違うので、前の時みたいに鷲掴みにされるなんて事はないはず……。
「ひぅ…っ」
油断していたつもりはないのに、背中をなぞられた途端、ぞわぞわしたものが一気に背中を駆け上がってくるような感じが……。
(ど、どうして?背中なんてそんな……)
「うっ?…ひぃっ?…あ、ああっ」
ダメだわ、声を我慢できないっ。背中がこんなに敏感なところだったなんて……。
「良い声が出るっすねー。そんなにキモチイっすか?」
「ち、がうっ……くすぐったいだけで、そんな……私は……」
「そうっすか?じゃあ、もうちょっとだけ強めに擦っても大丈夫っすよ」
「は、はい……」
指示を出された少年は先程までより強く拭き始める。お肌には良くないかもしれないけれど、この方が確かにヘンな感じはしない。このまま無事に背中は終わりそうね。
「あ、忘れてたっす。そのまま脇もやっちゃうっすよー」
「ひゃわああ!?」
脇をなぞられ、思わず叫びに近い大きな声が出てしまってから、脇も凄く敏感になっている事に気づいた。純粋にくすぐったいだけなのだけれど、凄く恥ずかしい。
(こんなところを触られるなんて、子供の頃以来だから忘れていたわ……)
「ごめんなさい、びっくりしてしまって……声が……」
顔を熱くしながら彼に謝罪すると、自分が至らないせいですと返された。ああ、なんて健気なの?私は彼の謙虚で誠実な態度に心惹かれ始めているのかもしれない。
(何の下心もなく、とは言えないかもしれないけれど、私にここまで誠実に真面目に接しようとしてくれた男性は他にいたかしら……?)
なんとか脇も拭き終わったところで、手拭いをメイド悪魔が受け取り瓶に溜めたお湯で洗う。私も少し上半身がさっぱりした気がしている。身体の芯がジンジンと疼くのは相変わらずだけれど、汚れを落とした爽快感が今はまさっている。
少し冷静な思考が出来るようになった頭で、彼に対する感謝を抱く。ここまでしてくれている彼なら、もしかして私の事を一人の女として受け入れてくれるかも?そんな淡い期待を抱いてしまいそうになる。でも、こんな仕事をさせているのに、流石にそんな風には見てもらえるわけがない、もう一方で冷静な私がそう囁きかけた。
「それにしても、正直ここまで頑張るとは思わなかったっすよ。すぐに音を上げると思ってたっすけど、案外やるもんすね」
「……これくらいしか今の私には出来ることがありませんから」
(そんなに卑屈にならなくてもいいんじゃないかしら。とてもよく頑張ってくれているもの)
よくよく思い返してみれば、まだ若いのによく鍛えられた体つきをしている。見覚えはないと思うのだけれど、もしかしたら聖騎士団に所属、或いは志望していたのかも知れないわね。
「いやー、これも愛の力っすかねぇ、わざわざこんな役割を志願してまで大事な想い人の側に居ようだなんて、泣かせる話っすよ」
(あ、愛!?想い人…?それって…もしかして私の事……?ど、どうしましょう?)
「あ、愛などと、私が抱くには過ぎたものです。身分違いも甚だしい……ただお仕えすることが出来るだけで、私は……」
ああ、そんなところも奥ゆかしいのね。もし彼に求愛されたら受け入れても……。
「ラナー様のためならば、喜んで命も投げ出す覚悟です」
(えっ……ラナー様?どこかで聞いたような……あっ、確か、リ・エスティーゼ王国の第三王女だったかしら。この少年は、そのラナー王女に仕えている?彼女もヤルダバオトに捕まって……?)
ヤルダバオトは確か王国では冒険者達によって追い払われたと聞いていたけど、情報は間違っていたのかしら?もし改めて王国に攻め入り、そこまで勢力を拡大しているのだとしたら、聖王国はもしかしたら既に……。
悪い想像が巡り、思考の海に落ち駆けていた時、突然お尻を撫でられる感触が。
「あっあぁんっ♡…あ!?」
「んんんん?カルカっちぃ……今の声はなんすかね~?なーんか気持ち良さげな喘ぎ声が聴こえた気がするんすけど、気のせいっすかね~?」
いやらしい声でからかってくるベータの言葉に、私は羞恥で見る間に顔が熱くなっていくのを感じ、声にならない声を洩らす。
「~~~~~ッ」
恥辱にまみれた拭身の時間はこれからが本当の始まりだった。
少年の正体はなんと……。
彼は顔に似合わず意外と大きいんじゃないか、という勝手な想像で描いています。持ち前の忠誠心で色に靡かない、と頭では思っていても下半身は言うこと利かん棒です。色々と王女様に騙されているだけですはい。