アルファが静かに退室して行く。
結局私は何も言い出せないまま、彼女の背を見送った。去り際の彼女から感じた視線には、汚れてしまった物に向ける憐れみとも、忌避のようにも受け取れるものを感じた。
彼が罰を受けたのは私にも責任があるはず。なのに、私だけ何の咎めも受けずにいる事が心苦しい。彼が乱暴を働いたと伝えられたラナー王女はどんな思いでそれを聞いたのかしら……。
「入るっすよー」
じわじわと湧いてくる罪悪感に身を焦がしていると、メイド悪魔のベータが軽薄な態度で入ってきた。私は眉を顰めて彼女を睨む。
「どうしたっすか? そんなコワイ顔して?」
「貴女があんなことをするから……」
まるで悪びれもしない態度に、思わず非難の言葉が口をついて出る。彼が罰としてどんな目に遭わされたかは知らないけれど、そもそもの元凶は目の前の女悪魔にあるのだから。
「あー、クライムっちの事っすね? でも、アレはほとんどカルカっちのせいっすよ? 見たいって言うからサービスしたんじゃないっすかぁ」
「うっ!? そ、それは……!」
あの逞しくそそり立った肉の棒を思い出してしまい、顔が熱くなる。あの時確かに私はこの女悪魔の誘惑にのせられて、加担してしまったのだったわ。
「いやー、あのあと大変だったんすよ? 感謝してほしいくらいっす。これは一個〝貸し〟っすね」
「え…?」
感謝? ベータの言葉に、私は背中に悍気が走る気がした。悪魔に借りを作るだなんて、後でどの様な要求をされるか……。
「カルカっち、
「え……」
「クライムっちがすぐに連れて行かれて、カルカっちの身体に着いた白いドロドロも、それ以外の汁も、ぜーんぶ私が一人で処理するハメになったんすよ? そりゃもう大変だったんすから」
覚えている。いきり立つ剛直の先端から勢いよく噴射された、熱く白濁した迸り。独特の臭気が生々しく甦ってくるようにさえ錯覚する。あの脳が芯から痺れるような、えも云われぬ倒錯した快楽……。
(いやだわ、はしたない……)
じん、と痺れるような疼きが下腹部に走り、熱くなった。私は慌てて頭を振る。
「おんやぁ? 思い出して身体が疼きだしたっすか? カルカっちってば実は相当な
「ち、違……っ!」
人並みには肉欲がある事は自覚してはいるけれど、淫乱だなんて……。そう思いたい。この女悪魔は一体何処まで見抜いているというの? まるで内心の密かな欲情まで見透かされているような気さえしてしまう。
「今更隠さなくたっていいっすよぉ! ガチ勃起チンポを一緒に拝んだ仲じゃないっすか」
「あぅ……」
共犯。私があの時、首を縦に降振ってしまった事が、ベータと共謀したという確たる証拠。私が首を横に振っていれば、結果は違っていたのかしら……。
「ま、彼ならカルカっちの不利になるような事は言わないっすよ。チンポとおんなじくらい性格も硬い男っす。ちょっと誘惑してみても、かたくなに誘いに乗ってこなかったんすよねー。あんだけの立派なチンポぶら下げといて、まだ童貞なんすよ? 信じられるっすか? ホント、おカタいのはチンポだけにして欲しいっす」
(ち、チンポチンポって……)
卑猥な言葉をそう何度も連呼しないでっ。思い出してしまうじゃない……。
あの硬く反り上がった怒張。太くて、先っぽが凶悪にくびれていて……あんなのに貫かれたらと思うと……顔が、身体がどんどん熱くなってくる。
(あああダメだわ……もう鮮明に思い出して……)
「入るわよ」
隠語を連発するベータを尻目に股間を疼かせていると、今度はあの黒い仮面の女悪魔が入ってきた。
会いたくはない相手の登場に、私は微かに眉をしかめそうになる。そもそもこの悪魔がおかしな香を焚いたのにはどんな意図があったのかしら。
「せっかく香を焚いたのに、災難だったわね……。でも、悪くない香りだったでしょう?」
「え、ええ……」
相変わらず露出が多い扇情的な装いで、能天気な事を宣う女悪魔。ここは下手に反抗せず、話を合わせておいた方が良いのかしら。
(前にも湯浴みがどうとか言っていたし、変な所を気にするのよね。ヤルダバオトの下に付いているはずだけれど、この女悪魔がどういう考えをしているのか、さっぱり分からないわ……ケラルトならそういうのは得意そうなのだけれど……)
今は彼女の安否もわからない。ジワリと不安がわき出始めた時、例の話題に触れられる。
「
犬。彼の事を犬と呼んだ女悪魔は、さも残念そうな声音で言葉を並べてはいるけれど、心から残念がってはいないような、そんな気がする。まるで表情は泣きながら、声は笑っているようなちぐはぐな違和感を感じる。
(この悪魔も、あのアルファとはどこか違う。彼女だけは人間と同じように慈悲の心を持ち合わせている。けれどベータは、人間を玩具か何かのようにしか思っていないわ)
目の前の彼女はどうなのかしら。湯浴みを進言してくれたり、香を焚いたり、一見私を気遣ってくれているような行動に見えるけれど、その真意は窺い知れない。
(仮面の下に悍ましい悪意が隠されているような気がするのは、私の思い過ごしだといいのだけど……)
「ところで、体の調子はどうかしら? どこか違和感はない?」
「え? ええ……特に不調はありません」
私の体調を気遣うような言葉に、私は戸惑いを感じながらも努めて平静を保ち、答えた。
(何だか
女悪魔の立ち振舞いは格好の割には優雅さを感じさせるものだけれど、仮面越しに感じる視線には、猛獣に獲物を品定めされているような気味の悪さを感じる。
「ところで、正直に答えて欲しいのだけれど……」
女悪魔の声色が変わる。先程までは世間話のような気軽さだったのが、突然何かを迫るような重い空気を醸し始めた。
「ご報告なら既に────」
「少し黙りなさい、ベータ」
「ひぅ……!」
たった一言で、あのベータが萎縮している。
「あ……」
(この悪魔は全部知っているんだわ……!)
私は直感した。ここで起きた事の顛末も、私の心の内にある、欲望も罪悪感も怯えも、彼女には全て見透かされている。一切の嘘も誤魔化しも通じない。
そう思わせられる凄みを、この悪魔からは感じた。
(……別格だわ。この悪魔は、アルファともベータとも違う。
これ程の大悪魔が、あのヤルダバオトの下に付いているという、悪夢のような事実に絶望感が押し寄せる。
(こんなことって……)
「わ、私は……!」
「あら、怯えなくて良いのよ。私は貴女の意思を尊重したいの。……あの少年を助けたいかしら?」
唇を震わせた私を見て、彼女はまるで女神を思わせるような、穏やかな口調で訊いてきた。心の柔らかい所を掴まれたような不安感が一瞬襲い、そのすぐあとには、全てを委ねてしまいたくなるような、不思議な安心感に包まれる。
(悪魔は人身掌握が得意だと言うけれど、こんな少ない所作で私が翻弄されるだなんて……!)
悪魔の甘言に耳を傾けて良いものではないというのは誰もが知る常識。けれど、彼の事を本当に助けてくれるかもしれない。きっと、それが出来るだけの裁量権が彼女にはある。
「助け、たい……です」
私は脊髄が凍り付き身が震えるような恐れを感じながらも、勇気を振り絞って声を絞り出した。
(彼への責めは私にも責任があるのだから、例え悪魔の企みに乗る事になったとしても……)
「そう、わかったわ。今回、あの少年がしたことについては不問にしましょう」
「……えっ?」
(あっさりと受け入れられた? いえ、違うわ……!)
仮面の下から感じる気配は、慈愛なんかでは決してないわ。何かを企んでいる。悪魔である以上、ただでこちらの希望を叶える気なんてない事は明白。
(私の希望を叶えるような事を提示すれば、私が「要求を断る」という選択肢を選びにくい。こうやって後から無茶な要求をしても飲ませやすくするのね。けれど、悪魔は対価さえ払えば、交わした契約は必ず守るというわ。その対価は魂とも、人生そのものだとも言われるけれど。それでも……)
それでも、今更引くわけにはいかない。この女悪魔が約束を守るかどうかはわからないけれど、もし要求を断れば、私は助けられる命を私は自ら見捨てる事になる。
「代わりに私は何を要求されるのですか?」
怖くて聞けないような事を、私はあえて自分から訊ねた。
「あら、察しが良いのね。至極簡単なお願いよ、そう怖がることはないわ」
そんなことを悪魔に言われると、余計に不安になるのだけれど……。
「私は今、ある研究を計画しているの」
「……それを、手伝えと?」
一体どんな恐ろしい事を研究しているのか、聞く気にはとてもなれない。悪魔の研究なんて、きっと酷く冒涜的な事に違いないわ。
「ええ、貴女には研究の被験者になってもらうわ」
「被験者……」
目を背けたくなるような残酷な実験の道具として使われる事を想像してしまい、鳩尾の辺りから旋毛の先まで、怖気と焦燥感が駆け抜ける。
「心配要ないわ。私は弱者を甚振って悦ぶ趣味は持ち合わせていないの。不快なゴミを叩き潰せばスッキリするけれど、その程度の事よ」
目の前の女悪魔は自分が良心的だとアピールしているつもりかも知れないけれど、機嫌を損ねれば待っているのはおぞましき死ということ。圧倒的強者を前に抵抗する力も持たない私達人間にとって、いずれも恐ろしい事に変わりはないわ。
「私は……な、何を、すれば……」
私は声が震えるのを必死でこらえながら、精一杯の勇気を出して訊ねる。
「うふっ、そう言ってくれると思っていたわ。今日はまず状態の確認ね。アレを用意してちょうだい」
「はいっす!」
「成功しているといいのだけれど……」
ベータが何かを取りに退室していくと、女悪魔はお互いの身体が触れ合いそうな距離にまで近付いてきた。そして私の神官服の上から、腹部に触れた。
「なっ、何を!?」
(身体に触れてどうするつもり? まさか、お腹の皮を引き裂くつもりかしら? それとも……)
私が戦慄に身を震わせていると、女悪魔はすべらかな手つきで徐々に神官服のスリットへと指を這わせていく。
「そ、こは……っ」
太股の付け根辺りをゆっくりと撫で回される頃には、下腹部にじんわりと熱が灯り初め、触れるか触れないかの絶妙なタッチが、徐々に身体の芯まで甘く痺れさせる。
(な、何なの……? こんな風に私をあ……愛撫して、一体どうしようというの?)
女悪魔の目的もわからず、ただされるがままに身体を撫でられ続けると、徐々に身体が火照ってきてしまい、奥の方から溢れ出た愛液がジワリと秘裂に潤いを持たせる。
(こ、これ以上、は…………こ、声が……)
「うーん……?」
女悪魔が少し不審そうな声を上げる。けれど、私は声を我慢しているだけで、身体は十分に反応してしまっていた。更に奥へと手を滑り入れられてしまえば、はしたなく濡れそぼった下品な内股に気付かれてしまう。けれど、どこかでそれに期待してしまう自分も居る事を自覚していた。
「……っ!?」
急激に股間の異物感が顕著になってきて、私は妙な胸騒ぎを覚える。
「うふっ、どうやら移植は成功かしら?」
「……え?」
(い、移植? 移植と言ったの?)
不穏な言葉に不安が拡がり、冷や汗を流し始める私を見て、女悪魔はベータに指示を出す。
「い、一体……? 先刻から感じている異物感と何か関係が……?」
私は震える声で訊ねると、女悪魔は嬉しそうに応える。
「くふ、まずは自分の目で確かめてみることね」
「ん……っ」
そうは言われても、首を拘束している板状の枷が邪魔で、下の方は死角で見えない。
「くっ」
出来るだけ首を伸ばそうとしたり、腰を反らせて腹部を突き出してみたりと、自分の腹部を見るため色々と苦心しても、肝心な部分は見えない。
(何か、変に窮屈な感じがするけれど……これは一体?)
腰をグイグイと前に押し出しながら、感じたことの無いような不思議な感触を確かめていると、程無くベータが戻ってきた。
「失礼します……え、なんてポーズしてるっすか!?」
(そ、そんなこと言われても……)
訊ねてくるベータの態度が私の羞恥を煽る。確かに、淑女ががに股で腰を前に突き出すなんて品が無いけれど……。
「えっと、一応姿見を持ってきたっすけど……使うっすか?」
「……はぃ」
初めから彼女の戻りを待っていれば良かったのでは。そんな考えが浮かび、私は顔を熱くしながら答えた。女悪魔からも呆れたような視線を送ってきている事に今更気付く。
(きっと姿見で見ろという意味だったんだわ。私が拙速にもあんなポーズまでして自力で見ようとするなんて思わなかったのね。恥ずかしい……。でもこれでやっと……)
違和感の正体を確かめられる。緊張と不安が入り交じり、鼓動がやけにハッキリと感じられる。
(何だか異物感のする辺りも、圧迫された身体の一部のように、脈動しているような……?)
「そんじゃ、いくっすよ♪」
中間を軸にして縦に回転した大きな姿見が少しずつ、拘束具に捕らわれた私の姿を映し始める。
最初に鏡越しに映ったのは顔。久し振りに見た自分の顔は、思っていたより健康そうに見える。そして気になっていた下腹部の辺りへと視線を……。
(……何か、不自然に下腹部の辺りが膨らんでいるわね。いいえ、膨らんでいるというより、内側から何かが突き出ているわ。……最近どこかで、似たような膨らみを見たような?)
「あ……っ!」
感じていた奇妙な異物感、女悪魔が言った「移植」という言葉。そして、脳裡に鮮烈に甦った
「ま、さか……、まさか、そんな……!」
(嘘でしょ?どうして……こんなことって)
「くふふ、ようやく察しが付いたところで……答え合わせよ!」
「あっ……ああ……あああっ!」
女悪魔が勢いよく神官服を捲り上げると、その下から顔を覗かせたのは────。
「第一段階は成功のようね」
「ウッヒッヒ。どうっすか? いまどんな気分っすか?」
女悪魔は嬉しそうに呟き、ベータが愉しげに訊いてくるも、私はそれに反応する事が出来ない。
最悪の想像通りの光景に戦慄する私の下腹部からは、力強く脈動する
性王女様は棍棒を手に入れました。
棍棒を装備した性王女様。最初の標的は誰が良いでしょうか?
-
アルファ(ユリ)
-
ベータ(ルプスレギナ)
-
黒い仮面の女悪魔(アルベド)
-
ケラルト・カストディオ
-
ラナー王女