俺の名前は平玄斗(たいら・くろと)。
明日、大学受験に臨む予定の学生だ。
最後の詰め込みと思って参考書握って頑張ってたら見事に寝落ち。
そして今、俺は真っ白な世界にいる。
白い服を着て白い杖を持って白い髭のお爺さんが目の前にいた。
なんか後光が眩しくて神々しい。
「あんた誰だ?神様か何かか?」
<そうとも。我は神。チート転生を司る神だ>
「チート転生だって?・・・司ってるものが大分おかしいような気がするが」
<我はチート転生小説を望む多くの書き手・読み手の妄念から産まれた神じゃ>
「その神様が俺に何のようだ?っていや待て。そもそも神って人の妄念から生まれるものなのか?」
<知らんかったのか?神も悪魔も仏も全て、所詮は人が生み出した想像物に過ぎん>
身も蓋もねーな。
「で、そのチート転生の神が俺に何のようだ?その名前のとおり俺に転生してくれってお願いしに来たのか?」
<話が早くて助かる。汝にはとある未完の作品をベースとした世界への転生をお願いしたい>
「未完の作品?」
<ああ。世には作者の都合で未完のまま終わってしまった作品が星の数ほどあるじゃろう。ネット小説や同人小説程度であれば見ている者の数も少なくまだよい。世界への影響も微小じゃ。しかし何千万部と売れている商業作品はまずいのじゃ。それも作者死亡とか納得できる理由もなく、なぜか連載が止まってしまっているような人気作品は特にな。続きを望む者の数が多過ぎる。それがいかん>
「どういうことだ?」
<想像することで神という概念を作り出されると同様に、人は世界をも創造しているのだ。書き手が作品を作り上げる時、その作品と瓜二つの小世界が現実世界に連なるように生み出される。現実世界が木の幹とすれば枝葉のような関係じゃの。その枝葉の小世界には養分として読み手の情念が注がれ、さらに書き手が書き続けることで世界がより育って行く。作品が完結したとき、その作品の世界も完成を迎え、現実世界から切り離されて独り立ちするのじゃ。だが、ある程度世界が育ってしまった状態で作品が停滞したとき。読み手の情念は枝葉側に注がれることなく、幹側に溜まり続けることになる。それが人気作品だった場合、積もっていく想いの量はとても巨大なものとなる。現実世界にまで悪影響を及ぼしてしまうほどにの>
「えーと、悪影響って、世界が滅びるとか?」
<いや、世界は滅びんが・・・景気が悪くなる>
「は?」
<だから景気が悪くなるのじゃよ>
「・・・それは大変だな」
<不景気を甘く見てはいかんぞ。不景気が続くと戦争が始まるからの。歴史が証明しておる>
「へー」
<戦争が始まると人が多く死ぬ。優れた書き手になる可能性がある者たちが大勢死ぬのじゃ。それに創作活動が著しく抑制されるからの。そうなるともうワシのような弱小の神は力を失って消えるしかなくなるんじゃよ>
そうか。
日本の景気がずっと悪かったのって、未完の作品が多かったからなのか。
へー、あー、そう・・・。
「で、もしここで断れば?」
<汝が仮に明日の受験に成功して希望の大学に受かっても、卒業する頃には就職氷河期に逆戻りじゃな>
「なんだよそれ!他に適任者はいないのかよ!?」
<残念ながらおらぬ。目的の原作世界への転生については、星の巡りにより汝のみがその資格を持つ>
「くそっ!転生ってことは死ぬんだろ?死んだら就職も何もねーだろ!童貞のまま死にたくねーよ!あと家族も泣かせたくねー!」
<いや、死ぬ必要は無いぞ。家族とも別れる必要も無いし>
「え?」
<我と今話している汝の人格のみ、つまり汝の魂の一部のみを切り取って転生させるだけじゃ。汝の本体はこれまでどおり現実世界で暮らし続けることになるの>
「は?」
<つまり、汝は現実世界での自分の就職の手助けをするためにも、ここは是非とも転生すべきなんじゃ>
「・・・それならいいかな。やっぱちゃんとしたとこに就職して両親喜ばせてーし」
<うむ。転生してくれれば、現実世界で第一希望の一流大学に合格出来て、在学中に起業して成功して、一生金に困らない生活が出来るよう取りはからってやるぞ。ついでに超美人で器量良しで且つセックスの相性も抜群な恋人との劇的な出会いも用意してやろう。もちろん処女の色白痩身巨乳じゃっ>
「おお!す、素晴らしい!」
<ふむ。では行ってくれるか>
「うーん、行くのはいいんだけどさ。行って何をすればいいんだ?その作品のラスボスとか倒すのか?」
<それが一番いいんじゃがなー。この作品、まだラスボス出て来てないようなのじゃよ。だからの。この作品はこれで完結!と読者が納得するようなところまで話を進めてくれればええ。極端な話、転生した瞬間にその世界の人類皆殺し、なんていうバッドエンドでもかまわん。正直に言うとなー。この原作、なかなか終わらんのでいい加減バッサリ切り捨てたいんじゃ。だから汝に与えるチートは限度いっぱいにする予定じゃよ>
「そ、そんなんでいいのかよ?じゃ、じゃあさ。ゴクリ。お、お決まりのハーレムなんか作っちゃっても」
<おう。登場してくる美少女や美女をどんどん手込めにしていけばよかろう。ハーレムエンドは読み手が一番に求める結末だからのー。逆にこちらがお願いしたいくらいじゃわい>
「で、でもよ。そんなことしたって、結局原作の方は未完成のままだろ。意味無くね?」
<安心せい。これから汝が新たな物語を綴っていくことで、原作には汝の物語のベースだったもの、という新たな価値が付与される。それによって続きを求める読み手の欲求が大幅に削減されることになるのじゃよ。もう誰も続きを求めなくなる、というわけじゃ>
「へー、そんなもんか。じゃあさ、実際にどんなチートが貰えるのさ?どれくらいの強さになるのよ?」
<うむ、幹という上位世界から枝という下位世界に移るわけだからの。その世界で一番にレベルの高い神さえも汝の前では遥かに格下になる。強さの面では月とすっぽんくらいの差になるかの。おおそうじゃった。汝、どんな形で転生したい?>
「どんなって、どんなのがあるんだ?」
<いろいろある。原作主人公の人格を乗っ取るケース。この場合、体は原作主人公のものになってしまうが、原作主人公が築き上げて来た他のキャラたちとの関係性は維持される。次に汝自身が原作主人公のポジションにすり替わって納まるケース。体は汝のままだが他のキャラたちとは赤の他人状態じゃ。一から関係性を築いていく必要がある。そして原作主人公が存在している状態で汝も登場するケース。これはヘイト寝取り路線まっしぐらじゃの>
「うーん、他人の体になるってぞっとしないな。あと主人公が出てくるのも邪魔だわ。どうせ主人公補正とかでなかなか死んでくれないんだろ」
<そうか。では汝自身が原作主人公のポジションに納まるパタンじゃな。次にどんなチート能力を与えるかじゃが。そうじゃの。いちいち欲しい力を聞くのも面倒じゃな。転生するときに汝の深層心理が望む力を読み取って全部付与してやることにしよう。あと転生先で全てのステータスを見ることが出来るようにしてやるわい。自分のステータス画面を見て与えられたチート能力を確認すればよかろう>
「お、おう」
<他に何か質問はあるかの?>
「エンディング迎えて世界を独り立ちさせた後、俺はその世界に残ることになるんだろう?その後、何すればいいんだ?」
<与えられたチート力を使って思う存分満喫すればええ。実際のところ不老不死に近くなるからの。ほとんど神と一緒じゃ。世界を滅ぼすも良し、世界を繁栄させるも良し。全ての美女を自分のものにするも良し。女という女を孕ませまくるも良し。おおそうじゃった。転生先は人類より強いモンスターがたんまりいる世界じゃった。人類を繁栄させたいと思ったら、必然的にチートな汝の力を受け継ぐ子孫の数を増やしていかなければならんじゃろうなー。リアルシムワールドというわけじゃ。ほっほっほっ。まあいずれ飽きて死にたくなるじゃろうけど、そのときは自殺すればいいんちゃう?>
「・・・あっけなく言ってくれるぜ」
<他には?>
「ほんとに現実世界に残った俺は大学に合格してカノジョも出来るんだろうな」
<疑い深いのー。よし!転生先から二回だけ戻って来れるよう細工しようかの。汝が転生先に行ってる間にいろいろと整えておくから。戻ってきたときに現実世界がどうなっているか確認すればよかろう>
「よ、よし。よろしく頼んます。じゃあこれが最後の質問になる」
<うむ>
ごくり。
「俺がこれから行く世界の原作はなんだ?」
<よかろう!発表しよう!汝がこれから赴く世界の原作は!>
原作は?
<『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』じゃ!!!>
デデーン。
し、知らねー!