王様ゲームは最初は無難な命令が続いた。
4番は1分間空気椅子で耐える、王様が奇数の人にデコピン、王様以外は今までで一番恥ずかしい失敗を告白する等、あえて性的な命令を避け、また、逢と純一以外のメンバーも指名することで2人の警戒心を緩める作戦であった。
そして、2人がある程度ゲームに慣れ、王様の命令も健全なものに限ると思いはじめた頃合いを見計らい、性的な命令に切り替えていった。
口火を切ったのは智也である。
「お、俺が王様だ。そうだなー。それじゃあ、王様以外は初セックスがいつ、どこで、誰相手かを告白すること」
これに答えたのは一輝だけであった。
成美と春香は命令を拒否して特製カクテルに見せかけたオレンジジュースを一気飲みした。
それを見た逢と純一も命令を拒否し、特製カクテルを飲む方を選択した。
春香から特製カクテル入りのグラスを渡された逢と純一は、まずは少し口をつけて味を確かめた。
すると、アルコールの味はほとんど感じず、甘くて思ったよりも飲みやすかった。
2人は少し安心し、グラスに入った特製カクテルを一気に飲み干した。
次の王様は一輝だった。
「よっしゃー!命令はオレの頬にキス!指定する番号は……、頼む、女の子に当たれ!3番!」
わざとらしく間を置き、さも逢の番号を知らないふりをしつつ逢を指名した。
「えっ!?」
3番のくじを持っていた逢は体を強張らせた。頬とはいえ、恋人の前で他の男にキスをするのはためらわれたのだ。
動きが止まってしまった逢を見かねて純一が命令の拒否を宣言、成美に渡された特製カクテルを一気飲みした。
一輝は残念そうにくじを回収すると、ボトル缶にくじを入れて再び全員の前に差し出した。
次の王様は智也だった。
智也はもはやセクハラを隠さなかった。
「王様以外は週何回オナニーしているか告白すること。正直にね」
さすがにこの質問に答える人間はいなかった。
成美、一輝、春香の3人はオレンジジュースを、逢と純一は特製カクテルを一気飲みした。
純一は3連続で特製カクテルを飲み干したため、体が左右に揺れ始めていた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「うー、だいじょぶだいじょぅぶ、ななさきは僕がみゃもるから」
心配する逢に返答するが、純一の口調もだいぶあやしくなっていた。
休む間もなくゲームは続く。その次の王様も智也だった。
「ぐひひ、また王様だ。悪いねえ。命令は、そうだな、王様以外は服を1つ脱ぐこと」
セクハラ命令は更にエスカレートしていった。
春香が靴下を脱ぐことで無難に命令を切り抜けるのを見、逢と純一も靴下を脱いだ。
一輝はシャツを脱ぐと上半身裸になり、逢と春香に見せつけるようにポーズを取った。
春香は嫌悪感を露わに、逢は――水泳部で男子の裸は見慣れていたが――まじまじと見る気もなく、それとなく目を逸らした。
成美は脱ぐものがないと言ってオレンジジュースを一気飲みした。
次の王様は成美だった。
「そうねえ、橘が七咲のおっぱいを揉むってのはどう?」
「ちょっとちょっと、それはルール違反ー。ちゃんと番号で指定してよ」
一輝が指摘すると、成美はニヤリと笑い、1番を引いた逢を指定して命令を出した。
「そっか、じゃあー、5番が1番のおっぱいを揉む」
5番は純一ではなく一輝であった。
「お、5番はオレ!1番は誰?」
困惑しつつ逢が手を挙げると、一輝がニヤけた笑顔で手を開閉しつつ逢ににじり寄った。
両手で体を抱くように胸元を隠し、座ったまま後ずさる逢だったが、体をふらつかせた純一が逢と一輝の間に割り込むと命令の拒否を宣言し、逢の代わりに特製カクテルを飲み干した。
「しぇくはらはやめてくらさい」
この時点で4杯の特製カクテルを一気飲みした純一の目は座り、呂律も回らなくなっていた。
次の王様は純一が引いたが、純一の命令は呂律が回らず何を言っているか判別できなかった。
命令が不明瞭ということで一輝が一方的にタイムアップを宣言し、純一の王様はパス扱いとしてしまった。
次の王様は春香が引いた。
春香は逢と純一を酔い潰せという指示を受けているため、2人のアルコールの回りを早くするために、2人に対して体を運かす命令を下した。
「ごめんなさい……。1番と3番の人はその場で10回腹筋してください……」
1番は純一、3番は逢であった。
逢は簡単にクリアしたが、アルコールが一気に回り、頬がだいぶ赤くなってきていた。
純一は途中まで腹筋したところで力尽きてしまった。
「おーい、橘、まだ4回しかしてないぞー。あと6回。おーい」
「橘くん、大丈夫?」
一輝と春香が声をかけるが、畳の上で大の字になった純一の口からはあーとかうーといった意味不明の言葉しか出てこず、完全にグロッキー状態であった。
「しゃあない、橘はここで脱落ー。じゃあ、橘抜きで続けるよー」
「あ、あのっ、先輩が脱落するなら、私もここで終わりにさせてください……」
ゲームの続行を宣言する一輝に対して、逢がゲームからの離脱を申し込んだ。
「えー、せっかく盛り上がってきたのに、それはないよー」
しぶる一輝だったが、成美が一輝を呼んで耳打ちすると、一輝はニンマリと笑って新しいルールを提案した。
「それじゃー、王様ゲームらしく、逢ちゃんが王様を引いたらゲーム終了ってことでー」
形の上では譲歩したように見える提案に悩む逢の前に、一輝がすかさずくじを差し出した。
くじを引くのを躊躇していた逢だったが、他の皆がくじを引いていき、あっという間に残りのくじは2本だけとなってしまった。
王様さえ引ければすぐにゲームから逃げられると自分に言い聞かせ、仕方なく逢はくじを引いた。
しかし、実はこのくじの中に王様は存在していなかったのだ。
純一が脱落したことでくじの本数を1本減らしたが、その際に5番のくじではなく王様のくじを取り除いたのである。
これで、どうやっても逢が王様を引くことはできず、ゲームから逃げられなくなるという成美の計略であった。
万が一逢が5番を引いて不正を告発しても、間違って混入したと言い逃れ仕切りなおすつもりであった。
もっとも、特製カクテルを飲み続けていけば、5番が混ざっていることを不審に思うような正常な判断力がいつまで残っているか怪しいものではあったし、成美たちとしてはそんなことになる前にさっさと酔い潰してしまうつもりであった。
くじを引いた逢はこっそりと番号を確認したが、目に入ってきた数字は「2」であった。
王様ではなかったため、分かりやすく肩を落とした。
王様が存在しない今回のゲームでは、成美が自分が引いたくじを見せないまま王様を宣言した。
「王様はあたし。命令は……、2番が今日の下着の柄と色を告白」
王様を引けずに落胆していた逢は性的な命令を指名されたショックで、王様のくじを確認することも思いつかなかった。
逢は命令を拒否すると、春香に渡された特製カクテルを一気飲みした。
すかさず次のゲームが開始され、ふたたび逢の前にくじが差し出された。
3杯目の特製カクテルを飲んだ逢はかなり酔いが回り、くじを引く手元もおぼつかなくなっていた。
揺れる手でなんとかくじを引いた逢だが、当然王様は引けなかった。
逢が手に持った4番のくじをぼーっと眺めていると、智也が王様の名乗りを上げた。
「王様は俺ね。命令は4番が王様の股間にキスすること」
智也は露骨に逢の番号を狙ってセクハラ命令を発した。
酔った逢は最初は命令の意味を理解できていなかったが、智也が命令を繰り返すと、ようやく意味を理解した。
当然だが、逢は命令を拒否した。
春香が特製カクテルの入ったグラスを逢に渡すと、逢はグラスの中身を何度かに分けて一気に飲み干した。
空になったグラスを回収した春香が心配そうに声をかける。
「……七咲さん、大丈夫?」
「らいじょうぶれす」
4杯で撃沈した純一と同じ量を飲んだ逢であったが、まだかろうじて意識があった。
しかし、すでに舟をこぐように頭が前後しており、もはや潰れる一歩手前であった。
続いて次のゲームが開始されたが、泥酔した逢はなかなか手をくじに伸ばさなかった。
一輝はくじを逢の手に握らせ無理やり引かせたが、逢は引いたくじを確認することもできなかった。
全員がくじを引き終わると、一輝が王様を宣言した。
「はーい、オレが王様!命令は、4番が王様に口移しで酒を飲ませることー」
露骨に逢の番号を狙った命令だったが、すでに逢は自分がくじを引かされたことも理解できていなかった。
こうべを垂れ、寝つつある逢に一輝が声をかける。
「逢ちゃーん、命令分かった?」
「ふぁい?」
一輝と智也はしばらくの間、意識が朦朧とした状態の逢の様子を伺っていたが、逢からの返事がなくなり静かに寝息が聞こえはじめたのを確認すると、お互いの顔を見てうなずきあった。