悪夢の歓迎会から一夜明け、逢は学校に来ていた。
新入生のオリエンテーション期間が終わって授業が始まっていた校内は多くの人が行き来していた。
今日の逢はスキニースタイルのジーンズを履き、長袖シャツの上から春物のセーターを着たガードの固い服装を選択していた。
今日の1限で純一と同じ授業を選択していた逢は、教室に到着すると入り口で中の様子をうかがった。
純一はすでに教室に来て、ノートを取り出して授業の準備をしていた。
正直純一と顔を合わせづらかったが、逢は意を決っして教室の中に足を踏み入れた。
逢は純一の隣に座ると、無理やり笑顔を作って挨拶した。
「先輩、おはようございます」
「おはよう、七咲。昨日はごめん」
昨日と言われて逢はドキリとした。
「途中で寝ちゃって……。気が付いたら朝で、部屋で寝ててさ。あの後、大丈夫だった?」
純一の謝罪の意味が途中で酔い潰れたことだと知って安堵した逢は、心苦しく思いながら嘘をついた。
「はい、大丈夫でした。あの後私が王様を引けたので、王様命令でゲームを終わらせちゃいました」
「そっか。あんなゲームになるなんて思ってなかったから……。次言われても絶対参加しないようにしよう?」
「そうですね、もうあんなのはごめんです」
「ところで、僕どうやって家に帰ったの?七咲が送ってくれたの?」
「いえ、宮沢先輩と油谷先輩がタクシーで送ってくれました」
そんな話をしていると、講師が教室に入って来て授業が開始された。
授業中言葉を交わすことはなかったが、恋人の隣で一緒の授業を受けているという安心感が逢をほっとさせた。
2限も純一と同じ授業を受け、お昼は学食で一緒に食事をし、逢は束の間恋人との時間を楽しんだ。
午後になると2人別々に3限の授業を受け、4限のない純一はそのままアルバイトに出かけていった。
逢はその後4限の授業を受けていたが、授業の終わりが近づくにつれ、この後どうなるのかといった不安や昨夜の記憶が頭の中を渦巻き、全然授業に集中できなかった。
そして、ついに授業が終了した。
授業が終わると、逢は1号棟に向かった。
1号棟は学内でも古い建物で設備もかなり傷んでいるため、1号棟の教室が授業で使われることも多くなく、用がない人間はあまり近寄らない場所だった。
逢は授業が終わってひとけがなくなった建物の中に入ると、指定された教室のある3階まで階段を上っていった。
指定された教室に到着すると、教室の扉は閉まっていた。
逢は扉の前でしばらく立ち尽くして扉越しに中の様子をうかがったが、かすかな話し声が聞こえるだけで、誰が何をしているのかまでは分からなかった。
そっと扉を開けて教室の中を覗き込んだ逢の顔に、3対の視線が集中した。
教室の席に座っていた成美、一輝、智也が扉を開けた逢を確認すると、教室の中に入るように促した。
逢はいつでも逃げ出せるように扉を開けたまま教室の中に入ったが、一輝が逢の背後に移動して扉を閉めてしまった。
逢が一輝から距離を置くように教室の中程に移動するのを確認すると、成美が話を始めた。
「よく来たね。春香から話は聞いた?」
逢が無言でうなずくと、成美は智也の名前を呼んだ。
「じゃあ、用件は分かってるね?せっかくだから、あんたのデビュー作見てみるかい?……智也」
呼ばれた智也は持っていたノートPCの画面を逢に向け、パソコンを操作した。
画面に服を着て座っている逢の姿が映り、教室に逢の声が再生された。
『自己紹介を』
『七咲逢です。今年入学しました。18才です』
『彼氏以外の男に興味持つことはある?』
『あ、はいっ、あります』
『逢ちゃんはSとMどっち?』
『……うーん、いじめられる方ですかね?』
『スリーサイズは?』
『それは……秘密です』
智也がパソコンを操作するとシーンが飛び、裸の逢がM字開脚している映像に切り替わった。
画面は逢の体をなめるように下がっていくと、陰唇を開いてピンク色の内部を見せている逢の媚肉にズームアップした。
自分でもしっかりと見たことがない恥肉がモザイクなしであからさまに映されているのを見て、逢は赤面した。
さらに智也がパソコンを操作するとまたシーンが飛び、逢が四つん這いで智也に犯されているシーンが再生された。
続いて、智也と逢の結合部が画面全体に映し出され、逢の愛液でテカテカに光る智也の肉棒と、それを咥えこんで広がる逢の陰部が目に入ってきた。
逢が顔をそらすと、再び智也がパソコンを操作してシーンを切り替えた。
パソコンの画面が切り替わり、逢の耳にまた自分の声が入ってきた。
『恋人じゃない人と……セックスしてます』
あまりのセリフに、逢は顔を背けたまま目をつぶって映像が終わるのを待った。
映像が終わると成美が逢に声をかけた。
「どう?いい出来でしょ?」
春香に言われてある程度覚悟していた逢だったが、実際にその目で見るとショックだった。
知り合いが見れば間違いなく自分だと分かるくらいアップでしっかりと映された顔。
女性の大事なところは元より、本来恋人以外に見せるべきでない性交の様子まで赤裸々に記録されていた。
青ざめる逢に向かって成美から次の言葉が投げられた。
「でも、あんたがAVデビューして人生どうなってもあたしたちには得がないんだよね。分かる?」
成美たちは狡猾だった。
直接的な言葉を避け、婉曲的に脅迫を続けた。
「で、あたしたちが得するために、あんたと取引したいんだよね」
「取引、ですか?」
「そ、取引。あんたがあたしたちにいい目を見せてくれれば、この映像はお蔵入りにしてあげる」
「いい目……?」
不審がる逢に成美が具体的な条件を突き付けた。
「あたしさー、芸能界目指してるのよ。エステ行ったり、服やアクセも必要だし、結構物入りなんだよねー。だからあんたには、少し援助してもらいたいって訳」
成美の条件は援助という名目の金品の上納だった。
元々アルバイトはするつもりであった逢は、金額によってはアルバイトの比重を増やすことで何とかなるかもしれないと脳内で計算し始めたが、成美の言葉がその計算を停止させた。
「バイトはあたしが紹介するからね。紹介するバイトは単発だから、普段は別のバイトをしててもいいよ。でも、あたしが紹介したらそっちを優先するんだよ」
「どんなバイトですか?」
「さあ?事務所からもらう時もあるし、あたしが見つけてくる時もあるし、その時にならないとどんなバイトになるか分かんないね」
逢はバイト内容を尋ねたが、成美は具体的な内容は答えなかった。
次に条件を言ったのは一輝だった。
「オレの得は、逢ちゃんがオレと付き合う!って言いたいところだけど、逢ちゃんには橘って恋人がいるからさー。さすがに無理やり恋人と別れさせるってのは良くないじゃん?」
女好きの一輝らしい提案だったが、一輝は純一の存在に言及して自らの提案を否定した。
純一との関係に配慮する一輝に安堵しかけた逢だったが、その次に発せられた言葉は信じられない内容だった。
「だから、逢ちゃんはオレのセフレになるってことで。もちろん、普段は恋人の橘優先でいいよ。オレがヤりたいと思った時だけ付き合ってくれれば」
あまりの内容に茫然とする逢に、続いて智也が条件を言い放った。
「俺は女にはモテないからもっぱら風俗を使うんだが、風俗は金がかかる。七咲には風俗の代わりに俺の性欲を解消してもらいたい」
言葉は違ったが言っていることは同じであった。2人とも逢と性的な関係を続けるという条件だった。
とても承諾できない条件に逢が固まっていると、成美が追い打ちをかけた。
「あー、そういえば、あんたの弟って今小5だっけ?保健体育ってそのぐらにやるんだっけ?弟の勉強のために自分のAV提供するなんて弟思いだよねぇ」
いきなり弟の話を持ち出された逢はびっくりして成美の顔を凝視した。
「なに?そんな顔して?安心しな、デビュー作はちゃんとあんたの弟宛に送ってあげるから。タウンページって便利だよねー。ちゃんと住所も書いてあるんだから」
言外に実家の住所を知っていると脅された逢は、家族も人質扱いにされていることを理解した。
「で、どうするの?イヤならいいよ。そん時はあんたがAVデビューして、橘や弟くんがそれを見るだけだから」
この事は隠し通すしかない。
取引を断った場合、自分の未来は台無しになるだろう。
奇異の目で見られ、普通の学生生活は元よりまともな就職先だって望めないかもしれない。
恋人である純一や実家の家族が知れば、ショックだろうし、大きく傷つくだろう。
逢は取引に応じるしかなかった。
「いつまで……ですか?」
取引を断れないことを理解して諦観に支配された逢だったが、いつまで彼女たちに従わなければならないのか気になった。
(彼女たちが卒業するまで?先輩に隠しとおせるかな……。ううん、絶対に隠し通さないと……)
「そうねー、あたしは100万でいいよ。そんだけ援助してくれたら終わりにしてあげる」
「オレは次の恋人ができるまで付き合ってくれればいいよー」
「俺は2人の取引が終わるまでだ」
成美は具体的な金額を、一輝は恋人ができるまでの期間を、智也は自分以外の取引終了までの期間を提示した。
どれくらいの長さになるか具体的な期間は見当がつかなかったが、期限があるということは終わりがあることであり、絶望の中で唯一の希望に思えた。
元々、逢は条件を交渉できる立場ではない。その条件を飲むしかなかった。
取引が成立すると、成美は逢に条件が書かれた紙を渡し、その条件を読み上げさせた。
・映像研は辞めない
・純一との恋人関係は継続して構わない
・授業は普通に受けて構わない
・アルバイトも自由にしてよい
・成美からアルバイトを斡旋されたら、必ず受けなければならない
・成美から斡旋されたアルバイトのバイト代は、成美が9割、逢が1割で分配する
・成美が受け取るバイト代が100万になったら、成美からのアルバイト斡旋は終了する
・逢は一輝とセフレの関係となる
・一輝から誘われた場合、断ってはいけない
・一輝に新たな恋人ができたら、セフレ関係は終了する
・逢は智也の性処理の手伝いをしなければならない
・智也の性処理をする場合、智也の指示に従わなければならない
・成美のアルバイト斡旋と一輝とのセフレ関係が解消されたら、智也の性処理の手伝いも終了する
・智也の性処理係が終了したら、歓迎会の映像を破棄する
・この取引に関することを第3者に口外しない
主な条件は以上のようなもので、逢には普段通りの生活を許しつつも、裏では3人の言いなりになるという内容であった。
智也が逢にボールペンと朱印を渡し、紙に承諾の署名させて母印を押させた。
逢の署名と母印を確認した成美はその紙を回収してしまった。
控えもコピーもない一方的な書類のやり取りだったが、去年まで高校生で社会経験などほとんどない逢はその事に思い至らず、自分が条件を飲んだ証拠品を成美が所持したと思い込んでしまった。
成美は逢の携帯に自分たちのアドレスを登録させると逢に告げた。
「これで取引成立だね。じゃ、明日からよろしく」
こうして逢の悪夢は始まった。