腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「ここか……これでいよいよ3年間は自由だ……」
俺、比企谷八幡はある学校の校門の前に立ち、喜びの声を上げる。しかしそれも仕方ないだろう。
俺が入学したのは東京都高度育成高等学校。
60万平米を超える程の敷地を大都会の真ん中に形成している異質な進学校だ。
国が主導する高等学校であり、進学率と就職率がほぼ100%という非常に優秀な学校だ。
しかし俺がこの学校を選んだ理由はそこじゃない。
何故なら在学中学校に通う生徒は敷地内にある寮での学校生活を義務付けていると共に、特例を除き外部との連絡、接触を一切禁止しているからだ。
つまり俺は完全な自由を手に入れたのだ。もしも総武高校に進学していたら俺はまた面倒な事に巻き込まれ……
「あなたのやりかた、嫌いだわ……」
「人の気持ち、もっと考えてよ……」
ちっ、忌々しい事を思い出した。アイツらの所為で俺の中学生活は最悪になったしな。
しかしもう俺は3年間アイツらとは会わずに「ヒッキー……」フラグが立っちまったよ。
ため息を吐きながら前を見ると校門の近くには雪ノ下と由比ヶ浜がいた。あぁ……3年間の自由が一瞬で消えちまったよ。
「ヒッキーも同じ学校だったんだね……」
「……だから何だ?もう俺はお前らとは他人だ。お前らの所為で最悪の中学生活を味わったんだから」
「それは貴方の逆恨みじゃない。嘘告白なんて勝手な行動を取った自業自得でしょう」
その言葉に雪ノ下が反論する。
「確かに勝手な行動を取ったのは否定しない……が、何もやってない奴に否定される筋合いはない。しかも元々無理だとわかっている依頼にもかかわらず引き受けた由比ヶ浜がそもそもの原因だろうが」
確かに1人で突っ走った俺にも責任があるのは否定しない。しかし少し考えれば無理とわかる依頼をノリノリで受けた由比ヶ浜が1番の害悪だろう。あの時に雪ノ下が由比ヶ浜の頼みを奉仕部の理念に反すると言ってればこんな事にはならなかった筈だ。
「で、でも戸部っちと姫菜がくっついたら良い空気に「自分のグループの恋愛事情くらい直ぐにわかるだろうが。あの2人が結ばれると本気で思ってたのか?」そ、それは……」
俺の問いに由比ヶ浜は口を閉じる。グループのメンバーじゃない俺ですら結ばれるのは無理だと思ったのだ。同じグループのメンバーである由比ヶ浜が判断出来ないなんてあり得ない。
つまりコイツは少し考えれば無理だとわかる依頼をノリノリで受けたことになる。
「そこで黙るのかよ……やっぱりお前って本当の馬鹿だな。あの時にお前の犬を助けなけりゃ良かったよ。そうすりゃ俺はお前と縁が出来なかったし」
あれこそが俺の人生で1番のミスだ。加えて中学時代でも色々動いたが、もう他人の為に尽くす必要なんてない。今後は常に自分を最優先にして、自分にダメージが行くような行為をする場合、明確メリットがある時しか動かないようにする。
「っ!」
「比企谷くん!貴方、言って良い事と悪い事があることすらわからないの?!」
由比ヶ浜は両手で顔を覆って蹲ると雪ノ下がキレるが……
「お前がそれを言うか?理由もなく人のことをヒキガエル呼ばわりしたり、目が腐ってるとか言ったりしているお前が言うのか?」
少なくともコイツの罵倒は言って悪い事だろう。
「っ……それは事実を言っただけに過ぎないわ」
「事実なら何を言ってもいいと?じゃあ言ってやるよ……お前って陽乃さんより優れてるところ1つも無くね?」
実際雪ノ下が姉の陽乃さんより優れてるところなんて全くないだろう。髪の長さと態度のデカさくらいだろう。
「っ!」
その言葉に雪ノ下はこっちを睨み、手を振るってこようとしてくる。
「両者そこまで!」
すると俺達の間に薄ピンク色の髪の美少女が割って入ってくる。
「何かしら?部外者が口を挟まないで」
「部外者?同じ新入生として校門前で騒いでるのを見過ごすわけにはいかないよ。これ以上続けるなら警備員さんを呼ぶことになるけど、いいのかな?」
美少女は淡々と正論を言ってくる。それに対して雪ノ下は美少女を思いっきり睨むが、そのまま由比ヶ浜の元に向かう。
「由比ヶ浜さんを泣かせた貴方は絶対に許さないわ」
「知るか。事実を言ったら勝手に泣いただけだろうが」
そう言うと雪ノ下は由比ヶ浜を連れて去って行く。同時に美少女が俺の方向を見てピシッと指を突きつけてくる。
「君達に何があったかは知らないけど、入学初日に校門の前で揉めてたら皆の迷惑になってるよ?」
言われて周りを見ると、確かに校門の近くには人が集まって動けずにいた。
「以後気をつける。悪かった」
これについては完全にこっちが悪いので特に不満なく謝罪をする。
「なら良しっ。次からは気をつけなよ」
美少女はそう言って校門をくぐる。それを見送った俺はため息を吐きながら携帯を取り出し電話をかける。校門をくぐったら外部とは3年間連絡が取れないから今の内だ。
『ひゃっはろー。どうしたの比企谷君?入学前におねーさんの声を聞きたくなったのかな?』
電話の相手は雪ノ下陽乃さん。俺の知る限り最も強い人間だ。出会った当初は余り関わりたくなかったが、時間が経つにつれて学校を忌避するようなり、その頃から何だかんだ関わりを持つようになったのだ。
「どうしたも何も何故アイツが俺と同じ学校に進学したんですか?」
でなきゃこの学校を希望なんてしない。
『えっ……ごめん。それ知らなかったんだけど』
電話越しで陽乃さんが驚く声が聞こえてくる。どうやら本当に知らないようだ。
『お母さんからは総武高に行くって聞いたんだけど……うーん、多分雪乃ちゃんはお父さんにこっそり頼んだのかもね。お母さんは雪乃ちゃんを道具と見てるけど、お父さんは雪乃ちゃんを溺愛してるし』
そういや雪ノ下の父親は一人暮らしを許すほど溺愛してるんだっけか。
『ともあれ比企谷君は嫌かもしれないけど頑張ってね』
「そうしますよ……」
正直言って今すぐ辞めたいが、入学初日に中退なんてしたら人生詰むから頑張るしかない。
『卒業したら話を聞かせてよ。学校の概要とか雪乃ちゃんの失敗談とか』
「雪ノ下が失敗するのは前提なんですね」
『そりゃそうでしょ。例のクリスマスイベントの所為で私も大変だったんだよ?』
そういや他所の学校と合同クリスマスイベントをして失敗したんだったな。アレで総武の評判は落ちたし、雪ノ下がこの学校を志望したのも逃げる為か?
「まあ話はわかりました。次は卒業してから会いましょう」
『頑張ってね、バイバーイ』
その言葉を最後に通話を切って、俺は校門をくぐる。以後、3年間は外部との連絡は出来なくなる。
そして案内板に従って歩いていると掲示板にたくさんの人が集まっている。多分アレに生徒のクラスが記されているのだろう。
(陽乃さんはああ言ってたけど、アイツらとは違うクラスがいいなぁ……)
天に祈りながら俺は掲示板に向かって自分の所属クラスを調べる。
(Aクラスは違う。Bクラスも違う。Cクラスは……あった)
俺の名前はCクラスにあった。そして雪ノ下と由比ヶ浜はDクラスの所に名前があった。とりあえず同じクラスって最悪の事態は回避出来たし良しとしよう。
内心嬉しく思いながらもCクラスに向かう。平和な学園生活を送れるように強く願いながら。
しかしその願いが1ヶ月後に跡形もなくぶっ壊されるのを俺はまだ知らなかった。
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