腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「って、訳でウチのクラスに50クラスポイントが入り、三馬鹿は刑務所のような生活を過ごすことになった」
「くははっ!やっぱり須藤や由比ヶ浜は俺達のクラスにとって天使だな!」
朝のHRが終わってから俺は事の顛末を話すと龍園は高らかに笑う。クラスの空気も明るい。結果的に50のクラスポイントが入ったから当然だろう。
しかし須藤も由比ヶ浜も共に暴力を振るった事によってウチにクラスポイントを与えてくれているが、暴力を好む龍園に暴力を使って貢献するとは皮肉だな。
「何にせよ今回の事件により、ペーパーシャッフルで負けてもそこまで損しないし、勝てばさらにクラスポイントも増えるし気合いを入れていくぞ」
その言葉に大半の生徒が頷き、同時にチャイムが鳴り1時間目の担当教師が入ってくる。しかし大半の生徒は普段より真剣な表情になっている。
ハッキリわかる。クラスの士気は静かにではあるが確実に上がっている。この士気を維持してまた本番に挑んで欲しい。そして仮に対戦相手がCクラスで、勝つ事が出来れば金星を獲れて一皮剥ける事もある。まあ自信をつけて調子に乗る事もあるかもしれないが、そこは龍園に仕切って貰うとしよう。
そう思いながら俺は教卓から自分の席に戻り教科書とノートを準備するのだった。
「ではHRを終了する」
須藤達が罰を与えられた放課後、Dクラス担任の茶柱は疲れた表情を浮かべながら教室から出て行く。
それに伴い須藤が検査の為、山内と池が重い空気から立ち上がり逃げるように歩き出す。
「あ〜あ。何であんな犯罪者共と同じクラスなんだろ」
「さっさと退学しろっての」
「もうAクラス卒業どころからクラスポイントが+になるのも絶対に無理だろ」
「俺、実家が寺だから卒業まで修行の一環にするのも悪くないかもな」
そんな風に悪意が飛び交っている。朝いきなり茶柱先生に更にクラスポイントを借金したと言われた際は怒号が飛びまくり、まさに世紀末だった。
休み時間になると罵詈雑言は当たり前で、「あのペナルティは屑にはお似合い」って言った奴もいる。その際には須藤がブチ切れたが綾小路が須藤の名前を呼ぶと足を止めてしまっていた。最早須藤の中で綾小路の存在はトラウマになっている。
そんな綾小路はといえば……
「ねぇ綾小路君。スーパーに食材を買いに行くから荷物持ちしてくれない?綾小路君も幾つか食材を買って良いからさ」
「わかった」
軽井沢が綾小路に誘いをかけている。しかし違和感を感じない。綾小路が軽井沢を須藤から守って10発も殴られたのは生徒の大半が見ていたのだから。
しかし……
「ねぇ、けいけい。何でご飯を買えるポイントを持ってるの?狡くない?」
「そうね。稼ぐ手段があるなら教えなさい。クラスの為には当然の義務よ」
事件の時に食堂に向かっていて見ていなかった由比ヶ浜と雪ノ下は軽井沢に問い詰める。
事件を見ていなかった2人は今朝、茶柱が事件の顛末を説明して際、事件を起こした三馬鹿や須藤に殴られた八幡をボロクソにこき下ろしたが、クラスの大半は「ブーメラン乙」と冷めた眼差しで2人を見ていたのは言うまでもない。
そんな2人に絡まれた軽井沢は心底嫌な気分になりながら口を開ける。
「別に。知り合いが恵んでくれたから、昨日あたしを助けてくれた綾小路君に奢ってあげるだけ」
「じゃあ幾ら貰ったの?ちょっとくらいわけてよ!困った時はお互い様じゃん!」
「嫌。行こ綾小路君」
「待ちなさい。話は終わってないわ。貴方のような人間性に問題がある人にポイントを渡すような人間は相当愚かな筈。利用出来るかもしれないから教えなさい」
雪ノ下が止めに入るが、クラスの大半は「いや、お前の友達の由比ヶ浜の方が遥かに愚かだからな」という考えを抱く。まあ口にしたら由比ヶ浜が騒いでストレスがマッハで加速するから口にはしないけど。
「雪ノ下さんってプライバシーって言葉は知らないの?そもそも人の知り合いを愚かって言わないでくれない?由比ヶ浜さんの方が愚かじゃん」
「はぁ?!あたしの何処が愚かだし!」
由比ヶ浜が信じられないといった表情で叫ぶ。クラス全体から「全部だよ!」と無言の圧力が生まれる。
そんな由比ヶ浜に対して軽井沢は怒りを通り越して憐れみの眼差しを向ける。
「本気で言ってるの?赤点を取ったり、AクラスとBクラスが同盟を結ぶキッカケを作ったり、2回も停学になって他クラスにクラスポイントを支払ったのに?」
「赤点はテスト前にヒッキーやチビが集中力を乱したからだし、同盟のこともチビがあたしを逆恨みをしたからだし、停学についてもヒッキーが何かズルしたからに決まってる!」
「そんな訳ないじゃん。というか停学の1回は白波さんを殴ったからで比企谷君関係無いし」
話によればあの場所にいたらしいが、軽井沢は八幡は全く無関係であると有栖から聞いている。
「何にせよポイントは比企谷君がくれたものだからあげるつもりはないから」
「はぁ?!ヒッキーがあげたの?!あたしをこんな目に遭わせたヒッキーが!?」
「……あ」
由比ヶ浜の怒鳴り声に口を滑らせた事を自覚する軽井沢だが、次に八幡に会う時は土下座する事を決意する。
「行くぞ軽井沢。これ以上ここにいてもストレスでしかない」
そんな中、綾小路は軽井沢の手を掴んで早足で歩き出す。ホワイトルームで特別な教育を受けた綾小路はこの学校に入学するまで感情というものを全く理解出来てなかったが、由比ヶ浜って存在が不快感という感情を教えてくれた。
いずれ感情を知りたいと思ったが、最初に理解した感情が不快感である事に若干ショックを受けたくらいだ。
綾小路は恥ずかしそうにする軽井沢の手を引っ張ったまま去ろうとするが、雪ノ下が綾小路の前に立ち、手を伸ばして綾小路を合気道の要領で投げようとする。
「待ちなさい。話はまだ終わってないわ。無視するなら力づくでも……痛いっ!やめなさい!」
しかし雪ノ下が投げる前に綾小路は雪ノ下の手首を掴み、少しずつ力を強める。その気になればリンゴも潰せる綾小路の腕力に雪ノ下は悶絶する。
「ゆきのんになにすんだし!」
由比ヶ浜が鞄を横薙ぎに奮って殴りかかってくる。それに対して綾小路は焦らずに身を屈めると……
「ぐふっ!」
「ゆきのん!」
大きく振るわれた鞄は雪ノ下の顔面に直撃する。モロに食らった雪ノ下はよろめいてそのまま地面に倒れ伏す。
「ゆきのん?!しっかりして!ゆきのん!どうしてくれんだし?!アンタが躱したからゆきのんに当たったじゃん!」
由比ヶ浜は綾小路に八つ当たりをするが綾小路はそれを無視して軽井沢を連れて教室から出て行く。
そんな綾小路達に由比ヶ浜はギャーギャー騒ぐ中、大半の生徒が冷たい眼差しを向けている。
(ほんっとうにウザいなぁ。惨たらしく死ねよ)
中でも櫛田桔梗は苦笑を浮かべながら内心では殺意を剥き出しにしている。櫛田自身、何かしらで1番にならないと気が済まない性格である事から、誰にでも優しく振る舞う事で信用される点でクラスで1番になっている。
しかし最近になって後悔している。理由は簡単、由比ヶ浜の存在だ。雪ノ下や須藤、堀北や池や山内も櫛田からしたら嫌悪対象だが由比ヶ浜に比べたら可愛い存在だ。
何故なら由比ヶ浜が馬鹿をやるたびにクラスメイトが由比ヶ浜に対する暴言を吐くが、ここで仲裁しないと信用を失う可能性もあるので、クラスの大半と同じ気持ちを抱きながらも仲裁しているのだ。
更に由比ヶ浜は自分が馬鹿にされると自分の味方になってくれる雪ノ下や平田や櫛田に頼ってくるので、それがまた櫛田のストレスを加速させる。
自分も理不尽な怒りを第三者に向ける事もあるが、由比ヶ浜の理不尽さに比べたら遥かにマシな自信がある。
そんな事もあり櫛田は由比ヶ浜を誰よりも憎んでいる。入学初日に堀北を退学させる決意をしたが、由比ヶ浜の退学と引き換えに堀北の退学を諦める……という契約があるなら喜んで由比ヶ浜の退学を選ぶ自信があるくらいだ。
(あ〜あ。そろそろ髪を切らないと。身嗜みは大切だしね)
櫛田は未だにギャーギャー喚く由比ヶ浜を見て殺意を宿しつつ、ストレスによって増えてきた白髪の存在を忌々しく思いながら、内心でため息を吐くのだった。
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