腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「……そんな訳で、何とか問題作成は終わったらしいよ」
軽井沢が玉葱を焼きながらそう言ってくる。
「そりゃ良かった。しかし四馬鹿は勉強をしてんのか?」
雪ノ下は成績優秀だが、他の4人がやっているのは想像出来ないけど。
「由比ヶ浜さんは雪ノ下さんに、男3人は愚痴愚痴言いながらも勉強会に参加してるよ。まあ超嫌われてるけど」
佐藤が嘲笑を浮かべながら肉をひっくり返しつつそう口にする。まあその表情も仕方ないだろう。女子なら当然の反応だ。
「まあ盗撮犯ですから当然でしょう」
「しかし何故盗撮をするのでしょう?いやらしい映像が見たいなら、パソコンでいやらしい動画を探せばいいのでは?」
ひよりは理解が出来ないと言ったように首を傾げる。
「身近な人のエッチな動画を見たいんじゃない?そこんとこ男の比企谷君はどう考えてるのかな?」
「知らん。盗撮趣味のない俺に聞かないで当人らに聞け。というか飯が不味くなるから馬鹿共の話題は止めろ」
からかうような口調の松下に対してそう返しながら焼けた肉を口にする。
現在、俺は軽井沢の部屋でひよりと有栖、軽井沢と佐藤と松下の5人と焼肉を食べている。本来は自宅でひよりの飯を食う予定だったが、軽井沢からバイトを紹介したお礼にご馳走すると誘いを受けたのでご馳走になっているのだ。
そして焼肉の最中に答えるのが難しい質問が来たので、適当にスルーしたのだ。
「……塩が少ないな」
「え?比企谷君塩派?タレでしょ」
「いや、塩派って訳じゃないが今日は塩の気分だ」
言いながら塩を振りかけて食べると程よりしょっぱさがあって中々だ。
「そういえば坂柳さん達AクラスはDクラスに向けた問題の作成は終わったの?」
「ええ。ですが安心してください。退学者は1人も出ないようにどの科目においても50点分は馬鹿でも取れるように小学生低学年レベルの問題にしています」
今回の試験の赤点は「各科目において、ペアで60点以下になる事」「総合点においてペアで700点以下になる事」だ。
そしてどの科目でも50点を取れるテストを受けた場合、各科目で100点、総合点で800点は取れる事を意味する。
「……それ、由比ヶ浜さんが退学処分にならないようにだよね?」
「もちろんです。彼女にはまだまだ学校生活を楽しんで貰いたいですから」
「私としてはさっさと退学して欲しいんだけど。席が近いけど煩いし、漏らすし」
松下が心底嫌そうな表情でため息を吐く。どうやら相当迷惑を被っているようだな。
「というか由比ヶ浜さんって中学からあんな感じだったの?比企谷君はよく耐えれたね。メンタル面については坂柳さんや龍園君より上なんじゃない?」
「そうですね。精神力については確実に私より上でしょう」
軽井沢の言葉に有栖はハッキリ頷くが、嫌な褒め方だな……そんなんでメンタルを鍛えたくないわ。
「ですが最近は由比ヶ浜さんの喚き声は聞こえませんが、大人しいのですか?」
そういや最近は大分少なくなったな。
「全然。だけど喚く前に綾小路君が殺意で黙らせる感じ。今日で6回目の失禁」
松下は一層嫌そうな表情になるが、席が近いらしいからそんな表情もするわ。そして綾小路よ、6回も失禁するとかどんだけヤバい殺気なんだよ?つか由比ヶ浜もいい加減学習しろよ。
「まあ由比ヶ浜さんが今回の試験で雪ノ下さんと一緒に退学しない可能性が高いのは残念だけど、テストが簡単なら安心だよ。私も良くはないし」
「けど佐藤。勉強を身につける習慣を身につけとけ。そうしないと仮にAクラスになっても地獄だぞ」
「え?ウチのクラスの方が地獄だよ」
まあそうだけど問題はそこじゃない。
「論点が違う。Aクラスで卒業した場合、好きな大学や企業に入れるだろうが入れるだけだ。例えばだが佐藤。お前がAクラスで卒業して、特権で東大に入れたとして、留年しないで卒業出来ると思うか?」
「あっ!Aクラスに上がっても保証されるのは入学と入社だけって事?!」
「そうだ。その後の事は大学や会社が対応するんだから、特権を使う際には自分の実力に合った場所に使わないといけない」
プロのスポーツとかもそうだ。実力のない奴がAクラスの特権で入っても特に活躍出来ずに契約を切られるのがオチだ。
「そもそもAクラスの特権は推薦で役立つでしょうが、実力者なら一般入試でも受かりますから」
「要はAクラス卒業の特権は自身の実力に合った大学や会社に確実に入る為に使うべきで、分不相応な場所に入る為には使わない方がいいって事になりますね」
もちろんこの世には絶対はないから保険として手に入れておきたい気持ちはある。自分の実力に合った場所に不運で落ちた場合に特権を使う……みたいな感じでな。
「何か……この学校って詐欺じゃない?」
軽井沢がそう愚痴るのは仕方ない。入学する前まではAクラスの生徒のみしか卒業出来ないなんて一切聞いてなかったし、学校に入ってから情報を隠してばかりだし、詐欺と思われても否定は出来ないな。
「ま、大人の世界は騙し騙されの世界だし、今のうちに慣れろって事だろう」
言いながら若干焦げた肉を口にする。多少の焦げは味の変換点となって中々良いな。
「そうかもね。どうせウチのクラスは逆転出来ないし、バイトしながら大学受験に備える、普通の学校の学校生活を送る方が良いかも」
松下はそう言ってくる。確かに雪ノ下、山内、池とモチベーションを下げる明確な足手纏い3人に加え、由比ヶ浜と須藤という本当の厄病神2人を所有しているDクラスに逆転の芽はないだろう。少なくとも俺がDクラスの人間なら諦めてるわ。
しかしDクラスだけだから良いが、他のクラスも同じように特別試験に力を入れなくなったらこの学校の理念は無価値になるだろう。
「ちなみにクラスの情報を売りに出したらポイントで買ってくれる?」
「おや、松下さんはクラスを裏切るつもりですか?」
「場合によってはね。どうせクラスに先はないし」
「私も売ろっかな〜」
「あたしもそうしよっかな」
松下のみならず佐藤も賛成して、裏切り者の軽井沢も賛成して裏切り者と匂わせないようにする。というか裏切りに躊躇いがないあたり、Dクラスは終わってるな……
「生憎だが既に協力者はいるんでな」
「Aクラスにはいませんが、もし良ければ情報を買いますよ?」
「え?裏切り者がいるのは予想してたけどAクラスはスパイを持ってないんだ?」
「どうも私に切り捨てられると思っているようです。私はあの5人以外にはどうこうするつもりはありませんが……一応八幡君と龍園君の所有するスパイから情報を貰っていますが、私直属のスパイが欲しいですね」
「ふーん。じゃあ今後情報を渡したらお小遣いを頂戴」
「勿論です。特別試験以外の情報も歓迎しますよ」
「え?クラスメイトの特徴とかでも?」
「ええ。この子の苦手科目は英語……この子は昔足を怪我したから運動能力が低い……みたいな物でも構いません」
なるほどな。情報を大量に集めて、使えそうものをピックしていく感じだ。小さな情報でも使い所では強力な武器になり得るからな。
「しかし俺達と今以上に交流したら煩く言われないか?」
今回の焼肉についても3人から強く誘われたが、本来なら遠慮するべきだろう。
「特に言われないよ。5馬鹿に比べたら可愛いものだしね。裏切りがバレたら五月蝿いだろうけど、他クラスとの交流程度なら大丈夫だよ」
「それに私達以外にもバイト先を確保した人も、その人は比企谷君達に感謝してるしね」
それは何よりだ。そう考えると5馬鹿以外からは特に文句を言われないだろう。
「つまり今は平和って感じですか?」
ひよりがそう言うと3人は暗い顔をする。
「全然。さっきも言ったけど資金源を確保した生徒は増えたけど、由比ヶ浜さんと雪ノ下さんはバイトを却下されたことで煩いし、1学期の中間で由比ヶ浜さんを救済する際した借金も話題に出るようになってね」
軽井沢が目を腐らせて話してくる。そういや過去問があるのに赤点を取った由比ヶ浜を救済する為に一之瀬のクラスから借金したんだったな。
「ポイントを稼いだ生徒は「あんな屑を救済する為にした借金を返すなんて嫌だ」「由比ヶ浜と雪ノ下が身体を売れ」って言って、由比ヶ浜さんが「セクハラだしマジキモい!学校に言うから!」とか「あたしはポイント無いんだし、ある人が返してよ!」って喚いたりしてね」
佐藤はメチャクチャ重いため息を吐く。
「終いには比企谷君と連んでる私達に「ヒッキーと連んでるんでしょ!今直ぐヒッキーからポイントを貰ってきて借金を返してよ!」って感じでね……うん」
松下が心底疲れた表情で哀愁を漂わせる。
本当に世紀末だなDクラスって……
「……今度美味い飯屋に連れてってやるよ。勿論俺の奢りだ」
「……幾らポイントを稼ぐ方法を得ても、使えるポイントは少ないでしょう。服を買ってあげますよ」
「……良いマッサージ店を知っています。ポイントは出しますから行ってください」
「「「……ありがとう」」」
これほど覇気のないありがとうは初めて聞いたな。
それから俺達は重い空気のまま焼肉パーティーを再開して、パーティー終盤に空気が元に戻ったので、後味が悪くならずに本当に良かった。
そんなことがありながらも、いよいよペーパーシャッフルを迎えるのだった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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