腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「ねぇ聞いた?」
「ああ。由比ヶ浜がついに脱糞したらしいぜ」
「しかも失禁もしたらしいわよ」
「マジか?救い用がないな」
「というか殺意だけで脱糞と失禁させるなんて綾小路やば過ぎだろ?」
「Dクラスの友人に聞いたら魔王に見えたらしいぜ」
「私の友達はカイドウに見えたって聞いたわ」
「というか由比ヶ浜って学習出来なすぎだろ?毎回思うけど、Dクラスのクラスメイトが可哀想過ぎるわ」
「だよね〜。しかも罵倒女に盗撮トリオもいるし、マジで可哀想だよ」
放課後のケヤキモールにてそんな会話があらゆる場所から聞こえてくる。
閉鎖された空間であるが故に噂が広まるのも早く、「綾小路が期末テストで全科目で満点を取り、綾小路とテストの点数で賭けをして負けた雪ノ下は矯正プログラムの参加を義務付けられた。しかしその結果に雪ノ下と由比ヶ浜が綾小路にゴネたら綾小路がブチ切れ、今まで以上の殺意を放った結果、由比ヶ浜が失禁と脱糞をした」って話は全学年で話題となっている。
「全く大変な事になっているなぁ」
龍園は楽しそうに笑っているがDクラスからしたら不本意極まりないだろう。
「まあな……って、アレは噂の当人じゃねぇか」
「女子3人に振り回されてるな」
龍園の言うように視線の先では綾小路が軽井沢、佐藤、松下の後ろにいて3人の荷物持ちをしながらこっちにやって来る。
「ようお前ら。随分と羽振りが良いな」
「綾小路君が全科目満点だったから30万手に入れたからね」
佐藤がそう言ってくるが……
「何だ?つまりテメェらは綾小路にたかってると?中々の屑だな」
龍園が笑いながら笑みを浮かべながらそう言うが、松下が口を開ける。
「たかってないよ。貰ったんだよ。綾小路君が由比ヶ浜さんに殺意を浴びせたのは漏らさせたのは知ってるでしょ。その時に由比ヶ浜さんは私の席の近くにいたから……ね?で、綾小路君が私に土下座してポイントを半分払うって謝罪したから10万で手を打ったの」
大体わかった。要は由比ヶ浜が漏らした際に松下の机や私物、松下本人に被害がきたのだろう。
「で、それに加えてオレは荷物持ちをしている」
「……なるほどな。災難だったな」
龍園は笑みを消して同情の眼差しを松下に向けるが、俺も似たような眼差しを向けているのだろう。
「本当に災難だったよ。鞄と制服を買い直して、机も新しいものを欲しいって申請したりしたけど、面倒だったよ」
改めて聞くと本当に不憫だな。
「けど雪ノ下も矯正プログラム参加か。プライドの高い雪ノ下からしたら屈辱だろ」
何せ盗撮トリオと同じ扱いなのだから。
「どうせなら由比ヶ浜さんもプログラム参加にすれば良いのに」
軽井沢が心底嫌そうに呟くが、寧ろ由比ヶ浜が未だにプログラム参加じゃないのが意外だ。
「おいおい軽井沢。お前は馬鹿か?あの異常者が変われるわけないだろ」
龍園が笑いながらそう言うが否定は出来ない。実際由比ヶ浜が雪ノ下に毒されて、自分が正義で自分の考えとは違う考えは悪……って思っているが絶対に矯正出来ないだろう。
「……確かにそうね。というか雪ノ下さんや盗撮トリオも無理でしょ」
「どうせなら人気投票をやって最下位の生徒は退学にする特別試験をやれば良いのに」
「どんだけ理不尽な試験なんだよ……」
佐藤の愚痴にそう返してしまう。この学校は退学者が多いが流石に強制退学がある試験は出さないだろう。
「そんな試験があるなら是非ともCクラスに積極的に関わらないとな」
「何だ?悩む一之瀬を煽りまくるのか?」
「おいおい。俺がそんな非道な事をするように見えるのか?」
「「「「「見えるな(ね)(わね)」」」」」
龍園の質問に俺、綾小路、軽井沢、佐藤、松下が一斉に即答する。寧ろ煽らない龍園は龍園じゃないだろう。
「心外だな。俺はそんな試験があったら、誰を最下位にするか選べない一之瀬の為、誰が退学になるべきか親切に、わかりやすく説明してあげるだけだ」
いやそれ煽るよりタチが悪いじゃねぇか。そこに有栖もいたら一之瀬潰れるんじゃね?
「っと、噂をすればだ」
龍園が指差した方向を見れば一之瀬らCクラスのメンバーが10人ほどいて、龍園は笑いながら近寄っていくが、絶対に煽りに行ったな。
そう思っている中、龍園が余り明るくない一之瀬に対して嬉々としながら話しかけて、周りのメンバーが怒りに満ちた表情になり、一部の男子は殴りかかろうとして神崎に止められている。
そして龍園は笑いながらこっちに向かってくる。
「待たせたな。もうすぐ集合時間だから行くぞ」
「何?打ち上げか何かするの?」
「Cクラスに勝ったし、クラスメイト全員に焼肉を奢る。ところで龍園。さっきCクラスに何て煽ったんだ?」
まあ「ラフプレーしか出来ない屑どもに負けた気分はどうだ?」みたいな事を思い切り悪意を込めて言ったんだろう。
「失礼な奴だな。俺は単純にお互いに正々堂々戦ったんだし、お互いの健闘を讃えるために俺達の打ち上げに来ないか誘っただけだ」
「それ煽りよりタチが悪いでしょ」
軽井沢がそう口にする。実際一之瀬達からしたら自分達の土俵で負け、負かした怨敵に打ち上げに誘われたのだ。この上なく屈辱だろう。
「良いんだよ。一之瀬を肉奴隷にするには心を削らないといけないからな」
龍園は笑いながらそう言っているが女子の前で言う台詞じゃねぇよ。空気が悪くなったじゃねぇか。
「そこまでにしろ龍園。もうすぐ予約の時間だ」
「へいへい。随分と紳士なこった」
「お前はデリカシーを覚えろ……あ、最後に綾小路。お前、松下に迷惑をかけて詫びとして10万渡したみたいだが、その分は俺が出してやるよ」
言いながら俺は携帯を操作して綾小路に10万送金する。
「良いのか?」
「元々由比ヶ浜嫌いの有栖がお前に報酬をあげたがっていたからな。俺が払ってやるだけだ」
「ならありがたく受け取っておく。それで比企谷、後日で良いから予定を空けといてくれないか?」
綾小路からそんな風に言われるがわざわざどうしたのだろうか?
「……まあわかった。期末テストも終わったし、いつでも呼んでくれ」
そう言ってから俺は会釈をして焼肉屋に行く。
「しかし綾小路清隆か……当初は金魚の糞だと思ったが、あの様子じゃ鈴音を隠れ蓑にしていたのはアイツだな」
「まあ由比ヶ浜の存在によってクラス間の争いを諦めたらしいがな」
「だろうな。俺や坂柳でもあのクラスは上に上げれねえよ。見所がある奴がいるのは否定しねえが、それ以上に屑のレベルが酷えからな」
どうやら龍園でも匙を投げるようだ。まあ足手纏いが酷いからな。特に由比ヶ浜と須藤なんて小学生以下だし。
そう思いながらも予約した焼肉屋に行くと既に20人くらいは集まっている。集合15分前なのに律儀な奴らだ。
「あ!お疲れ様です!2トップが一緒に来たって事はデカい仕事をするんすか?!」
「違う。ひよりは有栖と2人で出かけて、1人でブラフラしてたら龍園と偶然会って一緒に行動しただけだ」
石崎の質問に首を横に振る。2人は何か女子だけで買い物がしたいと別行動を取ったからな。聞き出すのは野暮だろう。
そう思っている続々とクラスメイトがやってきて、ひよりもやって来る。有栖が居ないのはAクラスの打ち上げに参加しているからだ。
何にせよ……
「全員揃ったし入るぞ」
40人全員揃ったので店に入り案内される。貸切にしたので気兼ねなく出来る。
そして全員が座ると既に準備していたので飯や肉やスープが続々と運ばれて、直ぐに焼ける状態となる。
「じゃあ比企谷。音頭を取れ。今回のリーダーはテメェだからな」
龍園に促されて俺は立ち上がる。
「じゃあ肉が前にあるから一言。先ずはお疲れ様。今回の結果は皆の団結、つまりにCクラスの土俵で勝った。その事は誇るべき結果だ」
これについては事実だ。正直勝ったのは出来過ぎと思ったくらいだ。
「しかし今回勝ったからと浮かれ倒すな。今後も他クラスとの戦いや大学生活を想定して勉強に励め」
勉強ってのはクラスポイントの為にするのではなく、将来の為にするものだ。勝って嬉しいと思うのは仕方ないが浮かれ倒すのは論外だ。
「とりあえず堅苦しい話は終わりだ。今は……他人の金による焼肉を思い切り楽しめ、以上だ」
『最後に台無しだよ!』
そう締めくくると大半からツッコミが入った。解せぬ。
そんな感じで打ち上げが始まった。
焼肉屋では大きな盛り上がりを見せている。長期の勉強による疲れが溜まった故の反動か、Cクラスを打ち破ったことに対する喜びかわからないが、物凄く盛り上がっているので催しは成功だろう。
しかし俺は他の皆ほど盛り上がれなかった。何故なら……
「はい八幡君。あーんです」
ひよりはニコニコしながら肉を摘んだ箸を突き出してくるので、俺は視線を向けられながら差し出された肉を食べる。そのタイミングで大量のニヤニヤ顔を向けられて居た堪れない。
最初は遠慮したのだが、「嫌、でしたか……ごめんなさい」って、物凄く悲しそうな表情で謝ってきたので拒否出来なかったのだ。
で、了承すると物凄く嬉しそうな表情になって俺に擦り寄ってきて、甲斐甲斐しく食事の世話をしてきたのだ。その甘やかしっぷりには圧倒的な母性を感じるが、人前でやる行動じゃない。
結果、大半のクラスメイトにニヤニヤ笑いを向けられ、龍園に至っては写真を撮っていて、悶死してしまいそうだ。ひよりは恥ずかしくないようだが、羨ましい。
そんな風に考えていると携帯が鳴り出すので、見れば有栖から電話が来ていた。
「すまん。ちょっと電話に出るわ」
一言断ってから俺は一旦離れた場所にあるトイレに向かい、電話に出る。
「もしもし?どうした有栖?」
『いえ。八幡君が人前であーんされるとは予想外でしたので。今後は私も人前で甘える……キスなどをしても良いのか確認をしたくて電話をしちゃいました』
有栖の言葉に冷や汗が出てくるが、十中八九龍園が撮った写真を有栖に送ったのだろう。あの野郎、マジでふざけんな。
「い、いや……アレはひよりに押し切られてな」
『わかりました。それでは私も今後押し切って人前で八幡君に甘えますね』
「そ、それは……有栖、怒ってる?」
十中八九怒ってると思うが、思わず確認をしてしまう。
『怒ってないです。ただ八幡君は私のものである事の認識が甘いようだと思っただけです。そしてそろそろ八幡君と初夜を迎えるべきと考えただけです』
有栖の言葉に息を呑んでしまう。俺はこれまでにひよりと有栖の身体を触ったり揉んだり舐めたりしたが、一線は越えなかった。しかし今の有栖の発言から察するにそろそろ越えてしまう可能性もある。
今まで散々エロい事をしたから覚悟がないわけじゃないが、やはり恥ずかしい気持ちはある。
『まあ今はお互いに打ち上げ中ですからこれ以上は言いません。ですが近い将来に八幡君に処女を捧げ、尚且つ八幡君の童貞を卒業させますからそのつもりでいてください。では……』
その言葉と共に通話が切れる。マジか……なんだかんだ一線を越える事にチキってはいたが、そろそろ覚悟を決めないといけないようだ、
そう思いながら俺は携帯をポケットに入れて店に戻ろうとした時だった。
「話は終わった。なら俺の話にも付き合ってくれよ」
背後からそんな声が聞こえてきたので振り向く。
「話?別に構わないが主催者の俺が長く席を外すのはアレだし余り時間は取れないぞ、時任」
そこにいたのは同じクラスの時任裕也。ウチのクラスでは学力も身体能力もそこそこあり、不良っぽい見た目とは裏腹に勉強会には毎日参加していた勤勉な奴だ。
「そんなに時間はかからない」
「わかった。で、何のようだ?」
しかし勉強会以外では特に接点の無かったコイツが俺に何の用事がわからない。
「単刀直入に言うが、お前は今の地位で満足してるのか?」
「は?どういう事だ?」
「今回の特別試験、全権は比企谷が握っていたが、お前は見事に役目を果たしたと思う。Aクラスや上級生との交渉、自分の時間を削って指導者の仕事などして、Bクラスを勝ちに導いた。クラスで1番評価されるべきなのはお前だと俺は思う」
「そりゃどうも。で?地位ってのは?」
「言葉通りだ。龍園の下について満足かって意味だよ。ハッキリ言えば龍園じゃなくてお前がリーダーをやるべきだ」
……そういう事か。確かに龍園のやり方は暴力的で嫌っている生徒もそれなりにいる。それでも表立って文句を言わないのは実績を出していたからだ。
しかし俺が今回の試験で実績を出したことで、龍園より俺をリーダーにするべきって意見が生まれたようだ。時任はその代表あたりって所だろうな。
「結論から言うと俺はリーダーにならない。俺はリーダーに必要なものが龍園や有栖に比べて不足しているからな」
「リーダーに必要なもの?」
「そうだ。リーダーに必要なもの……勝ちに対する執念だと俺は思っている。龍園や有栖は1位にならないと気が済まないタイプだが、俺は自分に利益があるなら1位じゃなくて良いってタイプだからな」
今回俺達は勝った。しかし俺は勉強する習慣さえ身につければ負けても構わないと思った。仮に龍園がリーダーなら「負けたら殺す」ってケツを叩いて負けたくない気持ちを露わにするだろう。
言い方は過激かもしれないが、それはまさに勝ちに対する執念であり、俺にはないものだ。
「リーダーってのは常に勝利に貪欲な奴がやるべきで、そうでない者はやるべきじゃない。その点、龍園や有栖は適性が高く、俺はリーダーに向いてないし、一之瀬や平田は論外だ」
俺はリーダーってタイプじゃないが、それでも一之瀬や平田よりはマシだろう。
一之瀬はクラスメイトを優先するタイプで、「皆で頑張れば勝てる」って思ってるのだろうが甘過ぎる。
大体皆って誰だ?40人全員か?違うだろ。実力のある生徒が引っ張るのだろう。
俺は皆で協力して頑張るって言葉が大嫌いだ。一部の生徒数人が功績をあげても皆が頑張ったおかげになり、雑魚が足を引っ張っても全員の責任になるからな。功績は頑張った生徒のもので、責任は足を引っ張った生徒のものであるべきだ。
平田は更に論外。揉め事を回避したいようだが、だからってクラスに迷惑をかけまくった連中に碌に注意せず、波風を立てないようになあなあで済ませているからな。
そんなんじゃ多数の生徒の不満を止める事は出来ないだろう。五馬鹿以外の生徒からしたら、「いつまで我慢しないといけないんだよ!」っていずれ怒りが爆発するだろう。そうなったら是非見てみたい。
「……話はわかった。だが龍園のやり方で勝てると思ってるのか?」
「現状じゃ厳しいな。一之瀬率いるCクラスと厄病神に憑かれたDクラスは敵じゃないが、幾らこっちの兵力が増しても、兵力はまだ向こうが上だし、有栖を出し抜くのは難しい。反則破りの攻撃も見抜かれる可能性が高い」
今回伸びたとはいえ、今後の兵力の増強具合や他クラスの利用方法次第では差が広がる。
「だからこそ俺は龍園の下で価値を見せている。今後も価値を高めて龍園のストッパーになるつもりだ」
龍園に必要なのは強い駒ではなく、ストッパーだ。アイツの博打戦術はリスクを考慮して攻め時を選んでこそ真価を発揮するからな。
「……わかった。ひとまずはそれで納得してやる。ただ俺はお前がリーダーをやるべきだと思う考えは変わらない」
時任はそう言ってから店の中に戻る。
「やっぱりまだまだ課題はあるなぁ」
まあ焦るつもりはない。俺達は入学して1年も経過してないからな。これから問題を一つ一つ解決していけばいい。問題点から目を逸らさないで向き合う事が勝利への鍵だからな。
そう思いながら俺も店に戻ると龍園がニヤニヤ笑いを浮かべて俺を見てくる。
「よう。誰からだったんだ?」
「黙れ。わかってんだろ」
そう返しながら俺は自分の席に戻るとひよりが距離を詰めてくっついてくる。
「何を話していたのかわかりませんがお疲れ様です。肉は八幡君の分を確保しておきましたが、どれを食べますか?」
「……じゃあタンで」
「わかりました。はい八幡君、あーん」
ひよりは満面の笑みを浮かべながら箸を突き出してくる。
(もう良いや。よく考えたら体育祭で全生徒の前でキスをされたんだし受け入れよう)
俺は開き直って肉を食べる。開き直ったからか龍園達のニヤニヤ笑いに対する苛立ちが多少マシになったな。
結局、俺はお開きになるまでひよりから甘やかされて、食べ終わった直後は膝枕をされたのだった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
-
はい。
-
いいえ