腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
店の中には木製の机と椅子が幾つも置かれている簡素ない部屋だった。
客は銀髪の女子1人しかおらず、彼女はこっちに気づくと不敵な笑みを浮かべたかと思えば手招きしてくる。
俺と綾小路は顔を見合わせるが、やがて綾小路が歩き出すので俺もそれに続く。
「まあ座りたまえ。折角の有名人コンビと食事をするのも面白い」
「……比企谷に比べたら有名人とは思えないですが」
「謙遜だな。圧倒的な殺意を持ちペーパーシャッフルで満点を取った綾小路清隆、全生徒の前で銀髪の女子2人と甘い空気を作り出しスクール水着に並々ならぬ好奇心を持つ比企谷八幡。どちらも有名で上級生の私達の耳にも届いているぞ」
改めて聴くと俺が有名になった理由が酷過ぎるな……
「失礼。自己紹介が遅れたな。2年Bクラスの鬼龍院楓花だ」
そんな風に挨拶をしてくるので俺達も自己紹介をしてメニューを見る。そこにはラーメンや麻婆豆腐、フカヒレスープなど如何にもな中華料理の品目が書かれているが……
「ああ。メニューは見ても意味はないぞ。全ての料理が麻婆豆腐になるから」
「「は?」」
鬼龍院先輩に俺と綾小路はポカンとした表情を浮かべる。全ての料理が麻婆豆腐になるだと?
「どう意味ですか?ラーメンを頼んだら無視して麻婆豆腐が出てくるんですか?」
「頼んでみればわかる」
そう言われるが、どんな風に料理が出てくるか気になるな。
「……よし、決めた」
どうやら綾小路も決めたようだ。
「すいませーん。注文良いですか」
俺が呼びかけると厨房から店員がトレーを持ってくる。店員の肉体は明らかに飯屋で鍛えたものとは思えない程鍛えられていて、目は綾小路のように虚無の眼差しだ。胸にあるバッジには言峰と書かれているが手練れだな。
「麻婆定食お待ち。注文は?」
店員は麻婆定食を鬼龍院先輩の前に置いてから俺達に無表情のまま目を向けてくるが、俺と綾小路は鬼龍院先輩の前にある麻婆豆腐から目を離せなかった。
トレーの上にはご飯に麻婆豆腐、サラダに杏仁豆腐と如何にも普通の麻婆定食だが、麻婆豆腐の赤がインパクトが強過ぎる。今まで見てきた麻婆豆腐よりも赤く、香りも強い。
まあ本当に全てのメニューが麻婆豆腐になるならどれでも良いか。
「じゃあラーメンで」
「青椒肉絲定食で」
「了解した。しばし待て」
店員は店の奥に戻り、鬼龍院先輩は両手を合わせて「先に頂く」と言って麻婆豆腐を口にする。
そして直ぐに夢中になって汗を流しながらガツガツと上品と言い難い食べ方食べ、一気に半分食べると上着のボタンを外す。それに伴い谷間が見えるが、谷間にも汗がダクダクと流れていた。どんだけ辛いんだよ……
「あの、鬼龍院先輩。美味しいのですか?ものすごく辛そうなのですが」
綾小路も興味深そうに尋ねると鬼龍院先輩は頷く。
「凄く辛いのは事実だ。しかし辛さの先にある旨さを知れたら病みつきになってしまう。まあそこに到達出来る者は限られていて、この店の客は一度来店したら「もう2度と来ない」か「頻繁に来る」の両極端のどちらかになる」
極端過ぎる。飲食店の在り方としては絶対にアウトじゃねぇか。普通は誰でも何度も足を運びたいと思える料理を作るべきなのに。
そう思いながら待っていると……
「お待ち。ラーメンと青椒肉絲定食だ」
店員がやってきて俺達の前にトレーを置くと……
「麻婆豆腐……」
綾小路が呆然とつく。綾小路の頼んだ青椒肉絲定食は鬼龍院先輩の頼んだ麻婆豆腐定食と同じで米と麻婆豆腐とサラダと杏仁豆腐だが、麻婆豆腐の上に肉とピーマンと生姜が少し乗っている。どうやら青椒肉絲は添え物のようだ。
しかし俺のラーメンに比べたらインパクトの強さはマシだ。俺の目の前には麻婆豆腐が入った丼があるが、麺が全く見えない。底にあるのか全くないのか知らないが、もうこれは麻婆豆腐だ。
「あの、麺はあるんですか?」
「底に申し訳程度にある」
店員は当然の口振りでそう言ってくる。あそこまで堂々と言われたら向こうが正しいのだと思ってしまうくらいだ。
そう思う中、店員は自分の仕事は問題なく終わったとばかりに厨房に戻っていき、俺の意識はラーメンという名前の麻婆豆腐に向かう。食べるしかないようだが気絶はしないよな?
俺は覚悟を決め、レンゲを手に取り麻婆豆腐を口にするが……
(辛ぇっ!つか痛ぇっ!)
次の瞬間には口の中に辛味が広まり、更に痛みも出てくる。以前ケヤキモールにある四川料理店で食べた麻婆豆腐も辛かったが、この麻婆豆腐はそれよりも遥かに辛い。
しかし汗を流しながら痛みに耐えているとやがて口の中に確かな旨味を感じ始める。これが辛さと痛みの先にあるものか……
それを理解すると同時に俺の手にあるレンゲは丼と俺の口を行ったり来たりして俺の口に麻婆豆腐を運ぶ。この旨味……もっと欲しい。
隣では基本的に無表情の綾小路が目を見開きながら同じようにレンゲを口に寄せて麻婆豆腐を食べている。しかも普段無表情なのに口元が緩んでいるし。やはりこの麻婆……不思議な魅力を感じるな……
12月なのに俺は暑さを感じて上着を脱ぎつつ食べ続け、遂に全ての麻婆豆腐を平らげて、そこにある申し訳程度のラーメンを口にするが……
「店員さん。麻婆豆腐半人前とライスを追加で」
「麻婆豆腐半人前追加で」
俺と綾小路はおかわりを注文する。米と合わせてこの旨味を味わいたい。俺も定食にすれば良かったな。
「うむ。君達も辛さの先を見れたようだな」
「はい。辛いけど美味かったです」
「新しい世界を知れましたよ」
綾小路は口元に笑みを浮かべながらそう返す。コイツの笑みは初めて見るが……何というか邪悪さがあるな。
「2年では私と南雲、3年では堀北学以外はギブアップしたが、今年の1年は中々有望そうだ」
鬼龍院先輩は満足そうに頷くが、食える人がそれしか居ないのに良く営業出来るな……
「しかしお代わりはお勧めしない。この麻婆豆腐は1日分のカロリーが含まれているから食べ過ぎると太るぞ」
どんだけハイカロリーなんだよ。本当にツッコミどころが多い店だな。
「麻婆豆腐半人前2つ、ライスお待ち」
すると店員が麻婆豆腐とライスを持ってくるので一旦麻婆豆腐に意識を戻して一心不乱に食べてあっという間に完食する。
「実に見事な食べっぷりだな。卒業したら冬木市にある本店に行ってみると良い。更なる辛さと旨味を知る事が出来るだろう」
マジか。これ以上の辛さと旨味だと?この麻婆ですら想像以上なのに更に上があるのか。
「覚えておきます」
完食した俺達は立ち上がって礼をしてそれぞれで会計をする。
「3200ポイントだ」
高いかもしれないが特に不満に思わず支払う。この旨味は3200ポイントでは安いからな。
そして会計を済ませて外に出ると暖房の効いた部屋で汗を流しまくったからか、物凄く寒く感じる。
「さて、後輩諸君。君達は暇か?」
「まあ適当にブラブラする予定だから暇ですね」
「なら少し付き合ってくれ。私はこの店で食事をした後、基本的にリラックスをするのでな」
言いながら鬼龍院先輩は俺と綾小路の手を引っ張って歩き出す。どうやらこの人は相当なゴーイングマイウェイなようだ。これは逆らわずにするのが1番だろう。
そう思いながら俺と綾小路は鬼龍院先輩に引っ張られながら歩いていると……
「っ!」
何だ?いきなり妙な寒気を感じたぞ!まさか雪ノ下や由比ヶ浜か?!
慌てて当たりを見回すと……
(りゅ、龍園……)
視線の先では龍園がそれはそれは楽しそうに笑いながら携帯のカメラをこちらに向けていて、やがて直ぐに走り去って行った。
同時に冷や汗がダラダラ流れてくる。アイツの性格的に考えて……
「くはっ!比企谷の奴、どんだけ銀髪の女が好きなんだよ!こりゃひよりと坂柳に報告だな!」
龍園翔は高笑いしながらひよりと有栖に画像をメールするのだった。
八幡同様、鬼龍院に引っ張られている綾小路を好いている恵が2人の近くにいる事を知らずに。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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