腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
起きてから指定された教室に向かうと2年生と3年生がいたので一礼して一列に並ぶ。
そして数分待っていると真嶋先生が入ってくる。
「1年Aクラス担任の真嶋だ。これより点呼を取るが、終わり次第指定された区画の掃除をして貰う。これは毎朝の日課で、雨が降った場合には校舎の清掃のみだが、清掃時間が短くなるわけではない。尚、今日からの授業では外部から指導員も来ているので、丁寧な接し方をするように」
そんな指示を受けた俺達は点呼を取られてから割り当てられた箇所へと向かう。
俺のグループの炊事場の近くだが、先程なずな先輩からされたキスや綾小路と軽井沢による情事を嫌でも想像してしまうのが悩みどころだ。
そう思いながらも落ち葉を箒で掃いていると……
『もー、なんで寒い時間帯にこんな場所掃除しないといけないんだし!ほんっとうキモいんだから!』
炊事場近くにあるゴミ捨て場の方から叫び声が聞こえてきたので横を見ると由比ヶ浜が箒で地面をバシバシ叩いているが、お前は備品を大切にしろや。近くで掃除している幸村と本堂がメチャクチャ嫌な表情を浮かべて、綾小路は不快そうに舌打ちをする。
そんな由比ヶ浜に対してひより達は冷たい眼差しを向けながら無言で掃除をしている。無言でだ。由比ヶ浜以外は一言も喋ってない。どうやら由比ヶ浜に付き合うのは精神力と時間の無駄と判断したのだろう。
正しい判断だ、由比ヶ浜はこっちが幾ら正論を言っても自身に都合が悪かったら、それは間違っているとばかりに発言する女だからな。
『もうやってんらんない!ちょっとみーちゃん、私の分もやって!』
由比ヶ浜はここで気弱そうな小柄なツインテール女子にそんな事を言うが理不尽過ぎるな。
『嫌です。そもそも1人でもサボったらペナルティがあるかもしれないんで由比ヶ浜さんがサボらないでください』
ツインテール女子は強くない口調であるがハッキリ拒否する。気弱そうだがハッキリと拒否するあたり由比ヶ浜の事を嫌っているのがよくわかる。
そんなツインテール女子に対して由比ヶ浜は遠目でわかるくらい真っ赤になって詰め寄ろうとするが….…
『ぶふぇっ!』
『あ、ごめんなさい由比ヶ浜さん』
途中で白波が足を引っ掛けて由比ヶ浜を転ばせる。大人しそうな白波が足の引っ掛け……体育祭直後に振るわれた暴力に対する仕返しか?
『はぁ?!今の明らかにわざとじゃん!ふざけんなぶふっ!』
『あ、ごめん由比ヶ浜さん。足が引っ掛かっちゃったかな?』
由比ヶ浜が起きあがりながら怒鳴りつつ、白波に詰め寄ろうとするが、今度は松下が足を引っ掛けて由比ヶ浜を転ばせる。お前ら、息ピッタリだな……
『このっ!いい加減に『何をしているの由比ヶ浜さん!今は掃除中よ!』はぁっ!?』
ここで教員が割って入ってくる……あ、松下と白波がこっそりハイタッチをしている。
『さっきから騒がしいから来てみれば、真剣に掃除をしなさい!』
『はぁ?!あたしに注意する前にそっちの2人に注意してよ!馬鹿じゃないの?!あたしを転ばせたんだよ!退学にしてよ!』
教師の注意に由比ヶ浜はタメ口で反論するが教師を馬鹿呼びするとは礼儀知らずにも程があるし、転ばせただけで退学にしろってどんだけ理不尽な処罰だよ?
『松下さん、白波さん。由比ヶ浜さんを転ばせたの?』
『『いえ。勝手に転んでました』』
教師の質問に松下と白波は真顔で嘘を吐く。
『勝手に転んでました』
『松下さんも白波さんも足を引っ掛けるような事はしてません』
『王さんに自分の分の掃除を強要して、王さんに断われて詰め寄ろうとした際に転んだだけです』
『自業自得でしょ』
同じグループの女子も転ばせているのを見たはずなのに全員嘘を吐く。
『嘘つくなし!マジキモい!人を転ばせて嘘をついたり、見てたのに知らんぷりなんて人として恥ずかしくないの?!ほんっとうにウザい!今直ぐ退学してポイントを慰謝料としてあたしに渡すし!』
由比ヶ浜は地団駄を踏み怒りを露わにしながらそんな要求をする。
『はいはい。わかったから掃除を続けなさい。由比ヶ浜さんは足元に気をつけなさい』
教師は面倒くさそうにそう口にするが、明らかに由比ヶ浜に対して雑な態度だ。
『はぁ?!何であたしが悪いように言ってんだし?!ふざけんなし賞味期限切れ!』
『何ですって?!教師に対して悪い口ね!賞味期限切れは星之宮先生よ!』
いやアンタも悪い口だな。今のを聞かれたら星之宮先生がブチ切れて真嶋先生がボロカスになるぞ。
『こほんっ、とにかく由比ヶ浜さんは少しは真面目に過ごしなさい。今回の結果次第では貴女も矯正プログラムの参加になるから』
その言葉に由比ヶ浜はギャーギャー喚くが、もう今の時点でプログラムの参加は十中八九決まっただろう。初日から我儘を言って、教師に対してタメ口だし。
「……Dクラスはアレが日常なのか?」
Aクラスの鬼頭が近くにいる綾小路に質問すると綾小路は頷く。
「ああ。由比ヶ浜と池と山内が些細な事で喚いて雪ノ下が他の生徒を見下して、須藤が直ぐにキレるのがDクラスの特徴だな」
「その度に綾小路が殺意をぶつけて黙らせてくれるからマジで助かるわ」
「綾小路が居なかったら俺達はノイローゼになっていたな。櫛田ですら見捨てるくらいだからな」
「屑揃いじゃねぇか。心底同情するぞ」
「つか櫛田ちゃんが見捨てるって相当だろ」
「っ!」
時任と小宮が池に蔑んだ眼差しを向けると、池は居心地悪そうに背を向けて掃除をするが、盗撮した人間の人権の価値は相当低いようだ。
まあ連中の決行した日にはウチのクラスの女子もかなり居たから当然だろう。
そう思いながらも俺は由比ヶ浜の叫び声を強制的にBGMにさせられながら掃除を済ませるのだった。
掃除が終わると道場のような畳一面の和室に案内される。掃除の後に座禅をやるが、ここでやるようだ。
案内された場所に畳の縁を踏まないように注意しながら所定の位置に立つ。
「今日から諸君らには毎日、朝と夕方にここで座禅を行ってもらう」
そう言うのは見覚えのない男性。多分外部から招いた講師だろう。
「座禅とは初めてでござるなぁ」
と、ここで以前盗撮トリオにラジコンを提供したDクラスの外村が近くでそう呟くが、男性は険しい表情で外村に近寄る。
「な、なんでござろうか?」
外村が尋ねると男性は全身からは圧を生み出して外村にぶつける。
「お前のその口調は生まれつきか?それとも事情があるのか?」
「そ、そういうわけではござらんが……」
「そうか。どんなつもりで使っているのかは知らないが、ここではそれも減点対象だ」
「な、なんですと?」
外村は目を見開いているが何故そこで信じられないって表情を浮かべるのだろうか?
「初対面の相手にそんなふざけた口調で話しかけられたら相手がどう思う?そこから説明しないといけないのか?」
そりゃそうだ。外村の口調は材木座のものとそっくりだが社会でそんな言葉遣いで話せばあらゆる相手から信用を失うだろう。
「良いか?自分という存在を示すために相手のことを考えない態度や言葉を使うと人間は少なくない」
ウチの学校にもいるな。龍園とか由比ヶ浜とさ雪ノ下とか他にもまだまだいる。
「社会の中で個性を出すなとは言わない。しかし相手を思いやる気持ちは絶対に忘れてはならない。ここではそういったメンタルに影響を及ぼす授業を行う。その一つが座禅であり、言葉や動作を止めて集団に溶け込む。相手を配慮し、最後に考えるのだ。自分はどんな人間か、何をすべきなのかをな」
男性は最後に外村に対して一瞥してから元の場所に戻る。言っている事は正論だがこの学校の生徒には無用な授業になる可能性もある。一部の生徒は唯我独尊だからな。
そして男性は説明を始める。
この座禅堂では立っている時も歩いている時も握り拳を作り、反対の手で包み、鳩尾の高さまで持って行かないといけない。これを叉手という姿勢というらしいが、これは絶対のようだ。
そして座禅とは瞑想の一つに過ぎず、頭を真っ白にして行うものではなく、目を閉じイメージをすることが重要らしい。
「胡座を組んだ後にそれぞれの足を太ももに置いてもらう。試験ではこの結跏趺坐も結果に影響するので、出来るようになっておくように」
言われて男性を真似てやってみるが……
(い、痛い……)
一応出来るがかなり痛い。周りを見れば苦悶そうな表情を浮かべているのが大半だ。
唯一の例外は綾小路と少し離れた場所で座禅を組んでいる高円寺のみだ。2人はいつも通りの無表情と勝ち誇った笑みを浮かべているが、こういった所作でも規格外のようで羨ましいな。
出来ない生徒は片足だけ組む半跏趺坐をやっているが、本番では両足を組まないといけないので少しでも痛みを和らげるやり方を模索しないといけない。
俺は痛みに対して数十分前になずな先輩からされたキスを思い出して、何とか悶えずに朝の座禅を済ますことが出来たのだった。
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