腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
初日の実習が始まった。
まあ初日だけあってどの実習も合宿中の流れに関する説明が大半であったので初日から遅れている奴はいないだろう……由比ヶ浜あたりはわからんが。
そんな風に思いながら午後の授業の説明を聞きながら窓から外を見ると、女子グループがグラウンドを走っている。俺達は次の時間に持久走を行うが有雨だ。
グラウンドを見直すと走っているメンバーの中に軽井沢がいるので有栖のグループだろう。有栖は杖無しじゃ歩けないことから別の場所で違う実習をやっているのだろうが……
(雪ノ下、相変わらず体力が無いようだな)
11人の女子は割と固まっているが、雪ノ下だけは他の11人と違って半周以上離れているのだった。
実際は1.5周以上離れているのだが……
「はぁ……はぁ……あと一周……」
「そう。あと一周だから頑張ろ」
Cクラスの小橋夢が疲れながらそう口にするとグループ内1の運動能力のDクラスの小野寺かや乃が檄を飛ばす。
「ごめんなさい。運動音痴のメンバーに気を遣わなかったら、ゴールしてる人もいるし」
「良いから良いから。謝罪は終わってから。走ってる最中に話しても体力の無駄無駄」
軽井沢の謝罪にBクラスの木下美乃梨が笑いながら手を振る。陸上部所属の木下ならとっくの昔にゴールしている実力であるが、彼女はチームワークを優先した。
「さ、行くよ皆!」
『うんっ!』
小野寺が元気よくそう口にすると有栖と雪ノ下以外のグループメンバーは返事をして、足を早める。グループ1消極的な山村美紀も返事はしていないが、僅かに速度を速める。
小野寺や木下は持久走が始まってから運動能力が低い生徒に気遣いをしていたのでグループメンバーからの信用は厚かった。
一方の雪ノ下は「何故私が頭が悪く足の遅い人に合わせないといけないの?」と暴言を吐き、周りに一切気遣いを見せずにマイペースで走った。
しかし体力が致命的に少なく、その事実から逃げ続けていた雪ノ下はペース配分を上手く出来ず、徐々に速度を落とし、今では普通に歩くより遅くなっていた。
結果的に雪ノ下以外のグループは足の遅い人のペースに合わせながらも、速度を殆ど遅めることなく走り、ラスト一周の時点で雪ノ下相手に1.6〜1.7周ぐらい差をつけていた。施設の校庭は山奥だから広く、グラウンドは1周400メートルであるが、つまりグループメンバーは雪ノ下と600メートル以上差をつけている。
そしてラスト一周で解放される事もあり、メンバーの士気は上がり少しであるがペースを上げる。
一方の雪ノ下は背後から他のグループメンバーが近づくのを見て屈辱の感情をを抱きながらも歩くが、既に体力切れの雪ノ下は足を速める事は出来ず……
「くっ……!」
そのまま呆気なく抜かされてしまう。これで雪ノ下は2周差をつけられた事になる。
雪ノ下が屈辱の気持ちを宿す中、他のメンバーは最後のラストランを行い……ゴールした。
「よーし!皆頑張った!」
体力が少ない軽井沢や小橋が倒れ込みそうになるが小野寺が2人を支えながら励ます。
「地面にお尻をつけたい気持ちはあるだろうけど、次の授業の教室に行ってからね。疲れてる際に座ったら立つのが大変だから」
木下が疲労困憊のメンバーに座らないように要請すると軽井沢が小野寺から離れて頷く。
「そうだね……良し!あとちょっと頑張るわよ!」
『良し!』
軽井沢の言葉にグループメンバーは頷いて校舎に向かう。持久走が終わった者から次の実習の教室に行く許可が降りるので軽井沢達は問題なく校舎に向かう。
後2周グラウンドを走らないといけない雪ノ下に対しては全員一瞥すらしない。
責任者の西野とAクラスリーダーの有栖が昨日の就寝前に「雪ノ下については罵倒されても反論しないで無視しろ」と命じた。そう命じた理由はグループ結成直後から雪ノ下は責任者の西野とAクラスリーダーの有栖をこき下ろしたからだ。
それに対して反論するグループメンバーは1人もいなかった。雪ノ下と同じDクラスの軽井沢との小野寺は言うに及ばず、他のクラスのメンバーも昨日雪ノ下から散々見下された発言をされた事、何より学年どころか学校1狂っている由比ヶ浜の友人である事から反対しなかった。
閑話休題……
軽井沢達は次の授業が行われる教室に向かうと、そこには有栖がいてノートをとっていた。
「皆さんお疲れ様でした」
「坂柳さんもお疲れ様。私達より筆記が多いから大変でしょ」
「いえ。私は勉強するのは嫌いじゃないですから」
有栖は杖が無いと歩けない障害持ちである為、運動関係の課題は全て免除されているが、その代わりに筆記系の試験の配点や授業時間が多くなっている。
「それより皆さんは息を整えてください。授業は疲れている状態で聞いても辛いですから。わからないところがあったら夕食後に教えますのでわからない箇所にマーキングをしておいてください」
『はーい』
軽井沢達は一斉に頷いて席に座り授業の支度をする。そこには和やかな空気が生まれている。
またグループが結成されてから24時間と少ししか経過していないが、教室にいる12人のチームワークは最高と言って良いものであった。
教室にいる12人のチームワークは最高だった。
キーンコーンカーンコーン
授業終了のチャイムが鳴る。グラウンドにいる指導者はまだ1周残している雪ノ下に近寄る。
「チャイムが鳴ったから次の教室に行くように。ただし他の皆が出来ている事から1周の遅れはグループ全体の減点とする」
「っ!」
指導者の言葉に雪ノ下は歯軋りをするが、指導者は雪ノ下に対して一瞥する事なく背を向けて、それがまた雪ノ下の屈辱感を増加させる。自分以外はお荷物だと思っていたが、明確な減点を食らったのは自身だからだ。
雪ノ下は苛立ちを宿しながらも校舎に向かうが溜まった疲れの所為で走ることが出来ずにゆったりとした足取りで向かい、指定された教室に向かう中だった。
「良いか?多少時間がかかってもペースを崩すな。そうなるとさっき不様を晒していた雪ノ下みたいになるぞ」
「俺は運動神経は高くないが、速度はキープするように頑張る。雪ノ下みたいになるのはゴメンだからな」
「安心しろ幸村。オレが運動能力が高くないメンバーのペースをマネジメントする。よって雪ノ下のように無様を晒すことはない」
そんな会話が聞こえてきたので見れば、怨敵である八幡と綾小路のグループが自分をこき下ろしながら近くを歩いているのが見える。しかし彼らは雪ノ下自身を見てないので気づいていない可能性が高い。
それでもこき下ろすという事は第三者から見て自身は相当醜かったようで、雪ノ下の怒りが増す。
(ふざけないで……私や由比ヶ浜さんを卑怯な手で使って貶めたゾンビに学校に賄賂を送って満点を取った屑の分際で……!)
雪ノ下は2人に殺意を向ける。八幡が入学当初から自分より上のクラスに居たのも気に食わないし、ペーパーシャッフルで綾小路が勝ったのは実力ではなく学校に賄賂を送ったからだと雪ノ下は本気で思っている。
(見てなさい……いつか絶対に私を怒らせた事を後悔させてみせるわ!)
雪ノ下は怒りを露わにしながらそう決意するのだった。
それから雪ノ下は次の授業で使う教室に向かうが到着する少し前にチャイムが鳴り、指導者からは遅刻による減点を告げられ、グループメンバーからはゴミを見るような眼差しを向けられ、より怒りを宿すのだった。
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