腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
風呂から上がってジャージに着替えた俺は綾小路と一緒に脱衣所を出ると、雪ノ下を除いた有栖のグループが同じタイミングで女子風呂の脱衣所から出てくる。
「おや、八幡君と綾小路君もお風呂上がりですか?」
「ああ。お前らは随分と仲良さそうだな」
グループメンバーを見ればギスギスした空気はない。グループが結成されてから1日しか経ってないのに、ギスギスした空気がないのは見事だ。ウチのグループも大きな問題は生まれてないが、有栖のグループほど仲良くはない。
「ええ。私達には共通点がありますから」
共通点……間違いなく雪ノ下に対して苛立ちがある所だろう。それ以外考えられない。
「実際雪ノ下はどうなんだ?持久走の練習では足を引っ張ってたよな?」
「普通に足を引っ張ってるわね。1周遅れて減点、更には遅刻を減点されてたしね」
「その癖謝罪の1つもしなかったし」
「走る前なんか頭の悪い奴に気を遣う必要ないってマイペースで走ってあのザマだから笑えたわよ」
「ていうか頭の悪い奴に気を遣う必要がないなら、あの脱糞女に気を遣う必要もないし」
「大体普段から他人に逃げる事を悪って言って色々な人を馬鹿にしてるけど、雪ノ下さんだって体力のない事実から逃げてるし、人として恥ずかしくないのかな」
俺の質問に軽井沢がそう答え、グループメンバーが一斉に雪ノ下をdisり始める。それだけでこのグループは雪ノ下に不満を抱いているのがわかる。
そして最後のDクラスの小野寺の発言に納得した。雪ノ下は中学時代から人に対して逃げる事を悪、苦手な物を克服するべきと公言していたが、アイツも体力のない自分から逃げて克服してないな。
そこまで考えていると横から敵意を感じたので見れば雪ノ下が怒りに満ちた眼差しで俺達を睨んでくる。それを見た有栖は薄い笑みを浮かべ、有栖のグループメンバーの大半は雪ノ下を睨み返している。
「雪ノ下。さっき坂柳達から聞いたが、周回遅れや遅刻による減点はちゃんと謝った方が良いんじゃないか?お前のそれは逃げだぞ」
ここで綾小路が淡々とした口調でそう口にする。「お前のそれは逃げだ」は雪ノ下が中学時代によく使っていたが、綾小路の口振りから察するにDクラスでも使っているようだ。
しかし綾小路の発言、客観的に考えれば正論であるが、自分の非を認めない雪ノ下からしたらこの上ない挑発だろう。真っ赤な顔になって震えている。
「そうですね。私は気にしてないですが、雪ノ下さんの減点に不満を抱えているメンバーがいるのは事実。一言謝罪をして貰えませんか?」
綾小路に続いて有栖がそれはそれは楽しそうに笑いながら雪ノ下に問いかける。
雪ノ下からしたら嫌っている綾小路と有栖から謝罪を促されるのは屈辱だろう。握り拳を振るって今にも殴りかかりそうだ。
しかし言い方は兎も角、2人の言っていることは間違いじゃないし、雪ノ下が謝るのは筋だろう。皆で団結して遅れたならまだしも、自分のペースで走った結果、周回遅れとなり、疲れから遅刻したのだから。
「おいおい。Aクラスの女王様は謝罪だけで許すのかよ。随分と優しいな。俺もテメェらの実習を授業中に見たが、普通は土下座モノだろ」
ここで更なる雪ノ下の怨敵の龍園が脱衣所から出てきて、有栖と同じように楽しそうに笑っている。
綾小路、龍園、有栖の3人を前に雪ノ下はなす術もなさそうだ。
「聞いた話じゃ、ペースを崩して鈍臭い女相手に周回遅れして迷惑をかけたんだろ?加えてウチのクラスの木下にも迷惑をかけたんだし土下座しろよ、周回遅れしてごめんなさいって。悪い事をしたら謝るのは小学生でもわかる常識「ゆきのんに何してんだしっ!」うわぁ……面倒なのが来やがったよ」
由比ヶ浜がドタバタやって来て、龍園や有栖は明らかに嫌そうな表情になり、綾小路も顔を顰める。
「よってたかってゆきのんを責めるなんてマジキモい!ヒッキーもあたしにさっき暴力を振るっておきながら、教師は私だけ悪いって言うしどんなズルをしたんだし!」
「由比ヶ浜さんに暴力?この屑、タダで済むと思わない事ね」
由比ヶ浜の喚きに雪ノ下が龍園達の話から逃げるように俺を睨んでくるが……
「元々ソイツが違う人に暴力を振るったから守っただけだ」
「どうかしら?由比ヶ浜さんが理由もなく暴力を振るうなんてありえないし、その人が余程の屑としか思えないわ。その屑を教えなさい。然るべき場所に突き出して由比ヶ浜さんに謝罪を「おっと足が滑った」〜〜〜〜っ!」
由比ヶ浜を庇う為に吐いた暴言に我慢出来ず、俺は思わず雪ノ下の脛に蹴りを放つ。今日の実習で疲労困憊だった雪ノ下は悶絶しながら蹲る。
「ゆきのんに何すんだし!今のは明白な暴力だったし今度こそ訴えてやる!」
由比ヶ浜は喚くが、体育祭前の件と違って暴力に走ってないからこっちが不利だ。
「何の騒ぎだ?」
と、ここで坂上先生、星之宮先生、茶柱先生の真嶋先生以外の1年生担任がやってくる。星之宮先生の拳に血が付着しているのは見なかったことにする。多分真嶋先生をしばき倒したのだろう。
そして星之宮先生は綾小路をギロリと睨んでいるが、俺がなずな先輩を医務室に連れて行った際に何かあったのか?
3人がこっちに近づくと、茶柱先生は由比ヶ浜と雪ノ下を見るや否や嫌そうな表情になり胸に手を当てながら倒れ込もうとするが、坂上先生が支える。
「大丈夫ですか、茶柱先生」
「……すみません坂上先生。胃が……」
「そうですよね。星之宮先生、ここは私が受け持ちますから茶柱先生を医務室に」
「了解しました〜、さあ行くよサエちゃん」
「す、済まん……」
茶柱先生が星之宮先生に支えられて去っていく。マジで茶柱先生は大変そうだな。
「で、また由比ヶ浜さんと雪ノ下さんですか……今度は何をやらかしたのですか?」
坂上先生は心底面倒くさそうに2人を見る。
「またって何だし!いつもいつもあたし達が悪いみたいに言うなし!」
お前こそ教師にタメ口を使うな。
「……今回はこの男に原因があります。私の脛を思い切り蹴りましたから」
雪ノ下は俺を指差しながらそう言ってくる。すると龍園は笑いながら口を開ける。
「随分な言いがかりだな。比企谷は足を滑らせた拍子にぶつかっただけじゃねぇか。テメェは当たり屋かよ」
「っ!ふざけないで!何処を見れば足を滑らせた事になるのよ!」
「そうだし!今回は目撃者が沢山いるし観念して退学するし!」
2人がそう言って辺りを見回すと……
「いや、アレは明らかに足を滑らせていただろ」
「だよな。それで言いがかりをつけられるって比企谷が可哀想だろう」
「というかそれで退学って、それだったら由比ヶ浜さんと雪ノ下さんはとっくに退学よね」
「わかる。普通に退学して欲しいんだけど」
あらゆる方向から雪ノ下達の言いがかりという声が聞こえてくる。この場にはAクラスからDクラスの男女がいるが全員雪ノ下と由比ヶ浜を擁護する声を出していない。どうやら皆、俺が足を滑らせてくれたと判断してくれたようだ。
「ふむ。どうやら足を滑らせた際に言いがかりをつけられたようですね。雪ノ下さんはいい加減に難癖をつけるのを止めなさい」
「っ!ふざけないで!この無能共は嘘をついてるのよ!私は完全な被害者よ!」
「そうだし!教師の癖に贔屓すんなし!」
雪ノ下と由比ヶ浜の暴言に坂上先生が不快そうにため息を吐く。
「嘘を吐く?比企谷君が所属するBクラスの生徒やBクラスと同盟を組んでいるAクラスの生徒の証言ならまだしも、Bクラスと敵対しているCクラスとDクラスの生徒が比企谷君が有利になる証言をする筈がないでしょう。比企谷君が暴力を振るったと証明出来ればBクラスのクラスポイントを減らせるかもしれないのに」
「っ!そ、それは……」
坂上先生の尤もな指摘に雪ノ下は口籠る。まあ普通はそう考えるがCクラスとDクラスの生徒からしたら、「雪ノ下の無罪によるBクラスのクラスポイントの減少」と「雪ノ下の言いがかり」を天秤にかけた結果、後者を選んだのだ。
それを言うのは雪ノ下からしたら屈辱だろう。何せ自分の所属するDクラスの生徒から、クラスポイントより雪ノ下自身を貶める事を優先されたのだから。
「ふざけんなし!何で皆嘘を吐くの?!人として恥ずかしくないの?!」
日頃の行いだろ。
雪ノ下と由比ヶ浜以外でこの場にいる全員が思った事だ。
「もう良い!事実を嘘にするなんて最低!ゆきのんはあたしが守るから!皆はゆきのんを馬鹿にするけどゆきのんは何にも悪くない!行こゆきのん!こんな最低な人達といたら馬鹿が感染るよ!」
「……そうね。今に見てなさいこの屑共。いつか私の優秀さを示して、無能な生徒と教師を消してあげるわ。覚悟しなさい!」
「いや、持久走すらろくに出来ない奴がどうやって示すんだ?」
ドッッッッッッッッ
綾小路がそう口にすると周りから笑いが起こり、馬鹿2人は綾小路を思い切り睨み脱衣所に入っていく。
誰がどう見ても逃げ出したと思える光景にこの場にいる全員は失笑を浮かべるのだった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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