腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「ではHRを終了する。明日は中間試験だが遅刻をしないように」
坂上先生はそう言って教室から出て行く。同時にクラスメイトは立ち上がり教室を後にする。既に全員過去問を暗記している状態だから不安の色はなかった。
「比企谷君、帰りましょう」
「ああ」
椎名がそう言うので俺は了承して立ち上がり教室を後にする。同時にDクラスの教室から叫び声が聞こえてきたので覗いてみると殆どの人がプリントを持って喜びを露わにした。あの反応からして……
「どうやらDクラスも過去問を手に入れたようですね」
椎名の言うように赤点対策として過去問を手に入れたようだ。喜びようが半端ないのは赤点候補だな。現に赤髪と由比ヶ浜がはしゃいでるし。
「AクラスとBクラスは学力が高いですから中間試験で赤点を取る人は出ないですね」
椎名はそう言うが……
「いや、一部の馬鹿は全て覚えられない可能性があるからまだわからない」
「流石にそれはないですよ」
いや…….由比ヶ浜なんてマトモに暗記が出来るとは思えない。特に英語なんて難しい単語もそれなりにあるし。
「どうだろうな。つかDクラスに限って言えば、過去問よりもっと楽な赤点回避方法がある」
「?どんな回避方法ですか?」
「簡単な話だ。クラス全体で協力して全員が全ての科目で5点だけ取れば良い」
赤点の基準はクラスごとに違い平均点を2で割った数字だ。つまり全員で5点取れば平均点は5点、赤点は2.5点を四捨五入して3点となる。いくら由比ヶ浜でも3点は取れるだろう……取れるよな。
まあこの作戦にもデメリットはある。それは全員が協力する保証がない事と、平均点は低いから貰えるクラスポイントが物凄く低くなる事だろう。
ま、結局完璧な作戦はないって事だ。
「確かにそんなやり方もありますね。ですが、そのやり方は上に行く事を放棄、この学校の教育方針に反していますので、ある意味他クラスに負けを認めているようなものですよね?」
椎名の言うことは間違ってない。この学校は完全実力主義で、クラス同士がAクラスの座を賭けてぶつかり、切磋琢磨していき社会に出て問題ない生徒を生み出す事を目的としている。
そんな学校で赤点回避のみに意識を向けるならば、それは暗に他クラスに負けたようなものであるからな。
「まあな。俺の案はあくまで赤点を回避する為だけ、要するに其の場凌ぎだからな。ま、今はDクラスより俺達のクラスだ。頑張ろうぜ」
「はいっ」
俺の言葉に椎名が可愛らしい笑顔を見せてくる。やっぱり癒されるなぁ……
その後、俺と椎名は図書館で最後の仕上げの勉強をして、2人で飯を食べて解散したが、テスト前なのに凄く和やかな時間で幸せだったのは言うまでもない。
その夜……
「う〜ん……むにゃむにゃ……」
午前1時、退学候補筆頭の由比ヶ浜結衣は机の上に突っ伏しながら幸せそうな表情で眠り、無意識のうちに唾液で過去問を汚すのだった。
翌朝……
「よしっ……行くか」
学校の支度を済ませた俺は部屋を出てエレベーターを待つ。そしてドアが開くので中に入ると、先客として龍園が乗っていた。
「よう比企谷。自信はあるか」
「ぼちぼちだ。そっちは?」
「過去問と内容が違っても赤点はねぇよ」
だよな。しっかり授業を聞いてりゃ赤点はないよな。
エレベーターを降りて寮のエントランスに出た俺達はそのまま寮を出る。と、その時だった。寮の横にある自販機の方向から坂柳と神室がやって来る。手には紅茶がある。
「坂柳か」
龍園はいつもより低い声で坂柳に話しかける。一方の坂柳はニッコリと笑顔を浮かべる。
「貴方は確かCクラスの大将の龍園君でしたか?」
「入学早々女王様気取りとは良い身分だな」
「そんなつもりはありませんよ?」
「どうだかな。先ずはDクラスとBクラスを潰す。その後はA、お前を潰す」
「少なくとも葛城君や一之瀬さんよりは楽しめるでしょうね」
「あんな雑魚どもと比べてんじゃねぇよ」
最早一触触発の空気がピリピリと流れる。龍園は以前雪ノ下が坂柳に言ったような事を言っているが、雪ノ下と違って雑魚臭がしない。これは龍園と雪ノ下の差を如実に表しているな。
「それは失礼しました。そこにいる貴方の部下の比企谷君共々楽しみにしてますよ」
「比企谷は部下じゃねぇ。どっちかって言うとビジネスパートナーだな」
「なるほど。まあ比企谷君の性格上、部下にするより適度な距離を置いた方がベストでしょう」
「お前からしたら王子様だよな?お姫様抱っこされて可愛らしい反応をしやがって、ロマンチストかよ?」
おいっ!俺の黒歴史を嬉々として話すな!思い出すだけで恥ずかしいからな!
「煩いですよ龍園君。それ以上その話をしないでください」
坂柳はさっきまでの冷笑を消して不機嫌そうになる。
「断る。写真を見たが、比企谷の胸の中で縮こまりながらも比企谷の首にギュッと抱きついてたがお前って意外と甘えん「黙れ龍園。それ以上話を続けるなら、今後Cクラスの情報を他クラスにばら撒くぞ」おっと、少しからかい過ぎたか?」
俺が龍園を脅すと龍園はヘラヘラ笑いながらもからかうのを止める。具体的に解説してんじゃねぇよ。坂柳だけじゃなくて俺にも大ダメージだからな?
「こほんっ、私をからかうのはともかく中間試験は大丈夫なのですか?」
「既に対策は出来てる。テメェも過去問を用意したんだろ?」
龍園は当然のようにそう言うが、俺も坂柳なら過去問を用意してると思う。
「ええ。まあ渡したのは私の友達だけですから、クラス平均はCクラスよりも下になるでしょう」
つまり仲の悪い葛城派には過去問を渡さず、差を見せつけようって腹か。地味だが中々容赦ないな。
「それはそうと比企谷君。折角ですから賭けをしませんか?」
「賭け?合計点数が上かについてか?」
「いえ。由比ヶ浜さんがいくつ赤点を取るかについてです」
そう来たか……赤点を取るかどうかではなく、いくつ赤点を取るかについて賭けるって事は坂柳は由比ヶ浜が退学すると思っているのだろう。
「由比ヶ浜って比企谷と同中で頭と股が緩そうなビッチだよな?」
「ど直球だなオイ」
俺もビッチと呼んだ事はあるが、コイツの呼び方は俺以上だった。
「言い方は下品ですが龍園君の言う通りです。折角ですから龍園君も参加しませんか?」
「幾らだ?」
「そうですね。軽い遊びですから3万程度でどうですか?」
他人の退学について遊び呼ばわりする時点で坂柳はぶっ飛んでるな。
「乗った。じゃあ今から携帯のメモ帳を使って由比ヶ浜の赤点の数を打ち込め」
「わかりました。あ、真澄さんも参加してくださいね」
「……はいはい」
神室はため息を吐きながらも携帯を取り出す。それを確認した俺は神室同様にため息を吐きながら携帯を取り出す。ぶっちゃけ3万も賭けたくないが、参加しないと面倒そうだからな。
しかし赤点の数か……科目は数学、英語、国語、理科、社会の5科目だが国語に選択問題が、数学には途中式を書かなくて良い問題がそれなりにあったので暗記は楽だし、由比ヶ浜でも多分大丈夫だ。理科も化学式が多かったので大丈夫だろう。
問題は英語と社会だが、この2つは十中八九赤点だろう。
英語は基礎が出来てないと答えを見てもチンプンカンプンだろう。そんで中学の時赤点だらけだった由比ヶ浜には基礎がない。
社会についても難しい漢字が結構ある。茶柱先生の採点の仕方はわからないが、普通の教師なら漢字ミスをしたら三角をつける。由比ヶ浜に漢字をマトモに書けると思えないし、それ以前に覚える気力が無さそうだし。
結果的に俺の予想では由比ヶ浜は2つ赤点を取ると思う。俺は携帯のメモ帳に2と打ち込む。他の3人も打ち込んだようなので互いに携帯を見せると……
「真澄さんが4、龍園君が3、私と比企谷君が2ですね」
俺と坂柳が同じだった。しかし全員0を打ち込まないとは……まあ仕方ないかもな。
内心呆れながら携帯をしまうと寮の入り口から由比ヶ浜が出てくるが、顔を真っ青にしていた。あの反応……まさかとは思うが寝落ちしたか?
あ、龍園が嗜虐的な笑みを浮かべて、坂柳が冷笑を浮かべている。
「ご機嫌よう由比ヶ浜結衣さん。テスト当日ですが元気がないですね」
散々子供扱いされたからか坂柳は冷笑を浮かべたまま話しかける。対する由比ヶ浜は坂柳のオーラに気圧されたのかビビりながら口を開ける。
「だ、大丈夫だし!過去問見たから大丈夫に決まってんじゃん!」
「でしたら何故顔を真っ青に震えているのですか?」
「べ、別に関係無いじゃん!」
「いえ。明らかに体調が悪そうだったので、心配で聞いてみただけです」
由比ヶ浜は怒るがその程度で坂柳は止まらない。心にも無い嘘を吐いている。
「素直に認めろよ。どうせ寝落ちして勉強してないんだろ?」
龍園の言葉に由比ヶ浜は言葉に詰まる。あの反応からしてビンゴだな。
「そ、そんな事ないし!テストなんて余裕だし!」
そうは言っているがガタガタと震えている。それを見た龍園は楽しそうに笑う。
「なるほど。なら俺はお前の点数を愉しみにしてるからな?」
「馬鹿にすんなし!あたしはちゃんと勉強したから大丈夫っ!」
由比ヶ浜はそのまま早足で学校に向かうが、坂柳と龍園は楽しそうに笑っている。由比ヶ浜が赤点を取ったら絶対にdisりまくるつもりだな。
そんな2人を見て俺と神室は何度目かわからないため息を吐くのだった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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