腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「欠席者はいないようだね。良かった、もし欠席者がいるのならペナルティが発生していたよ」
朝のHRにて坂上先生は試験のスケジュールをホワイトボードに書きながらそう言ってくる。中間試験は5科目だが、今日一日でやる。中学時代は数日かけてやっていたので結構新鮮だ。
教壇に立って生徒たちを1人1人見ていく。
「高校生になって初めてのテスト、それも赤点を取ったら即座に退学と普通の学校からしたら理不尽極まりないテストを君達は今から受ける。当然緊張はするだろう。しかし私は君達が赤点を取らない事を信じているよ」
そこからは強い信頼を感じる。坂上先生って見た目は悪そうだが意外と生徒思いなんだよな?
「そんな君達に朗報がある。中間、期末試験を乗りきる事が出来『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』な、何だっ?!」
突如、背後から圧倒的な叫び声が聴こえて坂上先生の言葉を遮る。声のした方向にはDクラスがあるが、何をやってんた?アレか?赤点を回避しようぜって鼓舞してんのか?
「ごほん!話を戻すが中間、期末試験を乗り越えたならば君たちには夏休みにバカンスが待っている。その楽しみのためにも今回の試験全力で望んでくれ。私からは以上だ」
坂上先生は早口で言い切り、朝のHRを終了させる。まさかとは思うがさっきの叫び声はバカンスに反応したDクラス男子の叫び声とかないよな?
しかしバカンスか……これ絶対に裏があるだろ。バカンスという名前の特別試験みたいな感じで。この学校には裏がありまくりだから全く信用出来ない。
そこまで考えていると1限目の監督の先生がやってくるので意識を切り替える。先生はカンニングはダメみたいなお決まりの注意をしてプリントを配り始め、全員に配り終わると始めの合図をする。
俺はプリントを確認すると、本当に過去問と同じ問題が並んでいる。流し読みしたが、違いが見つけられない。
まあ過去問抜きでも赤点はないだろうがな。注意するとしたら解答欄のズレくらいだろうな。
そう思いながらも俺はゆっくりと、それでありながら確実に問題を解いていくのだった。
「……では試験はこれで終了する。結果発表は3日後の朝にする」
5時間目の英語が終わり、坂上先生がそう言うと全員がバラバラな動きを見せる。その際に絶望感はなかったので赤点はないだろう。
「比企谷君」
すると椎名が俺に話しかけてくる。
「何だ?」
「試験も終わりましたし、本を買いに行きませんか?龍園君から貰った臨時収入もありますし」
そういや過去問を渡した際の報酬があったな。ま、入学最初の障害が終わったし、リフレッシュするのも悪くないな。
「わかった。行こうか」
「はいっ」
椎名が元気良く頷いたので俺達は2人で教室を出て廊下を歩く。と、そこで進行方向から坂柳が沢山の生徒を連れて歩いてくる。向こうも俺に気付いたようで小さく微笑みながら手を振る。
「朝ぶりですね。比企谷君、中間試験はどうでしたか?」
「全く問題ない。そっちは打ち上げか?」
「はい。比企谷君は彼女とデートですか?」
坂柳はからかうように笑いながらそう言ってくる。それに対して俺は否定の言葉を言おうとするが、その前に椎名が割って入る。
「?比企谷君の彼女は貴女なのでは?」
「?違いますよ」
「そうなんですか?登校中に堂々と比企谷君に抱き抱えられていたので彼女かと思いました」
椎名の発言に廊下の空気が凍りつく。そういや椎名には坂柳をお姫様抱っこした理由について話してなかったな。
「ち、違う。アレはトラブルから逃げる為だったんだよ。ほら、坂柳って身体が弱いから」
「なるほど。比企谷君は坂柳さんを抱えてあげたのですか。そうでしたか、勘違いしてすみませんでした」
「あ、はい。誤解が解けたなら何よりです」
椎名がペコリと頭を下げると坂柳は若干戸惑いながらも椎名の謝罪を受け入れる。
「あ、申し遅れました。Cクラス所属の椎名ひよりです。比企谷君の友達をやってます」
「ご丁寧にありがとうございます。Aクラス所属の坂柳有栖です。比企谷君をお世話してます」
「おいコラ。俺はお前の世話にはなってないからな?」
何度か勉強を見て貰ってはいたが、それだけだ。坂柳の言い方だと俺に関してあらゆる方向から面倒を見ていると周りの人間は思うだろう。
つか寧ろお前が神室の世話になってるだろうが。神室は基本的に坂柳の荷物持ちをしてるし、雨の時は傘を2つ持って片方に坂柳を入れてるし。
「そんな……酷いです。夜に何度も比企谷君の部屋でお世話をしたのに……」
坂柳の言葉に周りにいる人間が騒めくがちょっと待てや!世話して貰ったのは勉強に関してだけだ。坂柳の奴……夜に俺の部屋なんて言ったら完全に「あ、私も何度か経験がありますね」椎名ぁっ!勉強を!言葉に勉強を入れろ!この天然野郎が!
『ええっ!』
案の定Aクラス所属の坂柳の部下からは騒めきが生まれる。予想外の援護射撃に坂柳も呆然としている。
最早収集不可能だ……これ以上ここにいるとマジでヤバそうだ。
「全部勘違いだからな!行くぞ椎名。お前らは打ち上げ楽しんでろ」
俺は早足でこの場を後にする。明日から学校に行くのが怖くなってしまったのは言うまでもないだろう。
尚、俺に追いついた椎名に「さっきの経験ってお前が俺に勉強を教えて世話をしたって意味だよな?」と聞いたら普通に頷いて軽くイラッとなってしまった。
3日後……
俺が椎名と坂柳と肉体関係を持っているという不本意極まりない噂が流れながらも結果発表日を迎える。
教室では石崎を始めとした赤点候補組からはソワソワとした雰囲気を感じ取れる。
すると坂上先生が丸めた白い紙を持って教室に入ってくる。
「それでは結果発表を行う」
坂上先生は持ってきた白い紙を全て広げてホワイトボードに貼り付ける。そこには小テスト同様、クラス全員の各教科ごとの成績と合計点が書かれていた。
1番下を見ると全科目で石崎が最下位だったが、全て60点台だった。赤点の基準はクラスの平均を2で割った数字未満だから最高でも49点だ。その事からCクラスに赤点を取った生徒は1人もいない事を意味する。
それにより赤点候補組は安堵のため息を漏らす。彼らも入学して直ぐに退学は嫌だろうな。
「各教科の平均点は全て80点以上。おめでとう。これは4クラスの中で1番の結果だ。好成績で感心している。みなよく頑張ってくれた」
そりゃ過去問を使ったからな。過去問使って赤点とか馬鹿きわまりない。
「この調子で期末テストも頑張ってくれ。今日のHRはここまで」
坂上先生はそう言って教室を出ていく。それを見ながら自分の結果を見ると全部90点以上だった。椎名は全部満点だが、過去問がなくても満点を取れそうだな。
そう考えながらも俺は立ち上がりトイレに行こうとすると、廊下を出たあたりで龍園が話しかけてくる。
「よう比企谷。早速だが賭けの答え合わせをしようぜ」
賭け……ああ、由比ヶ浜の赤点の数についてか。すっかり忘れてたな。
俺が了解の返事をしようとするとAクラスの教室から坂柳と神室が出てきてこっちに向かってくる。
「お待たせしました。それでは答え合わせをしにDクラスへ行きましょうか」
「ああ。Dの連中は喚いてるだろうな」
龍園は嘲りを表情に乗せながら笑う。どうやら龍園の中では由比ヶ浜が赤点を取ることが決まっているようだ。坂柳も冷笑を浮かべていて、神室は呆れているが嗜める素ぶりは一切見せていない。今更だが、ここにいる4人は頭のネジが数本抜けているのだろう。
そんな事を考えながら4人でDクラスへ向かうと……
『〜〜〜〜!』
Dクラスの方から叫び声と泣き声が混ざった声が聞こえてきた。声からして由比ヶ浜だろうがDクラスのドアが閉まっているにも関わらず聞こえてくる声は大きいので相当な声で鳴いているな。
「どうやら赤点を取ったみたいだな」
「ええ。ですが問題は数です。私と比企谷君が2個と予想して、龍園君が3個で真澄さんが4個でしたね」
「ああ」
Dクラスの教室に着いたのでドアを開けると……
「やだよぉ!辞めたくないよぉ!うぅぅぅぅぅっ!」
雪ノ下に支えられながら大泣きしている由比ヶ浜がいた。俺達がドアを開けた事で注目が集まるが、それを無視してホワイトボードに貼られている成績表を見てみると、社会と英語の成績が書かれた場所において由比ヶ浜の名前が赤い線の下に記されているのだった。
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