腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「皆、由比ヶ浜さんの退学を回避するためにポイントを少しずつ出してくれないかな?」
Dクラスの教室にて、平田洋介は周りに呼び掛ける。しかし周りの反応は薄かった。理由としては先程龍園が言ったように20万ポイント払ってまで由比ヶ浜を助けようとする気になれないからだ。
「お願い皆。由比ヶ浜さんを助けてあげて」
雪ノ下も頼み込む。と、ここで反対の声が上がる。
「俺は反対だ。由比ヶ浜さんはここで退学になるべきだ」
真っ先に反対の声を上げたのはクラス首位だった幸村だ。それに対して雪ノ下は幸村を睨みつける。
「……どういう意味かしら?」
「言葉通りだ。彼女の為に20万ポイントは勿体ない。大体少しずつポイントを出してくれと平田が言っていたが、ポイントを全く所有してない奴がかなりいる以上、必然的にポイントを持っている人間の負担が大きくなる」
「……幸村君は沢山ポイントを持っているからそう言えるのね?」
「そうだ。全員が均等に5千ポイント払うならともかく、俺は由比ヶ浜さんの為に何万も払う気は無い」
その言葉に平田は苦々しい表情で黙るが雪ノ下は止まらない。
「でも由比ヶ浜さんが退学になったらペナルティが発生するかもしれないわ。それを避ける為にもここは助けるべきだわ」
「確かにペナルティは怖い。だが、今由比ヶ浜さんを助けても、今後また退学の危機に瀕するかもしれない。で、その時にまた大量のポイントを払って助けるのか?大体今回の件は由比ヶ浜さんの自業自得だろう?赤点になったら退学とわかっているのに、寝落ちして過去問を暗記しない人を大金を払ってまで助けたいとは思えない」
「っ……」
幸村の言葉に雪ノ下は黙る。事実、こうなっている原因は由比ヶ浜の勉強不足、退学に対する危機感の無さだから雪ノ下は反論出来ない。
雪ノ下が論破された事により、クラスには由比ヶ浜を見捨てようという空気が流れている。
しかし……
「待って。折角出来た友達を失うのは嫌だよ。私は由比ヶ浜さんを絶対に助ける」
クラスの人気者の櫛田桔梗はそう言ってから未だに泣きじゃくる由比ヶ浜の元に向かう。
「大丈夫だよ由比ヶ浜さん。必ず助けるから」
「ぐすっ……ひっぐっ……ありがとう」
「クラスメイトだから当然だよ。とりあえず休み時間ごとに他のクラスの人にポイントを貸してもらえるか聞いてみる。もしも由比ヶ浜さんを助けたいって気持ちがあって、他のクラスの人と交流がある人がいるなら協力して欲しいな」
クラスの人気者である櫛田の言葉が教室に響く。それにより由比ヶ浜を見捨てるべきであると考えが充満した教室が、多少マシになる。
もちろん由比ヶ浜を見捨てるべきって考えている人もそれなりにいるので未だに空気は重い。
「それと由比ヶ浜さんを助けたいって少しでも考えている人がいるなら所有ポイントを教えて欲しい。Dクラスにおいて幾らポイントがあるか確かめないといけないからね」
平田の言葉により由比ヶ浜を助けたいと考えている生徒が平田の元に向かう。その数20人だった。
残りの半分の人間は由比ヶ浜を助けたくない、もしくは単純にポイントを殆ど持っていない連中であった。
昼休み……
「ありがとう。クラスポイントが貯まったら返すね」
昼食を食べて椎名と一緒に図書館に向かっているとDクラスの生徒がBクラスの生徒からポイントを借りている光景を目にする。どうやらDクラスは由比ヶ浜を救済する方向で行くようだ。
「そういえばDクラスからは赤点が出たのですよね?」
「ああ。だから点数をポイントで買うべく、ポイントを借りてるんだろ。ちなみに椎名ならどうする?」
「……難しい質問ですね。クラスメイトが減るのは寂しいですが、過去問を持っていて赤点を取る生徒を残すのはリスクが大きいですから。その人が部活で活躍が期待されているなら……助けますかね」
どうやら椎名は公私混同をしないようだ。そして言っていることも間違ってない。俺も部活で活躍してクラスポイントの増加に貢献出来る生徒なら助けると思う。
しかし由比ヶ浜なら助けないだろう。由比ヶ浜は成績も運動神経も悪く、Dクラスに貢献出来るような人間じゃないだろうし。由比ヶ浜を助けるのはミスだろう。
しかしそれをどうこう言うつもりはない。決めるのはDクラスであってCクラスの俺には関係ない話だからな。
そう思いながらも図書館に行っていつものように席に座って本を読む。そして暫く読んでいると椎名が話しかけてくる。
「比企谷君。今度の週末は予定がありますか?」
「週末?特にないが本を買いに行く付き添いか?」
俺が椎名と出かける場所なんて図書館と本屋とスーパーとコンビニくらいだ。
「それもありますが敷地内の隅にある自然公園に行きませんか?図書館で読むのもいいですが、自然に囲まれながら読むのは気持ちいいですから」
へぇ、普通の公園もあるんだ。それは初耳だ。
しかし自然公園で読書か……それってデート……じゃないよな。そこを勘違いしちゃいけない。椎名は純粋な気持ちで読書をしたいだけだしな。
「わかったよ。じゃあ日曜日に行こうぜ」
「はいっ。楽しみにしてますね」
椎名はそう言ってニッコリと笑う。その笑顔はとても魅力的で、かつての戸塚に匹敵する笑みだった。
その笑みによりかつての癒し枠である戸塚の事を思い出してしまい……
「椎名。俺に味噌汁をまいに……何でもない」
危なく自爆しそうになってしまった……というか半分自爆したな。
(マズい。注意しなきゃいけないと思ってはいたが、失念しちまった)
「?比企谷君は味噌汁を飲みたいのですか?でしたら作りますよ」
椎名は不思議そうな表情をしながらそう言ってくる。どうやら毎日の部分については聞き取れなかったようだな。危ない危ない……
「ぜ、是非頼む」
俺は誤魔化すようにそう返す。ここで改めて毎日味噌汁を作ってくれなんて言えないからな。
「はいっ。任せてくださいっ」
守りたい、この笑顔。
椎名の笑顔にドキドキしていると、椎名は本をめくりながら俺に話しかけてくる。
「ところで比企谷君。お願いがあるのですが、そろそろお互いに名前で呼び合いませんか?」
「ふぁっ!?」
思わず変な声を出してしまう。今、椎名は互いに名前で呼び合うって言ったのか?
「い、いきなりどうした?」
「いえ。本を読んでいたら「もう友達なんだから名前で呼べよ」と書いてあったので、既に友達になっている私達も名前で呼び合うべきと思ったのです。どうですか?」
そんな事を言ってくる。そんな椎名に対して俺は恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちで一杯となる。彼女からは嘘が全く感じないので本心だろう。
一時期人間不振になりかけた俺だが、彼女なら信用できる……というか信用したい気持ちがある。
よって……
「わ、わかったよ……ひ、ひより」
頑張って名前で呼んでみる。もしも拒絶されたら自殺するぞマジで。
内心ビクビクしながらも彼女の返事を待つと……
「ありがとうございます。これからも仲良くしましょうね、八幡君」
お礼を言われる。それによって胸の内が幸せになる。こんなに幸せになるのは久しぶりだ。
と、ここで予鈴が鳴るので俺達は教室へ戻るべく立ち上がり、図書館を出る。
「八幡君。幸せそうな表情を浮かべてますが、何かあったんですか?」
「お前こそ、いつもは割と無表情なのに幸せそうじゃねぇか。何かあったのか?」
「八幡君と更に仲良くなれた気がして嬉しいですから」
ひよりはそんな事を言ってくる。どうやら考えている事は同じみたいだな。
「……俺も同じ気持ちだ。改めてよろしくな」
「はいっ」
ひよりが頷くのを見ながら俺達は教室へ戻る。この学校は色々と謎も多く危険が多い学校で、先が思いやられる。
しかし何も悪い事じゃない。
現に俺は戸塚に続いて人生において2人目の友人が出来たのだから。俺としては卒業するまでひよりとの関係は維持していたいものだ。
あ、ちなみに由比ヶ浜は退学を回避出来たらしい。教室に入る直前にDクラスから歓声が聞こえてきたので覗いたら、メチャクチャ喜んでいる由比ヶ浜がいたし。
まあ坂柳に目を付けられた以上、卒業するのは無理だろうけどな。
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