腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
中間試験が終わってから最初の休日、俺はショッピングモールの中心にある噴水前で携帯をいじっている。ふと携帯を操作してポイントを確認すると203295と表示されている。以前龍園から貰った報酬や賭けによる勝利、6月分の支給などがあり、俺のポイントはかなり潤っている。
6月分の支給については中間試験の結果が反映されてないから4万9千ポイントだったが、7月にはもっと貰えるだろうから楽しみで仕方ない。とりあえず30万を超えたらパソコンを買いたい。
「お待たせしました八幡君」
そんな事を考えていると横から声をかけられたので振り向くと待ち合わせをしている女子がやってきた。
「ようひより。今日はよろしくな」
「はいっ。よろしくお願いします」
ひよりが頷くので俺達は目的地の本屋に向かって歩き出す。中間試験以降最初の休日だからかショッピングモールには生徒が多い。知った顔もチラホラ見えるので、余計な邪推をされないように気をつけないといけない。
そうこうしている間にも本屋に着くので俺達は小説コーナーに向かうと新刊が出ている。テスト前は本屋に行けなかったのでどれも欲しい。
早速1番近くにある小説を取ろうとしたら……
「「あ……」」
ひよりも同じ本を取ろうとしたのか、俺とひよりの手が重なる。それにより俺の手には紙の感触ではなく、柔らかな感触がやってくる。
「わ、悪い……」
「気にしないでください」
俺は恥ずかしい気持ちで一杯だが、ひよりは全く気にしてないようなのでホッとしてしまう。
安堵の息を吐きながら違う本を取り、パラパラ捲る。勿論立ち読みするなら冒頭の部分だけだ。
お互いに違う本を無言で読むが特に気まずい空気にはならない。俺達は積極的に話をするタイプじゃないし、寧ろこうしている時間が静かで嫌いでない。
暫くの間、無言で読むがこの本は冒頭から中々面白いので購入することにした。本を閉じて次の本を取ろうとしたらひよりも同じタイミングで本を閉じて次の本を探している。
普段は無表情なひよりだが、本が関係すると凛々しくなるんだよなぁ……
そんなひよりに見惚れながらも俺も次の本を読み始めた。
15分後……
結局俺達は10冊くらい買う事を決めてレジに並んだ。休日だけあってレジもそれなりに混んでいた。
と、ここで新刊コーナーから愚痴が聞こえてきた。
「あーあ、今日新刊発売日なのに欲しい漫画全部買えないなー」
「これも全部由比ヶ浜さんのせいだよね。彼女が赤点なんか取ったから私達も払う羽目になったし。私、あの時助けるのに賛成したけど、それだってクラスの皆から冷たい女って思われたくなかったからだし」
「あ、それ私も。でなきゃ由比ヶ浜さんなんか助けないって。平田君や櫛田さんは優し過ぎるよね。Cクラスのリーダーが言ったように見捨てておけば足手纏いが1人減ったのに」
「しかも雪ノ下さん、ポイントがあるのに払わなかった幸村君とかに文句言ってたけど、幸村君別に悪くないよね?」
「4月から真面目に授業を受けてた幸村君からしたら由比ヶ浜さんは邪魔だからでしょ。後さ、雪ノ下さんって退学した場合のペナルティがどうこう言ってたけどさ、もし赤点取ったのが須藤君だったら見捨てていたよね?」
「私もそう思う。普段は上から目線なのに由比ヶ浜さんだけには甘いよね。真面目な話、今後も由比ヶ浜さんは足を引っ張るだろうし、ポイントの確保したいならペナルティを無視しても由比ヶ浜さんを切り捨てた方がいいでしょ」
Dクラスの女子と思える2人組が漫画コーナーの前で愚痴を吐きまくっていた。
女子怖え……見えない場所だからってボロクソに言い過ぎだろ。これ雪ノ下に聞かれたら絶対に面倒な事に「ふざけないで!」……なるな。早く会計したい。
チラ見すれば雪ノ下が肩を怒らせながら2人組に詰め寄っていて、本屋の入り口付近にはファッション誌を持った由比ヶ浜が泣きそうな表情を浮かべて3人を見ている。余りにもインパクトが強いからか俺の存在には気付いてないようだ。
「さっきから聞いていれば……私の友人を馬鹿にしないで。不愉快だわ」
雪ノ下の怒りの声に2人はビビるが、それも一瞬で直ぐに反撃する。
「事実を言っただけじゃん。彼女の1人の所為でクラスの皆に迷惑がかかったんだよ」
「そうそう。しかも他のクラスからもポイント借りて20万用意したけどさ、由比ヶ浜さんにその分の働きが出来るとは思えないんだけど。ポイントをドブに捨てたんだから愚痴りたくもなるよ」
「っ……!」
2人の言葉に由比ヶ浜は涙を流して走り去っていく。それを見た雪ノ下は2人に殺意を向けた眼差しを向ける。
「……覚えておきなさい。いつか貴女達に地獄を見せるわ」
そう言って雪ノ下は由比ヶ浜を追いかけるべく本屋から出て行く。その為、本屋の空気は重くなる。
と、ここで俺とひよりの番になったのでパパッと会計を済ませて本屋を出る。
「Dクラスの空気は相当悪いようですね」
「ま、クラスポイントが0の状態で大量のプライベートポイントが飛んだからな。しかもプライベートポイントについても由比ヶ浜がちゃんと勉強していたら失う事はなかったんだし」
本屋で揉めるなとは思ったが2人が言っている事については理解が出来る。今のDクラスの雰囲気は最悪だろうが、この雰囲気をなんとかするには由比ヶ浜自身が自分自身の有用性をDクラスに認めて貰う必要がある。最低でも20万……いや、龍園に渡した情報料も含めて30万ポイント以上の有用性をな。
「ま、俺達はCクラスだから関与する必要はない。それよりお前が言った公園に案内してくれ」
Cクラスである俺からしたらDクラスの結束力が弱い事はありがたいからな。
「あ、はい。わかりました」
ひよりが頷いて先導するのでそれに続く。ショッピングモールを出て真っ直ぐ歩き続ける。
暫く歩くと敷地の四隅に到着する。そこには芝生が広がっていてベンチやブランコがあり、謂わば憩いの場みたいな感じの場所だった。正直言ってこの学校にこんな場所があるとは思わなかった。
と、ここでひよりは持ってきた鞄のファスナーを開けたかと思えば、シートを取り出して芝の上に敷き、その上に座る。
「八幡君も座ってください。お茶やお菓子も用意しましたよ」
言いながらひよりは更に鞄から魔法瓶やバスケットを取り出す。芝の上にシートを敷いてバスケットや魔法瓶を出すことからピクニックに行っているような気分になるな。
「わざわざ用意したのか?言ってくれりゃ俺も準備したのに」
俺は特に何も用意してないので申し訳ない気分になってしまう。
「私から誘ったので気にしないでください」
笑顔でそう言われたら何も言えないな。俺は小さく礼をしてからシートに座り、先程購入した本を取り出すと椎名は俺の隣に座って同じように本を取り出す。
風が吹いて潮風の匂いを感じる。いつもひよりとは図書館で読書をするが緑に囲まれ、海が間近にある状態で本を読むのは悪くない。
暫くの間、互いに無言で本を読む時間が続くとクゥ〜、可愛らしい音が鳴るので本から顔を上げると、ひよりが恥ずかしそうに俺を見ていた。
「……すみません」
「別に謝る事じゃない。てか読書をして1時間経ってるし」
互いに一言も話さないまま1時間が経過しているが特に気まずい空気は存在しなかった。
「そうみたいですね。あ、八幡君も食べてください」
ひよりはバスケットからサンドイッチを取り出してくる。といってもハムやツナでは入ってなく、ブルーベリーやイチゴジャムなどお菓子に近いサンドイッチだった。
「「頂きます」」
挨拶をしてサンドイッチを口にする。同時に程よい甘みが口の中で広がってくる。
「美味いな」
「そう言って貰えて嬉しいです……八幡君」
ひよりは途端に神妙な表情になるので俺も気を引き締める。
「どうした?」
「今回の中間試験はあくまでテストとの戦いでしたが、今後は学校の特色からして他所のクラスとぶつかるでしょう」
「だろうな」
今回の中間試験でクラスポイントが貰えるのは知っているが、いずれは他クラスとポイントがかかった戦いをするだろう。でないとAクラスに上がるのは無理だろう。
「ですから今後は色々と警戒することも増え、精神的に疲れるでしょう。ですから……八幡君さえ良ければ月に一度くらい、ここで一息つきませんか?」
ひよりはそんな風に質問をしてくるが、俺の中で既に返答は決まっている。
「ああ。月の最初の日曜日に支給されたポイントで本を買ってここで読もう」
これからは色々と面倒事が増えるんだ。早いうちに心を休める日を確保するのは間違いない。
そう返しながらサンドイッチを食べ終えると不意に眠くなり欠伸をしてしまう。昨日の夜は緊張していて寝れなかったからな。
「眠いのですか?でしたら少し休んでください」
ひよりはそう言ったかと思えば俺を優しく引っ張り、気がつけば俺の頭はひよりの膝の上に乗っていた。
予想外の展開に驚きながら頭を起こそうとするが、その前にひよりか俺の頭を優しく撫でてくる。その撫で方はとても気持ちが良くて、睡魔の力が増してくる。
ダメだ……これは逆らえない。
「……すまんひより。少しだけ寝て良いか?」
「もちろんです。ゆっくり休んでください」
ひよりの言葉に俺はゆっくりと目を閉じて、眠りにつくまでひよりの撫で撫でを堪能するのだった。また来月もこうやって一緒に過ごしたいと思いながら。
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