腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「先ずは謝罪を。最終的には勝ちましたが私は自ら提出したチェスで綾小路君に敗北してしまいました。申し訳ありませんでした」
Aクラス、有栖は教壇の横に立って頭を下げる。それは昨日の選抜試験についてだ。最終的にDクラスに4勝3敗で勝ちはしたが自身の選んだ種目で負けた有栖はクラスに敗北の危険を与えたなのは間違いない。
実際水泳の種目でDクラスの小野寺が足を攣らなかったら3勝4敗で負けていたのだから。
「そこまで気にする必要はないだろ?相手は怪物だし」
橋本がそんな声を口にする。実際綾小路の怪物っぷりは有名だ。ペーパーシャッフルでこのクラスが作った問題では全科目満点、全学年合同合宿では全教科満点で駅伝の試験中には熊を気絶させて、学年屈指の須藤を赤子のように扱ったりと半年で様々な伝説を作っている。
これについては有栖に内心にて不満を持っている生徒も文句を言うつもりはなかった。人間が怪物に負けることなど当然なのだから。
「ありがとうございます……今後は精進していきます……次に鬼頭君には素晴らしい光景を見せてくれたお礼に何かしらの特別手当を与えたいのですが要望はありますか?」
有栖は鬼頭を見ながらそう口にする。昨日鬼頭は学校一の疫病神である由比ヶ浜とボクシングをして鳩尾を殴り嘔吐させてから顔面を殴り鼻血を噴かせている。あの光景を見たAクラスは歓喜の表情を浮かべて鬼頭を讃えていた。
有栖自身、素晴らしい光景を見せてくれた鬼頭には感謝していて、100万ポイント寄越せくらいの頼みなら聞くつもりである。
「……不要だ。あの塵を殴る機会を貰えたのが充分な報酬だ。報酬なら神室に渡せ」
鬼頭からしたら由比ヶ浜を殴る機会を与えてくれた真澄に感謝をしている。今まで由比ヶ浜の喚きにうんざりしていたのは鬼頭もだが、理由もなく大怪我をさせたら無罪になるのは無理、かといって松下や白波のように軽傷を与えるだけで足りないと考えていた。
よって合法的に怪我をさせれるボクシングを選んだ際には真澄に感謝して、鳩尾、鼻、顎を全力で殴ると決意して参加したのだ。尤も、鼻を殴った時点で学校側が止めに入ったけど。
「いや、良いよ。私もアイツがボコボコにされてるのを見れたのが1番の報酬だし」
真澄もそう返す。真澄も由比ヶ浜の愚行にはうんざりしていたので、ポイントよりも価値があった。
「では今は保留にして欲しいものがあればいつでも言ってください。それから森下さん、綾小路君と過ごした時間はいかがでしたか?」
有栖は鬼頭の後ろの席に座る森下藍という無表情の女子に話しかける。昨日の「綾小路が勝てば綾小路に興味を持つ女子を紹介する」という賭けで、有栖は森下を紹介した。
紹介したら綾小路が「とりあえずお互いの事を知りながら遊びに行くか」と森下を連れて先に教室を出たので、その後のことについては聞いてなかったので今聞いている。
「それなりに充実しましたが、おかしな事はありませんでしたよ。綾小路清隆の奢りでご飯食べて、ゲームセンターでプリクラを撮って、映画館で対象年齢15歳以上の少し卑猥な映画を見たり、並んで歩いていたら何故か喧嘩を売ってきた須藤健を綾小路清隆が返り討ちにしたり、綾小路清隆の部屋に行って、綾小路清隆の膝の上に乗りながらテレビを見たり、その際に軽井沢恵が乗り込んでいて睨まれたり、別れ際に綾小路清隆からいずれ恋人にすると宣言されたくらいですね」
『ありまくり!』
クラスの皆がツッコミを入れる。奢りで飯を食べたり、プリクラを撮ったり、映画を見るのはわかる。須藤が八つ当たりしたのもモテない男の僻みと理解出来る。
しかし膝の上に乗ってテレビを見たり、恋人の恵と修羅場って、綾小路本人から恋人にする宣言されるのは完全に理解の外で有栖ですら口元を引き攣らせる。
「そ、そうですか。ちなみに何故綾小路くんの膝の上でテレビを?」
「元々私は綾小路清隆の横で見ようとしましたが、その前に綾小路清隆が私を膝の上に乗せてきました。事情を聞いたらいつもの癖だと言ってきて、私としても別に減るものじゃないから好きにして良いと言いました」
森下の淡々とした口調にクラスメイトはなんとも言えない気持ちになる。変人である事は前から知っていたが、これについては予想外だった。
「それで坂柳有栖。綾小路清隆は面白かったので個人的に今後も関わる予定ですが、彼から情報を聞いた方が良いですか?」
「……いえ。綾小路君くらいになると重要な情報を抜き取るのは厳しいでしょう。寧ろ間違った情報に撹乱される恐れがあるので、クラス間闘争の件については話題に出さなくて結構です」
これについては真剣にそう思っている。Dクラスの情報については他の生徒から奪う方が安心だからな。
「了解しました。では今後はプライベートな関係を築いていきます」
その気はないだろうが恵が聞いたらキレそうな返事をする森下は欠伸をしてウトウトし始め、クラスメイトは生温かい眼差しを向けるのだった。
「皆、ごめん!私が足を攣らなかったらAクラスに勝ったのに!」
Dクラスの小野寺かや乃は皆の前で頭を下げる。昨日の特別試験で小野寺はDクラスが選んだ水泳でゴールの手前で足を攣ってしまい、ギリギリでAクラスの橋本に抜かされてしまったのだ。
もし足を攣らなかったらAクラスに勝っていたので小野寺からしたら罪悪感が強かった。
そんな中、クラスのリーダー的ポジションの櫛田は小さく笑う。
「アクシデントは付きものだから仕方ないよ、怒ってないから元気出して」
優しく励ます櫛田はプロテクトポイントを失ったが実際に怒りは殆どない。由比ヶ浜を庇い続けた事によって鍛えられたメンタルには大したダメージじゃないからだ。
「だよね。それにちゃんと堀北さんや須藤君と違って自分の非を自ら告げてるし攻めるのはお門違いじゃない?」
「何だと松下!テメェ調子に「お前が調子に乗るな。昨日の二の舞にするぞ」クソがっ!」
千秋の罵倒に須藤はキレそうになるが綾小路が黙らせる。昨日森下と遊んだ帰りに奉仕活動をしていた須藤が八つ当たりをしてきて、罵倒を返したら殴りかかってきたので返り討ちにしたのだ。
「これを楔にして今後も精進すれば伸びるだろうし、そう気にする必要はないだろう。お前は堀北と違ってどうしようもない奴じゃないんだから」
綾小路は淡々とそう口にする。選抜種目を決める際にも綾小路は堀北に上から目線で必ず勝てなんて強要されてウンザリしていたのだ。
「……っ!」
隣に座る堀北は悔しそうに握り拳を作るが口にはしない。須藤ほとじゃないが綾小路にボコボコにされているからだ。加えて綾小路は有栖相手に勝ち星をあげているし、堀北は昨日の種目で負けていて、その差は明らかである。
「何にせよ終わった事だからそんなに気にしなくて良いよ。ね、皆?」
櫛田の言葉に大半の人間は頷く。他の大半も小野寺に恨みを抱いていない。
何せ1年間、由比ヶ浜の存在に苦しめられたのだから。
そんな感じで由比ヶ浜が病院で無意識のうちに南雲を苦しめて居ない為、Dクラスには穏やかな時間が流れていた。
尤も残っている2馬鹿と堀北に対して全員が殺意を宿しているのだが。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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