腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「ふぁぁぁぁぁ……眠い」
俺は大欠伸をしながらCクラスの教室に向かう。昨日は坂柳とのある一件の所為で一睡も出来ず、今はクソ眠くて仕方ない。
教室に入ると騒めきが聞こえてくる。大半が携帯を見ているが何があったんだ?
と、ここで隣の席のひよりが話しかけてくる。
「おはようございます八幡君。眠そうですが、眠れなかったんですか?」
「ん……まあな。というかクラスが騒々しいがなんかあったの?」
「八幡君、携帯を見てないんですか?ポイントが振り込まれてないんですよ。それも他所のクラスも」
ひよりにそう返される。そういや今日は7月1日だったな。言われて端末を見ると確かにポイントは昨日から変動してない。他所のクラスもって事はウチのクラスポイントが0になった訳ではないので、多分学校側にトラブルがあったからだろう。
そしてトラブルと言ったら昨日の一件以外思いつかない。恐らくトラブルが解消したら振り込まれるだろう。
と、ここで坂上先生は教室に入ってくる。
「諸君おはよう。朝のHRを始める」
「先生。ポイントが振り込まれてません。他のクラスも振り込まれてないみたいなんですが、4クラスともクラスポイントが0になったんですか?」
生徒の1人が恐ろしい事を言ってくる。4クラスが0ポイントとかマジで笑えないぞ。
「実はトラブルがあってポイントの支給が遅れているんだ。1年全クラスのポイント配布に遅れが出ているのでクラスポイントが0になった事はないから安心してくれ。とりあえず今月のクラスポイントを発表する」
言いながら坂上先生はホワイトボードに文字や数字を書き始める。
Aクラス 1004cp
Bクラス 745cp
Cクラス 586cp
Dクラス 80cp
先月のCクラスは490cpだったのでつまり96cpも上がっていたのだ。
Aクラスについては入学時のポイントよりも上回っているし、どのクラスも確実にポイントを増やしてきている。
「この1ヶ月よく頑張った。先月より96cpも増やしたが、伸びについては4クラスの中で1番だからね。ポイントについてはトラブルが解消次第支給される」
「えー、なんかお詫びとかないんですか?」
ある男子がそう言っているがないだろう。例のトラブルを引き起こした奴はウチのクラスにいるだろうし。
昼休み……
「済まんひより。今日は寝たいから図書館はパスする」
昼食を済ませた俺はひよりにそう口にする。昨日の一件の所為で一睡も出来なかったので昼休みは爆睡したい。授業中に寝たらクラスポイントが下がるので舌を噛んで何とかやり過ごしたが、ついに限界を迎えた。
「わかりました。もしよろしければ膝枕をしますよ」
ひよりはそう言ってくる。確かにひよりの柔らかな膝枕は最高だが……
「悪いが遠慮しとく。今日はガチで寝たいから枕だけじゃなく布団も欲しい」
「あ、そうなんですか。わかりました。もしも5時間目までに帰ってこなかったら放課後ノートを貸しますよ」
「サンキュー。んじゃまた後で」
ひよりに礼を言ってから教室を出て保健室に向かう。これでベッドがありませんとかだったら、龍園からアルベルトを借りてベッドを譲って貰おう。
そんな事を考えながら保健室の前に着いたのでドアを開けようとすると、同じタイミングでBクラス担任の星之宮先生が出てくる。
「あれ?保健室利用者?」
「1年Cクラス比企谷八幡です。実は寝不足なんでベッドを借りたいんですが」
言うなり星之宮先生は俺の顔を覗き込んで頷く。
「あ〜、君も眠そうだね。じゃあ真ん中のベッドを使って。私は今から職員室に行かないといけないんだけど、寝る前に机の上にある紙に記入事項を書いといて」
「わかりました」
星之宮先生に一礼してから保健室に入る。そしてクラスと名前、保健室に来た理由を書こうとするが……
(1年Aクラス坂柳有栖、寝不足って……まさかアイツも寝てんのか?)
俺が書こうとした欄の1つ上には坂柳の名前が書いてあった。寝てない理由は十中八九俺と同じだろう。
そう思いながらも名前を書いて真ん中のベッドに近寄ると……
「すぅ……すぅ……」
隣のベッドにて寝息を立てている坂柳が目に入る。どうやらぐっすり眠っているようだ。これなら気まずい雰囲気にならないで済む。
俺は靴を脱いでベッドに入り布団を掛ける。隣に坂柳はいるが、クソ強い睡魔には勝てず、直ぐに瞼を閉じてしまった。
「んっ……」
ふとした瞬間、目を覚ます。そして窓を見ると夕焼けが目に入る。同時に俺は午後の授業を全て休んだ事を理解する。
やっちまった……これクラスポイントが下がる要因に……いや、授業中に寝たんじゃなくて先生から許可を得たから大丈夫か?
「しかし今は何時だ?」
「4時ですね」
「マジか……後でひよりにノート借りる……か?」
横から声が聞こえてきたので振り向くと……
「よく眠れましたか、比企谷君」
隣のベッドに坂柳がいた。そういや隣で俺より先に寝ていたな。
(しかし……思ったより恥ずかしくないな)
俺は暫くの間、マトモに話せないと思っていたがよく寝たからか、坂柳と向き合っても余り恥ずかしい気持ちが生まれない。
「……ぼちぼちだ。お前も起きたばかりか?」
「はい。お昼休みに寝始めたのですが、比企谷君もですか?」
「まあな。3時間ちょいだけだが体調はすこぶる良いな」
昨日一睡も出来なかったし当然といえば当然だ。
「私もです。比企谷君……改めて昨日の事を謝ります。不愉快な気分にさせてしまいごめんなさい」
坂柳はペコリと頭を下げてくる。対する俺も坂柳と向かい合って頭を下げる。
「いや、元々俺がお前をからかったのが原因だ。改めて謝罪する」
少なくとも坂柳によって不愉快な気分にはなってない。
「私は怒ってません。比企谷君が怒ってないならこの話は終わりにしませんか?」
「お前が怒ってないならこちらとしても願ってもない」
「なら良かったです。こんなつまらない件で仲違いするのは面白くないですから」
まあ仲違いしたら物凄い間抜けかもな。
「だな。とりあえず目が覚めたし、星之宮先生に報告へ行かないか?」
保健室にはいないがクラスポイントが関係しているかもしれないので報告はするべきだろう。
「そうですね。多分職員室にいると思いますから行きましょう」
言いながら坂柳は杖を利用してゆっくりとベッドから降りる。たったそれだけの事なのに30秒近く時間をかけている。ここまで身体が弱いとは予想外だが、日常生活は辛そうだ。
とはいえ同情はしない。健康体の俺が無闇に気遣っても坂柳からしたら「テメェ、馬鹿にしてんのか?!」と思われるかもしれないし。
俺もベッドから降りて靴を履いて坂柳の足に合わせてゆっくりと歩く。
そして職員室の前に着いたのでノックをしようとした時だった。
ガララ……ドンッ!
「きゃあっ!」
突如ドアが開いたかと思えば生徒が勢いよく出てきて坂柳を突き飛ばす。
俺が慌てて坂柳を抱きとめながら見上げると、昨日暴れた須藤はいた。職員室にいた事、物凄く苛々している事から察するに昨日の一件について問い詰められたのだろう。
「邪魔だ。ぼけっと突っ立ってんじゃねぇよ」
須藤は舌打ちをしながらそう言って肩を怒らせながら去って行く。そんな須藤の態度に思うことはあるが坂柳が優先だ。
「大丈夫か坂柳?」
そう尋ねるも坂柳は苦しそうなので俺は坂柳を抱き抱えて職員室近くにあるラウンジの椅子に座らせる。
「星之宮先生には俺が報告するからちょっと休め」
坂柳が返事をする前に職員室に入る。
「失礼します。星之宮先生はいますか?」
「あ、比企谷君。目が覚めたから報告に来たの?」
「はい。それと坂柳も起きて外に居ます」
「オッケー、じゃあ記録しとくね」
星之宮先生はそう言って職員室から出て行く。そして入れ替わるように坂上先生が話しかけてくる。
「おや比企谷君。体調はもう大丈夫かね?」
「ええ。ご迷惑をおかけしました。ちなみに聞きたいことがあるんですけど、さっき須藤が飛び出したのって例のトラブルですか?」
「詳しい事は明日話すが、ポイントの支給が遅れている理由はまさにそれだ。まあCクラスのポイントについては影響がないと思うから、来週の水曜日の朝には支払われるだろう」
その言葉からして坂上先生は勝ちを確信しているようだ。まあ俺も確信している。今朝石崎達の怪我の様子を見たか余りにも痛々しい。監視カメラがない場所で3対1でボロ負けしたのは多少不自然かもしれないが、暴力を振るった須藤に重い罰が与えられるのは明白だ。
「わかりました。ではまた明日」
そう一礼してから職員室を出る。同時にラウンジの椅子に座っている坂柳の下に向かうがやはり辛そうだ。
「大丈夫か坂柳?」
「ちょっと苦しいですね……」
「そうか……あの野郎、随分とふざけてやがるな」
自分から坂柳を突き飛ばしておきながら邪魔呼ばわりするとは……正直須藤を嵌める事について多少思う事はあったが、さっきの時点でそれは無くなった。遠慮なく潰す。
……いや、今は坂柳を優先だ。
「とりあえず帰るか。歩くのが辛いなら運ぶぞ?」
「お願いしても良いですか?」
「もちろんだ。乗れよ」
言いながら坂柳に背中を見せる。坂柳の体重が軽いのは知っているので「あの……」大丈夫とは思うが、ここで坂柳が話しかけてくる。
「どうした?」
「可能なら抱き抱えて運んでくれませんか?以前された時、凄く安心したので……」
以前……ああ、由比ヶ浜から逃げる時か。
「まあ別に構わない」
恥ずかしい気持ちが無いわけじゃないが、坂柳が安心するというなら拒否するつもりはない。
「わかったよ。ほれ」
「あっ……」
俺が抱き抱えると坂柳は小さく吐息を漏らしてから、俺の腕の中で借りてきた猫のように縮こまり、ギュッてしてくる。
普段ならドキッとするかもしれないが、今の状況ではドキドキするのは不謹慎だからか特に恥ずかしい気持ちが沸く事なく、歩き始める。
校舎を出るとそれなりに注目を集めるが今更だ。
「そういや坂柳。さっき坂上先生が来週の水曜日の朝にはポイントが振り込まれるって言ってたし、火曜日の放課後あたりに処罰が決まるみたいだ」
「そうですか……ではそれまでにDクラスがどう動くかをしっかり把握しないといけないですね」
どうやら坂柳の中では由比ヶ浜だけでなく須藤も敵として認定されたようだ。まあ須藤の態度はクソだったし、同情しないけど。
そう思いながら俺は坂柳を抱き抱えたまま、寮に戻り坂柳の部屋がある階に到着する。
そして坂柳の案内の元、坂柳の部屋の前に着いたのでゆっくりと下ろして杖を渡す。
「わざわざありがとうございます。この恩は必ず返します」
「気にすんな。それよりもしもヤバくなったら直ぐに連絡しろ」
「わかりました。ではこちらをどうぞ」
言いながら坂柳は懐から何かを出すが……
「待てコラ。カードキーを渡すなよ。俺は男だぞ」
それは部屋のカードキーだった。懐から出した事から坂柳の部屋のそれに違いない。
俺も普段はポケットに入れて、予備を部屋の机の中と懐に入れているが、まさかカードキーを渡してくるとは思わなかった。
「問題ありません。比企谷君はいやらしいことをすると思えないですし、今後作戦会議をする時に電話やメールに記録を残すと危険な際は直接話す必要がありますから」
いや、だからって躊躇いなく自分の部屋の鍵を渡すか普通?
「では私は失礼します。今日は色々とお世話になりました」
坂柳はそう言って俺が声をかける前に部屋に入る。廊下には坂柳の部屋のカードキーを持った俺のみ。
「いや、マジでどうすんだ?」
手にあるカードキーを持ちながらそう呟くことしか出来なかった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
-
はい。
-
いいえ