腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「それで比企谷。進捗はどうだ?」
7月3日の夜、俺の部屋にて龍園がそう尋ねてくるので俺は机の中からメモ帳を、鞄の中からコピー用紙を取り出して龍園に渡す。
「メモ帳に書いてあるのが俺がネットで調べた須藤の情報、コピー用紙に書かれているのが校内掲示板で得た須藤の情報だ」
俺が龍園に渡したのは須藤に関する情報だ。前者については中学時代の須藤のネタが多く、後者については入学してから須藤が起こしたトラブルネタが多い。
「仕事が早いな。とりあえず暴力事件で推薦取り消しになったのは事実だな。このカードについては審議で使う」
龍園はそう言っている。須藤が中学時代に暴力事件を起こし推薦取り消しになったのは俺が作った掲示板にも書いてあったので事実だろう。
「他の情報については?」
「コピー用紙に書いてある情報については信憑性が高いからCクラスの連中に読ませてDクラスを挑発する。この場合、下手な嘘より事実を広めた方がいい」
龍園は早速攻撃的な作戦を口にする。本来なら無駄とわかっても諌めるかもしれないか、相手が須藤の時点でその気はない。
と、ここで俺の携帯が鳴り出す。画面を見ると神室からだった。
「出て良いか?」
「ああ」
龍園から許可を得たので電話に出る。
「もしもし?」
『比企谷?進展があった』
進展だと?俺はてっきり、Dクラスは碌に準備も出来ない状態で参加すると思ったがな。
「何だ?新しい目撃者をDクラスが見つけたのか?」
『そうじゃないわ。BクラスがDクラスに協力することになった』
あ?BクラスがDクラスに協力だと?
「確かな情報か?」
『さっき特別棟から一之瀬がDクラスの生徒と話しながら一緒に出てきたし、可能性は高い』
一之瀬……確かに奴は目の前のトラブルを止めようとする性格だし、今回の件を見過ごせないと動いた可能性もある。
とりあえずBクラスとDクラスは同盟を組んだと考えておこう。
「もしかして俺達がお前らと組んでるのもバレた?」
『絶対とは言い切れないけどバレてはないと思う。事件以降、私達は直接会ってないし、私も電話するときは自室でしてるし』
「わかった。じゃあまた進展があったら頼む」
そう言ってから通話を切って龍園に話しかける。
「神室から報告、BクラスがDクラスに協力した可能性有りとのことだ」
「なるほどな。CクラスがBクラスに迫るのを危惧したからか、はたまた俺の仕業と一之瀬が勘付いたかのどっちかだな」
「で?Bクラスについても仕掛けるのか?」
「Bクラスについては放置で良い。出来るとしても精々目撃者の捜索くらいだろ」
「わかった。じゃあ話を戻すがDクラスに挑発するのは賛成しない。審議前の挑発は妨害行為と疑われるぞ?」
「安心しろ。挑発って言っても悪口じゃなくて、須藤に対して自首しろって懇願するだけだ」
いやそれある意味悪口よりもタチの悪い挑発だろ……ま、大将は龍園だからこれ以上反対するつもりはないが。
「好きにしろ。それと有力情報を提供した奴に対するポイントは1人あたり5千で大丈夫か?」
「情報提供者は11人……ま、そのくらいが妥当か。後でアドレスを俺の所に送れ」
「了解した。俺は引き続き情報収集に勤しむ」
さて、DクラスはBクラスと組んだようだが……まあ龍園みたいなエグい手段は使わないから大丈夫だろう。
「それで今後目撃者について探すんだけど、学校のHPを使った方がいいかな」
同時刻、Bクラス代表の一之瀬帆波は今後の打ち合わせに関する事案としてDクラス主力の堀北鈴音にそう告げると、堀北は訝しげな表情となる。
「HP?」
「うん。学校のHPには掲示板があるの。既にCクラスは情報収集をしているから、情報量の差があるだろうから少しでも差を埋めた方がいいよ」
一之瀬はそう言って自分の携帯を操作して八幡が作ったページを見せる。そこには須藤に関する情報を求めている旨が記されていた。しかも生徒をやる気にさせる為か有力情報提供者にはポイントを渡す事も記されている。
「今回の件、十中八九Cクラスが仕掛けた罠だと思うけど、向こうは既に沢山の情報を持ってるから嘘を押し切られる可能性があるから気をつけた方がいいよ」
「言われるまでもないわ。それと一之瀬さん、Cクラスの龍園君について詳しい情報を知ってるかしら?」
予想外の名前が堀北の口から出て一之瀬が目を丸くする。
「もう龍園君と接触したの?」
「直接接触したわけじゃないけど……」
堀北はそう前置きして中間試験結果発表日の一件を話す。それを聞いた一之瀬は険しくなる。
「退学者が出かけたのは知ってたけと、土下座を強要してきたんだ……結論から言うと龍園君はCクラスのボスだね。自分の利益の為なら他を陥れる事を迷わないし、クラスメイトを駒としか見てない危険な人物。以前BクラスもCクラスと揉めたんだけど、その時に裏で糸を引いてた事もあるくらい。多分今回も一枚噛んでいると思う」
「そう……もう一つ聞きたいのだけど、比企谷八幡という男の情報は持っているかしら?」
堀北は過去に何度か会ったCクラス男子について質問すると一之瀬はキョトンとしてから口を開ける。
「比企谷君?比企谷君については謎が多いんだよねー。特に動いてる訳じゃないけど、Aクラスリーダーの坂柳さんと仲が良いし、龍園君にその事を咎められてないから只者じゃないと思う」
「そう……わかったわ」
堀北は一之瀬の言葉に頷きながら、中間試験結果発表日に見た2人の男子を思い出すのだった。
翌日……
「だからさ。頼むから自首してくれないかな?須藤君が嘘を吐いている所為で皆に迷惑がかかってるんだよ?」
「ふざけんじゃねぇよ!嵌めたのは小宮達なんだよ!」
朝、教室に向かおうとするとDクラスの教室前でCクラスの生徒数人が須藤に自首をするように頼んでいて、須藤がキレている。どうやら龍園の奴、早速作戦を開始したようだ。
「悪いけど信じられないな。須藤君って入学初日に上級生と揉めて、コンビニのゴミ箱を蹴り飛ばしてたし」
「あ、私もそれ見た。それと食堂で無理矢理割り込んで、注意した生徒に逆ギレしたよね?」
「それと図書館でウチのクラスの比企谷の胸倉を掴んでた事もあるし、信じろって方が無理だよ」
Cクラスの生徒は容赦なく須藤を責める。対する須藤は苛立ちを露わにしながらも手を出さない。何せ彼等が言っている事は全て事実であるし、審議前に殴ったら退学する危険性があると考えているから殴れないのだろう。
「小宮達に呼ばれたって言うのも、小宮達を嵌める為の嘘なんだよね?正直に認めてよ」
「くそがっ!」
須藤は怒りながら教室に入る。どうやら手を出させるのは失敗に終わったようだな。
しかし廊下を歩く他の学生からしたら、須藤にとって都合が悪くなったから逃げた、と考えるだろう。それによりDクラスは益々見下されるようになっていくのは明白だ。龍園の奴、本当に容赦ないな。
そう思いながらCクラスに入って自分の机に座るとひよりが話しかけてくる。
「八幡君。少し聞きたい事があるんですが、大丈夫ですか?」
「どうした?」
「えっと、八幡君も証人として来週の話し合いに参加するのですよね?」
「加えて龍園から弁護人として出るように頼まれている」
「その件なんですけど、日曜日も忙しいのですか?」
「?いや、割と余裕はあるな」
既に話し合いで武器として使うカードも、向こうが証人などを用意した対策も殆ど完成している。加えて坂柳もいるから作戦は殆ど完成しているので、休日返上して対策を考える程じゃない。
「でしたら以前約束したように公園に行きませんか?ポイントは支給されてないので新しい本は買うか決めてませんが……」
ああ、月に一度敷地内の隅にある公園に行くって約束していたな。ひよりもちゃんと覚えていてくれて嬉しいな。
「お前が望むなら行こうぜ。審議もクラスポイントが関係するから大切だが……」
ひよりと過ごす時間はもっと大切だ。
それはまだ言えない。恥ずかしい気持ちもあるが、正直言ってこれ以上彼女に歩み寄るのが怖いからな。
「だが?」
「何でもない。単に疲れを癒したいって思っただけだ」
そう返事をして1時間目の授業の準備を始める。これも嘘ではないから問題ない筈だ。
それから俺はいつものようにクラスポイントが減らないように真面目に授業を受けて、放課後になって情報収集と作戦の見直しをするのだった。
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