腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「いい加減にしろ須藤。これ以上橘の警告を無視するなら、ここで審議を終了して本来お前に与える予定の処分を下す事も考えないといけない」
須藤のあんまりな言動に対し、遂に橘先輩に代わって堀北会長が威厳ある態度でそう言ってくる。
おいおい……こっちは勝つ為に色々作戦を練ってきたが、マトモに審議をする前にこっちが勝っちまうんじゃね?
これには坂柳も呆れ果てている。コイツがそんな表情をするのは予想外だが気持ちはよくわかる。
ま、俺としてはその方がありがたいけど。
「ちっ!」
須藤は舌打ちをしながら席に座る。後1回か2回キレたらチェックメイトだな。
「では小宮君。改めて説明をお願いします」
「はい。実際は僕達が須藤君に呼び出されて特別棟に行きました。そこで喧嘩を売られたので悪口を言ったら、真っ赤になって殴りかかってきました。咄嗟に反撃しようとしましたが、須藤君の力は強くなす術なく負傷してしまいました」
「双方共に呼び出されたと主張しており食い違っています。しかし共通することもあります。彼らの間に揉め事があったんですね?」
「揉め事というか……須藤くんが絡んで見下してくるんです」
「見下す?」
「はい。彼は一年の中では群を抜いてバスケが上手い。もちろん僕達も必死になって練習して追い付こうとしています。けどそんな僕たちを、須藤くんはバカにしてくるんです。そういう意味では揉めていたかもしれません」
まあ須藤ならあり得るだろう。ただし龍園みたいに悪意剥き出しではなく、ナチュラルに見下すって感じだと思うが。
「小宮の発言は全部嘘だ。こっちが練習してるときに邪魔してくんだよ」
「身に覚えがないです。僕達は須藤君に呼ばれて殴られました。これは事実です」
「嘘ついてんじゃねぇよ。お前らが先に仕掛けてきたんだ。正当防衛だっつの」
当然両者の意見は一致することはなく、相手が悪いとしか主張しない。
「両方の言い分がこれでは、今ある証拠ーーー目撃者である比企谷君と坂柳さんの意見などで判断していかざるを得ません」
橘先輩がそう言うと俺と坂柳以外の人間が一斉にこっちを見てくる。
「坂柳、俺から先に言って大丈夫か?」
「ええ」
坂柳から了承を得たので立ち上がる。
「事件当日の話です。俺と坂柳は図書館にいたのですが、その際に理科の課題に飲み物を溢して汚してしまいました。そこで俺達は特別棟4階にある理科準備室で新しいプリントを貰いに行きましたが、プリントを貰って理科準備室を出たら下の階から怒号が聞こえてきたので、上から見てみると須藤が小宮達3人をボコボコにしていました」
「証拠の動画もあるので確認をお願いします」
「なっ!」
須藤が叫ぶ中、坂柳はUSBを取り出すので俺が受け取り、堀北会長に渡す。
同時に堀北会長はUSBをパソコンに接続して、操作を始める。同時に橘先輩がスクリーンを設置する。
暫くすると動画が始まるが……
「これはこれは……」
スクリーンには須藤が3人を相手に容赦なく殴りまくっている映像が流れる。あの時見たように須藤は床に倒れる近藤の顔面に拳を叩き込み、近藤を助けようとした小宮の顔面に肘打ちをぶちかまし、最後に石崎の鳩尾に蹴りを入れている。
(改めて見るとヤバ過ぎだろ?仮に石崎達の嘘が見抜かれても過剰防衛で勝てる気がする)
そう思う中、スクリーンには暴行の動画が流れ、石崎達は床に倒れ伏し、階段を下り去って行った所で動画は終了した。この後石崎達は携帯を操作していたが、そこを録画してないのはファインプレーだな。
周りを見れば石崎達は勝ちを確信した笑みを浮かべ、須藤は真っ青になっている。
しかし、Dクラス側の弁護人の堀北は何をやっているんだ?弁護人が動画を見ないで俯いてるって……
「以上になります。私と比企谷君は途中からして見てないので、どちらが先に仕掛けてきたのはわかりませんが、須藤君の暴力行為は明らかに過剰過ぎます。これについて会長はどう思われますか?」
坂柳は堀北会長に質問をする。どうやらトドメを刺す気だな。
「坂柳と同意見だ。先に仕掛けたのはどちらかわからないが、須藤の暴力は過剰過ぎる」
「ま、待てよ!そいつらがグルに決まってるだろうが!図書館にいたとか言っておきながら実際は特別棟4階で待機して、都合の良い箇所だけ録画したんだろうが!」
須藤はあろうことか俺と坂柳がグルだと喚くが……
「でしたら会長。事件当日の図書館2階の監視カメラを確認してください。俺達は午後の授業が終わってから飲み物を溢すまで図書館にいましたから」
実際俺と坂柳は石崎達とグルになって須藤を嵌めてない。正確に言うと須藤達のトラブルを見てからグルになったんだ。
よってこの動画に関しては偶然から得た産物だ。
「後で確認しておく。しかしさっきも言ったが須藤の暴力が過剰である事、小宮達が一方的に殴られたのは明らかだ。よってそれを基準に答えを出すしかないだろう」
「そんなの納得いかねぇ!あいつらが雑魚だっただけだろ!」
馬鹿だコイツ。自分で自分の首を絞めてるよ。坂柳も一瞬だけ須藤に嘲笑を浮かべたし。
「力の差がある相手に対して正当防衛を主張するのか?」
「なっ……んなの、向こうは3人だぞ3人っ。危ないに決まってんだろうが!」
「だが、実際に怪我をしたのはCクラスの生徒だけだ」
「会長、発言「ひゃっ?!」……は?」
俺はトドメを刺すべく手を挙げようとしたら、以前会長とやりあっていた男が堀北の脇腹を掴んでいた。え?何やってんのアイツ?
「ちょっ……やっ、綾小路君、んっ……!」
俺が呆然とする中、綾小路は堀北の腰に手を当てたまま指を動かす。マジで何をやってんだ?
呆然としていると綾小路は堀北の腰から手を離す。対する堀北は半泣きになりながら綾小路を睨む。
「お前が戦わないならこのまま敗北だ」
「っ……」
その言葉に堀北はハッとした表情になって辺りを見回す。が、やがて会長の方を見る。
「……失礼しました。私からも質問、宜しいでしょうか」
「許可する。だが次からはもっと早く答えるように」
堀北は会長に黙礼してから立ち上がる。
「どちらが呼び出したのかはわからないですが、どうして石崎くんがこの事件に関わっていたのでしょうか。小宮くんと近藤くん二人だけならまだしもバスケット部に所属してない石崎くんが居るのは不自然だと思います」
そうなんだよなぁ。石崎がいたのはこちらのウィークポイントだろう。
「それは……用心のためです。須藤くんが暴力的である事は有名ですから」
「つまり須藤くんに暴力が振るわれる可能性があると想定していたのでしょうか?」
「そうです」
「なるほど。それで中学時代、喧嘩が強かった石崎くんを用心棒として連れて行ったんですね」
「自分の身を守る為ですよ。しかし石崎くんを連れてきたのは頼りになる友達だからで喧嘩が強いというのは知りませんでした」
「多少ではありますが、私には武術の心得があります。だからこそ分かるのですが、複数の敵と相対した場合の戦いは乗数的に厳しく難しくなります。喧嘩慣れしている石崎くんを含めたあなたたちが一方的に傷を負ったのは腑に落ちません」
「……それは僕たちに、戦う意志がなかったからですよ」
「喧嘩が起こる要因は自分と相手のエネルギーがぶつかり合い、その間合いを超えた時に発展すると見ています。相手に戦う意思がない場合、3人がそこまで怪我をする確率は非常に低いはずです」
堀北はルール、根拠に基づいた客観的な意見をぶつけ、小宮達は実際の証拠をぶつけて議論している。
この状況が続いてもこっちが有利には変わりないが、新しい一手を打つか。
「発言良いですか?」
「許可する」
「先程堀北は怪我をする確率は非常に低いと言いましたが、それは一般的な話で須藤については例外と断言します」
須藤が怒りを露わにしながら睨むが無視をする。
「先程の動画では3対1にもかかわらず、石崎達を圧倒して容赦ない暴力を振るっていましたし、須藤はこの学校に入る前から複数相手に暴力を振るって問題を起こしていた筈です」
後半部分については曖昧にして喋る。仕込みは完了。後は……
「はぁっ?!適当な嘘言ってんじゃねぇよ!」
須藤は真っ赤になって反論するが、若干の焦りが見える。もう奴は俺の罠に嵌ったようなものだ。
「須藤、嘘と言ったが複数相手に対して暴力を振るってないんだな?」
「当たり前だ!」
須藤は俺の質問にそう返すが……
「そうなのか?俺が調べたところ、バスケの名門校からスポーツ推薦を貰ったが、他校の生徒複数と喧嘩をして取り消しを食らったらしいが?」
審議中に俺を相手に嘘を吐いた事を後悔すると良い。
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