腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
『っ!』
俺の発言に生徒会室に緊張が走る。まさか知られているとは思わなかったようで、須藤は今更ながら冷や汗を流し始める。
しかし俺は容赦しない。
「その反応からしてビンゴのようだな。しかし須藤、それはつまり暴力事件を起こしてないって嘘を吐いたって事だよな?」
俺の質問に須藤は無言となる。しかしこれは予想通りだ。
最初に俺は須藤に対して、この学校に入る以前から暴力事件を起こしたんだろと尋ねたら、須藤は嘘を吐くなとキレた。
次に須藤に暴力を振るってないんだなと答えたら、須藤は当たり前と答えた。
そんで最後に俺は具体的な例を出して、須藤は冷や汗を流して黙り込む。
これにより須藤は審議中にも嘘を吐いた事を証明出来たが、今回起こった暴力事件は嘘が一番の問題となっているので、須藤の嘘はDクラスからしたら致命的だろう。現に堀北は物凄い眼差しで須藤を睨んでるし。
そんな中、坂上先生はこれをチャンスと捉えたのか薄く笑いながら口を開ける。
「これは問題でしょう。CクラスかDクラスのどちらかが嘘を吐いているかわからない状況の中、こちらの問いかけに嘘を吐くのは如何なものか……須藤君、何故嘘を吐いたのですか?」
須藤は返答出来ないが答えは決まっている。自分にとって都合が悪いからだろう。過去に暴力事件を起こしたなんて知られたら不利になると考えたからであるのは容易に想像できる。
大方この学校に入る前の事だからだから嘘吐いても大丈夫と思ったようだが、須藤について徹底的に調べ上げた俺には通用しない。
「とりあえず話を戻しましょうか。動画や須藤の証言や経歴から察するに須藤は複数を同時に相手にしても怪我をせずに勝てると思います。加えて都合の悪い事に対して嘘を吐く事から、今回の件についても嘘の証言をしている可能性はあります。これについて会長はどのように思われますか?」
「比企谷の主張を認める」
よし、会長のお墨付きだ。これはつまり会長は今後Dクラス、特に須藤の意見を疑うだろう。
更にこっちが有利になったな。もう後2、3手で詰みか、
「会長。発言の許可をお願いします」
「許可する」
と、ここで堀北が手を挙げて会長に発言の許可を貰う。
「確かに須藤くんが彼らを殴り付けたのは事実ですし、嘘を吐いたのは問題行為です。しかし、今回の件において先に喧嘩を売ったのはCクラス側です。一部始終を目撃した生徒も居ます」
「目撃者?会長。俺と坂柳以外に目撃者として名乗り出た生徒がいるんですか?」
もしも居るならば、生徒会室にいて最初から審議に参加していた筈だ。
「いや。私が知る限り比企谷と坂柳だけだ」
「後から名乗り出てくれました」
堀北がそう答える。後から、ねぇ……何とも胡散臭い話だ。
「では、その生徒を入室させて下さい。」
すると生徒会室のドアが開き、眼鏡をかけた女子が入ってくる、緊張しているのは誰の目から見ても明らかで彼女の視線はあちらこちら見回している。
橘先輩が彼女に話しかける。
「所属クラス及び、名前を聞かせて下さい」
「……1年D組、佐倉愛里です」
「Dクラスの生徒でしたか」
坂上先生は眼鏡のレンズを拭きながら失笑した。
「何か問題でも?」
「いえいえ、全然ありませんよ」
「では証言をお願いします」
「は、はい……。わ、私は……」
しかし佐倉はそれ以上話せずに、顔を俯かせる。顔色は青くなっている。30秒経過しても話す様子はない。
……これ以上は時間の無駄だな
「彼女は証言をしないようですし、下がらせるべきでは?」
俺は彼女を下げるべきと告げる。嘘を話すならまだしも、全く喋らないのは論外だろう。
「確かにこれ以上は時間の無駄のようだな。下がって良いぞ佐倉」
意外にも俺の意見に賛成したのはDクラス担任の茶柱先生だった。賛成意見を貰えるとは思っていたが、てっきり会長から貰えると思っていた。
そんな茶柱先生の言葉に会長も止める気配を見せない。それに伴いDクラスの敗戦の色が充満していく。
と、その時だった。
「私は確かに見ました……!最初にCクラスの生徒が須藤君に殴りかかったんです。間違いありませんっ!」
予想外の展開が起こった。さっきまで俯いていた佐倉が顔を上げてハッキリした声で告げる。どうやら絶体絶命のピンチで覚醒したようだな。
しかし俺としては覚醒した人間を放置するわけにはいかない。
よって俺が手を挙げようとすると坂上先生が同じタイミングで手を挙げる。
「坂上先生からどうぞ」
「いや。比企谷君からどうぞ」
「ありがとうございます。会長、発言の許可をお願いします」
「許可する」
「ありがとうございます。佐倉といったか?何故目撃者として名乗りを上げるのが遅い?正直俺はDクラスがマイナス評価を受けるのを恐れて偽物の目撃者を用意した、と思ってる」
言い方は悪いかもしれないが俺の言葉は間違ってないだろう。本当に目撃者なら事件が発覚した初日に申し出るべきで、後から名乗り出られても怪しすぎる。
まして佐倉はDクラスの生徒だ。そんな彼女が都合良き同じクラスの生徒が人気のない特別棟にいて一部始終を目撃した、なんて言っても信じられない。余りにも出来過ぎだ。
「それは……その、巻き込まれなくなかったから、です……」
佐倉はしどろもどろになりながらもそう返す。なるほどな。まあ巻き込まれたくない気持ちはわかる。俺だって今回の事件において石崎達がクラスメイトじゃなかったら名乗り上げてなかったかもしれたいし。
「話はわかったが、お前の場合Dクラスの生徒、それも遅れて名乗り出た以上、言葉だけでは証拠になり得ない。もしもお前が須藤の無実を証明したいなら動画なり音声なりを提示しろ」
これについても間違っちゃいないだろう。言葉だけでは証拠にならない。まあ複数の目撃者がいれば話は別だが、俺と坂柳は途中からしか見てない。
「証拠なら……あります!」
同時に佐倉は机の上に何かを置く。アレは写真か?
疑問に思う中、橘先輩が手に取って会長に渡す。暫く写真を見た会長は机の上に並べて俺達にも見えるようにする。そこには今の佐倉とは似ても似つかない佐倉がいた。
てかこれ、アイドルの雫じゃね?まあ今は関係ないけど。
「あの日、自分を撮る為に人のいない場所を探してました。その時に撮った証拠として日付を入ってます」
確かに日付は事件当日の夕方だった。
「これは何で撮影したものかね?」
「デジタルカメラですけど……」
「デジカメは簡単に日付の変更が出来たはずでは?」
「しかし坂上先生。この写真は違うと思いますが?」
会長がある一枚の写真を見せてくる。そこには須藤が石崎を殴った写真があった。
これには坂上先生や石崎達も息を呑む。俺と坂柳も特別棟にいた時間だが、まさか俺達以外にも目撃者がいるとはな。
「これで……私がそこにいたことを信じて貰えたと思います」
「ありがとう佐倉さん」
堀北が礼を言うが、仕方ないだろう。普通なら圧倒的に不利だった状況から脱する事が出来るのだから。
しかし……
「会長。1つお願いがあります」
あくまで普通ならだ。佐倉に恨みはないが再度状況をこちらにとって有利にさせて貰う。
「何だ比企谷?」
「先程坂柳が渡した動画をもう一度見せていただけますか?」
「橘」
会長がそう言うと橘先輩は動画の再生準備に入る。証拠の確認は重要だから反対されないとは思っていたが、再度再生する事が決まった時点でこちらが有利となる。
そう思う中、再度動画が再生される。その際に佐倉も見る事になるが、俺としては佐倉にこの動画を見せたいのだ。
数分して須藤の暴行動画が終了するので俺は佐倉を見る。
「佐倉に質問をするが、今の動画に見覚えはあるか?」
「……はい」
よし、言質はとった。締めに入るか。
「ではもう1つ質問するが、YESかNOで答えてくれ。今の動画を見て須藤はやり過ぎと思ったか?」
「っ……!」
俺の質問に佐倉は目を見開き、堀北は俺の作戦を理解したようで焦りの表情を浮かべるがもう遅い。
佐倉の写真により佐倉が現場にいたのは認められた。しかしあの写真だけではどっちから仕掛けたものかはわからないし、佐倉が最初から現場にいた確証にもならない。
加えて最初から目撃者として名乗らなかった事や所属がDクラスって事もあり、証拠能力としては極めて弱い。
そして坂柳が提示した動画も途中からしか撮ってないので、佐倉の証拠よりは遥かにマシだが絶対的な証拠にはならない。
そうなると審議は証拠能力の低い証拠と当事者達の怪我の状態、審議参加者の意見によって左右される。
証拠能力の低い証拠は佐倉の写真と坂柳の動画。しかしこの2つは須藤が暴力を振るってる部分しかないのでこちらが有利。
当事者達の怪我の状態については言うまでもなくこちらが有利。
審議参加者の意見についてだが須藤の意見は嘘を吐いたから殆ど無価値で堀北の意見は正論だが力が弱い。
そこで俺はトドメを刺すべく目撃者である佐倉に須藤の暴力は過激かどうか意見を尋ねたのだ。
YESと答えたら須藤を過剰防衛と判断できるし、NOと答えたら会長を含め全員が嘘と言うだろう。実際会長もさっき過激と認めたし。
仮に第3の選択ーーー黙秘権を使ったら「過激とは思うが、YESと言ったら須藤の罪が重くなるから黙り込んだ」と誰もが考えるだろう。
つまりこの質問を佐倉にする事が俺の策で、佐倉がどう答えようとDクラスにダメージを与えられることを意味する。
要するにだ、佐倉はDクラスを助けに来たようだが、Cクラスの助けになったって訳だ。
目撃者がいるって聞いた時は若干焦ったが、寧ろこちらが有利になったからこちらとしてはありがたい。
さて、そろそろ答えを聞かないとな。
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