腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「……ってわけで最後の最後で石崎達が須藤と泥仕合を始めた所為で審議は明日に延長されたって訳だ」
「ちっ、泥仕合にならなきゃこっちの勝ちだったのに。明日の審議が終わったらアルベルトに制裁させねぇとな」
夕方6時、俺は坂柳と一緒に龍園を俺の部屋に招き入れて今日の審議について説明する。対する龍園は途中までは笑っていたが、最後の部分を聴くと不機嫌そうに舌打ちをする。
「まあそれは審議が終わってからの話です。恐らくDクラス側はこちらに対して訴えを取り下げるように仕掛けてくるでしょう。審議で戦った場合、須藤君の完全無罪は勝ち取れないですから」
だろうな。間違ってない。石崎達が須藤を罠に嵌めたとはいえ、須藤は手を出しているので罰を受ける。そしてそれはDクラスからしたら敗北を意味するしな。
「しかし龍園君にお願いがあるのですが良いですか?」
「何だよ?」
「それはですね………」
言いながら坂柳は龍園にお願いを口にする。対する龍園は呆れた表情を浮かべる。
「俺がそれをするメリットは?ないなら当然却下だ」
「もちろんあります。それは………です」
「それは本当か?」
「本当です。ねぇ比企谷君?」
「事実だ」
「くはっ!良いぜ、なら俺はお前のお願いを聞いてやるよ」
「ありがとうございます」
龍園は悪どい表情を浮かべ、坂柳も冷笑で応じる。やっぱりコイツらを敵にしたくはないな。
「とはいえそれだけじゃ面白くないな……おい比企谷。お前にやって欲しいことがある」
「……何だよ?」
「………をしろ」
「は?俺がかよ?断るに決まって「3千」……わかったよ」
ポイントには換えられないし、頑張ろう。
「1人では大変でしょうから真澄さんも貸しましょう」
「鬼か」
神室が不憫過ぎる。万引きしたアイツの自業自得とはいえ、坂柳のパシリは大変そうだな。
ともあれ坂柳の性格上、神室は逆らえないだろう。マジでドンマイ。
翌日……
「「暑い……」」
俺と神室は汗を流しながら事故現場の特別棟3階にて待機している。しかも朝6時から授業をサボってだ。
特別棟は蒸し暑く汗がダラダラと流れ、既に制服はびしょ濡れだ。
何故俺がこんな事をしているとDクラスの連中が一発逆転の策を打ってくる場合、撮影する為だ。
須藤に罰を与えないのを目標としているが、須藤が石崎達を殴った以上審議で完全無罪を勝ち取るのは不可能だ。
そうなると向こうが勝つには石崎達に訴えを取り下げる以外の道はない。そしてその方法は偽物の監視カメラを現場に設置して脅すってやり方だ。
監視カメラを設置して石崎達を呼び出して「このまま審議を続けたら先に仕掛けたお前らは退学をくらうぞ」って脅したら、石崎達は従うだろう。監視カメラが本物かどうか判断するのは普通無理だし、向こうが審議直前に呼び出したら焦って判断力は鈍るだろう。
そして石崎達が訴えを取り消したら誰にもダメージが行かず、暴力を振るった須藤も無罪放免となるだろう。
よって俺と神室は龍園と坂柳の指示により特別棟3階にて張り込みをしているのだが、朝から授業をサボっての張り込みはキツい。
張り込みを始めて数時間。龍園からは「連中は授業をサボって設置するかもしれない。決定的瞬間を証拠にしたいから授業をサボって張り込め」と言われて引き受けたが、暑過ぎて死にそうだ。
しかし俺はポイントという報酬があるからまだマジだ。一緒に張り込みをしている神室は完全にとばっちりで、報酬もないし。
だから俺は放課後、龍園から貰った報酬で神室にスィーツでも奢るつもりだ。流石に不憫過ぎるからな。
そこまで考えている時だった。
キーンコーンカーンコーン
昼休みを告げるチャイムが鳴り出す。連中がカメラを仕掛ける可能性が高いのは朝と昼休み。朝には誰も来なかったのでそろそろ来るかもしれない。
「念の為そろそろ撮影の準備をした方がいいかもな……それとそろそろ水分補給をしとけ」
言いながら俺は神室は牛乳を渡す。張り込みに備えてあんぱんと牛乳はしっかり用意している。
「そうする。でもさ、本当に監視カメラを仕掛けられるの?監視カメラを調達するなんて無理なんじゃない?」
「知らないのか?電気屋では監視カメラそっくりのネットワークカメラが売られてんだぞ。それを設置すれば大抵の相手は欺ける」
値段は高いが、Bクラスと協力している以上、向こうも貸すだろうし。
「なるほど……っと、来たみたい」
言われて耳を澄ますと下から足音が聞こえてくるので俺達は監視カメラを設置できる場所から死角となる物陰に隠れて、携帯を取り出して録画モードにする。
しばらくするとBクラスの一之瀬と神崎が脚立と鞄を持ってコンセント付近にやってくる。
「じゃあ神崎君、お願いね」
「ああ」
一之瀬が脚立を支えると神崎は鞄から例のカメラを取り出して脚立に乗って、カメラを設置する。
「設置した。もう1つは廊下に仕掛ければいいんだな?」
「うん、そうそう」
マズい、1つかと思ったが2つ用意していたようだ。しかも廊下に来られたら俺達がいるのがバレてしまう。
そこまで考えていると神室が掃除用ロッカーを指差す。逃げ道はあそこしかないようだ。
そう判断した俺達は神崎が脚立から降りる隙にロッカーに入りドアを閉める。
と、ここで問題が起こった。
(ちょっと……お尻触らないでくれない?)
予想よりもロッカーは狭く、2人だとギリギリのスペースであり、ロッカーに入ってドアを閉めると自由がきかず、俺の右手が神室の尻にフィットしてしまったのだ。手には柔らかくもハリのある感触が伝わってくる。
(悪い……でも今動いたら2人にバレて社会的に死ぬから勘弁してくれ)
人が殆ど来ない特別棟のロッカーから出てくるのがバレたら、そういう事をしていると思われてしまう。
(……そうね。なら仕方ないけど、揉まないでね?)
(揉まねぇよ)
触れているのは事故だが、揉んだら完全にアウトだし。
そう思う中、ロッカーの外から足音が聞こえてきて、やがて脚立を展開する音が聞こえてくる。
その音を聞きながら俺は一刻も早く設置を済ませろと本気で願った。恐らくそれは神室も同意見だろう。
何故ならこのロッカーは狭く、俺が神室の尻に触れているのみならず、狙ってないとはいえ神室は俺に胸を当てて、脚を絡めてきているのだ。加えて汗をダラダラ流しているので凄くエロいのだ。
この状況が続けばどうにかなっちまいそうだ。よって俺は外から聞こえる音が早く消える事を強く願い続ける。
「設置完了だ。後は綾小路が放課後にCクラスの3人を呼び出せば作戦は成功だな。そういえば坂柳と比企谷については呼ばないのか?」
「堀北さんの話だと、2人は嘘を吐いている可能性は低いって言ってたよ」
当たりだ。俺も坂柳も「途中から見た」とは言ったが、「須藤から仕掛けた」と断言はしてないからな。
「つまり坂柳と比企谷は偶然事件と鉢合わせして、その後に龍園と組んでCクラスが有利になるように動いたということになるな」
「多分ね。まあ何にせよ坂柳さんなら監視カメラのフェイクに気付きそうだから呼ばない方がいいよ」
そんな会話が聞こえてくるが、早く去ってくれ……
そう強く願っているとやがて人の気配が遠ざかっていき、完全に消えた事を認識するとロッカーのドアを開けて、外に出る。
「はぁ、はぁ……さっき悪かったな……」
「……別に。私の方こそロッカーの中に入るって提案をして悪かったわ……」
互いに息絶え絶えになりながら謝罪をする。ロッカーの中は特別棟以上に蒸し暑く、床には俺達の汗が大量の落ちている。
「ダメだ……暑い」
限界なのでブレザーを脱いでワイシャツになる。この学校はブレザーの着用が義務づけられているが、流石に我慢の限界だ。
「私も限界……」
言いながら神室もブレザーを脱いでワイシャツ姿になるが、その際にワイシャツが透けて紫色のブラジャーが目に入るので慌てて目を逸らす。バレたらマジでヤバイからな。
「とりあえず任務は完了したし、出ようぜ。これ以上ここにいたらマジで脱水症状になりそうだ」
「そうね。ちなみに比企谷、アンタ今回の件で何ポイント龍園から貰うの」
「3000。審議が終わったら何か奢ってやるよ」
神室の場合、坂柳の命令だからな。俺1人で充分にもかかわらずタダ働きをさせられたんだし、奢るくらい文句はない。
「じゃあ今からアイス奢って」
「あいよ」
言いながら俺達はよろよろと特別棟を後にして学校のカフェテリアでアイスを食べた。
そして食べ終えてから龍園に任務完了の旨を記したメールを送るのだった。
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