腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
学校生活2日目。授業初日であるからか大半の授業は勉強方針等の説明、要するにオリエンテーションで終わった。
先生たちの多くが予想以上にフレンドリーで親しみやすかったことには驚いた。
しかし腑に落ちない点がある。一部の生徒は退屈だからか隣の生徒と話したり、携帯をいじっていたりしていたが、教師陣は誰一人として不真面目な人間を注意しなかったのだ。
いくら義務教育でないからって注意の1つもしないなんてありえない。もしかして「自分勝手な行動を取りたいならご自由に。後でどうなっても知らんけど」ってスタンスなのか?
だとしたらかなり厄介だ。人間ってのは注意されないと止まらない人間だからな。
そう思いながらも授業を受けているとチャイムが鳴り、先生が退室する。それは昼休みになった事を意味するので俺は鞄から弁当を取り出して食べ始める。スーパーには無料の食材提供があったので遠慮なく利用した。無料であるから形が歪だったり、普通の商品よりも小さかったりするがさしあたり支障はない。
隣を見れば椎名も弁当箱を取り出していた。他の連中を見ると大半が食堂に行き、残りは教室で惣菜パンを出している。
「比企谷君。午前中の授業はどう思いましたか?」
弁当を食べ始めると椎名がそんな質問をしてくる。どう思いましたかってのは先生の態度についてだろう。
「全く注意してないのは不自然だったな」
「はい。いくら義務教育ではないとはいえ、全員が全く注意しないのは有り得ないです」
だよな。神経質な先生が1人くらい居てもおかしくないし。
そう思った時だった。
『本日午後5時より第一体育館にて、部活動の説明会を致します。部活動に興味のある生徒は第一体育館に集合して下さい。繰り返します。本日──』
可愛らしい女性の声と共にアナウンスが流れる。部活ねぇ、そういやこの学校はそれなり部活は有名だったな。
「椎名はどっかに入るのか?」
「中学の時は茶道部に入っていましたので、あるなら入部するかもしれません。比企谷君は?」
「生憎、部活については中学時代にいい思い出がないから入るつもりはないな」
奉仕部なんて胡散臭い部活の所為でな。あの部活がなければ平和な学校生活を送れたと確信したくらいだ。
そういやあの2人は高校でも奉仕部をやるのか?だとしたら大変なことになりそうだ。何せ由比ヶ浜は頭が悪いし、雪ノ下は自分の考えが全てだと思っているし、依頼が来たら全て失敗する可能性が高い。
まあ何にせよ部活についてはパスする。
「そうですか……変な事を聞きましたか?」
椎名が不安そうな表情で聞いてくるが、俺の事情を知らない椎名が部活について質問をするのは至極当然なので、特に気にしてない。
俺は椎名に一言大丈夫と言って弁当を食べるのを再開した。その際に椎名の雑談に付き合ったが、思った以上に楽しいと思った事に驚いてしまった。
3時間後……
午後の授業も終わり大半の生徒が体育館に行き、一部の生徒がそのまま帰宅する。
俺は帰宅を選択する。スーパーやコンビニに行き無料食材を購入する為だ。食材に関して月に何品までじゃなく、1日に何品までって感じだから毎日購入するつもりだ。
そしてコンビニに入り、無料食材を探すとある存在が目につく。
(あの女、行動が怪しいな)
飲み物コーナーにいる1人の女子だが、移動しながらもさり気なく監視カメラの位置を確認しているようにも見える。他の人は特に不審に思ってないようだが、人間観察を得意とする俺からしたら怪しい。
まさかとは思うがコイツ万引きするつもりか?
そう思いながらも携帯を取り出して動画を撮る準備をする。この学校について俺の予想が正しいなら他クラスとぶつかる可能性がある。
そして万引きは停学もしくは退学になるだろうが、そうなった場合において貰えるポイントが少なくなるかもしれないので、証拠の動画を手に入れておきたい。場合によっては交渉のカードになるので龍園に売るのも悪くない。
すると肩をチョンチョン叩かれるので振り向くと……
「あちらの方、神室真澄さんといいますが、万引きに成功すると思いますか?」
杖を持った銀髪の女子が楽しそうに話しかけていた。コイツも彼女の行動を怪しんでいるようだ。
飲み物コーナーにいる女子は神室というらしいが、あのさりげない仕草から怪しい、万引きをするって思うなんてこの少女も観察力が高いようだ。
「どうですか?」
「……わからん。もしかしたら今日はあくまで今後に備えて情報収集をしているだけで、今日はしないかもしれないな」
「なるほど。下見は大事ですから」
少女はそう言いながらも神室という女子から目を離さない。そんな中、彼女は再度周りを確認してコーラを手に取り鞄に入れようと……したが、途中で2人の男女が飲み物コーナーにやってきた為に中断した。
そして興が削がれたからか、そのまま盗む事も買う事もなく店から出て行った。
「おやおや。予想外の邪魔が入ってしまいました」
「楽しそうに笑いながら言うな。悪趣味にも程があるぞ」
「携帯で証拠を手に入れようとする貴方に言われたくないですね。何の為に動画に収めようとしたんですか?脅迫していやらしい事を強いるのですか?」
「違ぇよ」
よくエロ同人誌ではあるネタだが、現実だとリスクが大きいからやるつもりはない。
「では来月のポイントに備えてですか?」
どうやらコイツも来月のポイントが10万ではないと見抜いてるようだ。
ここでとぼけるのは無理だ。俺の本能がコイツを欺くのは無理と言ってるし。
「正確にはアイツが所属するクラスとの交渉カードにするつもりだった」
「なるほど。もしも彼女が万引きに成功していたら、貴方に動画を撮られてこちらには痛手になっていましたね」
彼女は安心したように息を吐く。俺が交渉カードと言っただけで納得するって事はコイツもSシステムについて俺と似たような考えを抱いているようだ。
「そういえば自己紹介をしてませんでしたね。私はAクラス所属の坂柳有栖と申します。このように杖を持って歩いていますのは先天性疾患を持っていますので。趣味はカフェでコーヒーなどを飲むこととチェスですね」
先天性疾患って事はマトモに運動が出来ないのだろうが、彼女からは強者のオーラを感じる。龍園といい、何故強者に目を付けられる……
「……Cクラス所属の比企谷八幡」
適当な名前で誤魔化したいが、それをしたら後が怖そうだから正直に話す。
「よろしくお願いします。早速ですが比企谷君。私は貴方とお友達になりたいので連絡先を交換しませんか?」
「断る」
こんな明らかな強者と繋がりを持つなんて絶対に嫌だ。そもそもコイツにとっての友達って、絶対に普通の人間にとっての友達とは絶対に違うだろうし。
すると坂柳は悲しそうな表情を浮かべる。
「そう、ですか……私は比企谷君と友達になりたいのですが……比企谷君が私を嫌うなら仕方ない、ですね……うぅ」
そう言って俯き、同時に店にいる客や店員が俺を睨んでくる。全員無言だが、「女の子を泣かせんじゃねぇよ」と全員の顔がそう言っていた。
コイツ……絶対悲しんでないだろう、なんて策略家だよ。
「わ、わかったよ。連絡先は交換するから」
「……お願いします」
坂柳は俯いたまま携帯を突き出してくるのでやむなく連絡先をする。
交換し終わると坂柳は店を出て入り口で待機する。明らかに俺を待ってやがる。
俺はため息を吐きながら無料食材をカゴに入れて、未だ睨んでいる店員さん相手に会計を済ませ店を出る。
「買い物は終わったようですね。ではこれからよろしくお願いしますね」
坂柳はケロリとしてそう言ってくる。やっぱ嘘泣きじゃねぇか。マジで殴りたい。店の中にいた連中は簡単に騙されやがって……
「俺なんかと話しても面白くないと思うがな」
「それは私が決める事です。少なくともクラスメイトよりも私の退屈を紛らわせてくれるでしょう」
「クラスメイトは面白くないのか?」
「一部の生徒はともかく、大半はつまらないですね」
だからって俺に目を付けんなや。はぁ……龍園といい、厄介そうな奴に目を付けられたな。
俺はため息を吐くことしか出来なかった。
その後、色々と情報を交換したいと言われカフェに行ってお茶を飲んだ。(最初は断ったがまた泣き真似をしようとしたのでやむなくだが)
まあ、中々興味深い情報もあったので良しとしよう。必要以上には関わりたくないけど。
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