腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「美味ぇー!この肉絶対にいい肉だろ!」
「ちょっと!その海老は私が狙ってたのに〜」
夜8時前、俺達Cクラスはバーベキューを楽しんでいる。とはいえ俺は騒ぐタイプではないし、龍園のように王様タイプでないので少し離れて食事をしている。
とはいえ不満はない。しっかり食べてるし、騒ぐのは好きじゃないし……
「八幡君、口元が汚れてますから拭きますね」
「おう。サンキューな」
隣には俺と同じように騒ぐタイプでなく、1番の友達のひよりがいるからな。
「いえ。それにしても私、バーベキューをするのは初めてですが美味しいですね」
「俺もバーベキューは初めてだな」
小学校や中学校の時に野外でカレーを作った事はあるけど。といっても碌な思い出はないけど。そういや、中学の時に千葉村で知り合った鶴見留美は元気だろうか。俺が人間関係をぶっ壊して以降は会ってないし。
そんな事を考えながらも肉を食べる。つかあの時に俺が動かなかったらどうなっていたんだがな……
「八幡君?」
「どうした?」
「何か難しそうな表情をしていましたよ?」
どうやら表情に出ていたようだ。
「いや悪い。ちょっと昔の事を思い出していただけだ」
嘘はついてない。ちょっとした事ではないと思うけど。
「そうですか。無理には聞きませんが、もしも辛いなら空を見てはどうでしょうか?」
ひよりがそう言うので空を見上げると星が凄く美しい。これも都会ではないが故に見れるのだろう。
そして星の中心にある月は一際目立っている。しかも満月であり、星が引き立て役と思えるほどに輝いている。
思わず見惚れていると……
「八幡君」
「どうした?」
「……月が綺麗ですね」
ひよりはそんな事を言ってくる。同時に俺の顔に熱がたまってくる。もちろんひよりは空に浮かぶ月が美しいと言いたいのだろう。
しかし文学少女のひよりがその言葉を使うと、文学的な意味で言っているんじゃね?、と思ってしまう。
これはどう答えたら正しいんだ……
頭の中に選択肢が現れる
①ああ、そうだな
②ひよりの方が綺麗だよ
③死んでも良い
選択肢①だな。それ以外の選択肢はない。②と③を選んだらドン引きされるのがオチだ。
そう判断した俺は息を吸って方針を決める。選択肢「肉美味ぇな。2日目も楽しみだぜ!」2日……②?
「ひよりの方が綺麗だよ」
いざ口を開こうとしたら石崎の声が耳に入り、反射的にか選択肢②を選んでしまった。
(しまった……石崎の野郎、2日目なんて言ってんじゃねぇよ馬鹿野郎!)
思わず石崎に八つ当たりをしながらひよりを見る。ヤバい、高校唯一の友人にドン引きされたらマジでショックだわ。
内心ヒヤヒヤしながらひよりを見るとひよりは目をパチクリするも、やがて頬を染める。
「八幡君の馬鹿……ありがとうございます」
馬鹿と言われてから礼を言われる。由比ヶ浜のようにキモいキモいって言われるとは思ってなかったが、礼を言われるとも思ってなかった。
「……怒ってないのか?」
「?何故私が怒っていると?」
「いや。俺なんかに綺麗って言われたし」
「恥ずかしいとは思いましたが怒ってはないですよ。寧ろ嬉しかったです……」
ひよりはそう言って俺の手をギュッと握ってくる。
「そ、そうか……」
そんなひよりに対して俺はそう返事をすることしか出来ず、ひよりの手を握り返しながら肉を食べるが、ひよりの言動の所為か肉の味を碌に堪能する事が出来なかった。
「八幡君……」
「何だよ?」
若干警戒しながらひよりの呼びかけに返事をする。この天然ならとんでもない爆弾を投下してきそうだしな。
すると……
「八幡君はかっこいいですよ……」
俺の警戒を容易く粉砕してきた。もうマジでコイツには勝てる気がしねぇ……
そう思いながらも俺はひよりと手を繋いだまま無心で夕飯を済ませ、1日目が終わるのであった。
無人島生活2日目
「比企谷。遊びに行く前にDクラスのベースキャンプに行ってこい」
朝から遊び全開の雰囲気の中、俺も海に行こうとしたら龍園に呼び止められる。
「何しにだよ?てか俺は多分Dクラスから敵視されてるぞ」
少なくとも雪ノ下と由比ヶ浜と須藤は殺意を抱いてるだろう。クラスポイントが0だから暴力行為はしてこないと思うが絶対に面倒なことになる筈だ。
「だからお前にすんだよ。どうせアイツらはケチケチした生活をしてんだし、「夏休みを満喫したいならウチのベースキャンプに来い」って伝えてこい。来た奴にはバーベキューでもご馳走してやるつもりだ」
なるほどな。贅沢を覚えさせてDクラスの財布の紐を緩めるつもりか。人間ってのは一度贅沢をすると我慢するのが難しいからな。
「わかったよ。ただ念の為に護衛を寄越せ」
須藤あたりは平気で暴力を振るってきそうだし、向こうに対する抑止力が欲しい。
「アルベルト」
「OK、Boss」
龍園の命令にアルベルトが頷いてから俺に会釈をする。アルベルトなら須藤よりも強いだろうし頼りになるな。
「んじゃ行ってくる」
「後これを持って、これ見よがしに飲め」
龍園はそう言ってコーラの缶を渡してくる。悪趣味だなぁと思いながらも命令に従ってアルベルトを連れて森の中を進む。情報によればDクラスは川をスポットにしているらしい。川の場所は島の中心あたりなのはわかってるので問題ない。
暫くすると騒ぎ声が聞こえてくるので前に進むと、案の定Dクラスのベースキャンプがあった。
と、同時に川の近くにいた由比ヶ浜が叫び出す。
「何でヒッキーがここにいるし!ここらDクラスのベースキャンプだからCクラスは帰れし!」
由比ヶ浜がそう叫ぶとDクラスの生徒は一斉にこっちを見る。同時にスパイとして潜り込んでいる伊吹は俺を一瞥すると木の陰に隠れる。
「いやいや。スポットの範囲には入ってないからお前らのベースキャンプには入ってないぞ」
境界ギリギリにはいるが中には入ってないから何の問題もない。
加えて他クラスが使用しているスポットを許可なく使用したらペナルティが発生するってルールはあるが、他クラスのスポット領域に入るだけではペナルティは発生しないだろう。
もしも入るだけでペナルティが発生するならスポットの占有は完全な早い者勝ちとなり、逆転の目がないし。
「う、煩いし!居たら邪魔だしさっさと帰れし!」
「嫌だと言ったら?」
「はぁ?!マジキモ過ぎだから!」
由比ヶ浜がそう言って詰め寄ろうとすると、アルベルトが俺の前に立ち拳を鳴らす。暴力行為は禁止ではあるが、由比ヶ浜はビビリながら後ずさる。まあ気持ちはわかるがな。
「嫌だと言ったらという質問の返答がキモいか……相変わらず馬鹿みたいだな。アルベルト」
そう言ってから俺は龍園から貰ったコーラを飲み始めるとアルベルトも同じようにコーラを飲み始める。その際にDクラスの大半から睨まれるが気にしない。
「ぷはっ!さて、そろそろ本題に入るか。ウチの大将からの伝言だ。夏休みを満喫したいならベースキャンプに来いってさ」
「行くわけないじゃん!ヒッキーマジキモい!」
「お前1人に言ったわけじゃない。あくまでDクラスの皆に言ったんだ。じゃそういう事だから」
最後にそう言ってから背を向けてCクラスのベースキャンプに戻る。これが龍園直属の部下なら10分くらい嫌味を言ったりするが、俺は早くベースキャンプに戻りたい。アルベルトも龍園直属の部下であるが、龍園の命令がないと比較的大人しいし俺に続いてくる。
さて、ちゃっちゃと帰って遊びまくるか。今日の夜からはそんな余裕も無くなるし。
「随分と余裕のある生活を送ってるみたいだな、Cクラスの連中は」
八幡とアルベルトがコーラを飲む中、綾小路清隆に昨日Dクラスのベースキャンプに招き入れた伊吹澪が話しかける。
「お前、龍園って知ってる?」
「Cクラスのボスだろ。Dクラスから退学者が出かけた時にDクラスに乗り込んで暴れたのは覚えてる」
「……何それ?」
訝しげに話しかける伊吹に対して、綾小路は中間試験での一件を口にする。
「Dクラスが退学者が出かけたのは知ってたけど、それにアイツが暴れたのは知らなかった」
「須藤の件もアイツが絡んでるのか?」
「直接聞いたわけじゃないけど、絶対絡んでる。アイツのやる事はメチャクチャだから」
伊吹はイライラしたように頬を撫でる。それを見た綾小路は伊吹の頬を殴ったのも龍園と確信した。
「あの2人も龍園の部下なのか?」
そう尋ねる綾小路だが、実際に興味を向けているのは八幡のみ。何度か会った事はあるが、綾小路の中ではDクラスの中でも優秀な堀北や平田より数段上だと思っている。
「アルベルト……黒人の方は龍園の忠臣。もう1人の方は比企谷っていうんだけど……傭兵というかビジネスパートナー?」
「Cクラスは独裁体制と聞いたが?」
「それは事実。けど比企谷だけは別。龍園は比企谷以外のクラスメイトには命令をしてるけど、比企谷にだけは依頼をしてる。加えて比企谷はAクラスのリーダーの坂柳と仲良くしてるけど、龍園は一切咎めてない。龍園が独裁者なら比企谷は正体不明」
伊吹の声を聞きながらも綾小路はDクラスのベースキャンプから去って行く八幡の背中を眺める。
問題だらけのDクラスをAクラスまで導けと脅された綾小路からしたら八幡の存在は大層厄介に見えた。
個人でぶつかったら負ける気はしないが、クラス同士でぶつかったら現時点では勝てる気が全くしないのは仕方ない事だろうと思いながら、綾小路はため息を吐くのだった。
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