腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「龍園、今大丈夫か?」
『何だ比企谷?誰かリタイヤしたのか?』
「違う。さっきDクラスのベースキャンプ近くの川で堀北が身体を洗ってたんだが、その際に伊吹が服を漁ってるのが見えた」
『なるほど。つまりリーダーは鈴音の可能性があるな。それはわかったが何故連絡した?』
「念には念って奴だ。情報の共有は大事だし、暇過ぎるから少しでも仕事をしたいんだよ」
『まあそうだろうな。それと坂柳派と接触したが、やっぱりAクラスのリーダーは戸塚だ』
どうやら坂柳は本気でこの試験で葛城派を潰すようだ。ま、俺からしたらどうでもいい。俺は遊べるポイントを確保して、最終的にAクラスに上がる事を最優先としている。生徒の大半がどうなろうと知った事じゃない。
「良かったな。とりあえず後1日耐えねぇと」
『報酬はちゃんと払うから安心しろ』
それで良い。払わないなら俺は今後Cクラスを裏切り続けるつもりだ。
「楽しみにしてる」
そう言ってから通信を切って、もう一度川の方を見ると既に伊吹は居なくなっていて、身体を洗っていた堀北は下着姿のまま、自分のジャージを触っている。
(あの反応からしてキーカードが無くなって焦ってるのか?)
可能性は高いが腑に落ちない点がある。確か龍園は金田と伊吹にデジカメを渡していたはずだ。
堀北の動きからして伊吹がキーカードを盗んだと思うが、わざわざキーカードを盗む必要性は感じない。写真さえ手に入ればこっちの勝ちだ。寧ろ盗んだのがバレたらこっちが危険だ。
伊吹は馬鹿じゃないしキーカードを盗む危険性を理解している筈だ。なのに何故だ?
内心不審に思いながらも俺は本来の見張りをしながらDクラスのベースキャンプを調査する。そして10分くらいした所でDクラスのベースキャンプで動きがあった。
何と火が上がったのだ。夜に焚き木を起こすならまだしも今は昼だから、火事が起こった可能性がある。
(まさか伊吹の奴、放火したのか?)
Dクラスの連中は今火を使う必要がないだろうし、ここは無人島だから電気などによる発火もあり得ないので伊吹がやったってのが1番可能性が高い。
だとしたら伊吹が捕まったらこれまでの苦労が水の泡となる。既に毎月20万ポイントは約束されているがそれだけは避けないといけない。
そう判断した俺は即座に立ち上がり雨が激しく降り始める中、移動を開始する。持ち場を離れるのはアレだが、伊吹が原因でクラスそのものを失格から守る方が遥かに重要だ。
高台を離れてDクラスのベースキャンプの方に向かう。と言ってもDクラスのベースキャンプから100メートル以内には近寄らない。100メートル以内に入ったら俺の存在がバレるかもしれないからな。
雨が降る中、気配を殺して進むと鈍い音がベースキャンプがある方向とは別の方向から聞こえてくる。まさかとは思うが戦闘音か?
嫌な予感を感じながらも音のする方に向かうと、案の定堀北と伊吹がやり合っていた。堀北は伊吹の胸倉を掴んで地面に叩きつけようとするが、伊吹はその前に後ろに下がってから掌底を堀北に放つ。
が、堀北は何かの武道をやっているようで伊吹の掌底を受け流して即座に反撃する。
暫くの間、攻防が続くと伊吹がニヤリと笑う。
「ここまで頑張ったご褒美に教えてやるよ。カードを盗んだのは私だ」
言いながら伊吹はキーカードを見せつける。盗んだって事はやっぱりデジカメを紛失したのだろう。
「……ここに来てあっさり認めるのね」
「認めても認めなくても関係ないところまで来たからな」
伊吹の言葉は間違ってない。ここで伊吹が堀北を倒した場合、堀北が学校に訴えても言い逃れが出来る。仮に両成敗となったとしても損をするのはDクラスだ。Dクラスはクラスポイントを持ってないし。
となると伊吹が堀北に負けて拘束されるのだけは絶対に避けたい事だ。キーカードには伊吹の指紋がついているから、堀北が伊吹を倒したらこっちが負けとなる。
(仕方ない。俺も参戦するか。伊吹が捕まるのだけは避けないといけないからな)
そう判断した俺は近くにある泥を手に取る。流石に女相手に殴る蹴るはしたくないからな。
そしてそのまま2人に近づき、近くの木の陰に隠れながら堀北に狙いを定める。幸い雨が強い上に堀北は伊吹に集中しているのでこっちには気付いてない。
そして堀北が伊吹に詰め寄ろうとして、伊吹も拳を構え突撃した瞬間、俺は堀北の顔面に泥を投げる。
すると堀北は咄嗟に手を挙げて泥を防ぐ。その反射神経は見事だが……
「ぐっ……!」
伊吹からしたら隙だらけであり、伊吹の拳が堀北の鳩尾に叩き込まれ堀北はそのまま地面に倒れこむ。起き上がる気配はしないので気絶したのだろう。
「……そこにいるのは誰?」
案の定伊吹は不信感たっぷりの声で俺がいる方向に話しかけてくるので両手を挙げて木の陰から出る。
「……比企谷。龍園と一緒に島に残っているとは思ってたけど、何でここに?」
「Dクラスのベースキャンプから火が出てたから様子を見に来た。そしたら堀北とやり合ってたし、デジカメを紛失したのか?」
「そう。だからキーカードを盗んだ。ついでに言うと火事を起こしたのは私じゃないから」
?そうなのか?確かにこの状況で嘘を吐くとは思えないが……
「わかった。じゃあ後始末は俺がやっとく。お前は先にリタイヤしろ」
伊吹を疑ってるわけではないが、俺自身がやった方が信じられるからな。
「……わかった。任せる」
伊吹は俺を訝しげな表情で見ながらも俺にキーカードを渡して桟橋の方へ向かう。
それを見送った俺は念の為、ポケットから自分のデジカメを使ってキーカードを撮影する。そしてキーカードについてある指紋をしっかり拭き取ってから近くにある木の下に埋めて、無線機を使って葛城を呼び出す。
「俺だ葛城。Dクラスのキーカード情報が手に入ったから会いたい」
『……わかった。では島の中央にある古びた小屋に10分後に集合だ』
「了解」
通信を切って、今度は龍園を呼び出す。
「俺だ龍園。Dクラスのキーカード情報が手に入った」
『あ?何でお前が情報を持ってんだよ』
龍園にそう言われたのでこれまでの経緯を説明すると、無線機から龍園が息を吐く。
『なるほどな。まあ伊吹よりお前に任せる方がいいか。で?集合場所は?』
「10分後に島の中央にある古小屋だってよ」
『わかった』
龍園はそう言うと通信を切るので、俺は堀北を一瞥してから去って行く。恨むなら伊吹を恨んでくれ。
そのまま古小屋に向かうとドアが開いていたので中に入ると既に葛城と龍園はいた。
「ほらよ。証拠の写真だ」
言いながら俺は葛城にデジカメを渡すと、葛城はデジカメを操作するが暫くすると頷く。
「本物のようだな」
「当たり前だ。無人島で合成写真なんて無理だからな?」
そう返すと葛城は息を吐きながらデジカメを返す。
「良いだろう。契約は完全に成立だ」
良し、これで俺の懐は更に温かくなるな。ありがたいありがたい。
「Bのリーダーも聞いとくか?こっちはガードが固くて証拠はないが」
「確実な証拠がないなら結構だ。長居はリスクを生むから俺はもう行く」
そう言って葛城は一足先に小屋を出て行き、残されたのは俺と龍園となる。その際に龍園は邪悪な笑みを浮かべていたが、俺も似たような表情をしているのだろう。何せ契約が完全に成立したって事は俺も大量のポイントを手に入るのだから。
「じゃあ龍園。また明日」
「ああ。また明日」
龍園は邪悪な笑みを浮かべたまま挨拶を返す。それを見送った俺は雨を浴びながら獣道を歩く。昨日までシャワーを浴びてないから自然のシャワーを浴びるのは悪くない。
そう思いながら歩いていると、あることに気付いた。
「堀北がいない、だと?」
先程堀北が倒れた場所に堀北がいないのだ。場所を間違えたかと思ったが、キーカードを埋めた木に近寄って土を掘り返すとキーカードはあった。
つまり堀北が目覚めた、もしくは誰かが堀北を発見して……!
そこまで考えた俺は早足で桟橋がある方向に向かう。もしかしたら誰かがリタイヤさせているかもしれない。
早足で進むと……桟橋付近ではスタッフらしき人達が担架を使っている。双眼鏡で確認すると案の定堀北が担架に乗せられていた。
それを認識した俺は即座に双眼鏡を持ったまま辺りを見回す。多分堀北を運んだ奴が新しいリーダーだろうから。
しかし残念なことに発見する事は出来なかった。一応人影が見えたが特定は出来なかった。
残念……ま、堀北がリタイヤしたことがわかったし、良しとしよう。
そう判断した俺は無線機を使って龍園にその旨を伝えながら見張りを始める。
あと1日。あと1日我慢すれば天国が俺を待っているんだから……
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