腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「さて……では私は葛城君に事情を尋ねに行くので失礼してもよろしいでしょうか?」
結果発表が終わり、暫くすると有栖がそんな事を言ってくるが、事情を尋ねるんじゃなくて、真綿で首を絞めに行くの間違いじゃないのか?
とはいえこれはAクラスの問題だから俺がどうこう言う権利はないし、気にしないでおく。
「そうだな。俺も龍園と合流したいしな」
「では一旦別れましょうか」
「わかった。じゃあまたな」
俺は了承してから有栖に一礼して部屋を後にする。時間的に考えて龍園は今頃部屋でシャワーを浴びているだろうし、ゆっくり歩けば良いタイミングだろう。
エレベーターに乗るべくボタンを押す。すると暫くしてドアが開き……
「「あ……」」
エレベーターに乗っていたひよりと鉢合わせする。何という偶然だろうか。
「お久しぶりです八幡君。試験、お疲れ様でした」
ひよりは俺を見るや否やにっこりと笑ってくる。それだけで胸が熱くなり幸せな気分になる。
「ああ。久しぶりだな」
「その様子だと風邪は引いてないみたいですね。良かったです」
ひよりはそう言ってギュッとしてくるのでポンポンと背中を叩く。無人島にはこんな温もりもなかったからな。
「ありがとな。ところでお前は何をしてたんだ?」
「先程の試験結果について聞こうと八幡君と龍園君の部屋に行こうとしてたんです」
「そうか。俺も部屋に行くつもりだったから一緒に行こうな」
「……はい」
ひよりは頷くと俺から離れ、そのまま手を繋いでエレベーターに引っ張るのでそれに逆らわずにエレベーターに乗り、目的の階層に向かう。
そして自分の部屋に入ると、ソファーには石崎とアルベルトに加えて伊吹もいて、ドアを閉めたタイミングで脱衣所から龍園が出てくる。
「よう比企谷。今回の試験は成功だ。お前の手腕がデカかったし次もよろしくな」
「それは報酬次第だな」
報酬をくれるなら余程ヤバい事じゃない限りなんでもやるつもりだ。
言いながら俺達はソファーに座ると伊吹が口を開ける。
「じゃあ説明して。ウチのクラスが100ポイントなのはわかるけど、何でAクラスが最下位でDクラスが1位なの?」
「くくっ、伊吹。お前Cクラスが100ポイントを取った理由を本当にわかってんのか?」
伊吹の問いかけに龍園は笑いながらそう返す。
「BとDのリーダーを指名したからでしょ?」
「違うな。俺が指名したのはAとBだ。Dのリーダーは指名してない?」
「はぁ?何でよ?もしかして比企谷が報告を怠ったの?」
伊吹がそう言って俺を見てくる。まあ伊吹の立場からしたら俺を疑うのは当然だ。
「それについては今から説明する。まずこれを見ろ」
言うなり龍園は1枚の紙を近くにいる石崎に渡す。
「えっ?!こんな契約をしてたんですか?!」
「ああ。俺にとって本命はこの契約だ。読み終わったら次に回せ」
龍園がそう言うと石崎はアルベルトに回し、そこから伊吹、ひよりと続くが、俺から契約を聞いたひより以外は驚きを露わにしている。
「全員読んだな。じゃあまずはAクラスから教えるぞ。契約書にあるように俺はAクラスに200ポイント分の物資を支給した。そんだけの物資があれば本来Aクラスに与えられたポイントを使わなくても1週間やり過ごせる」
「……そうね。無人島には水や食料が十分にあったし、150ポイントあれば1週間過ごすのは不可能じゃないわ」
Dクラスに滞在していた伊吹は小さく頷く。
「ああ。だからAクラスは今日の点呼直前には間違いなく270ポイントを丸々残していただろうな」
「じゃあ何で200ポイントも減ってるんですか?」
「簡単な話だ。Aクラスは攻撃を2回して失敗して、2回攻撃を受けたからだ」
龍園はそう答える。やはりそうだろうな。
「Aクラスが攻撃したのはCとDだ。で、両方とも失敗した」
「え?!ウチとAクラスは同盟を結んでいるんじゃないですか?!」
「それにDクラスに対する攻撃が失敗ってどういう事?」
石崎と伊吹が説明を促すと龍園は笑いながら口を開ける。
「石崎の質問だが契約書を見ろ。『AクラスはCクラスを、CクラスはAクラスを攻撃してはいけない』なんて書いてないから問題ない」
「いや……でも暗黙の了解が「俺がそんな事を気にすると思うのか?」思いませんね」
だろうな。龍園が暗黙の了解なんて気にするわけない。
「それで伊吹の質問のDクラスに対する攻撃が失敗については当事者の比企谷が説明する」
「俺か……まあ良い。伊吹がリタイヤした後、俺は龍園と葛城と会ってキーカードの写真を見せ、それによって契約を完全に成立させたが、帰り道で堀北がいない事を確認した。それにより俺は堀北がリーダーを交代する作戦を使うと判断した」
「……どういう事?リーダーは変更出来ないんじゃないの?」
「違うな。リーダーの変更は正当な理由がないと出来ないだけだ。体調不良は正当な理由だ」
「そうですね。私や石崎君達は体調不良と言って2日目にリタイヤしましたね」
俺の言葉にひよりが納得したように頷く。
「俺は船の近くにて堀北が担架に乗せられているのを発見して、リーダーが変わったのを理解した。そんで次のリーダーを突き止めようとしたが暗闇だったから次のリーダーが誰かはわからなかった」
俺の言葉に伊吹は納得したように頷く。
「だから龍園はDクラスを攻撃しなかったのね」
「そう。俺は龍園にDクラスに攻撃するなと警告して、逆に葛城にはDクラスのリーダーが変わった事を教えなかった。これがAクラスがDクラスに対する攻撃を失敗した理由だ」
「なるほど……もしかしてAクラスがCクラスに攻撃して失敗したのも似た理由ですか?」
やはりひよりは頭の回転が早いな。
「そうだ。試験4日目に俺は比企谷を殴ってAクラスに接触させた。理由は伊吹と金田と同じで他クラスから信用を得る為にな」
「俺は葛城に対して龍園と仲違いしたと言って、俺の名前が記されたキーカードを葛城に見せた。そんで試験最終日の点呼直前にリタイヤしてリーダーを龍園に変えた。それがAクラスはCクラスに向けた攻撃は失敗した理由だ」
Aクラスは2回攻撃して両方とも失敗したのでマイナス100ポイントとなる。
「次にAクラスを攻撃したクラスだが、ウチとポイントから察するにDクラスだろう。Dクラスについてはわからんが、Cクラスについては比企谷がリーダーを見抜き、更に俺が坂柳派と接触してリーダーを教えて貰ったから名前を書いた」
Dクラスがどうやって見抜いたかは知らないが、Aクラスのポイントを見る限り確実な証拠があった可能性が高い。坂柳派の人間がAクラスのリーダーを教えた可能性もあるけどな。
「いやいや。いくら坂柳派が葛城派を嫌っていても、普通リーダーをバラしますか?」
「坂柳は普通じゃないからな。俺は試験前に坂柳からAクラスをボコせと頼まれた」
「何?つまりアンタは無人島試験の前から坂柳と組んでたの?」
「須藤の件の時からな。あの時に坂柳はCクラスを援護するから、機会があったら葛城派を叩けって頼んできた」
そんで今回俺と龍園は葛城派を集中して叩いたのだ。坂柳と組んだ結果、須藤を停学にさせることに成功して、葛城派にも大ダメージを与えた。Cクラスからしても坂柳からしてもwin-winとなったのだ。
「とりあえずこれでAクラスが70ポイントしか手に入らなかった理由がわかっただろ」
「その上Aクラスは毎月アンタに2万ポイントを払うんだから悲惨ね」
伊吹はそう言っているが違う点がある。
「2万じゃねぇ。3万だ」
「え?2万じゃないんですか?」
「よく見てみろ」
石崎の疑問に対して龍園は契約書をテーブルの上に置く。
契約内容
①Aクラスの生徒全員が龍園翔に毎月1万プライベートポイントを譲渡する。本契約は本校の卒業まで継続する。
②CクラスはAクラスに対し、200ポイント相当の物資を購入して譲渡する。尚、購入する物資はAクラスが決める。
③CクラスはBクラスとDクラスのリーダーを探り、得た情報を全てAクラスに伝える。
④Cクラスが②と③を達成した場合、Aクラスの生徒全員が龍園翔に毎月2万プライベートポイントを譲渡する。本契約は本校の卒業まで継続する。
⑤下記に署名した者は、本契約内容に同意したものとする。
「良いか。リーダーの情報を教えなかったら①だけだが、リーダーの情報を教えたから④も追加されるが、④には①で払うポイントが2万になるなんて書いてないだろ?」
「あっ!」
伊吹と石崎はハッとした表情になり、アルベルトは「Oh」と小さく呟く。
龍園の言う通りだ。契約書には①で払うポイントが2万になるなんて一言も書いておらず、①と④は繋がってない。
よってAクラスが龍園に払うのは1万+2万で3万だ。そんで有栖を除いた39人が署名したので……
「つまりAクラスは龍園君に卒業まで毎月117万ポイント払うという事ですね」
ひよりは感心したように頷く。
「そして俺は事前に龍園と試験で得る利益の半分を貰う約束をしたので、俺は龍園から卒業まで毎月58万5千ポイント貰えることになる」
そんで卒業まで今月を含めて32ヶ月あるので……
58万5千×32=1872万ポイント手に入る事になるのだ。
しかもこれからも龍園から仕事を受けてポイントを稼げば個人でAクラスへ上がる為の2000万は余裕で手に入る。
クラスでAクラスに上がれなくても勝ち組になれる可能性は充分ある。
「つまり試験の結果を纏めると……
Aクラスは200ポイント分の物資を貰っておきながら70ポイントしか稼げなかった挙句毎月117万ポイントを俺に渡す結果となり……
Bクラスは堅実に頑張ったがスパイによって余り稼げない結果となり……
俺達Cクラスは俺と比企谷は1週間頑張って卒業まで毎月60万ポイント近くAクラスから貰え、俺と比企谷以外の連中は1週間夏休みを満喫しただけで100クラスポイントを得て……
Dクラスは団結力は低かったがリタイヤ作戦をした挙句にAクラスのリーダーを当てて1位となった……って感じだな」
龍園が試験の結果について纏め上げる。それに対して伊吹は不満そうな表情になる。
「話はわかったけど、私と金田は只働きって訳?」
まあそうだろうな。俺と龍園は毎月60万のポイントが約束されて、金田と伊吹以外の生徒は2日間バカンスをした後に豪華客船で遊びまくった。
一方金田と伊吹は初日に龍園に殴られてからずっとスパイ活動をしていたのだ。不満を抱くのは当然だ。
その言葉に龍園は息を吐くと携帯を取り出して操作する。
「お前と金田の携帯に20万ずつ送金した。20万じゃ足りないか?」
ポイントの値からして、既にAクラスから今月分ポイントが振り込まれているようだ。
「ふんっ……」
伊吹は鼻を鳴らすが文句を言う気はないらしい。
「ま、無人島試験についてはこんなもんだ。そんでこれから直ぐに次の試験があるだろう。正直言ってこの学校が1週間も遊ばせるとは思えない」
だろうな。この辺りは各クラスのリーダー格も同じ意見だ。
「そろそろ俺も本格的にゲームに参加するか。比企谷も動いて貰うぜ」
龍園はそう言って再度携帯を操作すると俺の携帯に通知が来るので確認すると58万5千ポイントが振り込まれていた。
「へいへい。適当に頑張りますよ。つか俺は眠いから寝る」
徹夜をして眠くて仕方ないからな。今日はゆっくり休もう。
そう思っていると……
「あ、じゃあ久しぶりに一緒に寝ませんか?」
ひよりの爆弾発言によりずっこけてしまった。お前は人前で堂々と言うな馬鹿。
その後龍園はニヤニヤ笑いを浮かべ、伊吹と石崎とアルベルトは俺を気遣いながらも部屋を出て行き、結果的にひよりと一緒に寝てしまった。
最初は恥ずかしかったが、試験の疲れが想像以上であったのですぐに眠ってしまったのであった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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