腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
入学して1週間が経過した。
新しい学校生活はどうかというと概ね満足している。中学時代は罵倒と蔑視と嘲笑ばかり受けていたから普通に過ごせるだけで凄い幸せだ。
雪ノ下と由比ヶ浜がこの学校にいるのは残念であるが、接触してこないので問題ない。
クラスについても不満はない。強いて言うならクラスの中でも喧嘩の強そうな石崎とクラスで1番ガタイが良い山田アルベルトがクラスで最も怖い龍園の下についた事が怖いくらいだ。入学して直ぐに部下を持つ時点で相当ヤバいだろう。
閑話休題…….
そんな中、俺達Cクラスの生徒はプールサイドにいる。この学校は1学期の最初から水泳をやる。正直珍しいが不満はない。
今のところプールサイドには男しかいないが、これは女子が着替えに時間がかかってるからだろう。
(しかしアルベルトの体格凄過ぎだろ)
Cクラスの男子はガタイが良い奴が結構いるが、黒人ハーフのアルベルトはガチでムキムキだ。仮に俺がアルベルトを殴ったらこっちの拳が痛む可能性が高い。
そして龍園が真面目に授業に参加しているのはどうにもシュールに見えてしまう。まあ口に出したら面倒だからしないけど。
すると女子更衣室の方から女子がぞろぞろ出てくる。その際に男子達は露骨には見てないが興味津々な態度を見せていた?
しかし気持ちはわからんでもない。クラスの女子のレベルってかなり高いからな。
そんな中で俺の目につく女子は椎名と伊吹澪って女子だ。
前者の椎名は入学初日からの知り合いだが、水着になると胸が大きく予想以上のスタイルで、普段は着痩せするタイプだと思ってしまう。
一方の伊吹は俺以上のぼっちで誰とも連んでいない一匹狼のような女子だ。胸はそこまで大きくないが、手足がスラっとしていて美術品のようだ。まあ本人は凄くつまらなさそうな表情だけど。
「おーし、全員集合しろー」
すると体育の先生から集合がかかるので俺達は集まる
「見学者が随分多いみたいだが……まあいい」
言われて見学席を見ると女子が10人くらいいるが、絶対にズル休みだろうな。いくらなんでも多すぎる。
「早速だが、実力をチェックしたいので、準備体操してから泳いでもらうぞ」
「あ、あの、俺あんまり泳げないんですけど……」
すると男子の1人が手を挙げてそう口にする。
「安心しろ。俺が担当するからには、夏までには泳げるようにしてやる」
「別に泳げるようにならなくても良いですよ。海なんて行けないですから」
「そうはいかん。今は苦手でも夏までには克服させる泳げるようになれば、必ず役に立つ。必ずだ」
随分と必ずという言葉を強調するな。しかも役に立つって言葉についても謎だ。夏休みに水泳合宿でもやるのか?
疑問に思いながらも俺はプールに入り泳ぎだす。総武中学にはプールがあったので、特に問題はなかった。
「比企谷君はちゃんと泳げてましたね」
プールから上がると椎名が話しかけてくる。椎名は形は出来ていたが凄く遅かった。多分クラスでワースト3には絶対に入る。
「中学では泳げたからな。基礎は出来てる」
「私の所の中学ではありませんでしたね」
なら数年ぶりって事になる。それなら泳げなくても仕方ないか。
「とりあえず、ほとんどの者は問題なく泳げるようだな。よし、じゃあ競争をするぞ。男女別50m自由形だ。女子は5人2組、男子は最初に全員泳いだ後、タイムの速かったもの上位5人で決勝を行う」
「きょ、競争!?」
泳ぎが苦手な生徒が悲鳴をあげるが先生は御構い無しだ。
「最もタイムが良かった者には、先生から特別に5000ポイント支給しよう。その代わり、男女ともに最下位のやつは、放課後に補習を受けてもらうからな」
1位に5000ポイント支給か。随分と太っ腹だな。坂上先生はこの学校は実力で生徒を測ると言っていたがマジなようだ。
出来る奴にはボーナスを、出来ない奴にはペナルティがあるのは社会では当たり前の事だ。
加えて社会に出たらペナルティは補習ではなく、減給やクビが待っている。今の内に社会に対する予行練習をしろって事だろう。
ともあれ先生の命令は絶対なのでどうこう言うつもりはない。1位は無理だが最下位はないだろうから気長にやるか。
俺達男子はスタートの構えを取り、女子は1番コースの近くにて見学している。
全員がスタートの構えを取ると先生が笛を鳴らすので一斉に飛び込む。
そして前に向かって泳ぎ始めるが右隣で泳ぐ龍園と左隣で泳ぐ水泳部の片山が俺よりも遥かに早い。うん、やっぱり1位は無理だな。
その後も適度に泳いだ俺はゴールする。結果は37秒で20人中11位だった。真ん中に近いので全く問題ない。
そして男子の決勝は案の定水泳部所属の男子2人がぶっち切りだった。
男子の部が終わると次は女子の番だ。男子が1番コースの端に移動すると女子がスタートの準備に入るが、俺達男子から一番近くで泳ぐ椎名は無表情だった。どんだけ運動が嫌いなんだアイツは?
椎名の無表情に若干引いていると笛が鳴り女子が一斉に飛び込んで泳ぎ始める。
しかし運動部に入っている面々は一際早く、椎名は20メートルも泳がない内に殆どビリが確定してしまっている。
その時だった。椎名の動きが一層鈍くなり、沈み始める。それから直ぐに上半身を水から出してもがくが苦しそうな表情だ。もしかして足を攣ったのか?
そう判断した俺だが気がつけばプールに飛び込んでいて、そのままもがく椎名に近寄ってし、溺れないように椎名の腰に手を当てていた。
(え?いつの間にこんな事を?身体が勝手に動いていたのか?)
自分でも予想外の行動をした事に驚く。しかし既にプールに飛び込んでしまった以上、椎名を助けることを優先するか。
「大丈夫か?苦しくないか?」
「は、はい。足を攣ってしまいました……」
俺が質問をすると椎名は溺れないように俺に抱きつきながら頷く。その際に水越しとはいえ椎名の柔らかい身体の感触が伝わってドキドキしてしまう。
しかし今は非常時なので顔には出さないように注意しながらもそのまま椎名をしっかり支えながら、ゆっくりとプールから上がる。その際に女子から黄色い声を浴びるが、それを無視する。
椎名を抱えたままプールから上がるのはキツいが我慢だ。
「先生、椎名は足を攣ったようなので、休ませてあげてください」
先生から了承を得たのでその場で椎名を床につかせて足を伸ばすようにする。
「攣った時の対処法はわかるか?」
「い、いえ」
「つま先を自分の方に引き寄せろ。厳しいなら手伝うぞ」
「お願いしても良いですか?」
「はいよ」
俺は頷いて椎名のつま先を掴み、ゆっくりと椎名の方に引き寄せる。その際に椎名は若干顔が強張るがこればかりは我慢して貰わないとな。
「それにしても意外でした。比企谷君が私を助けてくれるなんて思いませんでした」
「俺もだよ。俺も自分がお前を助けると思ってなかった」
「?助けるつもりがないのに助けたんですか?」
「まあ、な……気付いたらプールに入ってた」
何故か椎名が溺れたのを見たら身体が勝手に動いたんだよなぁ。マジで理由がわからん。俺はそういうキャラじゃないのに。
「不思議なこともあるのですね。まあ何にせよ助けてくれてありがとうございました」
椎名は痛みがあるからか若干顰めているが笑顔を浮かべて俺に礼を言ってくる。
その笑顔に俺は何も言えなくなってしまう。中学時代に戸塚という知り合いがいて、アイツは俺の悪評を知って尚、変わらず接してくれて偶に見せる笑顔が俺をドキドキさせていたが、椎名の笑顔は戸塚のそれと似たような魅力を感じる。椎名の笑顔を見ているとドキドキしてしまう。
まさか椎名は東京都高度育成高等学校において戸塚と同じ癒し枠なのか?
だとしたらマズイ。戸塚の場合、何度か手を出しそうになったが男だからギリギリ手を出さずに済んだが椎名は女だ。下手したら手を出してしまうかもしれない。
念の為、精神修養をしておこう。俺は椎名の足の攣りの回復を促しながらそう考えるのだった。
その後は特に問題なく授業が終わったが、見学していた女子が椎名を抱き抱えている俺の写真を撮って、それをクラス全体に広めてしまいショックを受けてしまった。
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