腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
今年もよろしくお願いします
試験2日目の朝、俺は朝飯を食うべく船内を歩くが、どこもかしこも騒動に包まれていた。
まあ当然といえば当然だろう。12あるグループの内、10グループが試験を終わらせたのだから。しかも9グループについては殆ど同時だし。
試験結果が発表されたらもっと騒ぎになるだろう。龍園と有栖は他クラスの反応が楽しみだと笑っていた。大方龍園は堀北を、有栖は由比ヶ浜をこき下ろすつもりだろう。当の龍園は部屋で惰眠を貪っている。
俺はそのままエレベーターに乗って最上階に上り、そのままデッキに出てカフェに向かう。
そしてモーニングとしてサンドイッチとコーヒーを飲みながら辺りを見回すと相変わらず海しか見えない。島とか見えれば景色を見る意義もあるんだがなぁ。
そこまで考えているとポケットにある携帯が鳴り出す。まさかとは思うが、誰かが早まって裏切ったのか?
ポケットから携帯を取り出して確認すると、メールは学校からではなく有栖からだった。
内容を見ようとしたタイミングでもう一度携帯が鳴る。今度こそ学校からのメールと思いきや、ひよりからだった。
内心焦りながらも2人からのメールを確認すると、有栖からは……
『おはようございます。朝食を済ませたら一緒にプールに行きませんか?』
というメールが来て、ひよりからは……
『おはようございます。朝食を済ませたら一緒に過ごしませんか?』
殆ど同じ内容のメールだった。え?マジでどうしよう?タイミングからして2人ともグルなのか?しかし返事をすれば良いんだ?
悩んだ結果、俺は……
「あっ……冷たくて気持ちいいですね」
「そうですね。では八幡君はエスコートをお願いします」
「へいへい」
俺は息を吐きながら有栖の手を取ると、ひよりは反対の手を握ってくる。ひよりを見ると微笑みを浮かべ俺をドキッとさせてくる。
結局、俺は2人とプールで過ごす選択をした。どっちかを切り捨てるのは残念だから無理だった。
そして俺は今、白いワンピース水着を着た有栖と薄水色のビキニを着たひよりに挟まれながらゆっくりとプールの中を歩いて2人をエスコートしている。
しかし周りの男子からの視線がマジで痛いが、仕方ないだろう。ひよりも有栖もベクトルは違うが銀髪美女で、ルックスも1年女子の中では10本の指に入るのは絶対だ。
そんな2人が水着を着た状態で俺と手を繋いでいるのだ。男子陣が俺を睨むのは仕方ないのかもしれない。
まあ睨まれる程度なら気にしない。中学時代は睨まれ、嘲られ、陰口を叩かれていたからな。それにこの学校は暴力やイジメに厳しいし迂闊に手を出す馬鹿はいないだろう。
そう思いながらも水の中を歩くが、ひよりと有栖の手の温もりだけはハッキリと伝わって胸が熱くなる。この温もりは高校に入ってから知ったが、とても気持ちが良く手放したくない温もりだ。
「そういえば坂柳さんに聞きたいことがあるんですが、良いですか?」
と、ここでひよりが小声で俺と有栖に話しかけてくる。小声って事は余り第三者に聞かせたくない事なのだろう。
「何ですか?」
一方の有栖も小声で話しかける。
「昨日、坂柳さんは龍園君と一斉攻撃しましたが、二学期以降はどう動くのですか?」
「それは龍園君から聞くように頼まれたんですか?」
「いえ。単なる好奇心です。龍園君から指示は受けてないです」
まあ受けてるなら馬鹿正直に質問なんてしないよな。
「そうですね。クラス単位で言うならCクラス以外はそこまで楽しめそうにないのでBクラスとDクラスを叩きますね」
前者はまだしも後者については由比ヶ浜がいるからだろうな。多分有栖は由比ヶ浜をとことん攻める腹のようだ。
「今までCクラスとは同盟を結んでいましたが、BクラスとDクラスを立て直せないくらい叩いたら同盟を破棄する流れですか?」
「そうなるでしょう。とりあえずCクラスがDクラスを叩くなら惜しみなく援助します」
どんだけ由比ヶ浜を叩きたいんだよ……まあ気持ちはよくわかるけどさ。
そう思いながらも俺は2人の手を引いていると、プールサイドにてニヤニヤ笑う龍園が目に入る。プールから出た後に揶揄うのかと思いきや……
「石崎、アルベルト。飛び込め」
そんな指示を出す。野郎、身体の弱い有栖の近くで水飛沫を飛ばすのは洒落にならないだろうが。ひよりも運動神経が最悪だから万が一のこともあるかもしれない。
そう思う中、石崎とアルベルトが膝を曲げて飛び込み体勢に入るので……
「きゃっ……」
「あっ」
俺は反射的に有栖を抱き寄せて、ひよりの近くに動かし石崎達に背を向け、2人を守るような体勢となる。これなら俺が水を浴びるだけで済む。
そう思っていると……
パシャリ!
シャッター音が聞こえてくるので見てみれば、龍園は携帯をこちらに向けていて、石崎とアルベルトは膝を曲げているだけで飛び込む気配を見せない。
同時に俺は理解した。飛び込みによる攻撃はフェイクで本命は2人を守ろうとする俺の写真を撮ることだろう。
現に俺は2人を抱き寄せている。第三者からしたら中々ネタになる写真に見えるだろう。
(あの野郎……やってくれたな)
俺はニヤニヤ笑いを浮かべながら去って行く龍園に毒づいてしまう。いつかぶっ飛ばしてやる。
そこまで考えていると俺は有栖とひよりが俺の腕の中にいることを認識する。
「わ、悪い……」
同時に2人の身体の柔らかさも伝わってきて、俺は顔を熱くしながら2人から離れる。
「いえ。私は気にしてないですから謝らないで大丈夫です」
「……そうですね。驚きはしましたが、私達を守ろうとしてくれたんですから寧ろ嬉しいです」
ひよりはニッコリ笑いながら、有栖は若干恥ずかしそうにそう言ってくる。とりあえず2人から拒絶されないで本当に良かった。
「なら良かった……しかし、少々目立ち過ぎたな」
見ればデッキにいる人の大半が俺達を見ている。そんで男子は殺意を、女子は興味を向けていて居心地は良くない。
「そうですね。騒がしいのは好きじゃないですから出ましょうか」
言いながら有栖は自身の腕を俺の腕に絡めてくる。それにより歓声が上がる。
「……何故腕を絡める」
「レディをエスコートするのは紳士の務めですよ?」
有栖はニッコリ笑いながらそう言ってくる。言っても振りほどけないだろうし、諦め「椎名さんもどうですか?八幡君にエスコートされましょう」待てコラ。
内心有栖にツッコミを入れているとひよりが話しかけてくる。
「八幡君。私も良いですか?」
「……ああ」
期待の混じった目で見てくるひよりのお願いに対して拒否する選択はなく、俺は銀髪美女2人と腕を絡め合いながらプールから上がるのだった。
数時間後……
「よう比企谷。これからの話し合いも頑張「黙れ、死ね」くくっ、悪かったよ」
12時55分、俺は試験に参加するべく竜グループの部屋に向かうとその途中で龍園と会った。会うなり龍園は笑いながら挨拶をしてくるが、俺はプールの件について不満がある。
おかげでもう学年中で二股と思われてるし……
「はぁ」
ため息を吐きながらも竜グループの部屋に到着するので中に入ると既に全員揃っていた。
『グループディスカッションを開始します』
ドアを閉めると同時にアナウンスが流れる。すると最初に口を開けたのは葛城だった。
「比企谷に龍園。昨日の大量の裏切りはお前達の仕業か?」
やはりその質問が来たか。
「覚えがないな。普通に考えて有栖じゃないのか?」
まあ覚えがないのは嘘だけど。実際は龍園と有栖が協力して裏切ったんだ。
「私も違います。案外葛城君かもしれないですよ。無人島試験の汚名返上をする為に攻めている可能性はあります」
有栖はしれっとした表情で葛城に押し付ける。
「俺はリスクの大きい事はしない」
「そうですか。ならDクラスですか?クラスポイントを稼ぐべく攻めに出ることも不思議ではないですから」
「ありえるな。しかもプライベートポイントもどっかのビッチの所為で枯渇してるからな」
龍園の言葉に雪ノ下がギロリと睨むが龍園は我関せずだ。
「というか龍園。別に裏切る事はルール違反じゃないし、終わったグループに対する干渉は無理だから放っておこうぜ」
「ま、そうだな。それよりもこのグループの優待者を見抜かないとな」
龍園はしれっと嘘を吐くが、既にこのグループの優待者も把握している。Dクラスの櫛田桔梗だ。
既に俺と龍園と有栖とひよりはDクラスを殺すギロチンの紐を持っていて、後は手を離すだけで優待者を仕留められる。
「といっても葛城君は黙っているでしょうから話を進ませるのは難しいでしょう」
だろうな。1人が明確な意思で拒絶していると話を進めるのはやり辛いし。
結果的にグループ内には沈黙が生じる時間が流れる。BクラスとDクラスは話すが、それが広がるようなことにならない。
「やれやれ……沈黙が生まれてしまいましたね。龍園君、暇ですからコインで遊びませんか?」
要するに有栖がこの状況に飽きたので締めに入るようだ。
「ふざけるのも良い加減にしなさい。試験中にコイントスなんて馬鹿にしているのかしら?」
食ってかかるのは雪ノ下だが、有栖は意に介すことはない。
「別に問題はないはずです。試験の説明では部屋を出ない限り生徒の自主性に任せると言われました」
「ルールが認めても常識を知らないのかしら?貴女本当にAクラス?」
「それを言うなら常識どころかマナーも知らず、学力もない由比ヶ浜さんは本当に高校生なんですか?」
「ぷっ……」
俺は思わず吹き出してしまう。確かに由比ヶ浜の頭や精神は高校生としては論外だろう。
それにより雪ノ下は睨みつけるが、睨むことしか出来ない雪ノ下は怖くない。
「まあ私の行動に不満があるなら止めても構いません。しかし力づくなら即座に学校に訴えます」
言いながら有栖はコインを取り出して龍園に見せる。
「さて龍園君。花がある面を表、星がある面を裏としたらどっちにしますか?」
「裏で」
龍園がそう言うと有栖はコインを上に投げる。コインはクルクルと回りながら上に上るが、やがて重力に従って落下する。
そして有栖が腕を使ってキャッチするかと思えば、スルーしたのでコインは地面にぶつかって跳ねる。同時に俺はイカサマと疑われないようにと有栖が配慮したのだと理解する。
結果、コインは星が書かれた面を見せてくる。つまり裏である。
「あら。残念ながら私の負けですね。おめでとうございます」
「良かったな龍園」
「おめでとうございます」
有栖が珍しく残念そうに呟き、俺とひよりが拍手するが当然だろう。当たればこちらが50クラスポイントを得て、外したらAクラスが50クラスポイントを得るのだから。
「ふんっ。コイントスの勝利程度で喜ぶなんて器が知れてるわね。貴方達がDクラスに居ないのも何かズルをしたに決まってるわ」
事情を知らない雪ノ下は嘲笑を浮かべている。他の連中はというと葛城や神崎や堀北は俺達やコインを見比べて警戒丸出しだ。
その言葉により有栖の頭に青筋が浮かぶ。有栖って普段から雪ノ下と由比ヶ浜に喧嘩を売られているからか、2人に限定して沸点が低いんだよなぁ。
同時に有栖は俺にアイコンタクトをしてくる。トドメを刺せ、と。
それを確認した俺は龍園に裏切って良いかとアイコンタクトをすると龍園は頷く。どうやら裏切って良いみたいだな。
「はぁ……今回含めて後4回もグループディスカッションをするって事はそれだけ長く雪ノ下の戯言を聞かないといけないのか。面倒だなぁ」
正直雪ノ下の言動にはイラっとくるので挑発をする。
「私は間違った事は言ってないわ。貴方達がDクラスにいないなんてあり得ないし、試験をマトモに考えないで遊んでるのは事実じゃない」
「はっ。嘘つきを見つける簡単なクイズをマトモに取り組む必要はないな」
言いながら俺は携帯を取り出して学校に対して櫛田桔梗と書いたメールを送る。
その直後、部屋にいる全員のポケットから音楽が流れ出す。
「あなた、まさか……!」
堀北が驚きながらポケットから携帯を取り出し、他の面々も携帯を取り出す。
『竜グループの試験が終了致しました。竜グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
俺の携帯にもこんなメールがやってくる。これで残りは兎グループのみだ。
「おや、八幡君が裏切ったようですね」
「ふんっ。貴方みたいな屑が指名しても外れるに決まってるわ」
「何とでも言え。ともあれ終わったし、部屋を出ようぜ」
俺がそう言って退出を促すと優待者の法則を知っているメンバーは立ち上がる。
「待って。参考までに誰の名前を打ったのか教えてくれないかしら?」
堀北がそんな質問をしてくる。答えようか悩んだが、残りの兎グループの優待者はDクラスの生徒だから裏切るのは無理と判断して答えることにした。
俺は堀北に近寄り、彼女の耳に顔を寄せて……
「櫛田桔梗」
堀北以外には聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「っ……!」
俺の言葉に堀北は目を見開いて驚きを露わにする。どうやらビンゴのようだ。
その反応を見て嬉しく思いながら俺は部屋を後にするのだった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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はい。
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