腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「まさか私や椎名さんだけではなく、真澄さんも抱きしめるとは思いませんでしたよ」
有栖は杖をつきながらゆっくりとこちらに歩いてくる。同時に神室はため息を吐きながらも俺から離れて口を開ける。
「意図的に抱き合った訳じゃないから。私が転びそうになったところを助けて貰っただけだから」
「まあそうでしょうね。からかってすみませんでした」
そう言ってから有栖もジャグジーに入る。今更だが見た目が幼い有栖とジャグジーに入ってるって犯罪臭がするな……
「ところで八幡君にお願いがあります。私を抱きしめてください」
「いきなりだな。なんかあったのか?」
「はい。八幡君や龍園君と別れた後に部屋に戻ろうとしましたが、途中で由比ヶ浜さんに会ってしまい……まあ後は察してください」
「オーケー、察した」
大体予想はついた。大方由比ヶ浜が昨日の一斉裏切りについてギャーギャー騒いで、その際にまた有栖をガキ呼ばわりしたのだろう。
そんでストレス発散をするべく温泉に向かったら俺達と鉢合わせしたわけだ。
「ですから抱きしめてストレスを発散させてください」
「いや神室がいるんだけど?」
神室はどうでも良さそうに俺達を眺めている。興味がなさそうだが、だからといってここで抱き合うのは結構恥ずかしい。
「私は気にしませんよ?」
「俺が気にするんだよ」
「わかりました。では恥じらいを持たないで済むよう、もう一度真澄さんを抱きしめてください」
いやそっちに行くのかよ。普通神室を立ち退かせる選択肢を選ぶんじゃね?
「別に私が出て行けば良いだけじゃないの?」
「それでは面白くありませんから」
うん、絶対にコイツはそう言うと思った。有栖は堅実な勝利には興味がなく、ただ面白い事を優先するからな。
対する神室はため息を吐いてから俺に近寄る。どうやら俺に抱きしめられる選択をしたようだ。
「本気か?」
「逃げたら後で絶対に面倒な事になるから」
ですよねー。
「ふふっ。私の事をよく理解してますね」
「あんたを詳しく知ってる人なら誰でも理解出来る。それより……」
神室はその言葉を最後に俺の正面に立つ。それを見た俺は息を吐いてからそっと神室を抱きしめる。
「……ぁ」
すると神室はクールな表情に似つかわしくない吐息を漏らす。そんな神室を抱きしめるとドキドキしてしまう。
「どうですか真澄さん。気持ちいいですか?」
「別に……まあ何となく落ち着くわ」
神室はそう口にするが、俺の抱擁ってそんなに良いのか?実際ひよりや有栖は抱きしめられる事を望んでいるから良いのかもしれないが未だに半信半疑だ。
「では真澄さんも八幡君の背中に手を回して、八幡君の肩に顎を乗せてください」
と、ここで有栖はとんでもない事を言ってくる。抱きつくだけでドキドキしているのに抱き合えと言ってきたのだ。
これはマズイんじゃね?、と思ったが……
「はいはい」
神室はため息を吐いてから俺の背中に手を回し、俺の肩に顎を乗せてさっきよりも密着体勢となる。
ヤバい……物凄くドキドキしてしまう。有栖の奴、恥ずかしがっている俺を見たいのは容易に想像できるがドS過ぎだろ?
「んっ……」
思わず腕に力を込めると、神室は身を捩り、結果密着度が上がる。
理性の壁にヒビが入っているのを自覚しながらも暫く抱き合っていると……
「そろそろ離れて良いですよ」
遂に有栖がそう言ったので神室の背中に回していた手を下ろすと、神室も同じ仕草をして俺から離れる。当の本人は気恥ずかしそうにチラチラとこっちを見ていて、ドキドキが止まらない。
「真澄さんも満足したようですし、次は私を抱きしめてください」
そう言って有栖は俺に近寄ってくるので、俺は有栖を引いてそのまま抱きしめる。
「あっ……もう少し強くお願いします」
腕の中にスッポリ収まった有栖は吐息を漏らしながらそう願うので少しだけ抱きしめる力を上げる。
「あんっ……凄く気持ちいいです。さっきまで溜まっていたストレスが無くなっていくのがわかります……」
有栖はそう言って抱きしめる力を強めて、自分の頬を俺の頬に当ててスリスリしてくる。
その際に神室がゴミを見る眼差しで見ているが、側から見たら俺はロリコン扱いされても仕方ないので甘んじて受け入れる。
「それにしても八幡君は凄いですね」
「何がだよ?」
「メンタルの強さがですよ。私は由比ヶ浜さんや雪ノ下さんと1分関わっただけでストレスが溜まって仕方ないのに、中学時代にずっとあの2人と関わっていた八幡君は凄いと思います」
「あ、それは同意。あの2人と何年も関わってられる比企谷のメンタルは坂柳や龍園より遥かに強いんじゃない?」
「否定はしない。つか今は大分マシだからな。中学時代にはあの2人に加えて、更に3人がギャーギャー騒いでたんだよ」
小町と独神と葉虫の3人がな。つまり今は当時の4割程度だから大分マシになっている。
「それは大変ですね。しかし八幡君は何をやったのですか?噂では文化祭で実行委員長に暴言を吐いたり、修学旅行で告白の邪魔をしたと言われてますが、事実なんですか?」
「事実だな。まあ全部あの2人の尻拭いでやっただけだ」
そう前置きして文化祭と修学旅行で会った事を全て説明する。もちろん私情は一切挟んでない。
全てを聞いた有栖と神室は意外そうに俺を見てくる。
「意外ですね。八幡くんが受ける必要のない依頼を受けるなんて」
「というかアンタもそんな無茶苦茶依頼を何度も引き受けるって馬鹿じゃないの?」
「そうだな。それに関しちゃ否定は出来ない」
中学時代の俺は本当に馬鹿だった。何でどうでも良い奴等の為に身を粉にして働いていたのだろうか?
「しかし1番の愚か者は間違いなく由比ヶ浜さんでしょう。文化祭では雪ノ下さんが受けた依頼に八幡君を巻き込み、修学旅行では率先して依頼を受けたのに何もしなかったにもかかわらず、尻拭いをした八幡君を悪く言うのですから」
だよな。確かに俺にも悪い点はあるが、由比ヶ浜に比べたら遥かにマシだろう。
またそれを差し引いてもアイツは俺を常日頃からキモいキモい言うし、有栖の事をdisるしな。
「不愉快になる話をして悪かったな」
「私が頼んだのですから気にしないでください……とはいえ、こちらとしても再度苛立ちが生まれてきました。ですから八幡君にお願いがあります」
「何だ?」
「今から私は八幡君に背を向けて膝の上に乗りますから、後ろからあすなろ抱きをしてください」
待てコラ。どうしてそうなった?
そう突っ込もうとするが有栖の方が一歩早かった。俺の背中に回した手を下ろし、そのまま回れ右をして俺に背を向けてくる。
「ではお願いします」
どうやら引く気は無いようだし、こっちが折れるしかないようだ。
そう判断した俺はそのまま有栖の背中にくっつき、そっと首に手を回す。
「っあ……温かいです」
背後から俺に抱きしめられた有栖は小さく動き、俺をくすぐってくるが、俺も有栖の温もりを心地良く思っている。
「やっぱり八幡君の抱きしめ方はクセになりますね……気持ちいいです」
「そりゃどうも。ところで有栖。後で話があるんだが、良いか?」
「Cクラスとの同盟の話ですか?」
「話が早いな」
「私も温泉から出たら話をしようと思いました。私としては同盟に賛成です」
「わかった。じゃあ今度改めて話し合いの場を作ろうな」
「はい……ですが、今は私を抱きしめる事だけに集中してください」
「はいはい」
そう言ってから俺は有栖を抱きしめる力を強めてお互いの温もりを感じ合うのだった。
その後、神室にロリコン呼ばわりされたが、それについては客観的に見たら否定出来ないので甘んじて受け入れるのであった。
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