腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「ならば改めて宣言しましょう。私達Aクラスは由比ヶ浜さんを攻める為にCクラスと長期的な同盟を結びました」
有栖の宣言に対してデッキには沈黙が生まれるが、それも一瞬ですぐに騒めきに変わる。
そんな中、当事者である由比ヶ浜は真っ赤になって叫び出す。
「どういう意味だし?!私別に悪い事なんかしてないじゃん!」
その言葉に有栖の額に青筋が更に浮かび、龍園は高笑いする。
「くははっ!マジで言ってんのかよ!お前の頭はどんだけおめでたいんだよ?!最高だ……ゴホッゴホッ!」
龍園は笑い過ぎて噎せてしまっている。まあ気持ちはわからんでもない。
「ほう……散々私を子供扱いしたり、八幡くんを罵倒しておきながら悪くないと?」
「ヒッキーがキモいのは事実じゃん!アンタだって須藤君に突き飛ばされただけで学校にチクるなんてガキなの?!」
その言葉に対して有栖の額には更に青筋が浮かび、龍園は笑い転げ、それ以外の生徒の大半は信じられないような眼差しで由比ヶ浜を見る。
「ええ。私は子供ですから学校に報告しましたし、子供ですから貴女に馬鹿にされた仕返しをする為にCクラスと同盟を結びました」
「そういうことだ。しっかしDクラスの大半は不憫だなぁ。由比ヶ浜の言動の所為でこれからずっと俺のC……いや、Bクラスと坂柳のAクラスから攻撃を受け続けるんだからよ」
「ちょっ……由比ヶ浜はともかく俺達は無関係だろ!」
Dクラスの生徒はとばっちりを受けたくないとばかりに叫び出す。然しその程度の意見で有栖や龍園が止まるわけがない?
「残念ですが由比ヶ浜さんを叩くとなればDクラスそのものを叩くのが一番効率的ですから諦めてください」
「恨むんだったらAクラスのリーダーと俺が持つ最強の駒をdisりまくった由比ヶ浜を恨むんだな」
瞬間……
「ふざけんなよ由比ヶ浜!」
「あんたの所為で今後が地獄じゃない!」
「中間試験の時といい、疫病神だな!」
「今すぐ退学しろ!」
Dクラスの生徒の大半は由比ヶ浜を怒鳴る。中学時代は人気者であった由比ヶ浜からしたら悪意に晒されるのは耐えられないだろう。
それに対して雪ノ下や平田が由比ヶ浜を庇うように立つが多勢に無勢だ。
「それとB……っと、Cに落ちたんだったな。Cクラスについても由比ヶ浜がいるDクラスと同盟を結んでるし、徹底的に叩いてやるよ」
龍園の言葉に元BクラスのCクラスの生徒の大半も、Dクラスに怒鳴られている由比ヶ浜を睨む。あからさまに怒鳴ってはないが敵意は充分にある。
「ふふっ。二学期を楽しみにしてください。では私達はこれで失礼します。呼び出しに応じていただきありがとうございます」
有栖はそう言ってから一礼してから、配下を引き連れてゆったりとした足取りでデッキを後にする。
「俺達も行くぞ。今後について話をする……じゃあな、雑魚ども。二学期を楽しみにしてな」
龍園は一之瀬率いるCクラスの連中にそう言ってから歩き出すので、それに続く。
その際に顔を覆って蹲っている由比ヶ浜が印象的だった。
「責任取れよ疫病神!」
「アンタの所為でクラスポイントが減ったんじゃない!」
「お前なんかの為にポイントを払うんじゃなかったぜ!」
坂柳のグループと龍園のグループが去ってからもDクラスの生徒の大半は由比ヶ浜を罵倒する。
「落ち着いて!これ以上揉めても何も変わらないよ!」
「由比ヶ浜さんを悪く言わないで!」
「流石にこれ以上は言い過ぎだから落ち着いて」
平田と雪ノ下に加え、一之瀬も止めに入るが罵倒は止まらない。
元々由比ヶ浜は中間試験での一件でクラスで嫌われていたが、人気者の平田や櫛田が何とか場を収めていた。
しかし今回Aクラスと元Cクラスが同盟を結んだ理由が、由比ヶ浜という事もあり怒りが爆発したのだ。
由比ヶ浜が罵倒される光景を綾小路清隆は離れた場所からいつもの無表情で眺めている。
そんな綾小路の近くにDクラス担任茶柱がやってくる。
「激しい騒ぎ声が聞こえてきたから来てみたが、何があった?」
「Aクラスと元Cクラスが同盟を結びました。理由は由比ヶ浜と由比ヶ浜が所属するDクラスを叩く為にですね」
「……何?」
Aクラスに未練がある茶柱は目を細める。そんな茶柱に対して綾小路は口を開ける。
「茶柱先生。例の件ですが俺を解放してください。それが無理ならせめて由比ヶ浜が退学するまで結果を出せなくても文句を言わないでください」
今回の試験で今後に備えて軽井沢恵という駒を手に入れた綾小路は茶柱に頼み込む。
「お前でも無理か?」
「無理ですね。由比ヶ浜が在籍している限りDクラスは今後浮上する事はありません」
茶柱の質問に綾小路は断言する。
茶柱からDクラスをAクラスまで上げるように脅されている綾小路だが、由比ヶ浜がDクラスにいる状態ではCクラスにすら上がれないと確信している。
今回の優待者当て試験において、クラスを越えた協力関係を築くのは不可能に近い。
優待者の法則を見抜いたら独り勝ちが確定する試験で他クラスと組むには揺るぎない信頼が必要だが、坂柳のクラスと龍園のクラスは由比ヶ浜に対する恨みを使って揺るぎない信頼を手に入れた。
優待者当て試験で協力し合えるなら、今後の特別試験も同じように足並みを揃えてDクラスを叩くことは朝飯前であるのは明白。
生徒一人一人のポテンシャルやクラスの統率力などにおいて、Dクラスを遥かに上回っている2クラスを同時に相手取るのは不可能。
実際綾小路は今後について色々策を講じているが、クラス内にある亀裂や2クラスの結束力により、策は全て押し潰されると確信していた。
同盟を結んだ理由は由比ヶ浜を叩く為であるので由比ヶ浜が退学したら同盟は破棄される、もしくは結束力が弱まる。
最低でも由比ヶ浜が退学しない限りDクラスに勝ち目は一切なく、仮に由比ヶ浜が退学しても退学した際に生まれるであろうペナルティにより勝ち目は紙のように薄い……というのが綾小路の考えだ。
少なくとも由比ヶ浜がいる状況で結果を出せと言われても無理としか言いようがない。
「そうだな……わかった。少なくとも由比ヶ浜が退学するまでは急かさないことを約束しよう」
茶柱は騒ぎを見ながら綾小路の頼みを受ける。茶柱から見ても由比ヶ浜の足の引っ張り具合は桁違いであり、仕方ないと割り切ってしまっている。
(とりあえず最悪の事態は回避出来たが……本当に詰んでるな)
普段負ける事を想像しない綾小路でも今の状況は最悪であった。このままだと今後ずっとポイントも貰えないのは目に見えている。
(いっそAクラスとBクラスにこっちの情報を売って早急に由比ヶ浜を退学させるか)
綾小路は坂柳と龍園の顔を浮かべながら、如何に早く由比ヶ浜を退学させるかを考えるのであった。
「さてお前ら。Aクラスと同盟を結んだが、今後の予定を話しておく」
船にあるカラオケボックス、そこに俺達は龍園の命令により集まっている。
「先ず優待者を当てることによって入るプライベートポイントは300万だが、これについては200万を貯金して残り100万をクラス全員で均等に分ける」
まあ貯金は大事だからな。
「裏切り者が望めば学校はポイントを振り込んだ仮IDを作ってくれる。だから比企谷、お前は後で仮IDを作るように学校に申請しろ。比企谷以外の裏切り者はポイントが振り込まれた全額比企谷に送金しろ」
「わかった。そんで仮IDに300万貯まったら、内100万を40等分してクラスメイトに渡せば良いんだな?」
つまり今回の試験で入るプライベートポイントは2万5千ということになる。
しかし俺は特に不満はない。俺1人で優待者の法則を見抜けない可能性が高いからな。
「ああ。それとだ、二学期からは税収制度を導入するつもりだ」
その言葉にカラオケボックスに騒めきが生じる。
「それはつまり今後に備えての貯金ということですな?」
クラスの参謀である金田が眼鏡をクイっと上げて質問する。
「ああ。クラスポイントも伸びたから、Aクラスと一騎打ちになった場合の備えをしておきたい」
なるほどな。まあ確かにこの状況が続けばAクラスと一騎打ちをする事は可能だが、勝てる可能性は低い。
だから様々な備えをするのは当然だが、プライベートポイントを貯めておくのは重要だろう。
「そうなると毎月3万くらいですか?」
「そうだな。毎月3万なら生活に支障はないだろうな」
金田の質問に龍園が頷く。つまり毎月120万ポイントを貯めていくのだな。
今回の試験でウチのクラスポイントは836ポイントとなった。つまり毎月8万3千6百のプライベートポイントが支給される。
そこから3万、税として徴収すると各人が使えるプライベートポイントは5万3千6百となる。
そしてこれは5月の時点で支給されたプライベートポイントよりも多いので、日常生活において不便になるようなことはないだろう。
「ポイントを預かるのは比企谷にする。お前らは来月からポイントが振り込まれたら、比企谷が後で発行する仮IDに振り込め」
「比企谷が私的にポイントを使う可能性は?」
一部の連中がそんな意見を口にすると、龍園は目を鋭くする。
「あ?俺の判断に文句あるのか?」
同時に龍園の隣にいるアルベルトが拳を鳴らし、反対者を黙らせる。
強引なやり方ではあるが、龍園が俺を選んだのには理由がある。
何故なら俺は無人島試験でAクラス、というか葛城を嵌めた功績により龍園から報酬として毎月60万近くのプライベートポイントが支給されるのだ。
それほどの大金を持つ奴が私的にポイントを使わないと龍園は判断したに違いない。
まあ龍園もAクラスから毎月60万近くのプライベートポイントが約束されてはいるが、龍園は優待者当て試験で裏切り者になっていないため仮IDを支給されないから、俺に白羽の矢が立ったのだろう。
要するに今後俺の仮IDはクラスの銀行的役割を担うことになるようだ。
「って訳だから比企谷はポイントの管理をしろ」
「へいへい……ま、不満が出るのは当然だし、ポイントを確認したくなったら俺に携帯を見せるように促せば良いだけだ」
実際俺はクラスの皆で集めたポイントに手を出すつもりはない。そんな事をしたら学校から罰を下される可能性があるからな。
「決まりだな。今日はもう解散とするが、Bクラスに上がったからって馬鹿やらかしてクラスポイントを減らすんじゃねぇぞ?」
龍園がドスの効いた声でそう命じるが、須藤を嵌めて学校全体を巻き込んだお前が言うのか?
龍園の言葉に内心呆れながらも俺はカラオケボックスを出る。そして部屋に戻ろうとすると……
「八幡君。もし時間があるなら一緒に星を見に行きませんか?」
ひよりがそんな提案をしてくる。
「別に構わないが」
俺は返事に迷ったが誘いに乗ることにした。もしかしたら今後における話をするのかもしれないからな。
「ありがとうございます。では行きましょう」
ひよりがそう言って歩き出すので俺もひよりに続きデッキに出る。すると満点の星空が美しく光り、俺達を迎える。
既にDクラスの生徒も撤収していて、辺りは静かである。
「綺麗ですね」
「そうだな。こんな静かなひと時が一番好きだ」
他の連中は試験が終わって休んでるのだろうが、誰もいない場所で星を見るのも悪くない。
「私もです。八幡君は2週間大変でしたね」
「そうだな。優待者当て試験はともかく、無人島試験はガチで辛かった」
何せ最初の2日以降はガチのサバイバルだったからな。幾ら報酬が莫大でも、2度とやりたくない。
「お疲れ様でした。私は無人島試験では2日目の夕方にリタイアしましたが、それまで過ごした時間は凄く楽しかったです」
ひよりはそう言って微笑みを浮かべる。その笑顔は魅力的でドキっとする。
「ですから八幡君が良ければ、卒業してから2人で海に行きませんか?また八幡君と岩場を散歩したり、水上スキーに乗ったり、砂浜で一緒に寝たいです」
ドキドキする中、ひよりはそんな誘いをしてくる。女子からの誘いは勘弁して欲しい。
しかし……
「あ、八幡君が私と過ごすのが嫌なら、無理強いはしません……」
ひよりは途中で不安に満ちた表情に変わる。そんな表情を見ると断るに断れない。
ひよりは雪ノ下と由比ヶ浜とまた同じ学校と知って絶望した俺に対して、楽しい時間を作ってくれた恩人だ。
女子からの誘いは苦手だが、そんな恩人を悲しませる程腐ってはない。
「……わかった。卒業したら海に行こうな」
するとひよりはこれまでで1番の笑みを浮かべて……
「はいっ」
小さく頷き、俺の手を握ってくる。
(ま、ひよりの不安な表情を消してこんな綺麗な笑みを見れたなら良しとするか)
俺はひよりの手を握りながら空を見上げる。その際、気の所為かもしれないが、さっきよりも星が輝いているように見える。
まるで何かを祝福するように
こうして俺の前半が最悪だった2週間の旅行は最後にひよりが見せた笑顔によって、プラス評価の状態で幕を下ろすのであった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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はい。
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いいえ