腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
8月の最初から2週間かけて行われた旅行が終わって、1週間以上経過した。
後1週間もすれば夏休みも終わり、また学校が始まり面倒な戦いが始まるのだ。
そんな中、俺は自分の部屋でのんびりとネットサーフィンをしている。友達が少ない俺は必然的に自分の部屋で過ごすのが大半となっている。外に出たのなんて飲食物を買う時と新刊を買いに行ったくらいだ。
(まあ2学期が始まったら面倒事の嵐だろうし、問題ないだろう)
1学期は5月の最初以外は特にデカいイベントはなく、夏休みに大規模な特別試験をやった以上、2学期からは特別試験がそれなりに行われるだろう。
だから英気を養っておくのも戦術として間違ってはない。
そう思いながらもネットサーフィンをしていると、美味そうなラーメン特集が掲載されていたのでクリックしてアクセスする。
見れば見るだけで食欲を刺激するラーメンの画像が大量に出てくる。
(よし、夕飯はラーメンにしよう)
時計を見ると時刻は夕方5時半。今からケヤキモールに行けば6時くらいにラーメンを食べれるだろう。
そう判断した俺はパソコンの電源を切って外へ行く準備をしてから、外に出る。
部屋から出て、エレベーターで一階に降りて寮の外に出ると綺麗な夕焼けが目に入る。
そのままケヤキモールの方に向かうと、進行方向から買い物袋を持った女子数人が歩いてくるが、全員表情が暗い。
「あーあ。偶には外食がしたいなぁ」
「だよね。スーパーの無料食品はもうやだよ」
「一応来月には7500ポイント入るけど、夏休み中は0ポイントだしねー」
「本当最悪。由比ヶ浜さんの所為で2クラスから宣戦布告を受けるなんてさ。停学してポイントを0にした須藤くんより邪魔だよね」
「やっぱり中間試験の時に見捨てるべきだったよ。私あの時に1万ポイント払ったけど、心底後悔してる」
「無人島試験までは調子良かったのに……由比ヶ浜さんの所為でもうAクラスは無理でしょ」
そんな愚痴が聞こえてくる。会話の内容からして由比ヶ浜のクラスメイトだろう。要するにとばっちり組である。
しかしDクラスの生徒がAクラスを諦めても仕方ないだろう。
5月の時点でのクラスポイントは……
有栖のAクラス 940
一之瀬のBクラス 650
ウチのCクラス 490
由比ヶ浜と雪ノ下がいるDクラス 0
と、4位と3位の差は490だった。
しかし夏休みの旅行が終わった時点のクラスポイントは……
有栖のAクラス 1174
ウチのBクラス 836
一之瀬のクラス 734
由比ヶ浜と雪ノ下のクラス 75
と、4位と3位の差は659と圧倒的だ。加えてAクラスとBクラスが足並みをそろえてDクラスを叩きに向かっているのだ。Dクラスの大半は諦めていてもおかしくないだろう。
とはいえ同情はしない。何故なら俺達は別にルール違反をしてる訳じゃないからな。同盟を結んじゃいけないなんてルールはない。寧ろ四つ巴からタイマンに変えようとするのは戦略として正しい筈だ。
女子達の由比ヶ浜に対する愚痴を聞きながらもそのまますれ違い、そのままケヤキモールに行く。ケヤキモールは夏休みだけあって、賑わっている。中にはジャージを着ている集団もいて、そいつらは部活後の夕食を楽しもうとしているのだろう。
そして目的のラーメン屋に向かうが……
(うげっ、混んでるじゃねぇか)
いつもならそこまで混んでないがラーメン屋の前には行列が出来ていた。よく見ればウチのクラスの矢島、Dクラスの須藤や平田、Cクラスの柴田が上級生といる。
矢島が陸上部で須藤がバスケ部、平田と柴田はサッカー部だったが、どうやら運動部は今日ラーメンを所望しているようだ。
俺は回れ右をする。以前須藤を潰しにかかったし、見つかったら面倒な事になるのは明白。ラーメンはまた明日食べよう。
そのままスーパーに向かって歩いていると、スーパーから見覚えある女子が出てくる。
「あ、こんにちは八幡君。八幡君も買い物ですか?」
スーパーから出てきたのはひよりだった。両手に買い物袋を持っているし、夏休み最後の日までの食材を買い込んだな。
「ああ。ラーメン食いに来たんだが、混んでたからスーパーで適当に買おうとな」
「そうですか……あ、八幡君さえ良ければ夕食を一緒に食べませんか?麺も買いましたので」
予想外の誘いが来たな。確かにひよりの飯は美味いが……
と、ここで視線を感じるので顔を上げるとひよりがジーっと俺を見ている。何というか……見てると遠慮してはいけない気がしてくる。
結果……
「……じゃあ頼む」
ひよりの眼差しにより誘いを受けてしまう。
「ありがとうございます。私も八幡君と食事をしたかったです」
ひよりは笑顔で両手を叩く。その仕草がまた可愛いな。
「じゃあ行くか。半分持つ」
言いながらひよりが持つ買い物袋を半分持って歩き出すと、ひよりもそれに続く。
「今日は何してたんだ?」
「図書館にずっと居ました。八幡君は?」
「部屋に篭ってたな」
「そうでしたか。宜しかったら明日以降、一緒に図書館に行きませんか?」
「別に構わない」
ぶっちゃけ暇を持て余してるし、1学期の頃からひよりとは図書館で過ごしてたからな。
そんな会話をしながらも1年の寮に到着する。そしてエレベーターに乗るとひよりがエレベーターのボタンを押す。押したボタンは8階、俺の部屋は4階にあるのでひよりの部屋で飯を食べるようだ。
エレベーターのドアが開く。女子が住むエリアには基本的には行かないので妙に新鮮に感じるな。
廊下を歩き、ひよりが立ち止まるので俺も立ち止まる。そしてひよりがカードキーをかざすとドアが開く。
「入ってください」
「邪魔をする」
一言断ってから部屋に入り靴を脱ぐ。そしてひよりの後に続くと、本が大量に置かれた部屋を目の当たりにする。
俺もそれなりに本を持ってるがひよりはそれ以上だ。俺は本以外にゲームや飯などにポイントを注ぎ込んでいるが、ひよりは本のみに注ぎ込んでいるのだろう。
「では座って待っていてください」
「手伝うぞ?」
飯を作って貰うのだから手伝うのは当然のことである。
「大丈夫ですから、テレビか本を見ててください」
まあ部屋の主がそう言うなら座らせて貰うか。
俺は座ってキッチンに立つひよりを見る。と、ひよりは制服の上からエプロンを着て調理場に立つ。薄ピンク色のエプロンはとても可愛らしく、見ていて絵になる。
気が付けば俺はテレビや本を見ないでひよりを目で追っていた。何をやってんだ俺は?まるで変態じゃねぇか。
内心恥ずかしく思った俺はひよりから目を逸らし、顔を俯かせて飯が出来るのを待つことにした。
暫くするとこっちに近づいてくる足音が聞こえるので顔を上げると、丼を持ったひよりがこっちにやって来る。丼にはラーメンが入っていた。
「お待たせしました。八幡君の口に合うかわかりませんが、どうぞ」
そう言ってラーメンをテーブルの上に置いて俺の向かい側に座ると両手を合わせるので、俺も同じように両手を合わせて……
「「いただきます」」
挨拶をして食べ始める。ひよりが作ったラーメンはあっさり醤油ラーメンで、今日俺が食べる予定であったのは濃厚魚介ラーメンとは対極に位置するタイプのラーメンだが……
「美味いな」
箸が止まらない。
「ありがとうございます。八幡君にそう言って貰えると嬉しいです」
ひよりは微笑みながら礼を言ってくる。クラスの大半は不良っぽい生徒であるが、ひよりは清涼剤だな。
そう思いながらラーメンを食べているとひよりが口を開ける。
「そういえば八幡君。二学期から八幡君はどうするのですか?」
具体的な内容は言ってないが十中八九クラスの争いに関することだろう。
そしてクラスでも比較的特殊な立場である俺の動きも変わるのは間違いない。元々俺は龍園と有栖の橋渡しをしていたが、同盟を結んだし橋渡しをする必要も無くなった。
なら動かないって選択もあるが、俺はクラスで高い地位にいて、今後の学校生活に備えてその地位を手放すのは勿体ないので動くつもりだ。
「そうだな……スカウトとかを考えてる」
「スカウト、ですか?」
「ああ。優秀な人材を引き入れるのも戦略の1つだからな」
例えば以前龍園にも言ったが、有栖が最有力候補だ。有栖が居ないAクラスは脅威じゃないし、有栖も刺激的な日々を望んでるから交渉の余地はある。
他にもDクラスにいる高円寺六助。文武両道であり、情報によれば優待者当て試験にて猿グループの裏切り者らしい。誰の手を借りずに優待者を見抜いたなら奴の洞察力は桁違いであることを意味する。
自由人として有名ではあるが、奴が気紛れの行動で、優待者当て試験の時のようにDクラスに益が出るのは避けたいし、引き入れるのも悪くないと思っている。まあクラスに協力するかわからないから微妙だがな。
後は綾小路清隆。特に有名ってわけではないが、審議の時にはこっちの作戦の本質を見抜いて居たし、堀北会長とインファイトを繰り広げた男だ。引き入れる価値は充分にある。
「そうですか。私にも出来ることがあればお手伝いしますね」
「別に無理しなくてもいいぞ」
俺は自分自身のメリットのためにやるんで、ひよりが無理する必要はない。
すると……
「無理なんてしません。私はクラスの為に頑張る八幡君を隣で支えたいです」
微笑みを浮かべながらそう言ってくる。同時に俺の顔が熱くなり、心臓の音が響き出す。
(ダメだ。ひよりの笑顔には勝てる気がしないな)
その後俺はラーメンを食べ終えてひよりの部屋を後にしたが、寝るまでひよりの笑顔が頭から離れることはなかった。
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