腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「なっ?!」
予想外の要求に有栖は珍しく目を見開いて俺を見る。ここまで驚く有栖を見たのは初めてだが、中々新鮮だ。
しかし俺も目を見開いているだろう。何せ指示の内容は「有栖が俺の唇にキスをする」だし。
「八幡君……貴方、レベル5を選択しましたね?」
「……まあな。ちなみにお前は?」
「私はレベル3ですが……どうやら八幡君は私に一泡吹かせたいようですね」
頬を染めながら睨みつけてくる。もうここまで来たら俺も反撃しよう。いくら有栖が強くてもキスとなればチキるだろうし。
「ああ、一泡吹かせたかったな。それよりも早くキスしてくれよ……あ、嫌なら無理強いはしないから安心しろ。そん時はチキンだって思うだけで文句やペナルティはないぞ」
その言葉に有栖は口元を痙攣らせる。
「……随分と強気ですね。良いでしょう、唇を突き出してください。それと身長差があるので少し膝を曲げてください」
「はっ?マジで言ってんのか?」
俺はチキると思っていたが有栖は全然そんな素振りを見せない。
「ええ……あ、八幡君が緊張するなら無理強いはしませんよ。その時は八幡君をヘタレと思うだけですから」
俺と同じ事を言ってきやがった。譲る気は無さそうだな。
「いや。全く問題ないな」
そう言いながら俺は膝を曲げて、有栖がキスを出来るような体勢となる。
「では……」
言うなり有栖は真っ赤になりながらも顔を近づけてくる。それにより有栖の瑞々しい唇が目に入ってしまう。
有栖の顔はゆっくりと近付いてきて、それに比例するかのように赤くなっている。どうやら恥ずかしい気持ちはあるが、負けず嫌いの性格が顔を動かしているのだろう。
そしてキスをする直前で俺が避けると考えている可能性が高い。
そうなるとチキンレース……有栖がチキってキスを止めるか、俺がチキって顔を逸らすかのどちらかだ。流石にお互いチキらずにキス……ってのはないだろう。
有栖から目を逸らさずに見つめ続ける。人形のように美しい有栖の顔が徐々に近づいて来る。唇同士の距離は20センチ。
(まだチキらないか。有栖の性格上、ギリギリまで頑張るはず。距離的に2、3センチあたりだな)
そう思っていると間にも有栖は止まらない。唇同士の距離は10センチ。
(早くチキれよ。もう真っ赤なんだし無理すんなや)
有栖の顔は最早茹で蛸のように真っ赤になっている。多分俺も真っ赤になっていると思うが今回は引く気は無い。唇同士の距離は5センチ。
もう有栖の口から出る吐息が俺の唇に当たって理性を刺激する。
そうこうしている間にも唇同士の距離は近付く。
3センチ……
2センチ……
1センチ……
(っ!もう無理だ!)
俺は咄嗟に唇を横にズラす。
しかし有栖も限界だったようで唇をズラし……
ちゅっ ちゅっ
お互いの唇が、お互いの唇から限りなく近い頬にぶつかり合う。少しでも横に動かしたらマウストゥマウスになってしまうくらい近い頬にキスをし合っている。
それを認識した俺はマウストゥマウスにならないように気をつけながら距離を取り有栖を見ると、有栖は真っ赤になりながらも俺を見上げている。
「……引き分けですね」
「……だな」
お互い静かに語り合う。しかし仕方ないだろう。唇同士ではないとはいえキス、唇に限りなく近い頬にしたのだからぶっちゃけ恥ずかしい。
「と、とりあえず落書きをするか」
「わかりました。受取口にいますから」
有栖が離れると俺は落書きに移るが手を止めてしまう。何故ならモニターには俺と有栖が写っているが、唇同士のキスをしているように見えているのだ。第三者が見たら絶対に唇同士と判断するのは間違いない。
俺は落書きする気が萎えたので、おまかせボタンを押す。ぶっちゃけカップルモードの筐体での落書きとか無理過ぎる。
そのまま有栖がいる場所に向かうと同じタイミングでプリントアウトされるので手に取ってみると……
「は、八幡君……貴方、随分と大胆ですね」
俺と有栖ハートや天使に囲まれながらキスをして、一番上に「私達、結婚します」と書かれている写真があったのだ。
「ま、待て有栖。お任せモードにしたんであり、俺が落書きしたわけじゃないからな」
俺は真っ赤になっている有栖に慌てて言い訳をする。ハッキリ言ってこんな落書きをするのは無理だからな。
「そ、そうでしたか。しかしもうプリクラはやめましょう」
同感だ。もう俺は二度とプリクラをする気はない。恥ずかしくて死にそうだ。
「というか写真はどうする?」
2種類の写真が出来たが、第三者から見たら俺と有栖がイチャイチャしているように見えるだろう。
「第三者には見せたくないですが、捨てるのは勿体ないので部屋の机にしまっておきます」
「それが懸命だな……なんか色々疲れたから帰るわ」
「……そうですね」
俺達はプリクラだけやってゲーセンを後にする。元々雪ノ下に見つからないようにゲーセンに入っただけだしな。
そして外に出ると既に雪ノ下はおらず、その事実に安堵しながら俺達は寮へと向かう。
その際に気がつくと有栖を見ていて、有栖と目が合うとお互いにそっぽを向いてしまう。さっきのチキンレースの結果は思った以上に頭に残っているようだ。まだ有栖の唇の感触が残っているし。
そう思いながら歩いていると寮まで500メートルくらいのところで雨が降り始める。
初めはポツポツとしか降ってなかったが、少しずつに強くなる。夏だから急な雨があってもおかしくない。
俺だけなら走って寮に行けるが、今は有栖がいるので置いてきぼりにするつもりはない。
そう判断した俺は寮までの道の途中にある四阿を発見する。あそこで雨宿りをするのがベストだな。
「有栖、あそこまで運ぶが大丈夫か?」
「あ、はい。私のためにわざわざすみません」
有栖は謝るが、身体の弱い事は仕方ないし文句はない。
「気にするな」
そう言ってから俺は有栖を抱き抱えて、そのまま早足で四阿に入り、有栖をベンチに座らせる。
「ありがとうございます。しかし急な雨には参ってしまいます」
「同感だな。ショッピングモールにいるときに雨が降ってればまだしも……」
ショッピングモールでは突然の雨に備えて傘の貸し出しが行われている。
しかし寮とショッピングモールの中間地点あたりにいる時に雨が降り出してしまったので、傘を借りれない。今からショッピングモールに戻って傘を借りたらずぶ濡れになってしまう。
まあ雨が降り始めて直ぐに四阿に入ったので服はそこまで濡れてない。これなら有栖も風邪を引かないだろう……っ!
そう思いながら有栖を見ていると有栖の服が透けている事に気づいてしまう。白いワンピースの下から水色が見えたので慌てて目を逸らそうとすると、有栖は頬を染めて俺を見てくる。
「やっぱり八幡君は変態さんなんですね」
「待て。やっぱりって何だよ?」
「そうでしょう?船の上でスパに行った時、私のような体型に興奮してましたし」
否定は出来ん。あの時に有栖と密着したら生理的反応をしてしまったし。
「……済まん」
「別に怒ってないですよ。確かに八幡君は変態さんですが、同時に凄く優しい人だと思ってますから」
「んなわけないだろ。俺は気に入らない相手に容赦しないし優しくはないだろう」
「それは誰でもです。誰彼構わずに優しくする人間なんてこの世には居ません。少なくとも私は八幡君から優しさを感じました」
まあそうかもな。一之瀬や櫛田あたりは誰彼構わずに優しいように見えるが本当がどうか怪しい。俺の見立てじゃあの2人はAクラスにいてもおかしくないのにAクラスにいない。となると中学時代に問題を起こしたり、裏の顔があるのだと思ってしまう。
「そりゃどうも。しっかし凄い雨だな」
雨はどんどん強くなっている。道を歩いている生徒はいるが大半はレンタルの傘を持っている。俺達は運が悪いとしか言いようがない。
「そうですね。予報では夕方から雨と出てますし、一時的なものではないでしょう」
「そうか。つかお前は神室に傘を持ってきて貰えばいいんじゃね?」
「それでもいいですが……」
「良いですが?」
「ゲームセンターで生まれた恥ずかしい気持ちも大分収まりましたし、ここで2人で雨が止むのを話でもしながら待ちませんか?」
そんな提案をしてくる。確かに突然の雨により恥ずかしい気持ちは大分無くなったのは事実だ。
「別に構わないが、俺に話術はないぞ?」
「大丈夫です。聞きたい事に答えてくれるならそれだけで充分ですよ」
まあそれくらいなら俺にも出来るな。
「わかったよ。じゃあ待つか」
「はい。では……」
言いながら有栖はベンチをポンポンと叩く。何をしているのかと思っていると……
「隣に座ってください」
そんな誘いをかけてくる。俺は今までの経験上、断っても最終的に隣に座る事になるのは容易に想像出来るので、特に逆らう事なく有栖の横に座った。
雨はまだ当分止みそうにない。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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