腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
四阿にあるベンチに腰を下ろしてから1時間。雨はまだ止まず道路には巨大な水たまりが幾つも生まれて、道を歩く生徒は傘を差したり雨合羽を着ている。
そんな光景を見ながら俺と有栖はのんびりと雑談をしている。話す内容はこの学校に入学してからの出来事のみならず、入学前の出来事についても話している。
今は俺が奉仕部であった出来事を話している。これについては有栖が気になったからだ。
「そんでよ、あの独神が妹を利用して、俺を連れ出すまで、俺はボランティアのボすら聞かされなかったんだぜ」
「八幡君の妹もそうですが、八幡君の知り合いって馬鹿が多過ぎませんか?」
「否定はしない。あの時はマジでふざけんなって思ったな。もしも戸塚が参加しなかったら帰っていたのは間違いない」
「八幡君、戸塚さんの話になると元気になりますが男の子なんですよね?」
「ああ。ってもアイツを見てると性別なんてどうでもよくなるんだよ」
俺がどんな境遇にいても変わらずに接してくれた戸塚だが、この学校を希望した際に誘えば良かった。
「それでボランティア先ではどんな問題があったのですか?」
「もう問題があるとわかるとはな」
「当然でしょう。船で聞いた文化祭や修学旅行、先程までの奉仕部の活動の話から察するに八幡君は不幸の星の下にいるようですから」
だろうな。中学時代の俺は間違いなく不幸な人間だったと思う。
「簡単に言うと1人の女子がハブられていて、その問題に取り組んだ」
「……それ、ボランティアの範疇を超えてませんか?」
ですよねー。あの時はやらなきゃいけない雰囲気に呑まれていたが、ボランティアの範疇を超えてたよな。普通中学生にやらせる仕事じゃねぇよ。しかも引率の独神は監視しないで寝たし。
「まあな。それがまた面倒でよ、場を作って話し合うだの、代わりに文句を言うだの碌でもない案しか出なかったんだよ」
まあ俺の案も碌でもないが、雪ノ下と葉山は自分の考えが正しいと思っているが世間知らずにも程がある。
「総武中はそれなりに名門校と聞きましたが、生徒の民度が低すぎませんか……まあそれはそれとして八幡君はどんな案を出したのですか?」
「肝試しの時に小学生を脅して人間関係をバラバラにしたな」
「なるほど……中々面白い案ですね」
有栖は楽しそうに笑っているが、たったこれだけでわかるとはやはり天才だろう。
「ちなみにお前ならどうアドバイスをする?」
「簡単です。無視についてはどうしようもないですが、虐めに変わった場合に備えてボイスレコーダーと小型カメラを与え、ネットにアップするやり方を教えます」
コイツはコイツでえげつないな。まあそうでなきゃ有栖じゃないけど。
「それにしても八幡君の不幸ぶりは異常ですね。お祓いをしてもらった方がいいのでは?」
「お祓いなら中3の時にやって貰った。ま、この学校に雪ノ下と由比ヶ浜が入学した時点で意味がなかったけど……あ、そういや聞きたかった事があるんだが、良いか?」
「はい。何でしょうか?」
「確かお前の親父ってこの学校の理事長だよな?」
「そうですよ。もしかして身贔屓でAクラスに配属されたと思ってますか?」
「いや。仮にも政府から恩恵を受けてる学校の理事長が身贔屓したら問題だろ」
有栖の親父がどんな人間かは知らないが、普通に考えて身贔屓をするとは思えない。
「俺が気になってるのは入学する生徒についてだ。日本の将来を担う人間を生み出す為に様々な人間を受け入れる点については理解出来るが、一部に関しては入学基準に満たないだろ?」
俺や龍園のように中学時代に問題を起こした生徒、由比ヶ浜や須藤のように高校生にしては頭が悪過ぎる生徒などが日本屈指の高校に入れるとは普通思わない。
正直言ってこの学校の合格基準は前から気になっている。
「お答えできません」
有栖の返答はシンプルだった。
「それは教えられないって事か?それともわからないって事か?」
「半分半分です。この学校の合格基準について一部を知っているのは事実ですが、父からは口止めをされています」
そりゃ答えられないか。しかし娘の有栖ですら一部しか知らないとは……もしかしたらこの学校は俺達が知らないだけで、とんでもない事を考えているのかもな。
「そうか。なら聞かないでおく」
「ありがとうございます……それにしても全然雨が止む気配はないですね」
有栖の言うように雨は全然止まず、寧ろドンドン激しくなっている。四阿の下にいるから濡れはしないが、道には生徒の気配は感じない。
「だな。もしかして夜まで待つのか?」
「そうかもしれないですね……まあ1人で過ごすわけじゃないのが不幸中の幸いですね」
そう言いながら有栖は俺の手を握ってくる。しかも指を絡めてきやがった。
「っ!いきなりどうした?」
「ふふっ……可愛らしい反応ですね」
どうやらまたからかわれたようだ。ぶっちゃけ結構イラっときたしやり返すか。
「そうか?俺にキスをしようとしたお前の方が可愛かったぞ?」
実際あの時に見せた有栖の恥じらいはガチで可愛かった。
しかし有栖にとっては黒歴史みたいで頬を染めてジト目で見上げてくる。
「う、煩いです。八幡君の馬鹿……」
「悪かったよ。ちょっとからかい過ぎた」
「なら良いです。ただし余りその話で私をからかうなら、プリクラで撮った写真を広めますからね?」
「待てコラ」
そんな事をしたら卒業まで龍園に弄られるのは絶対だから、絶対に止めないといけない。
つか……
「広めたらお前にもダメージが来るんじゃね?」
「私の場合、クラス内で既に八幡君と交際していると噂されているのでそこまで気にしないです」
「あっそ……とりあえずからかわないでおく」
俺はそこまで達観してないからな、出来れば広めないで欲しい。
そう思いながら俺は有栖の手の柔らかさにドキドキしながらも雨が止むのを待つのだった。
1時間後……
「漸く止みましたね。では帰りましょうか」
辺りが薄暗くなってから雨が止んだので、有栖はそう言って立ち上がるので俺もそれに続いて立ち上がる。
そして四阿を出て寮に向けて歩き出す。ケヤキモールの方を見れば、生徒が歩いているのを確認出来る。多分雨が止むのを待っていたのだろう。さっきまでの雨は傘を使っても結構濡れるくらいの強さだったし。
そして寮に着いた俺達はそのままエレベーターに乗り込み、お互いの部屋がある階のボタンを押す。
ドアが閉まるとエレベーターはゆっくりと上がって、やがて俺の部屋がある階に着いた。
「じゃあまたな」
「はい……あ、八幡君。髪にゴミが付いてますよ」
エレベーターから降りて閉のボタンを押そうとしたら有栖にそう言われたので、俺は頭を手で払う。
「取れたか?」
「取れてないですね。しゃがんで下さい」
「ああ」
俺は有栖に言われた通り少しだけしゃがみ、有栖の手が届くようにする。
すると有栖は手を伸ばしながらも顔を近づけて……
ちゅっ
そっと俺の頬にキスをしてくる。
それを理解すると同時に俺の顔に熱が生まれる。
「んなっ!」
「ふふっ……可愛らしい反応ですね」
「お、おまっ、いきなり何を……!」
「プリクラで私を恥ずかしい思いをさせたお礼です……ではまた」
俺が慌てている間に有栖はエレベーターに戻り、そのままドアが閉まる。
あの野郎、最後の最後に爆弾を落としやがって……この借りはいつか絶対に返してやる。
「ふふっ……」
1人でエレベーターに乗る坂柳有栖は笑みを浮かべていた。最後の最後に八幡を慌てさせた事を嬉しく思うが故に。
「やっぱり八幡君の反応は面白いですね。次はどんな風にからかってみましょうか……」
次に会う事を考えているとエレベーターが止まったので有栖は降りる……と、同じタイミングで有栖の友人(手下)である神室真澄が廊下を歩いていた。
「ご機嫌よう真澄さん。何処かにお出掛けですか?」
「飲み物を買いに自販機に行くだけ。そういうアンタはご機嫌だけど、なんか良いことあったの?」
「はい。実はさっきまで八幡君と遊んでいたのですが、別れ際に八幡君の頬にキスをしたら面白いくらい慌てたんですよ」
その言葉に真澄はポカンとした表情になる。まさかそこまでの関係になっているとは完全に予想外であったのだ。
「あ、そ。ま、ほどほどにしなさいよ」
「それは無理ですね。八幡君と過ごすとつい苛めたくしまいたくなるので」
有栖はそう言ってから真澄の横を通り過ぎて、自分の部屋に入る。そしてそのままベッドに上がって、今日撮ったプリクラを眺める。
「覚悟してくださいね。私を辱めた分、これからずっと恥ずかしい思いをさせてあげますから……」
有栖はニッコリと笑ってプリクラを大事そうに持ちながら眺めるのであった。
同時刻……
「比企谷が恥ずかしがるのを見るためにキスをする……アンタは好きな子を苛めたくなる小学生なの?」
真澄は有栖に対する呆れと八幡に対する同情を抱きながら有栖の部屋を見てため息を吐いていた。
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