腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「さあ、入ってください」
「お邪魔する」
ひよりが入るように促すので、会釈をしてから玄関をくぐり、靴を脱ぎリビングに入る。ひよりの部屋には何度か入ったが、泊まる事は初めてだからかいつもよりも緊張してしまう。
「それにしても八幡君がお泊まりをしたいと考えているとは思いませんでした」
ひよりはそう言ってくるが、俺は元々ひよりの部屋に泊まるつもりはなかった。エアコンがぶっ壊れているので龍園の部屋に泊めて貰おうと思ったが、龍園が俺をからかう為、ひよりに「比企谷がひよりの部屋に泊まりたがっている」と言ったのでひよりの部屋に来ているのだ。
しかしその事を言うつもりはない。何故なら……
「私、お泊まり会は初めてですから楽しみです」
満面の笑みを浮かべるひよりを見ていると、水を差す気が失せてしまうからだ。過程はどうであれ、楽しそうにしているひよりの笑顔を壊すのは気がひける。
しかしどうしても気になる点については質問させて貰う。
「けどひより。男の俺が泊まって嫌じゃないのか?」
そう尋ねるとひよりは不思議そうに首を傾げる。
「そうですね……普通お泊まり会といえば男子同士、女子同士であり、異性同士というのは忌避感を抱きますよね」
ひよりの言葉に頷く。いくら仲が良くても同じ部屋で夜を過ごすのは女子からしたら忌避するものである可能性は高い。
「実際私も八幡君以外の男子の希望でしたら遠慮してました。しかし八幡君が来た時は嬉しく思いましたが、何故でしょう?」
ひよりは不思議そうに首を傾げるが、それって……
「あ、もしかして八幡君って実は女子なんですか?」
「違ぇよ!」
そう来るとは思わなかったわ!というか俺の見た目で女だったらソイツはある意味ヤバいと思うぞ。
「冗談です。ただ八幡君とお泊まり会をしたいというのは本当です」
ひよりはそう言ってくるが、ハッキリと言われるとこっちとしては恥ずかしい。
「……そりゃどうも。それにしても明日から二学期だな」
「はい……ですが、噂では二学期が始まって直ぐに体育祭があるみたいで憂鬱です」
ひよりは嫌そうにため息を吐く。確かにひよりの運動神経はクラスでもビリと言っても過言じゃないほど悪い。
「それは俺もだな」
俺も運動能力が高くない。ひよりほどではないが、クラスに貢献出来るかと聞かれたら首を横に振る。
「ま、避けては通れない道だし、一緒に頑張ろうぜ」
「そうですね……あ、もしも二人三脚のような競技があったら一緒に走りませんか?嫌な運動も仲の良い八幡君とやれば余り嫌な思いをしないで済むかもしれないです」
「それは龍園の采配次第だな」
まあ可能性はあるだろう。俺もひよりも運動神経は良くないし、相性が良ければ組める可能性はある。
「そうですね。体育祭の競技がわかったら龍園君に頼んでみます」
ひよりはそんな風に言ってくるが、そこまでして組みたいのだと理解するとむず痒いな……
「それと八幡君。明日ポイントが支給されるのでまた新刊を買いに行きませんか?」
ひよりは体育祭の話題から本の話題に変えてくる。俺とひよりは基本的にポイントが支給された日には必ず本屋に行くから、恒例行事のように誘ってくる。
「別に構わない。あ、それ以外にも電気屋によっても良いか?マッサージチェアを買いたくてな」
「もちろん大丈夫ですよ」
マッサージチェアは数十万するのもあるが、無人島試験での活躍によりAクラスは龍園に毎月117万のプライベートポイントを払い、龍園は俺に毎月58万5千ポイントの小遣いを払うことになっている。
ひよりが頷くとピロンと軽快なメロディが流れる。風呂が沸いた事を告げるメロディだ。
「すみません。お風呂を沸かしていました。八幡君は入りましたか?」
当たり前だ。ひよりの部屋の風呂に入ったら絶対にひよりの裸を想像してしまう自信がある。
「ああ。自分の部屋で入って来たし、俺に気を遣わないで入ってくれ」
「すみません。私がお風呂に入っている間、退屈でしたら棚にあるものを見ていてください」
そう言ってからひよりはクローゼットの方に向かい、引き出しから寝巻きや下着を取り出すので慌てて目を逸らす。コイツ、いくらなんでも警戒心無さすぎだろ?!
つーか紫って……ひよりって結構過激な下着を好むんだな。
さっきチラッと見えたひよりの下着により顔が熱くなるのを自覚する。
当の本人は全く気にしないで、風呂場に向かって行ってしまう。俺は顔に溜まった熱を発散するべく、息を吐きながら本棚を見る。
よく見ると読んだことがない本をあるので気を紛らわすべく手に取る。
そして本棚から引き抜こうとしたら、手に取った本の隣にあった手帳も一緒に本棚から出て床に落ちる。
だから俺は元の場所に戻そうとしたが手を止めてしまう。手帳は落ちた際に中が見えるように開いていた。
それだけなら手を止めないが、中身が予想外だったのだ。
6月19日 今日は八幡君の部屋にて八幡君と一緒に読書をしました。八幡君と読書をするのは日課ですが、日が経つにつれて八幡君の存在がどんどん大きくなっているのがわかります。
願うならお互いに退学する事なく卒業まで、そして卒業してからも八幡君と読書をしたいです。
そんな事が書かれていた。表紙を見ればdiaryと記されていた。やはりこれはひよりの日記だろう。
しかし内容が俺に関する事、それもかなり好意的な内容だ。顔に溜まった熱が更に増加してしまう。
普段からひよりと仲良くしているが中学時代の事もあり、俺は心の何処かで「ひよりは打算があって付き合っているのかもしれない」と思うことがあった。
が、こんな内容が書かれた日記を見れば、いくら俺でもそれが間違いである事は理解できる。自分の部屋というプライベート空間で書かれた内容だからな。
それを理解すると恥ずかしさと一緒に嬉しさも生まれてくる。こんな風に思われるなんて生まれて初めてだからな。
(しかしいつまでも他人の日記を見るのはマナー違反だから、棚に戻しておこう)
そう思いながら俺は日記を元の場所に戻そうとした時だった。
ピロン♪
「っ!」
風呂場に繋がるコントロールパネルから音が聞こえて、思わずひよりの日記を落としてしまう。コントロールパネルを見れば風呂場から呼び出しがあった。
「どうした?」
『あ、すみません。ボディーソープが空になったので持ってきて貰えないでしょうか?』
「何処にある?」
『冷蔵庫の近くにあるビニール袋の中にあります』
「わかった。風呂場の入り口に持っていく」
俺は通話を切ってから冷蔵庫の近くに向かい、洗剤やスポンジが入ったビニール袋から詰め替え用のボディーソープを取り出して脱衣所に向かう。
そして洗濯カゴを見ないようにして風呂場のドアの前に置く。
「ドアの前に置いとくぞ」
『ありがとうございます』
礼を言われた俺は脱衣所を出てドアを閉めると、ガラガラって音が聞こえる。つまり裸のひよりがボディーソープを……って!何を考えてんだ俺は?!
俺はまた顔が熱くなるのを自覚しながらもリビングに戻る。そしてさっき落としたひよりの日記を元の場所に戻そうとするが、再度動きを止めてしまう。
日記は落とした際に違うページになっていて、思わず見てしまったが……
8月30日 ここ最近八幡君の事ばかり考えていて、ふわふわした気持ちになっています。八幡君と話したいと思ったり、八幡君と会いたいと思ったり、八幡君に抱きしめられたい、と思っています。
恋愛小説を読むと、女子は好きな男子の事を考えるとドキドキしたり、幸せに思ったり、ふわふわした気持ちになる……といった表現があります。
高校に上がるまで異性と深い関わった事がないからわかりませんが、八幡君と恋人になった事を想像すると幸せな気分になりますし、八幡君に恋をしているのかもしれません。
八幡君が私にどんな気持ちを抱いているかわかりませんが、私と同じ気持ちだと嬉しいです。
さっき見たものより遥かに凄い内容が書かれているのだった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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