腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
俺はかつてないほどドキドキしてしまっている。顔が暑過ぎて倒れてしまいそうだ。
その原因は俺の手元にあるひよりの日記だ。
8月30日 ここ最近八幡君の事ばかり考えていて、ふわふわした気持ちになっています。八幡君と話したいと思ったり、八幡君と会いたいと思ったり、八幡君に抱きしめられたい、と思っています。
恋愛小説を読むと、女子は好きな男子の事を考えるとドキドキしたり、幸せに思ったり、ふわふわした気持ちになる……といった表現があります。
高校に上がるまで異性と深い関わった事がないからわかりませんが、八幡君と恋人になった事を想像すると幸せな気分になりますし、八幡君に恋をしているのかもしれません。
八幡君が私にどんな気持ちを抱いているかわかりませんが、私と同じ気持ちだと嬉しいです。
何度見ても書いてある事は変わらず、見直す度に恥ずかしくなってくる。
俺に対して恋しているかもしれないなんて書いてあるのを見たら誰だってそうなるだろう。
しかもひよりは見た目も性格も良い女子だ。見た目は良いが性格はブスな奴は中学時代に飽きるほどみたが、ひよりみたいな女子は滅多にいない。
(マジでどうしよう。ぶっちゃけひよりの顔をマトモに見れる気がしないんだが)
ひよりを見たら絶対に挙動不審になる自信がある。そんで日記を見た事を見られたら悶死する可能性もあるだろう。
そこまで考えているとガラガラって音が聞こえてくるので、俺は慌てて日記を元の場所に戻す。今の音は風呂場のドアが開いた音だから、後3分もしないでひよりが戻って来るだろう。
俺は日記を戻してから深呼吸をして顔に溜まった熱を少しずつ出していく。そうでもしないと熱で気絶してしまいそうだからな。
「お待たせしました」
暫く深呼吸をしていると足音が聞こえてきて、水色のパジャマを着たひよりが戻って来る。涼しげな格好は清楚なひよりに似合っている。
ひよりの寝間着姿に見惚れているとひよりは不思議そうに俺に近寄ってくる。
「ど、どうした?」
さっきひよりの日記を見たせいか挙動不審になってしまう。
「八幡君の顔が赤いですから気になりました」
お前の日記の所為でな。勝手に見た事については俺が悪いが、あんな内容を見て平常心を保つのは無理だ。
「大丈夫だ。夏だから熱が出たのかもな」
そう言うとひよりは不思議そうな表情のまま、俺に近寄り……
ピトッ
そのまま自分の額を俺の額に重ねてくる。
(っ!い、いきなり何をっ?!)
予想外の行動に加えて、間近にあるひよりの可愛らしい顔により、俺の顔はこれまでの比にならない程、熱が生まれる。
「どんどん熱くなってますね。エアコンの温度が高いからでしょうか?」
違います。ひよりの日記と言動が原因です。
まあ馬鹿正直に言うつもりはないので、小さく頷くとひよりはエアコンのリモコンを操作して温度を下げる。
「2度下げました。もしも体調が悪いなら薬の準備をしますから言ってください」
ひよりは俺に対して気遣いをしてくるが、この気遣いに打算がないのはわかったので凄く嬉しく思う。
「大丈夫だ。ありがとな」
「どういたしまして。それと本棚にある本で気に入った作品はありましたか?」
「それなんだが本人が了承したとはいえ、女子の棚に触るのは気が引けて見てないんだ」
「私は気にしないのに律儀ですね。ではこの本を勧めますよ」
ひよりはクスリと笑ってから、俺がまだ読んだ事のない本を紹介してくれるので、本の概要についてしっかり聞くのだった。
それからお互いに本について話し合うが、やがて11時を回った辺りでひよりがあくびをしてから俺を見てくる。
「すみません。眠くなってきたのでそろそろ眠りませんか?」
「別に構わない」
俺は基本日が変わってから寝るが、11時くらいに寝る事もあるし。
「ありがとうございます。では寝ましょうか」
ひよりは礼を言ってからベッドに入り、掛け布団を開いたまま俺を見てくる。
これはつまり一緒に寝るってことだろう。確かに俺はこれまでひよりと俺のベッドで寝た事があるし、ひよりの言動におかしな事はない。
しかしひよりの日記を見たからか、今の俺は恥ずかしさ故に忌避感がある。
(まあ頭の良いひよりなら、俺がここでいつもと違う態度を見せた結果、俺が日記を見たと察する可能性があるな)
結果、俺はひよりの誘いを拒否しない選択をして、そのままひよりのベッドに上がる。
それと同時にひよりは俺の背中に手を回して抱きついてくる。ひよりには何度も抱きつかれたが、今までよりも遥かに恥ずかしい。
「ふふっ。やっぱり八幡君の温もりは気持ちいいです」
ひよりはそう言って俺の胸元でスリスリをしてくる。ヤバい、メチャクチャ可愛い。こんな可愛い女子に想われているのかもしれないなんて……
もう心臓が破裂するんじゃないかと思っていると、ひよりはスリスリをやめて俺を見上げてくる。
「ところで八幡君。前から思っていましたが、私と過ごすのは楽しいですか?」
「いきなりどうした?」
「私は楽しいです。ここ最近はいつも八幡君の事ばかり考えていて、ふわふわした気持ちになって幸せなんです」
日記に書いてあった事に近い事を言ってくるひよりにドキドキする中、ひよりの話は止まらない。
「ですがこの気持ちは私だけで、八幡君は違うかもしれないと思ってしまうのです。八幡君はどうですか?」
ひよりは不安そうな眼差しで恐る恐る見上げてくる。俺の勘違いかもしれないが、ひよりの瞳は「私なんかと過ごして楽しいですか?」と言っているように感じた。
そんなひよりを見ていると胸が痛くなる。
「もし、もしも八幡君が嫌々私に付き合っているなら無理強いは「それ以上は言うな」あっ……」
俺は自己評価の低いひよりをこれ以上見ていられず、咄嗟にひよりを抱きしめていた。対するひよりは驚きながら俺を見てくる。
「俺もお前と同じ気持ちだ。お前と過ごす時間は穏やかで楽しいと思ってる。嫌々付き合った事はないし、嫌なら関わらない」
俺はそう言って抱きしめる力を強める。抱きしめるなら柄じゃないが、ひよりの不安そうな表情が無くなるなら何でもする。
ひよりを抱きしめると同時に確信する。
(……ああ、もう認めるしかない。俺、ひよりの事が好きだ)
俺は今まで恋愛をした事がないから、恋愛的な意味なのか親愛的な意味なのかはわからない。
しかしひよりが悲しそうな表情をすると嫌な気分になるし、ひよりの笑顔を見ると幸せな気分になる事から察するに、俺にとってひよりは大切な存在で、これからもずっと一緒にいたいというのは間違いない。
そこまで考えているとひよりを強い力で抱きしめている事を理解する。今までひよりを抱きしめた事は何回もあるが、今までに比べたらかなり強いのは間違いない。
だから俺はひよりに回した手を緩めようとするが、ひよりが強く抱きしめてくる。
「緩めないでください」
「いや、でもな「もっと……」もっと?」
「もっと八幡君の温もりを強く感じたいです……だから緩めないでください……」
ひよりは上目遣いで俺におねだりをしてくる。そんなひよりを見ていると拒否する事はできず、俺は抱きしめる力を強める。
「あっ……八幡君……八幡君の温もりが伝わって幸せです……」
ひよりは更に抱きしめる力を強める。普段非力なひよりからは想像出来ない力だ。
しかし痛みは感じない。ひよりの言ったように俺もひよりの温もりが伝わってきて幸せの方が痛みより上回っているからだ。
「ひより……」
「八幡君……八幡君……」
ひよりは俺を強く抱きしめたまま、何度も俺の名前を呼んで甘えてくる。
そんな甘えん坊全開のひよりに俺は抵抗をする事なく、眠りにつくまで抱きしめ続けるのだった。
翌朝……
「ふぁ〜……」
目を覚ましたひよりは伸びをする。同時に自分と向き合いながら眠っている八幡の存在に気づき、幸せな気分になる。
「おはようございます八幡君。朝食を作りますからゆっくり寝ていてください」
ひよりは微笑みを浮かべながらベッドから降りて、キッチンに向かおうとするが、本棚の前で動きを止める。
「そういえば昨日の分の日記はまだでしたね」
ひよりは本棚から日記を取り出して勉強机と向かい合って日記を書き始めた。
8月31日。今日は夏休み最後の日で、八幡君が私の部屋に泊まりに来てくれました。
その際私は八幡君に私と過ごすのは楽しいかと質問しました。私が八幡君と過ごす事に楽しさを感じていても、八幡君が私と過ごす事に楽しみを感じているか不安だったからです。
それに対して八幡君は私に同じ気持ちであると伝え抱きしめてくれました。そんな八幡君に対して私はかつて感じた事のない幸せに包まれ、眠りにつくまで八幡君に甘えてしまいました。
それによって私は自分の気持ちをハッキリと理解しました。
私、椎名ひよりは比企谷八幡君に恋をしています。八幡君を気に入っているであろう坂柳さんには渡しません。
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