腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
9月2日から俺達Bクラスは体育祭に向けて動き出した。
最初にやるのは体力測定だ。運動神経が良い悪いは何となくわかるが、実力は正確に知っておく必要がある。
「んじゃ先ずは握力から測るから出席番号順に並んで測ってくれ」
龍園に纏め役を押し付けられた俺は測定係となり、測定器を出席番号1番の石崎に渡す。
同時に石崎は強く握りしめてから、限界を感じると俺に渡してくる。
「記録、62.5だな。次は宇崎」
俺は出席番号2番の宇崎に渡すと、宇崎も測定器を握ってから、俺に渡してくるのでノートに記録する。
そんな感じで進めていくと、いよいよ大本命のアルベルトの番となった。
フィジカルなら1年最強であろうアルベルトに皆の注目が集まる中、アルベルトは測定器を握り、そのまま俺に渡してくる。
「100オーバー……マジか」
「おおっ!」
まさかの限界値にクラスからは歓声が上がる。予想はしていたが凄過ぎだろ……
俺は驚きながらも記録をノートに書いて、次の奴に回す。
それから記録を続け最後の龍園が64.2の記録を出してから、俺も測定する。
結果は48.2……実に平凡な結果だった。ちなみに1位は言うまでもなくアルベルトで、ビリはひよりの24.1だった。ひよりは若干嫌そうな表情をしていたが、誰にでも苦手なものはあるし仕方ない。
「推薦競技の四方綱引きについてだが、参加者は4人。力が重要である以上握力のトップ4に出てもらう。男子はアルベルト、石崎、龍園、小宮の4人で、女子は西野、木下、矢島、園部の4人だが異論はないか?」
「お前の好きにしろ。表向きの仕事はお前に一任する」
龍園がそう言ってくる。ならばその通りにさせて貰おう。
(つか龍園の奴、何故俺に纏め役をさせてんだ?)
龍園が指示を出す以上、何らかの意味はあるのだろうが、龍園の意図が読めない。まあ王の命令に逆らうつもりはないがな。
そう結論づけた俺は意識を切り替える。
「じゃあ四方綱引きの参加者は今言ったようにする。次に最後の1200メートルリレーの代表6人を決めたいし、今から200メートル走をするぞ」
言いながら俺はストップウォッチを片手にコースに移動するのだった。
それから20分して全員の計測が終わり、体育祭最後のリレーの代表6人は龍園、石崎、小宮、伊吹、木下、矢島の6人となった。
尚、俺の結果については19位と中堅の中の中堅であった。来年以降に備えて少し運動をした方がいいかもしれないな。
放課後……
「ところで八幡君。今回の体育祭ではどのように動くのですか?」
「今のところは派手に動かないな。他クラスの情報もないし」
授業が終わって、俺は自室にてひよりとのんびりと雑談をしている。俺としては授業が終わってから1人で過ごす予定だったが、ひよりが一緒に過ごしたいと言ってきたのだ。
最初はどう返事をしたらいいか悩んでいたが、ひよりが上目遣いで「お願いします……」とおねだりをしてきて、気が付けばひよりを連れて自室にいたのだ。
そんで雑談をするが、やはり話題は体育祭に関してだ。
「そうですか……私としては早く終わって欲しいです」
まあ運動能力がクラスで1番低いひよりからしたら、体育の授業が増えるのは嫌だろう。しかしひよりって極端だな。学力はクラス1で運動能力はビリだし。
「まあお前の場合、ペナルティを食らいまくっても中間で赤点はないだろ」
「そこは大丈夫です。それと八幡君」
「何だ?」
「推薦競技にある男女混合二人三脚、もしも相性が良かったら一緒に出ませんか?」
「相性次第だな」
二人三脚で重要なのは相方との相性だ。早い2人が組んでも相性が悪かったらダメだし、逆に遅い2人が組んでも相性が良ければ金星を挙げることも可能だ。
今日の体育では体力測定だけやったが、明日からは二人三脚の練習もする。その時にひよりと組んで相性が良かったら、出場するかもしれない。
「そうですね。ただ私としては八幡君と思い出を作りたいです……」
するとひよりはモジモジしながら俺を見てそんな事を言ってくる。そんなひよりはとても愛おしく見えてドキドキしてしまう。
(思い出作りか……そんな風に言うのは卑怯だろ)
俺の中でかけがえのない存在になりつつあるひよりの言葉には破壊力がある。
「そうだな……俺もお前と楽しい思い出を作りたいな」
「っ…….」
照れながらもそう返すとひよりは真っ赤になってから俯く。しかし偶にチラチラと俺を見てきて、それが可愛らしい。
「……八幡君」
「ど、どうした?」
「そんな風に思われて嬉しいです……でも、でももっと嬉しくなりたいです。だから……図々しいかもしれませんが、甘えてもいいですか?」
「っ……好きにしろ」
大切な人からそんな風に頼まれて断ることが出来ない。俺は恥ずかしがりながらもひよりのお願いを了承すると、ひよりは小さな手を俺の手に重ね、優しく握ってくる。
「八幡君の手、温かくて気持ちがいいですね……」
「ひよりの手は柔らかくて、握ってると安心する」
ひよりの手を握るだけで幸せになるなんて、コイツの手には魔法が宿っているのか?
そんな事を考えながらひよりの手を握っていると、隣に座っているひよりは更に近づいて、俺の肩に頭を乗せてくる。
それに伴い俺の頬にひよりの髪が触れてくすぐったい。ふわふわしたひよりの髪がエアコンの風に触れて、俺の頬はサラッと当たる。
チラッと横を見れば、俺を見上げているひよりと目が合う。同時にひよりは小さく微笑みを浮かべてくる。
学校では余り笑みを見せないひよりだが、俺の前だとしょっちゅう見せてくる。こんなひよりの笑みを殆ど独占出来る俺は幸せなのかもしれないな。
そう思っていると……
「あっ……」
ひよりの喘ぎ声が聞こえ、同時に俺はひよりの手を握っていた自分の手が頭に移動して、撫でていることに気付いた。
「わ、悪い」
慌てて謝ると、ひよりは首を横に振る。
「いえ、気持ちよかったのでもっと撫でてください」
そう言って俺の肩にスリスリしてくる。そんなひよりのおねだりに俺は断れずゆっくり、貴重品を扱うように丁寧に撫でる。
「んっ……八幡君」
ひよりの髪のサラサラっぷりに気持ち良さを感じていると、ひよりは目を細めたかと思えば、そのまま俺の膝の上に移動して抱きついてくる。
「……やっぱり、こうするのが1番幸せです」
そう言ってひよりは抱きしめる力を強めてくる。何度も受けたひよりからの抱擁。
しかしひよりの日記を見てから、ひよりからの愛情などを意識してしまい、頭の中がボウっとしてしまう。
ひよりを好きだと自覚して数日。未だに恋愛的な意味、もしくは友好的な意味でひよりが好きなのかはわからないが、どちらにせよ好きな人から愛情を感じると、麻薬のように溺れてしまう。
俺はボーッとしながらもひよりを抱き返すと、ひよりと見つめ合う。ひよりの目から愛情を感じ、続いてひよりの艶めいた唇を見てしまう。両想いである可能性がある以上、唇も見てしまうのは生物としての本能が働いているからなのかもしれない。
そう思っている時だった。お互いに見つめ合っていると、ひよりは今以上に頬を染めたかと思えば……
「…………」
やがて目を閉じて、艶のある美しい唇を僅か、ほんの僅かであるが前……俺の方に突き出してきた。
俺に対する感情が記されたひよりの日記
俺の部屋にて俺の膝の上に乗って俺と抱き合っているひより
目を瞑って唇を突き出してくるひより
以上の3つの事から……
(も、もしかしてひより、キスを求めてるのか?)
俺はそんな考えを抱いてしまった。
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