腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
(お、俺はどうしたらいいんだ?)
俺、比企谷八幡はかつてないほど困惑している。目の前には俺に抱きついて、目を瞑りながら唇を突き出しているひよりがいる。
俺に対する感情が記されたひよりの日記
俺の部屋にて俺の膝の上に乗って俺と抱き合っているひより
目を瞑って唇を突き出してくるひより
以上の3つの事から、ひよりは俺にキスを求めている可能性がある……と俺は考えてしまっている。
(マジでどうすれば良いんだ?)
選択肢は3つある。
①キスをする
②とりあえず話しかけてみる
③スルーする
難しいな。①のキスをするについてたが、ひよりが俺にキスを求めているってのはあくまで俺の考えであり、ひよりが望んでいるかはわからない。つか仮に望んでいても即座にキスをするのは……
②については一見手堅い選択肢かもしれないが、仮にひよりが本当にキスを望んでいるなら、話しかけるより行動して欲しいと思っているかもしれない。
③はない。2人きりの状況でひよりをシカトなんてしたら、人間関係に悪影響が出る可能性がある。雪ノ下や由比ヶ浜の場合、関係が悪化しても気にしないが、ひよりとの関係が悪化するのは嫌だ。
となると①か②だが……
どうしたものかと悩んでいると、ひよりは抱きしめる力を強めて更に唇を突き出してくる。
同時に俺の中で何かが吹っ切れた。これはもうOKと考えても良いんじゃね?
そこまで考えた俺はひよりの背中に回していた右手を離して、ひよりの前髪を横にズラして、自分の顔をひよりの顔に近付ける。
それによりひよりは目を開けるが、唇は突き出したままだ。ここで拒否する仕草をしないって事は……もう、良いのかもしれないな。
そう思うと、俺の顔が俺の意思に反してゆっくりとひよりの方へ向かっている。その際に何故か俺の顔の動きは止まる気がしない。
少しずつ距離が縮まるにつれて、ひよりは再度目を閉じて俺の背中に回した両手を俺の首の後ろまで動かす。
俺はそのままひよりの唇に近寄る。距離にして後5センチ。もう俺の中では止まるという選択肢はなかった。
5センチ……
4センチ……
3センチ……
2センチ……
1センチ……
0セ『pipipipi……』
「「っ!」」
お互いの唇が重なる直前、電子音が鳴り響き俺達は驚きのあまり、抱擁を解いて距離を取ってしまった。
電子音がした方向を見れば、部屋に備え付けられた電話が鳴っていた。基本的に携帯でやり取りするため、備え付けの電話が使われる事は殆どない。
使われるとしたら学校の先生や寮の管理人だろうから無視するのは不可能だ。
俺は呆然としながらも鳴り続ける電話を取る。
「はいもしもし、比企谷です」
『比企谷……あ、ごめんなさい。部屋の番号を間違えたみたい』
まさかの間違い電話かよ?!なんかもう遣る瀬無いな……
「そうでしたか……では失礼します」
そう言って電話を切り、ひよりを見るとひよりはなんとも言えない表情をしている。多分俺も似たような表情をしているのだろう。
「「…………」」
お互いに無言で見つめ合う。改めてさっきの続きを……みたいな話を出す事はお互いになかった。
暫くの間、無言が続くとひよりの腹からクゥ〜っと可愛らしい音が鳴り、同じタイミングで俺の腹も鳴る。
「……飯、食ってくか?」
「……お願いします」
その後、俺達は夕飯を食ったがキス未遂の件もあり、お互いに言葉少なく、チラチラ見合いながら食事を済ませた。あそこまで気まずい食事は生まれて初めてだと断言出来るだろう。
「では失礼します。夕食、ありがとうございました」
「ああ」
飯を済ませた俺達は気まずい空気のまま、挨拶をする。あそこで寮の管理人が間違い電話をしなければここまで気まずくはならなかったのに……
そう思っていると、別れの挨拶をしたのにひよりは動く気配を見せずに俯いている事に気付く。
どうかしたのかと思っているとひよりは顔を上げて、真っ赤になった顔を俺に近付け……
「んっ……」
そのまま唇を俺の唇に重ねてきた。
予想外の展開に目を見開いて驚く中、ひよりは直ぐに離れて俺を見てくる。
「すみません……さっきの続きをしたくて……お休みなさい」
そう言ってからひよりは早足で俺の部屋から出て行った。ひよりが見えなくなると、俺はようやく事態を把握して、物凄く恥ずかしくなってしまう。
(や、ヤバい。唇同士のキスは初めてだが、メチャクチャ恥ずかしい……!)
顔が熱くて熱くて仕方ない。ひよりに抱きつかれたり、有栖と頬にキスをし合ったりした際に恥ずかしいと思った事はあるが、今回はマジでレベルが違い過ぎる。
俺は部屋のドアの鍵をかけてからリビングに向かい、そのまま水道水を頭にぶっかける。こうでもしないとどうにかなってしまいそうだ。
というか明日からひよりと話せる自信がないんだが……
「キス、しちゃいました……」
風呂場にて、ひよりは唇を撫でながらそう呟く。ひよりは自分の部屋に入ってから何度も唇を撫でて、風呂に入って身体を洗いながらも唇を撫でている。
ひよりの唇には未だに八幡の唇の感触が残っていて、ひよりは現在幸せの絶頂にいる。
自分からしたとはいえ。自分の好きな人と唇を重ねたのだ。ひよりからしたら幸せ以外の何者でもない。
「キス……小説では甘いと書いてありましたが、本当みたいですね。甘く、熱く、幸せを感じます」
ひよりはそう言いながら右手人差し指で再度唇を撫でる。それと同時に八幡の唇の感触を思い出し、無意識のうちに左手で自分の乳房を揉みしだく。
「んっ……」
ひよりは吐息を漏らすと、左手が自分の乳房を揉みしだいていることを理解した。
しかし左手を止めるつもりはなかった。理由はわからないが、湧き上がってくる快感に抗うつもりはひよりの頭の中には存在しなかった。
そんな中、ひよりは八幡とのキスを思い出し顔に熱を生み出す。
「今日は私からでしたが……いつか八幡君からもキスをされたいですね」
思い出すのは八幡の部屋での一件。あの時は管理人の邪魔が入ったが、あの時に電話が来なかったら八幡からキスをされていた可能性が高いのでひよりからしたら残念で仕方なかった。
あの時に自分の髪をかきあげた八幡の手、髪をかき上げられて目を開けた際に見えた八幡の顔、自分に迫ってくる八幡の気配
それらを思い出すだけでひよりは自分の中で昂りを感じ、抑えることが出来なかった。
昂りは徐々に増していき、ひよりは左手を乳房に添えたまま、右手を唇から自身の聖域に移動させ……
「んんっ……!」
その日の晩、ひよりの部屋の風呂場からは嬌声とシャワーの音ではない水音が響き渡った。
「ヤバい……全然眠れない」
夜12時……俺はベッドに入るが、ひよりからのキスが頭から離れず、顔が熱くて熱くて全然眠れない。
ひよりの奴、別れ際にとんでもない爆弾を落とすとは……ま、まあ寮の管理人から電話が無かったらキスをしていただろうし、どのみち眠れる事はなかっただろうけど。
しかし明日からひよりの顔を見れるか心配だ。見たらテンパって不審者と思われてしまうかもしれないし。
(いや、なんとかして寝ないといけない。授業中に寝たりしたらクラスポイントに悪影響だ)
俺は元々龍園の配下についておらず、あくまでビジネスパートナー的な存在であったが、夏休みにあった2つの特別試験で動き回った事により、クラスメイトからは龍園の次に高い地位にいると思われている。
高い地位にいる人間が問題行為をしたりしたら、クラス内で不協和音が生じる可能性があるし、授業中に寝るわけにはいかない。
だから俺は無理に寝ようとするが……
『八幡君……もっと、キスしてください……』
何故か下着姿でキスを求めてくるひよりを妄想してしまい、眠れる気がしない。
というかひよりでこんな妄想をするなんて……マジで寝れる気がしないな。
結局、俺は深夜1時まで眠る事が出来なかったのであった。
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