腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「……はい。一応応急処置はしましたがあくまで応急処置。放課後、処分が通達されたらケヤキモールにある病院に行きましょう」
保健室にて、先生が職員会議でいない為に代わって治療してくれた有栖がそう言ってくる。
痛みはまだあるが、さっきに比べたら多少マシになっている。
「わざわざ悪いな」
「いえ。それにしても八幡君が感情的になるなんて思いませんでした」
まあそこは否定しない。あの時の俺は珍しく感情的になっていただろう。俺に対する罵倒は昔から受けていたので特に気にしないが、有栖に対する罵倒を聞いた時には珍しく苛立ちが生まれてしまった。
「それも……私の為に怒ってくれるなんて……」
「べ、別にお前の為じゃねぇよ」
「嘘ですね。あの時、八幡君は「雪ノ下。俺をいくらdisっても構わないが、有栖を侮辱してんじゃねぇよ」と言っていましたから」
ぐっ……一字一句キッチリ覚えてやがる。改めて言われると結構恥ずかしいな。
こりゃ今後も有栖にこのネタでからかわれるなぁと思った時だった。
「……ありがとうございます」
有栖はそう言ってから俺の顔を自身の胸元に寄せてギュッと抱きしめてくる。えっ?いきなりどうした?
「八幡君が怒ってくれた時、凄く嬉しく思いました」
そう言って有栖は抱きしめたまま撫で撫でをしてくる。有栖の胸と手から感じる温もりはとても心地良く、不思議と腕の痛みも和らいでくる。
しかし……
「……そりゃどうも。でも恥ずかしいからやめてくれ」
流石に子供扱いされるのは恥ずかしい。万が一第三者に見られたら恥ずかしくて死んでしまいそうだからな。
「嫌です」
が、有栖は俺の頼みを一蹴して撫で撫でしてくる。離す気がないとわかった俺は抵抗を止める。恥ずかしいのは否定しないが、嫌ではない。寧ろひよりとはまた違う心地良さがあって溺れてしまいそうだ。
「ふふっ……八幡君可愛いです」
結果俺は時間が許されるギリギリまで有栖からの抱擁と撫で撫でをされ続けるのであった。
数十分後……
「……そんな訳で俺は停学を食らうだろう。よってクラスポイントに影響があるかもしれない。悪かった」
有栖からの抱擁+撫で撫でを堪能してから俺は教室に行き、教壇に立って、朝の件についてクラスメイトに謝罪している。
処分は放課後に告げられるが、大体予想はつく。雪ノ下については明確な罰は無く、俺と由比ヶ浜は十中八九停学になるだろう。つまりクラスポイントに悪影響があるのは間違いない。
よってクラスメイトに頭を下げていると……
「くはっ!マジかお前!どんだけ坂柳の事好きなんだよ!」
笑い声が聞こえてきたので顔を上げると龍園は楽しそうに笑って、クラスメイトの大半は唖然として龍園を見ている。
しかし……
「待て龍園。別に俺は有栖の事を好きって訳じゃ……」
「そうか?半年近くお前を見てきたが、お前は心の暴力を使うのを好み、身体の暴力を嫌ってるタイプだ。そんなお前が身体の暴力に走るって事は坂柳の事が好きだからだろ?なぁひより?」
「そうですね……坂柳さんが羨ましいです」
ひよりはジト目で俺を見てくる。ひよりが俺を好いているのはひよりの日記やキスの件で知っているが、ひよりからしたら朝の一件は面白くないかもしれない。
というか気になる点がある。
「つか龍園。俺に対する罰は?」
「あ?話を聞く限りじゃDクラスにデカいダメージがあるだろうし、お前の功績はデカいから特に咎めるつもりはねぇよ」
意外だ。俺はアルベルトにぶっ飛ばされる覚悟をしていたのだが、随分とあっけらかんとしてるな。
まあそれならそれでありがたい。ならば今後、より一層クラスに貢献しないとな。
そんな事を考えていると朝のHRを告げるチャイムが鳴るので自分の席に着く。同時に坂上先生が入ってきて朝のHRを始めるも、俺は座る直前にジト目で見てくるひよりの事が頭から離れられなかった。
数時間後……
「ではHRを終了する。それと比企谷君は3時半に職員室に来るように」
1日の授業も終わり、帰りのHRにて坂上先生はそう告げると教室から出て行く。3時半まで20分くらいあるし、行く前に自販機で飲み物でも飲むか。
そう思いながら帰りの支度をしていると龍園が近寄ってくる。
「結果がわかったら連絡しろ。停学になったら、お前に任せた仕事についての調整もあるからな」
そう言ってから龍園は教室から出て行く。まあ俺はCクラスとの橋渡し役もあるからな。本当に申し訳ないな。
俺はそのまま教室を出て職員室から近い自販機に行き、お茶を買う。マッ缶はショッピングモールでしか売られておらず、今から行ったら3時半に職員室に間に合わない。
ゴクゴクと飲んでいるとひよりが自販機の方にやって来るのが目に入るが、妙に悲しそうだ。
「八幡君。ちょっと良いですか?」
「どうかしたか?」
「こんな質問をしたら不愉快に思うかもしれないですが……えっと……その……」
ひよりは言葉を躊躇っている。なんだかんだハッキリとモノを言うひよりにしては珍しいな。
「大丈夫だから思い切って言ってみろ」
「はい……その、八幡君は坂柳さんの事が……好きなんですか?」
そんな質問か。別にその程度で不愉快になるなんて事はない。雪ノ下と由比ヶ浜の罵倒に比べたら全然大した事じゃない。
(しかしどう答えるか……いや、正直に話そう)
ひよりが俺に向ける感情は理解してるし、ひよりは俺の中で大切な存在となっている。そんなひよりに嘘を吐くのは嫌だからな。
「……恋愛的な意味ならわからん。ただアイツの事は大切な存在と思ってる」
ひよりと過ごす時間は穏やかな時間で、俺に安らぎを与えてくれる。
一方有栖と過ごす時間はお互いにマウントを取り合う時間で、俺に刺激を与えてくれる。
しかしベクトルは違えど、2人と過ごす時間は俺の中でかけがえのない存在となっている。
加えて朝の一件であそこまで感情的になってし、俺の中で有栖ら大切な存在だろう。
「そうですか……あの、八幡君にとって、私は大切ですか?」
「ああ」
俺は即答する。ひよりとは入学してから1番の付き合いだが、ひよりと過ごす時間は良い思い出だ。
「……嬉しいです。私も、私も八幡君の事を大切に思っています」
ひよりはそう言ってからギュッと抱きついてくる。そんなひよりを見た俺は優しくひよりの頭を撫で撫でする。
暫くの間、こうしていると3時25分となった。そろそろ職員室に行く時間だ。
「済まんひより。時間だからもう行く」
「わかりました。あ、最後に目を瞑ってくれませんか?」
ひよりは俺から離れてそう言ってくるので、俺は言われた通りに目を瞑る。
何をするのかと思っていたら、やがて近づいてくる気配がして……
ちゅっ
唇に何かが触れる。目を開けるとひよりは昨日のように俺にキスをしていた。
予想外の展開に呆然としているとひよりは俺から離れて恥ずかしそうに口を開ける。
「ごめんなさい。昨日八幡君にキスをしてから、八幡君にキスをしたくなってしまって……」
そう言ってひよりは去って行くが、職員室に行く前に爆弾を落とさないでくれよ……
俺は顔に熱が溜まるのを自覚しながらもお茶を全て飲み、ゴミ箱に捨ててから校舎に戻る。
「失礼します」
そして職員室に入ると、職員室の隅にて有栖、雪ノ下、由比ヶ浜、堀北会長に坂上先生に茶柱先生がいた。どうやら俺が最後のようだ。
雪ノ下は俺を睨み、由比ヶ浜は俺に勝ち誇った笑みを浮かべてくる。雪ノ下はともかく、由比ヶ浜は自分は無罪と思っているようだ。本当に頭がめでたいな。
「揃ったか。では朝の件について説明する」
堀北会長がそう言うと空気が引き締まる。
「監視カメラの映像を私と各学年の学年主任が確認をして、各々の処分について話し合った。まずは雪ノ下」
「……はい」
「お前は坂柳と口論をしただけだから特に処罰を与えるつもりはない。ただし発言内容については問題がある為、今後同じような発言が確認された場合は処罰を与えるので忘れないように」
「……わかりました」
雪ノ下の罰については妥当だろう。実際雪ノ下は暴力を振るってないし。
「次に比企谷。坂柳を侮辱した雪ノ下の発言に問題があるのは事実だが、映像を見る限り些かやり過ぎであると判断が下された。よって1週間の停学とする。尚、クラスポイントについてはBクラスから50ポイントだけDクラスに移譲される」
まあ大体予想通りだ。確か2学期開始時点のクラスポイントは……
Aクラス 1164ポイント
Bクラス 816ポイント
Cクラス 721ポイント
Dクラス 51ポイント
であり、俺の停学により……
Aクラス 1164ポイント
Bクラス 766ポイント
Cクラス 721ポイント
Dクラス 101ポイント
となる。Cクラスと差が縮まったし、体育祭次第ではまたCクラスに落ちるかもしれないな。
まあ現在ドヤ顔で俺を見ている由比ヶ浜についての処分でどうなるかわからんがな。
そう思っていると……
「最後に由比ヶ浜。坂柳が比企谷を呼ばなかったら、後ろから比企谷を階段から突き落としていた。これは極めて悪質である為、2週間の停学とする。クラスポイントについてはDクラスから100ポイントだけBクラスに移譲する」
まさかのBクラスのクラスポイントが事件前より増える展開となりました。
現在のクラスポイント
Aクラス 1164ポイント
Bクラス 866ポイント
Cクラス 721ポイント
Dクラス 1ポイント
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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