腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
沈黙が痛いという言葉があるが、普段の俺はそう思わない。静かな事に耐えられない人間もいるが、俺は静かな時間が好きだし、この学校に入るまでボッチだったから基本的に沈黙が痛いと考えたことはなかった。
昨日までは。
「………」
「………」
「………」
部屋には沈黙が生まれて、息苦しく感じている。目の前にはジト目を向けながらプレッシャーを放つひよりと満面の笑みを浮かべながらもプレッシャーを放つ有栖がいた。
2人とも無言ではあるがプレッシャーが強くてビビってしまっている。
何故こうなったかというと、さっきひよりが俺の部屋に来たのだが、その際に有栖を目撃して不機嫌となったのだ。一方の有栖もひよりを目撃した瞬間、明らかに不機嫌となった。
そして2人は俺に対して事情を聞いて来たのだ。んで俺は逆らえずにひよりとお泊まり会をした際にひよりとキスをした事を始め、有栖が俺の泊まりに来て事故とはいえキスをしたり艶姿を見た事を全て話した。
そして2人とも物凄く不機嫌になって無言となったのだ。まるで俺は判決を待つ犯罪者のようだ。
「なるほど……とりあえず八幡君の手が速いというのは間違いありませんね」
「ぐっ……」
漸く沈黙が終わったが、有栖の鋭い言葉が胸に刺さる。まあ確かに2人の女子とキスをしているし、そう言われても仕方ないな。
「まあ私達はあくまで八幡君の友人なだけですから、八幡君をどうこうするつもりはありません。ですが1つだけ聞かないと気が済まない事があるので聞いても良いですか?」
ひよりがそんな事を言ってくる。口調からして相当重要な事かもしれないな。
「何だよ?」
「私のキスと坂柳さんのキス、どっちの方が好きですか?」
「ぶっ!」
予想以上にぶっ飛んだ質問に噴き出してしまう。何つー恐ろしい質問をしやがるんだよ?
「それは私も気になりますね。教えてください」
すると有栖もひよりに便乗してくる。待ってくれ、そんな質問をしないでくれ。
どうしたものかと悩んでいると有栖の方からアラームが鳴り出す。
「おや、そろそろ学校に行く時間ですし、朝はここまでにしましょう」
どうやら神は俺を見捨てていないようだ。
「そうですね。では八幡君。放課後に坂柳さんと一緒にこの部屋に来ますから、その時までに答えを用意してください」
ちゅっ
ひよりはいつものように俺にキスをしてから立ち上がる。
「おやおや……随分と大胆ですね」
そう口にする有栖からのプレッシャーは増大した。ハッキリ言ってメチャクチャ怖い。
冷や汗をダラダラ流していると有栖も俺に近づき、そのままキスをしてくる。
「んっ……楽しみにしてますから」
神は俺を見捨てていたようだ。単に時間が僅かに伸びただけだ。
そう思っている間に2人は部屋から出て行く。それを呆然と眺める俺は、やがて再起動して携帯を取り出して龍園に『暇だから放課後部屋に遊びに行かせてくれ』とメールを送るが、『わかった。ひよりと坂柳への連絡は任せろ』と返事が来たので龍園の部屋に行くのはやめた。
龍園の事だから、俺のメールだけでひよりと有栖が関わっていると察したのだろう。無駄に凄い洞察力だが、今だけは腹立たしいな。
内心溜息を吐きながらも俺はどっちのキスが良いか真剣に考えるのだった。
数時間後……
ピンポーン
部屋のインターフォンが鳴る。昨日までは時間が経つのがメチャクチャ遅いと思っていたが、今日に限ってはあっという間と思えるくらい早かった。
カメラ映像を確認すると案の定、ひよりと有栖が映っていたので、玄関に行きドアを開ける。
「お邪魔します」
「失礼します」
2人はそう言って部屋に上がるのでリビングに案内する。2人はクッションの上に座ると即座に詰め寄ってくる。
「では答えを聞かせてください」
「私と坂柳さん、どっちのキスの方が好きですか?」
どんだけ答えを聞きたがってたんだよ……
2人は俺を強い目で見てくるが、残念ながら2人が満足する答えは持ってない。
「済まん。今日一日考えたが、ひよりのキスにしろ有栖のキスにしろ、それぞれ違った魅力があって、優劣をつけれなかった」
そう言って俺は頭を下げる。ひよりからのキスには甘さが含まれていて、キスを受けると蕩ける気分になる。
一方、有栖からのキスには強さが含まれていて、キスを受けると気分が昂ぶるのだ。
しかし両者からのキスについて共通点がある。それはどちらのキスからも優しさが含まれていて幸せな気分にもなる。
結果として俺の中で優劣をつけれなかったのだ。
まあこれはあくまで俺の意見だからひよりと有栖が納得するかはわからない。
すると……
「そうですか。なら仕方ないですね」
ひよりがそんな事を言ってくるので顔を上げると、2人とも特に不満そうな表情は浮かべてない。
「え?怒ってないのか?」
「残念に思う気持ちはありますが、真剣に考えた結果なら文句はありませんよ」
「それに八幡君は魅力的だと思っているようですから」
ぐっ……有栖の笑顔が腹立たしいな。やっぱ俺は有栖に勝てないのかもしれないな。
「まあ今はそれで良いですが、いつか八幡君を私のものにしますので、八幡君はしっかり覚えていてくださいね?」
そんな事を言ってくるが、有栖は本当に俺を手に入れようとしてくるだろう。
「いえ。私も八幡君と一緒に過ごしたいですから、坂柳さんには八幡君を渡しません」
「望むところです」
するとひよりが決意の篭った眼差しで有栖と向き合い、有栖は笑顔で迎える。2人の会話を聞いていると俺を取り合っているように聞こえるが、俺にそんな価値があるとは思えないんだがな……
「まあ今揉めても仕方ないから、この話は一度終わりにしましょう」
「椎名さんの言う通りですね。ところで八幡君にお願いがあります。さっき椎名さんとここに来るまでに話したのですが、今日もまた泊めてくれませんか?」
「私も八幡君とまたお泊まり会をしたいです」
そんな風に言ってくる。確かに俺の部屋に2人が泊まるのは校則違反ではないが……
「流石に2人同時は「嫌、なんですか……?」ぐっ……嫌ってわけじゃないが「仕方ないですね。どうしたら泊めてもらえるか龍園君に相談してみるとしましょうか」……ぜひ泊まってくれ」
断ろうとするが、ひよりの上目遣いに揺らいでしまい、有栖の爆弾発言に屈してしまった。
「「ありがとうございます」」
2人の笑顔に俺は何も言えなくなってしまった。
やはり俺は2人に頭が上がらないなぁ……
数時間後……
「ではそろそろ寝ましょうか」
「そうですね。私達は学校がありますから」
2人を泊める事を了承してから、一緒に飯を食ったり、読書をしたり、勉強したり、風呂に入ったりしている内に日が変わったので有栖達はそんな事を言ってくる。
それについては異論はないが……
「お前ら、離れてくれないか?」
ベッドに行こうとしたら2人が俺の腕に抱きついて離れる気配を見せない。2人の柔らかな身体の感触が伝わってきてドキドキする。
「「嫌です」」
そして速攻で拒否られる。予想はしていたが即答か……
内心苦笑をしながらも俺はベッドに入り、2人に挟まれながら電気を消してから仰向けになる。
すると左側に抱きついているひよりは俺の左足に足を絡め、有栖は俺の右足に絡めてくる。密着してくる2人は俺の理性を削りたいようだ。
「ではお休みなさい八幡君……んっ」
ひよりはそう言ってキスをしてきて、同時に首筋がくすぐったくなる。
「うわぁっ!」
「ふふっ、可愛らしい声ですね。お休みなさい」
有栖の奴、自分の舌を俺の首筋に這わせてきたか……やってくれるな。
やり返そうか悩んだが、やり返したら有栖もやり返してくるだろうから辞めることにした。それにマウントの取り合いをした結果、有栖とキスをしたからな。
(まさか女子2人と眠る事になるとはな……ま、今日だけだし頑張るか)
そう思いながら俺は2人の身体の感触にドキドキしながらも何とか眠りにつくのだった。
翌日、2人は俺にキスをしてから学校に行ったが、放課後になってまた泊めてくれとおねだりをしてきて、なし崩しに再度泊める事になった。
それは俺が停学が明けるまでずっと続くのであった。
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