腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
いよいよ迎えた体育祭当日。運動神経が余り良くない俺からしたら嫌な1日なので早く終わって欲しいのが本音だ。
まあ少しだけ良いこともある。それは……
「はい。こちらが八幡君でそっちがひよりさんです」
何と有栖がわざわざ弁当を作ってくれたのだ。基本的にひよりが家事をやって有栖が俺に勉強を教えているが、今日はひよりも忙しいからと言って昨日のうちから仕込みをしていた。
「ありがとうございます」
「わざわざ悪いな」
「お2人は競技に出ますから。私は出ませんが頑張ってくださいね」
有栖はそう言っているが外で応援したら面倒なことになるだろう。何せ有栖はAクラスのリーダーだし。
とはいえ部屋の中だし、問題ないだろう。
問題があるとしたら体育祭本番だ。龍園の奴、参加表を作った翌日から一部の生徒に何らかの命令を下していたのだ。
何を命令したのか聞いたら「お前は一之瀬と作戦会議をしてるし、そこからボロが出る可能性があるから今は教えられない」と返されたが、十中八九Cクラスを潰す作戦だろう。
何をやるかはわからないが、参加表が漏れてるDクラスではなくCクラスを狙うのが不気味である。
まあ俺は特に命令を受けてないので、そっちの仕事はしないで済むだろうな。
俺はそう結論づけて、2人と一緒に学校に行く準備を始める。適当に頑張りますか。
学校に着くと、直ぐに体操着に着替えてグラウンドに集まり開会式が始まる。しかし入場行進や開会宣言は簡潔に終わり。早速競技が始まる。
初めは100メートル走だ。
全員参加の個人種目は、全て1年生から始まる。最初に1年男子で始まって3年女子。100メートル走が終わったら途中休憩を挟んで1年女子から3年男子の順番で次のハードル走をやる仕組みだ。
競技に参加するため、俺達1年男子がぞろぞろとグラウンドへ出ていく。100メートル走は各クラスから2名ずつ出して8コースを使って行う。
俺は4組目だが、Dクラスの生徒を見れば綾小路が事前にくれた情報通りだ。加えて開幕スタートの1組目に須藤もいるし、この時点でDクラスの敗北は決定したようなものだ。
1組目がスタートすると須藤は圧倒的なスピードで1位を取り、ウチのクラスの野村と鈴木はビリとブービーだった。まあ予定通りだから問題ない。
その調子で進むといよいよ俺の番だ。俺と走る7人は各クラスの主力じゃないし上位入賞するかもしれない。
そう思う中、スタートするが案の定早い生徒はおらず俺は8人中1位をキープしてゴールする。幸先は悪くないし、この調子で行きたいものだ。
そう思いながら待機席でのんびりと男子の競争を見ているが、やはりCクラスは安定した結果を出している。特別試験ならまだしも体育祭や定期試験ではCクラスの安定力は厄介だ。
そして次は女子の番だが、Dクラスの遅い女子はビリが多く、早い女子は圧倒的な1位となり、中堅クラスは上位3人に入れずにいて予定通り……ん?
そこまで考えていると予想外の展開となった。Dクラスの女子でもトップクラスの速さを誇る堀北と走る選手にウチのクラスの女子でトップクラスの速さの伊吹が一緒にいた。
どういう事だ?伊吹は確かDクラスの中堅クラスの生徒を潰す役目だった筈だ。
「龍園、何で伊吹が堀北と一緒なんだ?」
「アイツ、鈴音と戦いたいって参加表を提出する直前にゴネたからな」
「いや拒否しろよ」
私情を作戦に挟むなんて龍園らしくないな。
「安心しろ。条件として伊吹が負けたら、今後二度と逆らうなって念書を書かせた」
なるほどな。伊吹は龍園に反抗的な人間だから悪くない契約だな。
そう思っているとスタートするが、堀北と伊吹が他の6人より遥かに良いスタートを切った。
伊吹の方が僅かにリードしているが、堀北が気になっているからか差が縮まり、50メートルくらい進んだところで並び、やがて抜かされる。
すると伊吹も僅かにスピードを上げて堀北との差を縮め返していき、2人が並んだように見えたところでゴールする。
その後、伊吹は地面を蹴った事から負けたのだろう。一方の龍園は楽しそうに笑っているが、絶対後で伊吹を煽るのは容易に想像できる。
そして次のレースだが、Dクラスから出る2人の内、片方は由比ヶ浜で、それに伴いDクラスの男子は舌打ちをしている。その態度だけで由比ヶ浜の嫌われっぷりがよくわかる。
スタートするとAクラスの女子2人とウチのクラスの女子2人が遅いスピードで走り、由比ヶ浜はその4人の前を走っている。
しかも途中でCクラスの女子の1人が転び、結果として由比ヶ浜は3位でゴール。本人は喜んでいるが、こちらとしては予想の範囲内だ。というかそうなるように仕向けたんだから、4位以上でないと困る。
そのまま1年の100メートル走はDクラスが大敗である事が明らかなまま終わって、白組が有利……なんて事もなく、2年3年のAクラスがぶっち切りであった為、全学年の100メートル走終了時点で赤組がリードしていた。
次に行われるのはハードル走だ。距離は100メートルで、ハードルを倒したら0.5秒、ハードルに接触したら0.3秒のペナルティがある。
俺と競う7人を見るが、最悪なことにCクラスからはサッカー部の柴田が出ている。100メートル走でもぶっち切りの速さだったので、1位を取るのは無理だろう。
そう思いながらレースを見るが、Dクラスが下位に沈んでいるパターンが多いので綾小路がくれた参加表は正確である事を意味する。当の本人は無表情でハードルを飛び越えて3位を獲得している。
そんなこんなで俺の番になるが、柴田が圧倒的なスピードでハードルを飛び越え、俺を含めた7人はハードルを倒したり触れたりしながらゴールをする。
結果、俺は4番目にゴールしたが、3番目の生徒の方がペナルティがあって3位となった。1位と3位なので上出来だろう。
「ちっ、どいつもこいつも……やる気ねぇのかよ」
待機地点に行くと、須藤が不機嫌丸出しで舌打ちをしている。多分Dクラスの成績が悪いからだろうが、参加表が漏れた時点でDクラスに勝ち目はない。
つか須藤はキレているがDクラスの生徒からしたら、停学を食らった奴に言われたくないだろうな。
由比ヶ浜がぶっち切りだから目立ってはないかもしれないが、須藤は須藤で停学を食らってクラスポイントを減らしてるし、Dクラスのお荷物であることは間違いない。
そう思っているとひよりの番となったが、体育祭におけるひよりは捨て駒的扱いだから良い気分にはならない。まあ身体能力はクラス最下位だから仕方ないっちゃ仕方ないがな。
とはいえ勝負はまだわからない。ひよりが捨て駒的な立場であることには違いないが、それはつまりもう1人のBクラスの女子とAクラスの女子2人も同じ立場であるから、もしかしたらペナルティを受けない可能性もある。
そしてスタートするとCD女子4人は全員早いようで横並びで進み、AB女子4人は大きく遅れ、ハードルを倒しまくりながら進む。
しかしここで番狂わせが生じる。何とCクラスの女子がハードルを飛び越えた際に転倒したのだが、横並びになっている女子3人を巻き込んでしまったのだ。
それにより遅れているAB女子4人はCD女子4人を抜いてゴール。結果としてひよりは1位でゴールしたが、立派な番狂わせだろう。
するとひよりは俺に気付いたのかこっちに近付いてくる。
「八幡君。運が味方について1位でした」
「見てた。でも仮に番狂わせが無くてもペナルティは無かったし、頑張ったと思う」
仮にCD女子が転倒しなくても、5位には入れてペナルティは無かっただろう。練習でいつもビリだったことを考えれば頑張ったと思う。
「ありがとうございます。八幡君も格好良かったですよ……」
ひよりはモジモジしながらそう言ってくる。大切な人にそう言われるのは嬉しく思うが……
(人前で話すのは勘弁してくれ……)
周りにいる一年生はニヤニヤ笑いを浮かべたり、嫉妬の睨みを向けてきている。
しかし一番怖いのは少し離れた場所で見学している有栖だが、満面の笑みを浮かべながらプレッシャーを噴き出し、こっちを見ている。
ハッキリ言ってメチャクチャ怖いです。
俺は冷や汗をダラダラ流しながら、後でやって来るであろう有栖との接し方を考えるのであった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
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