腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「ふふっ、龍園君達は良い仕事をしてくれましたね」
坂柳有栖は薄い笑みを浮かべて、グラウンドを見る。グラウンドでは悠々と退場する龍園達Bクラス男子と、よろめいている須藤が悔しそうにしていた。
有栖が学年で1番嫌っている生徒は由比ヶ浜だが、須藤も充分嫌っている。何せ突き飛ばして苦しい思いをさせられたのだから。停学処分にさせたが満足はしてない。目指すのは退学処分だ。
「楽しそうだけど、漸く比企谷と椎名が仲良くした事で悪かった機嫌がマシになったみたいね」
そんな有栖を見て神室真澄は溜息を吐きながらそう呟く。
「うるさいですよ真澄さん。八幡君は私のもので椎名さんのものじゃありません」
有栖はジト目でそう返す。有栖にとって八幡は誰にも渡すつもりはない。散々自分に恥ずかしい思いをさせたのだから責任を取って貰わないと困るし、八幡はいやらしいので自分がずっと監視しておかないといけない。
「はいはい……(もう自分のものって言ってるし、独占欲強過ぎでしょ)」
真澄は内心にてそう呟く。有栖が独占欲が強いのは前からわかっていたが、八幡の事になると一段と強くなっているように思えてしまう。
「さて、次の200メートル走が終われば昼休みですし、八幡君との昼食が楽しみです」
有栖は楽しそうに笑いながらグラウンドを後にする八幡を見ていた。
しかしその30秒後、八幡がひよりと楽しそうに話しているのを見て、額に青筋を浮かばせるのだった。
「ねぇ清隆。このままじゃマズいんじゃない?」
Dクラス陣営にて軽井沢恵は物陰に移動してから綾小路清隆に話しかける。クラスの女王の軽井沢とクラスの日陰者の綾小路が話しているのを第三者が見たら怪しむだろうが、軽井沢は夏休みに船上にて、とある一件から綾小路に寄生するようになった。
「何がだ。というか……呼び捨て?」
「洋介君って呼ぶようになったし一応ね……って、それはどうでもいいの。話を戻すけど、成績も全然良くないからマズいんじゃないの?」
「当然だな。オレが参加表をBクラスに渡したんだから」
「なるほどね〜……え?」
綾小路の爆弾発言に軽井沢はポカンとしてしまう。綾小路を見ればいつも通りの無表情だ。
「ごめん清隆。もう一回言ってくれない?」
「だからBクラスに参加表を渡した。そしてBクラスは同盟相手のAクラスに情報を渡したんだろうな」
実際これまでを振り返ると須藤や小野寺のように運動能力の高い生徒が出る時、AクラスとBクラスの生徒は毎回運動能力が低い生徒だった。
「アンタ、何を考えてんの?このままじゃDクラスは浮上出来ないんじゃない?」
「浮上?そんなものは由比ヶ浜がDクラスで入学した時点で絶対に無理だ。お前も薄々わかっているだろう?」
「まあ、ね……」
軽井沢は頷く。実際由比ヶ浜のおかげでDクラスはクラスポイントもプライベートポイントも困窮していて、クラスメイトの大半は山菜定食や無料の食材を殆ど毎日利用している。
しかも由比ヶ浜が原因でAクラスとBクラスは同盟を結んでいるので、優待者当て試験では足並みをそろえてきたのは脅威の一言だ。
しかも今後も似たようなことがあるだろうし、軽井沢を含めDクラスの大半はAクラスを諦め、原因である由比ヶ浜に対して憎しみの感情を抱いている。
「由比ヶ浜さんを速攻で退学させるのはダメなの?そうすればAクラスとBクラスは同盟を解除するかもしれないし、クラスの事を考えるなら早いうちに退学させるべきじゃないの?」
「まあ戦術としては間違ってはいない」
軽井沢の言っている事は一理あるので綾小路も頷く。少なくとも由比ヶ浜が退学すればDクラスのモチベーションは上がるし、同盟に綻びが生じる可能性もあるし、何より由比ヶ浜のとばっちりを食らわない可能性も増えるので選択肢としては間違ってはいない。
しかし……
「けど無理だろう。競技を見る限り、由比ヶ浜と競うAクラスとBクラスの生徒は毎回弱い生徒で由比ヶ浜を上位にさせている。つまり由比ヶ浜は次回の中間試験の成績にかなり追加点が加算されるだろう」
「由比ヶ浜さんをもっと苦しめる為に……どんだけやらかしてんのよ……」
由比ヶ浜の嫌われように軽井沢はため息を吐く。思い出すのは先週の一件、由比ヶ浜の停学明け初日のことだ。
クラスポイントが1ポイントになった事でクラスメイトの大半は由比ヶ浜を責めたが、肝心の由比ヶ浜は「悪いのヒッキーであたしは悪くない!」とか「生徒会長の判断が間違ってるだけであたしも被害者!」と反省の色を全く見せないで喚いた。
それに対して軽井沢の友人も由比ヶ浜に詰め寄ろうとしたが、そうしたら「これ以上あたしに文句を言うなら、虐められてるって学校に言うから!」と脅しにかかり、ヘイトを更に稼いだのは軽井沢の記憶の中では新しい。
「で?清隆はポイント欲しさにクラスを売ったの?」
軽井沢がそう尋ねる。実際綾小路は参加表を八幡に渡した際に前金として3万ポイント貰い、情報があっているので体育祭後に追加で7万ポイント貰う予定である。
よって軽井沢の疑問は間違ってないが……
「ポイントを貰ったのは事実だが、1番の理由は軽井沢の為だ」
「あたしの為?もしかして少しポイントをくれるの?あたしも殆どないからありがたいけど」
軽井沢もポイントを数百ポイントしか持っておらず、無料の商品や料理を利用しているが不満が溜まっている。しかもクラスポイントは1しかなく、体育祭でポイントが0になるのは明白なので、綾小路がポイントを持っているなら欲しいのが本音だ。
「ポイントをあげるのは構わないが、軽井沢の為というのはポイントじゃない」
「じゃあ何?」
「先ず最初に教えるがオレと繋がってるのは比企谷だ」
「え?比企谷ってBクラスNo.2の?」
予想外の大物の名前に軽井沢は目を見開く。比企谷八幡の名前は有名である。龍園の独裁体制のBクラスにおいて唯一龍園に支配されてない男として名を馳せている。
また軽井沢は由比ヶ浜や雪ノ下と同じクラスであるので、2人が「嘘告白した屑」と言っているのをよく聞いている。
2人が八幡を嫌っている事について真相は知らないが、正直どうでもいいと軽井沢は考えている。
軽井沢からしたら八幡の経歴などどうでも良く、寧ろ八幡にちょっかいをかけてDクラスに迷惑をかけるなと思っている。
「その比企谷だな。比企谷はBクラスにおいて龍園の次に発言力があるし、比企谷とコネクションを確立出来れば真鍋達を完全に封殺出来る」
真鍋ら一部のBクラスの女子は軽井沢に暴力を振るい、その証拠を綾小路が手に入れた。綾小路はそれをネタに真鍋達を抑え込んだが、それも絶対ではない。
「既に参加表を渡したからある程度の信用はあるだろうから、もう少し待っててくれ」
「なるほどね。あたしの為ってのはそういう意味ね」
「船でも言ったがオレはお前を守ると約束したからな。約束通りお前の事は絶対に守るつもりだ」
「ふ〜ん」
軽井沢は興味なさそうにしながら髪をいじるが、満更でもなさそうに綾小路を見る。脅しから生まれた関係だが、軽井沢は不快な気持ちは抱いてなかった。
一方の綾小路は……
(大分信用を得たかもな)
軽井沢の振る舞いを見て内心にてそう呟く。今の発言は軽井沢の自分に対する忠誠心を高める為に言ったのだ。
正直言って綾小路からしたらポイントや軽井沢の為ってのは副次的なものだ。
1番の目的は由比ヶ浜を出来るだけ長く在籍させる事である。夏休み前に担任教師にDクラスをAクラスまで上げろと脅された綾小路だが、船にいる時に由比ヶ浜の足手纏いっぷりから、由比ヶ浜が在籍中においては結果を求められない事が認められた。
綾小路からしたらA級の特権などどうでも良く、穏やかな学校生活が1番の欲求なので由比ヶ浜を長く在籍させる事が重要だ。
綾小路の理想としては2年の中頃まで由比ヶ浜を残してもらい、由比ヶ浜が退学したら茶柱に「由比ヶ浜の所為で再起不能なレベルになったから解放してくれ」と頼むつもりだ。
そしてそれは上手くいく可能性があると綾小路は思っている。何故なら由比ヶ浜のポテンシャルの低さや精神の幼さ、成長をしない愚かさなどは生徒のみならず教師の間でも有名なのだから。
「〜〜〜っ!」
「〜〜〜っ!」
そこまで考えていると怒声が微かに聞こえてきたので綾小路と軽井沢は物陰から顔を出すと……
「ふざけんなし!リーダーとか言ってる癖に何も出来てないじゃん!」
「煩えよ疫病神!てめぇなんか中間試験で退学になっとけば良かったんだよ!」
「はぁ?停学食らったあんたこそ疫病神じゃん!本っ当キモい!」
Dクラスで停学を食らった由比ヶ浜と須藤が醜い争いを繰り広げていた。
「ねぇ清隆」
「なんだ?」
「もし今後もクラスを売る場合、あたしも協力するから」
軽井沢もクラスを売る事にした。入学して半年もしないでこれでは先行きはない。
寧ろ2人のとばっちりを食らわないように他クラスに価値があることを示した方が先があると思ってしまう軽井沢だった。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
-
はい。
-
いいえ